難聴者の生活

難聴者の日々の生活から、人工内耳など難聴者のコミュニケーション、聴覚障害者の制度改革について語る。

すべての都道府県と市町村に要約筆記事業を(3)

2006年05月27日 13時52分39秒 | 福祉サービス
東京のある特別区の障害福祉課長、係長との交渉の報告があった。
「要約筆記については、先日難聴団体から説明を聞いたが、正直言って、必要性がよくわからないとか。○○区ろう協会が出した要望のなかで、唯一、「事業化は難しい」といっていました。」

東京の聴覚障害者団体は、政府の三位一体改革による障害者福祉事業が廃止されようとした際に、「東京聴覚障害者福祉対策会議」を結成して、運動してきた。これが、全国に設置された聴覚障害者自立支援法対策地方本部の東京地方本部の役割を果たしている。
東京都中途失聴・難聴者協会は、区市における要約筆記事業、中途失聴・難聴者事業の実施を求めて、対策会議で要望書を提案し、昨年から各区市を回って要望を続けている。
大部分の区市では、地域の難聴者組織を除くと、東京都中途失聴・難聴者協会から中途失聴者、難聴者に関わる要望を聞くのは今回が初めてであり、対応はまちまちである。

要約筆記者事業がメニュー事業であることから、区市レベルで要約筆記者の派遣事業が行われているのは数区市に過ぎない。その分、東京都の要約筆記者派遣事業が年間2千件を超える派遣を担ってきた。
今後、要約筆記者事業が義務化されたことにより、事業の実施をしなければ成らない各区市に東京聴覚障害者自立支援センターに派遣業務を委託する方式を提案している。また、区市で養成された要約筆記者は、厚生労働省の要約筆記奉仕員養成カリキュラムの基礎課程養成講習会よりも内容も時間数もまちまちであることから、自立支援センターが補習講習会を行い、その修了を要件として、東京都で養成した要約筆記者と同様に、来年にも実施する要約筆記者認定試験に合格すれば、東京都の登録者とすると考えられる。

厚生労働省は、都道府県に対しては、新たに実施されることになる要約筆記者事業について、要約筆記の定義、要約筆記者の仕事の範囲、養成カリキュラムなどを具体的に示さなければ、上記のように必要性がわからないとして、事業が極小になる恐れがある。
市町村に対しては、要約筆記者の要件、現任の要約筆記奉仕員の要約筆記者への転換方法、認定試験など登録方法などを示す必要がある。

6月下旬の厚生労働省障害保健福祉主管課長会議に向けて、私たちの求める内容で実施要綱の策定を求める必要がある。

ラビット 記






すべての都道府県と市町村に要約筆記事業を(2)

2006年05月27日 12時48分35秒 | 要約筆記事業
要約筆記事業は、都道府県障害者社会参加総合推進事業、あるいは市町村障害者社会参加促進事業として実施され、厚生労働省の通知による事業だった。
いわゆるメニュー事業であり、都道府県、市町村とも実施する義務がない、任意の事業とされてきた。予算も国の補助金の予算を越えると都道府県、市町村の負担となる。
身体障害者福祉法でいう手話通訳等の「等」の中に要約筆記が含まれることが省令で明記されている。

2000年の社会福祉法改正で、手話通訳事業が社会福祉法の法定第二種事業になった際に、要約筆記も厚生労働省令で同様に社会福祉法人の法定事業とされた。しかし、事業は奉仕員事業のままであったことが事業のレベルも位置づけが法的位置づけと乖離していた。
障害者自立支援法の第77条に、市町村の地域生活支援事業について、市町村は「手話通訳等を行う者を派遣する事業を必ず行わなければならない」と書かれていることから、要約筆記者事業の実施についても法的に位置づけられたのである。

この意義はとても大きい。
第一に、要約筆記者が聴覚障害者の権利擁護の担い手として、事業の内容も事業の実施も法律で位置づけられたことである。
この場合の聴覚障害者とは、手話をコミュケーションの手段としない中途失聴・難聴者を指す。これまで手話を使わない聴覚障害者は、要約筆記奉仕員に「通訳」と支援を受けるしかなかった。
第二に、要約筆記者が専門性を持つ社会福祉サービスの一つとして認められたことである。手話通訳とともに、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士などと並んで、障害者等の社会資源の一員となるのだ。
第三に、要約筆記者の身分保障、待遇改善につながることだ。事業の名称から、奉仕員の役割が強調されて、要約筆記の役割が通訳と難聴者支援が混同、あるいは一体化していたために、待遇は報酬ではなく謝礼であり、低かった。
第四に、難聴者の支援が内容的にも、レベルも豊かになることである。要約筆記者は通訳の現場のコミュニケーション保障を担うだけではなく、中途失聴・難聴者の立場で利用者の抱える問題を把握して、派遣元に返していく。要約筆記者派遣事業体のコーディネーターは、地域の難聴者組織やボランティアグループ、社会資源とのネットワークを構築し、必要な支援を提案していくことで、必要な支援が提供できるようになる。

ラビット 記