『日本を破滅から救うための経済学』の「はじめに」で野口悠紀雄は次のように説く。
(1)消費税増税に対する国民の態度
2010年7月の参院選において民主党が大敗した。「週刊現代」の立花隆・野中広務対談によれば、仮に鳩山・小沢コンビが居座っていたら大敗どころか壊滅的敗北するはずだった・・・・とは野口悠紀雄は書いていないが、それはさておき、この民主党大敗は消費税増税を提案したせいだ、という意見は、政治家間の選挙結果責任論においてのことだ。
国民は、消費税増税を頭から拒否したわけではない。
証拠(ア):同じく消費税増税を公約に掲げた自由民主党は、議席を伸ばした。
証拠(イ):消費税増税絶対反対をとなえた共産党や社民党は、むしろ議席を減らした。
仮に国民が消費税増税をどうしても拒否したいなら、自民党も議席を減らし、消費税増税反対政党が大躍進したはずだ。
(2)消費税増税に対する民主党の取組み方
民主党の大敗に消費税が関与しているとすれば、増税の是非そのものではなく、問題提起のしかたにあった。
鳩山悠紀雄・前首相は「4年間は増税しない」と明言していたのに、このたび民主党は突如5%の税率引き上げを提案した。全体の見とおしなしに、消費税増税だけが唐突に持ちだされた、という感じであった。しかも、民主党独自の案を示すことなく、自民党案をそのまま採用する、という無責任とも見えるかたちをとった。
これでは選挙戦術として「財政再建」が選ばれた(あるいは財務省の策略にのせられた)という印象を与えてしまう。その印象は、選挙戦中に民主党の支持率がさがるにつれて提案が後退したことで強められた。その半面、増税の必要な理由、増税したら問題がどれだけ改善するか、といったもっとも肝要な説明がなおざりにされたままだった。
増税という国民負担増加には提案者自らその政策の必要性を納得したうえで、強い政治的信念をもって全力で努力しなければ実現できない。今回の民主党の提案には、「信念」が欠けていると判断されたのである。
(3)財政再建に係るごまかしの議論
(ア)「増税すれば経済成長できる」という奇妙な論理で増税を正当化した。増税で経済成長できるのであれば、とっくの昔に増税されていたはずだ。
重要なのは、いまなぜ増税が必要であるかを国民に納得させることであった。また、負担が公平になるよう慎重に制度を設計することであった。今回は、インボイスなしのままで税率引き上げが提案されたが、インボイスなしの多段階売上税は欠陥税であって、公平の条件をとうてい満たしえない。
(イ)2009年の衆院選の際、「無駄を排除すれば巨額の節約ができる。だから増税しなくてもよい」と主張した。しかし、これもウソであることがわかった。事業仕分けの結果が、民主党のウソを雄弁に語っている。注目を集めた仕分け作業で節約できたのは、わずか7,000億円程度でしかなかった。
小沢一郎寄りの山岡賢次・民主党副代表は、NHKのインタビューに、最初のマニフェストに「戻る」と答えているが、どうやら小沢一派は既に明らかになったウソをさらに大ウソに拡大する気らしい・・・・とは野口悠紀雄は書いてないが、事実としてそういうことだ。
無駄の排除は必要だが、それだけで財政再建ができると考えるのは幻想にすぎない。「マニフェストの完全見直しはもちろんのこと、国民生活の基盤的経費を含めて削減の対象としなければ、意味のある歳出削減はできないのである」
(4)バラマキ政策がもたらすもの
民主党は、2010年度予算で典型的なバラマキ政策を実施し、歳出を前代未聞の規模に拡大した。しかし、それは参院選で得票を増やすことに何も寄与しなかった。
かつて日本経済に活力があった時代には、バラマキは政治的に効果があったかもしれない。しかし、日本経済がここまで疲弊し、財政赤字がここまで拡大してしまえば、バラマキはむしろ国民に恐怖を与えるものとなってしまった。バラマキによって、将来の私たちの生活が破壊されることが明白になってしまったのである。
日本で大量の国債発行が継続しているにもかかわらず、金利上昇など目立った弊害は生じていない。民間企業の設備投資も公共投資も大幅に落ちこんでいるからだ。つまり、資本を蓄積していない。この結果、将来、生産力が低下し、国民は貧しい生活を余儀なくされる。バラマキはこうした結果をもたらす。国民は、バラマキ政策で騙されつづけるほど程度は低くない。
国民が望んでいるのは、財政再建の納得できる方策であり、それを実現する強い政治的な意思である。
今回の参院選でタレント候補の票がこれまでのように伸びなかった。国民が本当の問題解決を求めている証拠だ。
(5)問題の正しい把握
政治に求められているのは、自体の正しい把握と正しい政策方向である。日本経済の基本に関わる問題に、あまりに間違った理解が多い。
(ア)「デフレスパイラル論」は、デフレのため日本経済が活性化できず、そこからの脱却のために金融緩和が必要である、とする。しかし、物価や賃金の下落は、海外要因(長期的には中国の工業化、2009年においては原油価格の下落)によってもたらされている。それから脱却するには企業のビジネスモデルを転換させる必要がある。デフレスパイラル論は、ビジネスモデルを転換できないことの責任を転嫁する言い訳にすぎない。
(イ)為替レートに係る誤解が多い。「異常な円高が企業の利益を圧迫している」とよく言われる。2007年以降の円高への動きは、それまでの異常な円安を是正する過程にほかならない。日本の金融政策は、1990年代後半以降、円高を阻止するために運営されてきた。しかし、経済危機以後、各国の金利が低下したため、日本が金融緩和を進めても、かつてのような円安を実現できない。
【参考】野口悠紀雄『日本を破滅から救うための経済学 -再活性化に向けて、いまなすべきこと-』(ダイヤモンド社、2010)
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(1)消費税増税に対する国民の態度
2010年7月の参院選において民主党が大敗した。「週刊現代」の立花隆・野中広務対談によれば、仮に鳩山・小沢コンビが居座っていたら大敗どころか壊滅的敗北するはずだった・・・・とは野口悠紀雄は書いていないが、それはさておき、この民主党大敗は消費税増税を提案したせいだ、という意見は、政治家間の選挙結果責任論においてのことだ。
国民は、消費税増税を頭から拒否したわけではない。
証拠(ア):同じく消費税増税を公約に掲げた自由民主党は、議席を伸ばした。
証拠(イ):消費税増税絶対反対をとなえた共産党や社民党は、むしろ議席を減らした。
仮に国民が消費税増税をどうしても拒否したいなら、自民党も議席を減らし、消費税増税反対政党が大躍進したはずだ。
(2)消費税増税に対する民主党の取組み方
民主党の大敗に消費税が関与しているとすれば、増税の是非そのものではなく、問題提起のしかたにあった。
鳩山悠紀雄・前首相は「4年間は増税しない」と明言していたのに、このたび民主党は突如5%の税率引き上げを提案した。全体の見とおしなしに、消費税増税だけが唐突に持ちだされた、という感じであった。しかも、民主党独自の案を示すことなく、自民党案をそのまま採用する、という無責任とも見えるかたちをとった。
これでは選挙戦術として「財政再建」が選ばれた(あるいは財務省の策略にのせられた)という印象を与えてしまう。その印象は、選挙戦中に民主党の支持率がさがるにつれて提案が後退したことで強められた。その半面、増税の必要な理由、増税したら問題がどれだけ改善するか、といったもっとも肝要な説明がなおざりにされたままだった。
増税という国民負担増加には提案者自らその政策の必要性を納得したうえで、強い政治的信念をもって全力で努力しなければ実現できない。今回の民主党の提案には、「信念」が欠けていると判断されたのである。
(3)財政再建に係るごまかしの議論
(ア)「増税すれば経済成長できる」という奇妙な論理で増税を正当化した。増税で経済成長できるのであれば、とっくの昔に増税されていたはずだ。
重要なのは、いまなぜ増税が必要であるかを国民に納得させることであった。また、負担が公平になるよう慎重に制度を設計することであった。今回は、インボイスなしのままで税率引き上げが提案されたが、インボイスなしの多段階売上税は欠陥税であって、公平の条件をとうてい満たしえない。
(イ)2009年の衆院選の際、「無駄を排除すれば巨額の節約ができる。だから増税しなくてもよい」と主張した。しかし、これもウソであることがわかった。事業仕分けの結果が、民主党のウソを雄弁に語っている。注目を集めた仕分け作業で節約できたのは、わずか7,000億円程度でしかなかった。
小沢一郎寄りの山岡賢次・民主党副代表は、NHKのインタビューに、最初のマニフェストに「戻る」と答えているが、どうやら小沢一派は既に明らかになったウソをさらに大ウソに拡大する気らしい・・・・とは野口悠紀雄は書いてないが、事実としてそういうことだ。
無駄の排除は必要だが、それだけで財政再建ができると考えるのは幻想にすぎない。「マニフェストの完全見直しはもちろんのこと、国民生活の基盤的経費を含めて削減の対象としなければ、意味のある歳出削減はできないのである」
(4)バラマキ政策がもたらすもの
民主党は、2010年度予算で典型的なバラマキ政策を実施し、歳出を前代未聞の規模に拡大した。しかし、それは参院選で得票を増やすことに何も寄与しなかった。
かつて日本経済に活力があった時代には、バラマキは政治的に効果があったかもしれない。しかし、日本経済がここまで疲弊し、財政赤字がここまで拡大してしまえば、バラマキはむしろ国民に恐怖を与えるものとなってしまった。バラマキによって、将来の私たちの生活が破壊されることが明白になってしまったのである。
日本で大量の国債発行が継続しているにもかかわらず、金利上昇など目立った弊害は生じていない。民間企業の設備投資も公共投資も大幅に落ちこんでいるからだ。つまり、資本を蓄積していない。この結果、将来、生産力が低下し、国民は貧しい生活を余儀なくされる。バラマキはこうした結果をもたらす。国民は、バラマキ政策で騙されつづけるほど程度は低くない。
国民が望んでいるのは、財政再建の納得できる方策であり、それを実現する強い政治的な意思である。
今回の参院選でタレント候補の票がこれまでのように伸びなかった。国民が本当の問題解決を求めている証拠だ。
(5)問題の正しい把握
政治に求められているのは、自体の正しい把握と正しい政策方向である。日本経済の基本に関わる問題に、あまりに間違った理解が多い。
(ア)「デフレスパイラル論」は、デフレのため日本経済が活性化できず、そこからの脱却のために金融緩和が必要である、とする。しかし、物価や賃金の下落は、海外要因(長期的には中国の工業化、2009年においては原油価格の下落)によってもたらされている。それから脱却するには企業のビジネスモデルを転換させる必要がある。デフレスパイラル論は、ビジネスモデルを転換できないことの責任を転嫁する言い訳にすぎない。
(イ)為替レートに係る誤解が多い。「異常な円高が企業の利益を圧迫している」とよく言われる。2007年以降の円高への動きは、それまでの異常な円安を是正する過程にほかならない。日本の金融政策は、1990年代後半以降、円高を阻止するために運営されてきた。しかし、経済危機以後、各国の金利が低下したため、日本が金融緩和を進めても、かつてのような円安を実現できない。
【参考】野口悠紀雄『日本を破滅から救うための経済学 -再活性化に向けて、いまなすべきこと-』(ダイヤモンド社、2010)
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