(1)賃金の変化
「毎月勤労統計調査」によって、1995年、2000年、2007年の5人以上事業所の現金給与総額の指数をみると、全産業では1990年代後半はほぼ不変、2000年以降に下落した。
ただし、給与の動向は業によってかなりの差がある。概していえば、小売業、飲食店、運輸業、建設業など生産性が低い産業で下落し、製造業、金融・保険業など生産性が高い産業で上昇している。
(2)雇用の変化
上記調査によって、上記年の上記事業所の常用雇用指数をみると、全体としての雇用は、ほぼ一定で変化していない。
ただし、建設業では製造業と同様に減少したが、サービス業では軒並みに増加している。卸売・小売業では全体の雇用は減少したが、パートタイム労働者は増加した。
(3)雇用・賃金の構造変化
全体でみると、日本の雇用は1995年以降ほとんど一定で増えなかった。
ただし、製造業は雇用を減少させた。
製造業の雇用減少分を引き受けたのがサービス業であり、特にパートタイム労働であった。
パートタイム労働は低賃金労働である。パートタイム労働の増加は サービス業の賃金を引き下げた。これに伴って、経済全体の賃金水準も低下した。
ただし、この間に、製造業の賃金水準は(緩やかにではあるが)上昇している。
(4)雇用・賃金構造変化の背後にあるもの
1990年代以降、中国工業化の影響が顕著になり、世界経済の中での日本の地位が脅かされるに至った。中国の比重が上昇し、日本の比重が低下した。
これに伴い、日本の製造業は頭打ちとなった。1990年代以降の鉱工業生産指数は、増減をくりかえすだけで、長期的に上昇することはなくなった。
従来の日本の製造業は、特に大企業において年功序列敵な賃金慣行が強かった。ゆえに、このような生産頭打ちに対して雇用条件を柔軟に調整して対処することができなかった。賃金を下げることができなかったので、自然減を中心として雇用量を減らすことで対応した。
これによってあふれた労働供給が、サービス産業のパートタイム労働となった。
そこでの賃金が低水準なので、全体の賃金が下落した。
(5)問題の根源
中国工業化という世界経済の大きな変化に対して、日本が前向きの積極的な対応をできず、製造業に代わる雇用を国内に創出できなかった点にある。
多くの経済論議は、こうした事情を正確に把握しているとは言いがたい。
経済政策も、問題に適切に対応するものになっていない。
(6)経済政策 ~雇用~
民主党は、労働者派遣法を改正,し、「登録型」や製造業への派遣を原則禁止した。
しかし、全体としての雇用が増えない中で、こうした規制をおこなえば、労働需要は減少し、底辺労働の条件はかえって悪化するだろう。
派遣労働規制強化は「派遣切り」防止とされているが、経済危機で減少したのはパートタイム労働ではない。パートタイムの常勤雇用指数は、むしろ増加しているのである。製造業のパートタイムもしかり。
その半面で、製造業の正規労働者は、減少している。
非正規労働差に対する規制を強めれば、企業は正規労働者をさらに切らざるをえない立場に追いこまれるだろう。
労働者の立場から何が望ましいか、正しく判断する必要がある。
【参考】野口悠紀雄「「失われた15年間」の雇用と賃金構造の変化 ~ニッポンの選択第30回~」(「週刊東洋経済」2010年9月11日号所収)
↓クリック、プリーズ。↓
「毎月勤労統計調査」によって、1995年、2000年、2007年の5人以上事業所の現金給与総額の指数をみると、全産業では1990年代後半はほぼ不変、2000年以降に下落した。
ただし、給与の動向は業によってかなりの差がある。概していえば、小売業、飲食店、運輸業、建設業など生産性が低い産業で下落し、製造業、金融・保険業など生産性が高い産業で上昇している。
(2)雇用の変化
上記調査によって、上記年の上記事業所の常用雇用指数をみると、全体としての雇用は、ほぼ一定で変化していない。
ただし、建設業では製造業と同様に減少したが、サービス業では軒並みに増加している。卸売・小売業では全体の雇用は減少したが、パートタイム労働者は増加した。
(3)雇用・賃金の構造変化
全体でみると、日本の雇用は1995年以降ほとんど一定で増えなかった。
ただし、製造業は雇用を減少させた。
製造業の雇用減少分を引き受けたのがサービス業であり、特にパートタイム労働であった。
パートタイム労働は低賃金労働である。パートタイム労働の増加は サービス業の賃金を引き下げた。これに伴って、経済全体の賃金水準も低下した。
ただし、この間に、製造業の賃金水準は(緩やかにではあるが)上昇している。
(4)雇用・賃金構造変化の背後にあるもの
1990年代以降、中国工業化の影響が顕著になり、世界経済の中での日本の地位が脅かされるに至った。中国の比重が上昇し、日本の比重が低下した。
これに伴い、日本の製造業は頭打ちとなった。1990年代以降の鉱工業生産指数は、増減をくりかえすだけで、長期的に上昇することはなくなった。
従来の日本の製造業は、特に大企業において年功序列敵な賃金慣行が強かった。ゆえに、このような生産頭打ちに対して雇用条件を柔軟に調整して対処することができなかった。賃金を下げることができなかったので、自然減を中心として雇用量を減らすことで対応した。
これによってあふれた労働供給が、サービス産業のパートタイム労働となった。
そこでの賃金が低水準なので、全体の賃金が下落した。
(5)問題の根源
中国工業化という世界経済の大きな変化に対して、日本が前向きの積極的な対応をできず、製造業に代わる雇用を国内に創出できなかった点にある。
多くの経済論議は、こうした事情を正確に把握しているとは言いがたい。
経済政策も、問題に適切に対応するものになっていない。
(6)経済政策 ~雇用~
民主党は、労働者派遣法を改正,し、「登録型」や製造業への派遣を原則禁止した。
しかし、全体としての雇用が増えない中で、こうした規制をおこなえば、労働需要は減少し、底辺労働の条件はかえって悪化するだろう。
派遣労働規制強化は「派遣切り」防止とされているが、経済危機で減少したのはパートタイム労働ではない。パートタイムの常勤雇用指数は、むしろ増加しているのである。製造業のパートタイムもしかり。
その半面で、製造業の正規労働者は、減少している。
非正規労働差に対する規制を強めれば、企業は正規労働者をさらに切らざるをえない立場に追いこまれるだろう。
労働者の立場から何が望ましいか、正しく判断する必要がある。
【参考】野口悠紀雄「「失われた15年間」の雇用と賃金構造の変化 ~ニッポンの選択第30回~」(「週刊東洋経済」2010年9月11日号所収)
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