語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】堺屋太一の、東北振興とニッポン再生の秘策 ~「東北復興院」~

2011年04月01日 | 震災・原発事故
(1)緊急非常事態の対策の5段階
 大震災のような緊急非常事態対策には5段階がある。
 (a)救助【注1】、(b)救済【注2】、(c)復旧、(d)復興、(e)振興・・・・だ。

(2)復旧
 震災発生後1ヵ月くらいでこの段階に入る。
 物資がどこでどれだけ不足しているか、それがどこで調達できるか、輸送手段とルートなどに係る正確な情報を集め、優先順位を明確にして指揮、命令しなければならない(ロジスティクス/兵站)。

(3)方向づけ
 何を優先するかを総合的に判断する機関が必要だ。
 復旧で終わるのか、復興【注3】、振興【注4】をめざすのか、も大きな問題だ。<例>東北の三陸海岸には多数の漁港があるが、今後はそれらを集約して貿易港を一つ新設する。

(4)「復興院」
 こうした対応は、平時の発想を超えた発想を実行できる「復興院」があれば可能だ【注5】。
 復興院には、10人くらいの委員会(総裁・経験者・有識者)と、3つの事務局を作る。各事務局の担当は次のとおり。(a)被災者の生活と地域の復興。(b)産業経済(電力の確保等)。(c)文化、娯楽(自粛不況の払拭)。
 「復興院」院は、長くて3年、短くて2年で廃止するとよい。時限機関であるがゆえに、強権をふるっても国民に納得してもらえる。
 総裁は、政治的野心や企業の利害から完全に離れる必要がある。現職の政治家が就くなら、まず議員辞職し、今後一切政治に関与しないことを宣言するのだ。

(5)「東北州」
 鍵になるのは、東京一極集中の廃止【注6】、地域主権型道州制の導入だ。
 道州制は、国の機関を整理して地域(道州)が決定の主体になる制度にする。経産、国交、厚労、文科、農水の5省と総務省の電波管理部門を廃止し、各道州に仕事と権限を委ねる。道路や学校建設の基準など、地域に合った行政ができる。廃藩置県に匹敵する大改革だ。
 当面は、東北6県を「復興院」の指導下に置き、それを将来の「東北州」の基準にしてよい。復興助成金は国が出すが、使い方は東北州で考える。未来志向型の復興のモデルケースになる。

(6)その他
 町一つがなくなったところもある。そういう地域は、コミュニティの機能は維持して別の場所へ移動する、という選択肢も出てくる。過去にもそういう実例はある。
 今回の被災地は、一次産業に頼ってきたところが多い。高齢者の割合も総じて高い。地域経済の復興は容易でない。
 東北沿岸部の中核都市を再生する際には、元の街並みの回復をめざすのではなく、若者や外国人を惹きつけられる文化や楽しみの要素を加味した新しい街づくりを考えるべきだ。他とは違う質の高い「名所町」を創り出すのだ。
 エネルギー政策は転換期を迎える。1970年代以降のエネルギー多消費社会から、省エネルギー社会へ変わらねばならない。
 ライフスタイルの転換も求められている。親子が一緒に住む良さを再認識する必要がある。
 モノづくりを重視した近代工業社会から、知恵に価値を求める「知価社会」へ、日本全体が変わることができるなら、新しい地平は自ずから開けてくる。

 【注1】救助でまず必要なのは情報だ。本来なら無線機持参の自衛隊員や消防隊員を速やかにヘリから被災地へ降下させ、情報収集に当たらせるべきだった。ところが、航空法や電波法に触れるためできなかった。今回、海外の救援隊を速やかに受け入れた点は、進歩している。しかし、有事立法がなく、緊急時でも平時の規制に縛られて身動きできない点はまったく変わっていない。

 【注2】 防災訓練は行われているが、水道やガスがとまったときにどうするかといった「耐災訓練」はまったく行われていなかった。そういう発想がなかった。これが救済を困難にした。

 【注3】現行法では、壊れたものを旧に復する場合は費用を助成するが、以前よりも良くすると財産が増えるから新たな助成として査定される。

 【注4】19世紀以降の日本にとって、今回の大震災は第三の敗戦だ。第一は幕末。第二は太平洋戦争の敗戦。2回の敗戦を契機に、日本は大成長を遂げた。それまでの日本(徳川幕藩体制や軍人主導の大日本帝国)を再現しようとしなかったから出来た。今回も同じで、官僚主導、業界協調体制の「戦後日本」を再現してはならない。

 【注5】堺屋太一は、阪神・淡路大震災のとき緊急非常の権限をもつ機関をつくるべきだと提案したが、各省庁の猛烈な抵抗に遭い、「阪神・淡路復興委員会」という調整機構に縮小された。

 【注6】東京に一極集中したのは、規格大量生産社会を志向したからだ。東京にいる官僚が規格や基準を作り、それに全国が従えば、低コストで大量生産できた。今回の原発事故も日本の「基準主義」が災いしている。原発でも道路でも官僚が定めた基準に合っていればいい。基準に合っていたら事故は起こらないと見なし、それ以上のダメージコントロール訓練をしない。日本と旧ソ連はこうした基準主義で国を運営してきた。米国や仏国は、「確率主義」だ。事故が1億分の1になっても確率はゼロにはならないのでダメージコントロール訓練は必要とする。これがチェルノブイリ原発事故とスリーマイル島原発事故の差につながった。

 以上、堺屋太一「平成の『復興院』を創設し『東北州』を新生ニッポンの象徴に」(「週刊朝日」2011年4月8日増大号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

【震災】厳しい供給制約に直面する日本

2011年04月01日 | ●野口悠紀雄
 以下は、被害地救済や原発事故対処が一段落した後の中長期的な観点から日本経済を論じる。

 復興のため、投資が必要になる。まず公共主体による社会資本施設の再建が必要だ。起業は工場などの生産設備の復旧を進める。加えて、一般家計による住宅投資が必要だ。総額はどの程度か。
 被災者の総数は、総人口の1%に達した可能性がある。日本の実物資産総額2,536兆円(2007年末の数字)の1%を喪失したとすれば、25兆円だ。
 投資額は、どの程度の期間をかけて復興を行うかによる。完全な復旧はさておき、主要な投資は早急に行われなければならない。今後1~2年の年間投資額は10兆円程度となる可能性がある。総固定資本形成112兆円(08年度)のおよそ1割だ。年間投資額が1割増えるわけだ。
 供給力が十分あるにもかかわらず需要が不足している経済では、総生産が拡大する。経済危機後の日本は、こうした状態にあった。エコポイントなどの需要喚起策が効果を発揮したのは、このためだ。
 復興投資は、同じ効果をあげない。震災後の日本では、供給能力に深刻なボトルネックが生じているからだ。電力をみれば明らかだ。これだけ見ても、需要の増大に応じて自動的に生産が拡大することはない。
 通常の財なら、輸入によって国内生産の減少を補うことができる。しかし、電力は輸入できない。西日本から東日本へ電力を融通することさえできない。かくて、東日本ではすでに深刻な電力不足に陥っている。電力不足は、長期的に継続する可能性がある。
 供給不足は、東京電力と東北電力で生じている。したがって、生産活動を西日本にシフトさせることで、需給のバランスはある程度は緩和される。しかし、かかる再編成を短期間のうちに実現するのは困難だ。
 原子力発電一般に地する社会的反応が強まると、新規建設はおろか、現在稼働中の原発も止めざるをえない。原発はすでに日本の発電総量の約3割を占め、19年までに4割超にまで高めることが計画されていた。今後に計画されている原発比率の上昇が実現できないだけで、日本の発電総量は1割程度不足してしまう。
 電力制約による生産減少を前提として、経済全体の需給をバランスさせるためには、総需要が減少しなければならない。さもなくばインフレが発生して、強制的に需要が削減されることになる。

 以上、マクロ的資源配分を物財の需給バランスの観点から見たが、同じことを資金循環の観点から見ると次のようになる。
 これまで民間資金需要が低迷してきたから国債が順調に消化されてきた。この状態は、今後は続かない。復旧のための投資資金需要が増大するからだ。つまり、クラウディングアウトが発生する。金利上昇の可能性が高い。
 円高の効果の一つは、輸入を増加させることだ。一般的な財については、これによってマクロ的な需給バランスが緩和されるので望ましい。しかし、電力は輸入できないので、電力制約が緩和されることはない。
 円高は、日本機御野海外移転をさらに促進させる。需給バランス緩和の観点からは望ましい変化だが、国内の雇用は減少し、これまで円高による利益減少に悩んできた日本の輸出産業はさらに困難な事態に陥る。だから、円高への抵抗が強まるだろう。
 円高回避のためにはクラウディングアウトを回避する必要があり、そのためには国債以外の手段による財源調達が必要だ。
 第一、マニフェスト関連経費の削減。
 第二、増税。最大のボトルネックである電力需要を抑制するような増税が望ましい。「計画停電」より、電力料金引き上げ、または課税による需要総量を減らすほうが望ましい。
 ただし、電力10社の電灯料、電力料の合計は15兆円(09年)なので、電力課税だけで必要な財源を調達することはできない。消費税、所得税などの基幹税の増税がどうしても必要だ。
 
【参考】野口悠紀雄「厳しい供給制約に直面する日本 ~ニッポンの選択第58回~」(「週刊東洋経済」2011年4月2日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン