語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の経済成長戦略 ~「超」整理日記No.528~

2010年09月14日 | ●野口悠紀雄
(1)内需主導経済反対論
 内需に依存するだけでは外貨を稼ぐことはできない。
 経済活動を行うには輸入が必要である。輸入品を購入するには外貨を獲得する必要がある。よって、輸出が必要だ。

(2)内需主導経済反対論批判
 加工貿易的な生産活動が減れば、原材料などの輸入も減る(原油の輸入量もかなり減る.)。よって、外貨が不要になる。
 外貨がまったく必要なくなるのではないが、従来と同じような輸入は不要になる。

(3)外需依存経済から内需主導経済への転換
 純輸出【注1】の対GDPを減らし、他の需要項目の比重を増加させる。
 消費支出はGDPの6割を占めるから、これが5%増えればGDPの3%となり、純輸出の落ちこみは確保できる。
 国際収支においては、経常収支の黒字をあまり減らさずに維持するのだ。内需主導経済への転換に伴って、貿易収支の黒字【注2】が減る。減った分を所得収支【注3】の黒字で補うことができれば、経常収支の黒字は前と同じレベルに維持することができる。
 これまでの経常収支黒字は大きすぎた。この水準を将来も維持する必要はない。経常収支が将来にわたって赤字にならなければよい。
 所得収支黒字のGDP比を高めれば、内需主導経済への転換によって経常収支を大きく減少することはない。簡単にはできないが、不可能ではない。
 貿易収支の黒字が大きい構造から、所得収支の黒字の大きい構造に転換するのが「成熟国」としての国際収支構造だ。

 【注1】財・サービスの輸出と輸入の差。
 【注2】GDP統計の純輸出とほぼ同じもの。
 【注3】対外資産が生んだ収益と対外負債のための利子支払いなど。

(4)成長戦略の基本
 日本は巨額の対外資産を有している。資産大国としての経済構造への転換を成長戦略の基本に据える必要がある。
 所得収支黒字によって貿易収支赤字をカバーしている国の代表例はアメリカだ。アメリカの運用利回り【注4】は、調達利回り【注5】を常に上まわっている。2004年の利ザヤは2.6%である。アメリカの対外資産収益率が高いのは、第二次世界大戦後に行った投資が高い収益率を実現しているからだ。
 日本も2004年以降、所得収支黒字が貿易収支赤字をカバーするようになっている。ただ、収益率は低い。アメリカ短期国債(TB)への運用が多いからだ。資金調達を変えずとも資金運用利回りをアメリカ並みの水準に上げれば、所得収支黒字のGDP比は1.6%上昇する。
 金利が世界的に低下しているので、運用利回りを従来より高めるのは容易ではない。しかし、調達金利も下がるはずだから、利ザヤを拡大させるのは不可能ではない。

 【注4】受け取り所得を対外資産で割った値。
 【注5】支払い所得を対外負債で割った値。

(5)新興国への直接投資拡大
 さらに重要なのは、これまでの投資戦略からの大転換だ。
 日本の対外投資の収益率が低いのは、受け身の証券投資が大部分を占めているからである。受け身の証券投資から脱却し、積極的な投資活動(直接投資をふくむ)の展開が必要だ。
 特に新興国への直接投資が重要だ。成長の利益を享受するには、株式投資でもよいが、直接投資のほうが望ましい。新興国の成長には、「モノを売る」のではなく、「投資」によって対応するのだ。円高が要求しているのは、「外国に売る」ことではなく、「外国に投資する」ことだ。
 これまでの運用は適切でなかった。これを改善すれば、対外資産の運用利回り1%ポイント上昇を実現できる。他方、製造業などの成長を促進して成長率を1%ポイント高めるのはきわめて難しい。
 対外資産の運用利回り1%ポイント上昇は、GDP成長率1%ポイント引き上げと同じことだ。対外資産とGDPがほぼ同程度の規模なのだから。
 「成長戦略」の議論において、この認識がきわめて不十分だ。

(6)新興国への直接投資拡大の条件
 市場で客観的な価格付けがなされている証券投資に比べると、直接投資はリスクが高く、評価も難しい。現状では体制が不十分だ。
 現地経済の十分な知識と情報が必要だ。ODA供与などに関連して育成してきた専門家を、こうした目的のために動員するべきだ。
 また、リスクコントロールのため、ファイナンスの専門家が大量に必要である。そのために教育が必要だ。育成には時間がかかるから、海外から人材を招いてもよい。

【参考】野口悠紀雄「内需主導経済における所得収支の重要な役割 ~「超」整理日記No.528~」(「週刊ダイヤモンド」2010年9月18日号所収)
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