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【農地法改正】企業参入と担い手/副作用徹底して審議を

2009-03-06 22:16:07 | その他(国内)
企業参入と担い手/副作用徹底して審議を(日本農業新聞論説)

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 政府は農地法改正案を国会に提出した。狙いの一つは、企業の農業参入促進であることは間違いない。農水省の伝統的な担い手政策を修正する考えが含まれており、影響はさまざまな面に及ぶ。国会審議で、企業参入の可能性と限界、参入による副作用について、よく議論し、必要な処方せんを講じるべきだ。

 同省は、戦後の「自作農創設」から旧農業基本法の「選択的拡大」、「新しい食料・農業・農村政策の方向」の「効率的安定的な経営体」に至るまで、農家と、農家を基盤とする経営体(農業生産法人)を農業活動の主体に据えてきた。現行の食料・農業・農村基本計画で集落営農組織を担い手に位置付けたのも、この延長線だ。企業を新たな担い手とする考えは、農業構造改革の質的な変化で、「歴史的な大転換」であることを指摘したい。

 同省の構造改革とは、農業で勤労者並みの所得を挙げる農家を育成し、こうした層が生産の相当部分を占める効率的な生産体制を確立するというものだ。認定農業者とは、その目標に向かって経営努力する人であり、国がさまざまな対策で支援する。これが農政の基本である。ポイントは育成すべき対象があくまで農業内部にいるという点だ。

 今回の農地法改正案には、農業の内部外部を問わず、主体を拡大・多様化する意図が込められている。営農意欲があるなら、農家であれ企業であれ問わない。特区で始まったリース方式による企業などの参入は、2005年の農地法改正で全国に展開し、08年9月現在320に上る。今回は、所有制限が最後のとりでとして残ったが、この流れでは外れるのが時間の問題となる恐れがある。

 「企業への農地解放」が、さほどの軋轢(あつれき)を生まずに進む背景には、39万ヘクタール近い耕作放棄地を生み出した負い目が農業関係者にあるからだろう。農家自らが農地を守り切れないのに、とやかく言うなというわけだ。「耕作放棄地の解消」を、錦の御旗にして反対論を封じ込めている。

 企業の農業担い手論には、楽観論の響きが感じられる。規制緩和すれば企業の農業参入が次々と進み、自由化に対抗できる力強い農業構造が実現し、食料自給率も上がる――というようなことが簡単にできるだろうか。

 逆にこんなケースが想定されないか。企業は収益性の低い水田農業には参入しない。条件の悪い農地には見向きもせず、中山間地の耕作放棄地の増加に歯止めがかからない。地域によっては優良農地の取り合いが認定農業者との間で激化する。

 各党は企業の農業参入への過大な期待を戒めてもらいたい。国会は、農地法改正案の功罪を冷静に、そして十分に審議するべきだ。同時に家族経営に対する政策支援を後退させてはならない。
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いよいよ戦後農政の一大転換、農地法改正が日程に上ってきたようだ。

戦後農政の柱は、記事にもあるように「自作農創設」であり、これは別の言い方をすれば「小作農からの解放」を意味した。この戦後改革は、大地主による農民への搾取がなくなったという意味で巨大な前進ではあったが、所得の農工格差解消という課題の解決には失敗した。

農家の所得が増えなかったわけではない。しかし、戦後、サラリーマンの給与が10倍になったのに、米価は4倍程度にしかならなかったから、結果的に農業では食えなくなった。農家のうち、ある者は廃業して都会を目指し、またある者は兼業農家として農業を副業にしながら生活をすることになった。耕作放棄地の拡大は、食えなくなった農家が大量に廃業していった結果であり、農村の現実が深く影を落としている。

「耕す者が所有する」農地法の原則を、「土地を持たない者が耕す」貸与も含めた方向への改正が、こうした農村の現実を何とかしたいという思いから出たものであることは理解できる。自作農で食えなくなったことが耕作放棄の原因だから、土地資本の集積を認め、多様な経営体に参入をさせてみようということである。だが、うまくいく保証はない。

『企業の農業担い手論には、楽観論の響きが感じられる。規制緩和すれば企業の農業参入が次々と進み、自由化に対抗できる力強い農業構造が実現し、食料自給率も上がる――というようなことが簡単にできるだろうか。

 逆にこんなケースが想定されないか。企業は収益性の低い水田農業には参入しない。条件の悪い農地には見向きもせず、中山間地の耕作放棄地の増加に歯止めがかからない。地域によっては優良農地の取り合いが認定農業者との間で激化する』

日本農業新聞のこの予想は、かなり現実味を帯びていると私は思う。結局のところ、企業というのはビジネスのためにやるのだから、儲かるところでしかやらない。中山間地域のように、耕作放棄が広がり、本当に関係者が担い手を捜している非効率な場所ほど担い手は見つからないだろう。大潟村のように、個人農業でも何とか食べていける優良な土地ほど企業が虎視眈々と狙いを定めるというのは、じゅうぶんあり得るシナリオである。

もうひとつ、企業に農業を解放した場合、企業が狙っているのはおそらく高い付加価値をつけられそうな施設利用型農業(果樹・花き、畜産など)ではないだろうか。この分野ではすでにかなり企業化が進んでいるが(特に畜産)、既存農家の耕作放棄地を借りられるようになった場合、そこで水田を経営するのではなく、果樹・花き、畜産などが展開されるのではないかと当ブログは予想する。

もちろん、放棄された耕作地が有効に活用される中で、安全な食材が「顔の見える生産者」の元で供給され、自給率も向上するならそれに越したことはない。それに、事態がここまで深刻化した現在、「デメリットが考えられるから改革反対」と言う段階はとうに過ぎたのではないか。

だが、日本農業新聞の懸念もあながち杞憂とばかりは言えない。改革がもはや避けられないとしたら、その中で私たちの目指すべき方向性ははっきりしている。生産者が誇りを持って働き、食べていける所得水準を確保すること、国土と自然の保全に役立つような環境型農業であること、産地偽装等が生まれないよう、生産から消費まで一貫して透明化された流通形態を確立すること、そして何より私たちの食が安全であること。

これらが時代の要請であることは間違いないと思う。今後の農政には、こうした課題を解決するための方策こそが、求められる。

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