安全問題研究会(旧・人生チャレンジ20000km)~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
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国は今こそ貨物列車迂回対策を!

【転載記事】〔週刊 本の発見〕企業犯罪を罰するには~JR福知山線事故から生まれた1冊

2021-09-02 20:33:57 | 書評・本の紹介
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」の書評コーナー「週刊 本の発見」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)

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組織罰はなぜ必要か』(組織罰を実現する会・編、現代人文社ブックレット、1,200円+税、2021年4月)評者:黒鉄好

 企業や法人、政府機関などの組織が不注意などの過失により事故を起こし、多くの被害者を出しても、日本には100年近く前に制定された刑法の規定により責任者の「個人としての罪」を問うことしかできない。法人にも罰金刑を併科できると定めた法律も一部にあるが、あらゆる形態の組織犯罪を網羅して、そのような規定を持つ法律は存在していない。このため、大組織になればなるほど責任と権限が分散、「誰もが少しずつ悪いが決定的に悪い人は存在しない」という壁に阻まれ、日本では墜落事故で520人が死亡しても、脱線事故で107人が死亡しても、原発事故で10万人近い人が避難民となっても、いまだ誰一人として刑事責任を問われていない。

 本書が生まれるきっかけとなったのは2005年の福知山線脱線事故である。当時23歳の娘さんを事故で失った大森重美さんが代表となり「組織罰を実現する会」が結成された。大森さんは「組織の構成員ひとりひとりは灰色であっても、灰色が重なり合うことで黒に近づき、組織全体であれば罪に問えるのではないか」として、組織に高額の罰金刑を科することができる制度(組織罰)の創設に意欲を見せる。

 構成員に理不尽な事故対策サボタージュを強いることで得をするのは個人でなく組織だ。高額の罰金刑を通じて組織から「不当利得」を返還させることには合理性がある。

 福知山線事故のほか、笹子トンネル天井板崩落事故や軽井沢スキーバス事故遺族など、本書には様々な事故の遺族が登場する。第2章ではそうした遺族たちが思いを述べる。遺族の悲痛な思いに接すると胸が締め付けられる。第3章では、質問に対し専門家が回答するQ&A方式で、組織罰という聞き慣れない制度に対する解説が行われている。第1章で制度の概要を説明し、第2章では遺族の思いを前面に出して、法制度不備の理不尽さに対する読者の怒りと共感をうまく引き出し、組織罰制度の必要性に対する確信を与えてから、第3章で導入への具体的な道筋を描くという本書の構成は、全体を読み終えてみると意外にうまくできていると感じる。

 評者自身も福知山線脱線事故には長く関わってきた。福島第1原発事故当時、県内に住み間近でその理不尽も味わった。この事故も、福知山線事故と同じように検察の不起訴処分を検察審査会が覆し、強制起訴によって刑事訴訟が行われている。ただ2019年9月の東京地裁判決はここでも無罪。現行裁判制度の限界も改めて浮き彫りになった。

 組織罰制度がモデルとしている「法人故殺法」制定後の英国では、公共交通機関の事故が3割も減ったとの報告がある。制定に激しく抵抗した英国産業連盟(経済団体;英国版経団連)も「企業の信用度が高まることがビジネスにもプラスになる」として今では法人故殺法を容認している。世界の組織罰制度の一覧表からは多くの国がすでに同様の制度を設けていることが分かる。ここでも「日本の常識は世界の非常識」なのである。

 法人故殺法案は、保守党政権下では黙殺され続け、労働党政権時代になって日の目を見た。日本で組織罰制度が実現するかどうかは、私たちが政治を変革できるかどうかにかかっている。

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