学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

宇都宮美術館「杉浦非水の眼と手」展

2009-12-01 21:08:40 | 展覧会感想
栃木県の宇都宮美術館で「<写生のイマジネーション>杉浦非水の眼と手」展が開催されています。杉浦非水(1876~1965)は明治、大正、昭和にかけて活躍したデザイナーです。本の装丁、ポスター、雑誌の表紙など幅広く手がけ、展覧会では「写生」にスポットを当てながら、その全貌を紹介しています。私は展覧会の感想として、展示作品1点1点についてではなく、全体を通して感じたことを書いてみたいと思います。

私はデザイナーには2つのタイプがあると思うんですね。自分のカラーを前面に押し出すタイプとそうでないタイプ。前者は竹久夢二や小林かいちなどが挙げられます。彼らの絵やデザインには特徴があって、あっ、この人の手がけたものだ!とわかりますね。夢二美人なんて言葉もあるくらいですから。一方、カラーを押し出さないタイプが杉浦非水。デザイナーの顔がなかなか見えにくいけれど、優れたデザインを生み出します。私を押さえて、公に徹すると申しますか。かつてNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」に装丁家の鈴木成一さんが出演されていましたが、「本の装丁は自己表現ではない」とおっしゃっていました。伝えたいものの本質をつかんで、それを表現する。杉浦の仕事も、この考えにかなり近いものがあるように思いました。

そして、杉浦が「写生」を重要視していたことですね。我々が杉浦のデザインしたものを見ても、そこに写生の成果をストレートに感じることはほとんどありません。しかし、展覧会に展示されている東京美術学校の卒業制作《孔雀》やスケッチを見てゆくと、彼のデザインが徹底した写生に裏打ちされていることに気付きます。特に《孔雀》の流れるような羽の美しさ。上野動物園に居た孔雀を繰り返し写生したそうです。学生時代から写生に重きを置いていたことがわかりますね。私の中でデザイナーと写生がなかなか結びつかなかったのですが、展示を通して、様々に考えさせられました。

杉浦のデザインは、平成の今に見ても決して色あせることはありません。展覧会は1月17日までです。ぜひご覧下さい!