すでに各方面で報道されているとおり、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」について、政府が「廃炉の方向」で年末までに正式決定を行うことが決まった。年末までの約3ヶ月間は、福井県や敦賀市など「もんじゅ」存続に固執している地元自治体を説得するための期間に充てるために設けられたとみられ、廃炉の方向性は揺るがないとみられる。
これに関し、脱原発弁護団全国連絡会が発表した声明を以下に全文掲載する。なお、「もんじゅ」をめぐるこの間の主な経過、そして今後の見通しについては、当ブログの2015年11月5日付け記事
「もんじゅ、原子力機構(旧動燃)から運営剥奪へ ついに核燃料サイクル破たんのパンドラの箱が開く!」を参照されたい。この記事に、現時点で付け加えることはない。
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もんじゅ廃炉を歓迎し,核燃料サイクル政策の停止と全原発の稼働停止を求める共同声明(脱原発弁護団全国連絡会)
2016年9月22日
もんじゅ廃炉へ
政府は,21日原子力関係閣僚会議の結論として,高速増殖炉原型炉もんじゅの廃炉の方向を決め,年内に最終判断を行うと公表した。まだ,最終決定ではないが,我々第一次,第二次もんじゅ訴訟そして全国の脱原発訴訟に関わってきた者として,遅きに失したとはいえ,政府がもんじゅ廃炉の方向性を確認したことを歓迎し,年内には,確実に廃炉を決定することを求める。
軽水炉は,核燃料としてウラン235を使用するのに対し,高速増殖炉は,ウラン235を濃縮した残りの劣化ウランと燃えるプルトニウム239の混合酸化物を使用し,核分裂によって生じた高速の中性子を劣化ウランの約99.7%を占めるウラン238に衝突させ,それをプルトニウム239に転換し,消費した燃料以上の核燃料物質を増殖できる夢の原子炉とされた。
もんじゅは1995年にフル出力運転の15日分程度発電したに過ぎない。2014年度までに要した建設費と維持管理費,燃料費は1兆3300億円に達している(これは人件費を除いた数字である。)。まったく運転していない現在でも安全対策費や設備維持費等が年間約197億円,人件費が年間約30億円,固定資産税が年間12億円の合計年約239億円という莫大な政府予算が組まれてきた。その意味でも,今回の決定は遅すぎたといわなければならない。
もんじゅのケタ違いの危険性
「もんじゅの危険性」は高速中性子を使用することと,プルトニウム燃料を使用すること,水や空気と触れると激しく反応する液体ナトリウムを冷却材として使用することに由来する。
(1)炉心にはプルトニウムを18%も含んだ燃料を詰め込んでおり,軽水炉の場合と異なって制御しにくく,出力暴走事故を起こしやすい。(2)ナトリウムは熱しやすく冷めやすいので配管の肉厚は薄く天井からつりさげられているため,地震には弱い。(3)ナトリウムが空気中に漏えいすると激しく燃焼し,コンクリートと反応すると激しく化合して建物を損傷する。(4)蒸気発生器で細管が破断すると高圧の水がナトリウム中に噴出して反応し,他の細管を大量に破断する事故が起こりやすい。(5)冷却材が喪失したときのための緊急炉心冷却装置がなく,外部から水を掛けるわけにもいかない。
今こそ,最高裁判所は反省を
もんじゅについては,2003年1月27日名古屋高裁金沢支部(川崎和夫裁判長)は,このような危険性を認め,もんじゅ許可処分の無効を確認する住民側全面勝訴判決を下した。
しかし,2005年5月30日最高裁第1小法廷は,原判決を破棄し,地裁判決を正当として住民側の請求を棄却する判決を下した(泉徳治 横尾和子 甲斐中辰夫 島田仁郎 才口千晴)。この最高裁判決は,事故に対応して設置許可の変更までしなければならなかった原処分について,違法性がないと断じた驚くべきものであった。また,高裁判決が認定していない事実を最高裁が勝手に書き加え,その認定と矛盾する高裁の認定事実は全て無視してなされたものである。最高裁は,みずからの打ち立てた伊方判決基準すら無視し,国策に屈したものと評さざるを得ない。
もんじゅの廃炉がここまで遅れたことには最高裁の誤った判断にも大きな責任がある。そのことによって約2600億円(年約239億円×11年分)の税金が浪費された。最高裁は深く反省すべきである。そして最高裁が過剰に尊重した「国策」なるものが、この程度のものであったことを知るべきである。最高裁は,現在係属中の原発の再稼働をめぐる訴訟において,同様の過ちを繰り返すことなく,福島原発事故のような深刻な事故を繰り返さないための明確な司法判断の基準を示すべきである。
第一次もんじゅ訴訟の意義
私たちの訴訟は,高裁勝訴判決を勝ち取るところまでもんじゅを追いつめながら,最高裁での逆転判決を許し,もんじゅのとどめを刺せなかった。しかし,この訴訟はもんじゅの本質的な危険性を明らかにし,今回の政府決定につながる重大な意義があったといえる。
すなわち,第一次もんじゅ訴訟によって,原告団・弁護団ナトリウム漏洩事故直後に我々が事故現場に検証のために立ち入ることができた。そのためナトリウム・コンクリート反応を防止するための防壁であるライナーの損傷という重大事実をクローズアップすることができた。蒸気発生器の高温ラプチャ問題も,訴訟がなければ,大量の伝熱管破断をもたらしたSWAT3-RUN16実験の存在などは永遠に秘密にされたままだっただろう。炉心崩壊事故の潜在的な危険性についても,動燃の秘密レポートは明らかにされることなく,深く埋もれたままとなっていただろう。
もんじゅの延命を許さないため第二次もんじゅ訴訟を提起
第二次もんじゅ訴訟は,原子力規制委員会の日本原子力研究開発機構に対する「失格」宣言を機としてもんじゅに最後のとどめを刺そうとしたものである。動燃は,1998年10月1日,改組され,核燃料サイクル開発機構となり,2005年10月1日,日本原子力研究所と統合再編され,機構が発足した。機構は,2010年5月6日から同年7月22日まで,「もんじゅ」のゼロ出力での炉心確認試験を実施した。その直後の同年8月26日,「もんじゅ」の炉内中継装置を原子炉容器内に落下させ,変形し引き抜くことができなくなった。2012年11月,「もんじゅ」では,約9千機器について点検時期を超過していたことが確認されたことから,原子力規制委員会は,同年12月12日,保安措置命令及び報告徴収を発出し,2013年5月29日にも追加の保安措置命令を発出した。原子力規制委員会は,2015年11月13日,文部科学大臣に対し,原子力規制委員会設置法4条2項に基づき,勧告を行い,機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること,それが困難であるならば,もんじゅが有する安全上のリスクを明確に低減させるよう,もんじゅという発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直すことを求めた。
我々と立場は違うが,もんじゅの技術的困難性と機構の能力についての規制委員会の見方は共有できると私たちは考え,もんじゅの延命を許さず,その設置許可の取消を求めて第二次もんじゅ訴訟を提起した。これに対して,文科省は新主体を特殊法人として提案しようとしていた。しかし,規制委員会は厳しい立場を明らかにし,このような提案が認められるとかどうか不透明であった。こうした中で,官房長官の下にチームが作られ,費用の試算なども行い,今回政府として,対策費の高騰を理由に廃炉を決めたといえる。
プルトニウムの夢から覚めよ
政府は,もんじゅは廃炉としたものの,核燃料サイクル政策を維持し,実験炉「常陽」の運転再開とフランスの高速炉Astridへの参加を進め,高速炉開発自体は継続しようとしている。しかし,高速炉は,炉型の選択そのものに根本的な欠陥があり,事故が起きたときには軽水炉以上に取り返しがつかない。高速炉延命のための悪あがきはきっぱりとやめるべきである。
ウラン資源にも限りがある。原子力の化石燃料に対する優位はプルトニウム増殖の夢があったからのことである。プルトニウムの夢は,増殖の困難から,廃棄物の消滅・減少へと移行しているが,これもまた夢に過ぎない。再処理技術は核燃料を溶液にして取り扱うために,事故の際の危険性は計り知れない。プルトニウムの夢から覚めれば,再処理を続ける経済的な理由がないことも明らかである。軽水炉でのプルトニウム利用=プルサーマルは,危険性を増すだけで,経済的・エネルギー的には全く意味がなく,プルトニウムの燃焼以外には意味がない。
もんじゅ廃炉を,再処理を含む核燃料サイクル政策の放棄と再処理の停止に結びつけなくてはならない。2012年に民主党政権が脱原発の閣議決定を行おうとしたときに,アメリカ政府がこれにクレームを述べた事実はある。しかし,アメリカが日本に原子力を継続させているという俗説は誤りである。アメリカは脱原発をしつつ,再処理を続けるような政策を認めていないだけである。政府高官も含めたアメリカの多くの原子力専門家が,安全保障上の問題から,日本に対し使用目的の明確でないプルトニウムの製造,つまり再処理への強い懸念を示しているのである。このことは,正確に日本の世論に伝えられていない。
もんじゅ廃炉は長いプルトニウムの夢から日本の目覚めをもたらすだろう。いくら,法律で再処理を義務づけようとしても,再処理政策も見直しは避けられない。アメリカも,ヨーロッパも,日本も脱原発の流れは止められない。どんな世論調査でも脱原発は原発維持を圧倒している。もんじゅの廃炉を機会に,政府に今一度脱原発の早期実現を強く訴える。