語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、法人税減税批判 ~「超」整理日記No.530~

2010年09月26日 | ●野口悠紀雄
(1)法人税率引き下げ論
 法人所得課税の実効税率は、財務省の資料によれば、2010年において、国税27.89%と地方税12.80%を合わせて40.69%だ。
 米国40.75%、仏国33.33%、独国29.41%、英国28%、中国25%、韓国24.2%だから、米国を除く諸外国に比べて高い。
 日本の法人は重い税負担にあえいでいる。これが日本経済不調の大きな原因だ。
 だから、法人税率を引き下げよ・・・・。

(2)税引き前当期純利益に対する負担率の推計、その1
 (1)の議論は怪しい。なぜなら、実効税率を算出する際の分母は課税所得であるが、これは企業会計における利益とは異なるからだ。
 税務上の利益概念は、会計上の利益概念とは異なる。
 加えて、租税特別措置などのために、課税所得は会計上の利益よりかなり少なくなっている可能性がある。
 単純な比較はできないが、国際的に標準的と認められる利益を分母にして負担率をみる必要がある。
 税引き前当期純利益に対する負担率は、野口の推計【注】によれば、国税20.6%と地方税を合わせて28.4%だ(2008年度)。
 諸外国の実効負担率が税引き前当期純利益に対するものであれば、日本の負担率は中国・韓国よりは若干高いが、欧米諸国よりは低いことになる。

  【注】国税庁の会社標本調査および財務省の法人企業統計調査に基づく。

(3)税引き前当期純利益に対する負担率の推計、その2
 (2)では、黒字企業の場合だけ会計上の利益と税務上の利益が乖離すると仮定した。
 しかし、赤字は7年間繰り越すことができるので、将来の法人税負担を軽減するため、赤字企業の赤字額も税務上は拡大している可能性もある。
 そこで、第二ケースとして、それを仮定して推計してみると、国税24.3%と地方税を合わせて33.5%だ。欧州諸国なみで、格別高いとはいえない。
 なお、税務上の赤字企業は構造的に赤字で、将来黒字に転換する可能性がない場合が多い。したがって、赤字企業が赤字を拡大して申告するケースは少なく、33.5%という数字は過大推計かもしれない。

(4)法人税率引き下げ論の誤り
 地方税をふくめた法人課税の実効税率は、税引き当期純利益に対する率でみれば、28.4%~33.5%程度だ。これは、先進国の標準的な額であり、格別高いわけではない。
 財務省資料にある40.69%という値は、課税所得に対する比率なので、国際比較をする場合には適切な値ではない。
 結論:「日本の法人税率が外国より高い」という主張は誤りである。
 以上述べたことは、各企業の決算書によって直接確かめることができる。税引き前当期純利益に対する法人税・住民税・事業税の比率は、(2)および(3)の推計値の範囲内に入っている。

(5)国際比較の指標
 税務上の利益概念は国によって差があるので、国際比較をするのであれば、法人所得課税の対GDP比をみるほうが適切だ。
 財務省の資料によれば、2010年における法人所得課税の対GDP比は、1.5%である。
 米国2.7%、英国3.4%、中国2.0%、韓国3.7%などに比べてかなり低い。世界的にみて低水準である。

(6)税制改革の方向づけ
 ここで示したことは、税制改革に対して重要な意味をもつ。
 「日本の法人所得に対する実質的な課税率は諸外国に比べて高いわけではないから、法人税率を引き下げるなら、その前提として特別措置を撤廃することが不可欠である。これを行わずに税率引き下げだけを行えば、現在特別措置の恩恵を受けている業界に過大な利益を与えることになる」
 特別措置は、資源配分を歪めて経済成長に対する阻害要因になる。課税上の公平を損なっている。
 「法人税率の引き下げを行うのであれば、最低限、特別措置撤廃で得られる税収を財源として税収中立的な改革とすべきだ」

【参考】野口悠紀雄「法人の実質税負担率は3割程度でしかない ~「超」整理日記No.530~」(「週刊ダイヤモンド」2010年10月2日号所収)
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コメント (4)
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