人生チャレンジ20000km~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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国は今こそ貨物列車迂回対策を!

【書評】蔡英文 新時代の台湾へ(蔡英文・著、前原志保 (監修・翻訳)、白水社)

2016-09-03 22:29:16 | 書評・本の紹介
台湾で史上初の女性総統に就任した蔡英文氏による著書。2015年12月に台湾で発売されたものの日本語版。

2,000円以上もする高い本だが、これだけのカネを出す価値はある。

「自民党政権に代わる新たな政権への交代につながるヒントはもはや日本国内にはない。日本に国情がよく似た海外の先行例を探るしかない」というのが、この本の購入の動機だった。少なくともアジアでは、平和的政権交代が最も上手く機能している台湾政治の中に、自民党政権に代わる新たな政権へのヒントがないかと考えたのである。

そうした私の疑問への答えは、本書にある程度提示されているように思えた。蔡英文が優れているのは、政治家として「自分の理想、成し遂げたいこと」と「国民、周囲が自分に期待していること」との間のバランスが良く取れている点にある。日本の政治家は、このどちらかに極端に偏っている人がほとんどである(具体例を挙げると、憲法改正という「やりたいこと」への思いが強すぎて、人の言うことにまったく耳を傾けない安倍首相のような人物と、「周囲が自分に期待していること」への思いだけが強すぎて、有権者の息子の就職の世話をするなどの単なる「御用聞き」に堕している人物の両極端しかいない)。「理想を掲げつつ、現実と格闘しながら進む」という、本来の意味での政治家は、日本に皆無と言っていい。

蔡英文が、2012年総統選に敗北してから、台湾各地を回り、人々と交流する様子が本書には描かれている。こうした人々との交流を通じ、人々が自分に何を求めているかを熟知しているからこそ、蔡英文は逆境でもぶれずに選挙戦を戦うことができたのだろう。

日頃は選挙区にも顔を出さず、それぞれの持ち場で歯を食いしばって働く庶民の中に入っていくこともなく、選挙が近づいてくると政党を壊しては新党を作り、「私に清き1票をください」と連呼するだけの日本の野党なんて、戦う前から蔡英文に負けている。日本の野党関係者は、蔡英文の爪の垢でも煎じて飲むべきだろう。

もうひとつ、感じたのは日本の行政が硬直化していてまったくダメな点だ。本書で印象に残ったのが、外壁にひびが入ったままの校舎で授業を受け続けている子どもたちを前に、地元住民がボランティアで外壁を修理したエピソードである。台湾ではこうしたことが、成熟した市民社会の下で普通に行われているようだ。

だが、これが日本なら、まず成功しないだろう。日本の市民が、見るに見かねて同じことをしようとすれば、「市(区町村)の財産である校舎を市民がなぜ、何の権限で勝手に修理しているのか」と役所から邪魔が入るだろう。もし市民が、子どもたちのために善意での修理を強行したとしても、下手をすると「権限のないものによる勝手な修理は認めない」として、役所がわざわざ血税を投じ修理前の状態に戻す工事を行う、などという事態が冗談ではなく本当に起こりかねない。

本書を読んで、悔しいけれど、日本はもう完全に台湾に負けていると思った。市民意識、政治、行政あらゆる意味で。「同じ島国で、面積が狭く、エネルギー・資源もなく、片や国民党、片や自民党による長期1党支配の歴史を持つ日本と台湾は、似たもの同士」だと、本書を読むまでは思っていた。だが、定期的に政権交代ができるようになった台湾に対し、日本は一時期の例外を除いて60年近く1党支配が続いている。産業構造の転換にも失敗し、建設業など非効率な産業への公共投資ばかりが続き、たいした成果も上げていない。シャープも鴻海に買収された。このまま行けば、日本はいずれ台湾の背中も見えなくなり、中国・北朝鮮とともに「東アジア最後の1党支配国家群」に分類される日が来るーーそんな近未来が、本書を読んではっきり見えた。

日本に果たして、蔡英文のような政治家がいるだろうか。「自分の理想、成し遂げたいこと」と「国民、周囲が自分に期待していること」との間のバランスが良く取れ、違う政治的意見を持つ人々とも交流を厭わず、「理想を掲げつつも現実と格闘しながら進む」タイプの政治家。蔡英文に比肩する政治家は、いないように思える。

蔡英文より、1回り、2回りスケールが小さくても良いなら、辛うじて、嘉田由紀子・前滋賀県知事が私の持つ蔡英文のイメージに最も近い日本の政治家だと思う。乱開発を抑制し、無駄な公共事業の象徴だった新幹線栗東新駅建設を中止し、利益誘導しか頭になかった県議会自民党を分裂させ、「対話でつなごう滋賀の会」(対話の会)という地域政党を作ることで県議会に足がかりも得た。こうした新しい政治家が、日本に、それも地方でなく中央政界に、ひとりでも出てくれることを願う。

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