語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、就業構造変化での日米間の顕著な差 ~ニッポンの選択第31回~

2010年09月20日 | ●野口悠紀雄
(1)日本の雇用構造の変化
 全体の2割を超えていた製造業の雇用は、1990年代中頃から減少しはじめた。
 製造業に代わって雇用を吸収したのは、生産性の低いサービス産業だ。非正規労働者を中心に雇用を増やした。そして、日本経済の所得水準の低下をもたらした。
 「失われた20年」の本質は、こうした過程を通じて日本経済の生産性が低下する過程であった。
 今後も製造業の雇用は増えず、むしろ急速に雇用減が進む可能性がある。
 非製造業のうち、雇用が増えるのはサービス産業であることは間違いない。
 ここで、「低生産性サービス産業」と「高生産性サービス産業」とを区別する必要がある。今後の日本経済が所得水準低下を回避するためには、後者を増やしていく必要がある【注】。

 【注】非製造業の2大グループ
 (ア)飲食・宿泊、運輸、複合サービス、その他サービス
   賃金水準は、製造業より低い(平均より1割以上低い)。
   資本装備率が低く、単純なサービスが中心になるからだ。
   なお、卸売・小売りは全体とほぼ同じ水準であり、鉱業、建設業は製造業より低い。

 (イ)電機・ガス、情報通信、金融・保険、不動産、医療福祉、教育・学習支援
   賃金水準は、製造業より高い。

(2)就業構造の面からみた日本経済の問題点
 高生産性サービス業(金融業がその代表)で雇用創出できなかった。
 今後の成長戦略は、この分野で雇用を増やすことが重要だ。

(3)内需主導経済
 内需主導経済とは、GDPを構成する項目で、純輸出の比率が下がることだ(需要面の変化)。
 需要面の変化は、結果として生じる。この変化をもたらすのは、産業別付加価値構造の変化だ(供給面の変化)。
 供給面の変化によって、輸出産業以外の産業で就業機会が増加する。

(4)日米の雇用構造の変化
 日米を比較すると、製造業が雇用を減らして全体の中での比重を下げた点は同じだ。
 しかし、サービス産業において、大きな違いがある。日本で増えたのが生産性の低いサービス産業だったのに対して、米国で増えたのは生産性の高いサービス産業だった。
 2009年における全雇用者に対する金融業の比重は、米国では5.9%、日本では2.6%であり、大差がある。
 金融やビジネスサービスは、1980年代以降に登場した先端的金融・IT技術を応用するものだ。これらのサービスは輸出も可能なので、国際収支面での貢献も大きい。

(5)新しい雇用創出のメカニズム
 1980年代、米国における製造業からの転換は、簡単には実現しなかった。日本との貿易摩擦の中で、製造業が次々に撤退を余儀なくされたのだが、労働組合の強い抵抗があった。日本の輸出の自主規制を求めたり、国際協調介入でドル安を実現したりすることによって、製造業の衰退を食い止めようとする試みもあった。
 しかし、結局のところ、前述のような新しい雇用が創出された。しかも、生産性の高いサービス産業が成長したのだ。
 こうした雇用創出は、どのようにして実現したのだろうか。
 政府が援助を与えたわけではない。雇用創出政策で誘導したわけでもない。
 市場メカニズムを通じた自動的なメカニズムによって実現したのだ。
 雇用創出は、政府が行うことではなく、市場が行うことなのである。

【参考】野口悠紀雄「就業構造変化での日米間の顕著な差 ~ニッポンの選択第31回~」(「週刊東洋経済」2010年9月18日号所収)
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