政府内で、東電処理策の検討が始まったのは、3月28日頃だ。福島県内の住民だけでも補償が「兆」の規模になる。
「処理」(という言葉を使ったのは経済産業省の幹部)は、資源エネルギー庁電力・ガス事業部が担当する。
(1)前例研究
(a)日本航空(JAL)方式
金融機関には大幅な債権放棄を強いたが、LAL債券のうち燃料費などの商取引債券を保護した(事業継続が名目)点が特徴だ。「債権者平等の原則」を破る異例の措置がJALでは講じられた。
※規模が大きすぎて支援機構では東電を抱えられない。
(b)チッソ方式
東電を新旧2つの会社に分離し、補償や廃炉処理は旧会社が担い、電力供給は新会社が継続する案だ。
経産省中堅によれば、東電の旧会社に補償を負わせる点で、財務省主計局にも支持する声がある。原子力損害賠償法第3条第1項に免責規定がある。電力総連出身の藤原正司(民主党)は、自身のブログで「地震と津波が今次災害の最大の原因だ」と書いている。この調子で国にすべてを押しつけられてはたまらない。だから、財務省は新旧分離案支持なのだ。
補償のため政府と東電で基金を作る案も浮かぶが、「スジが悪い」。
※東電の新会社がビンビンになってしまう。国民感情が許さない。
(c)りそな方式
一時実質国有化されたりそなホールディングスをモデルとする。
玄葉光一郎・国家戦略担当相は、3月29日の会見で東電の国有化に言及した。「最終的には国が責任を持つことが必要だ」
※国有化を容易にやれば、国に助けてほしい東電の思うツボだ。
(d)その他
「日本債券信用銀行方式」や「北海道拓殖銀行方式」も浮かんだが、いずれも「雑談程度の代物」だ。
(2)東電「解体」計画の浮上
4月に入って政府の一部に浮上したのが、東電「解体」計画だ。特別法(「東電抜本処理法」)を制定し、政府の力で東電解体と国民負担最小化をめざす。補償を認定する第三者委員会の設置、補償財源捻出スキーム、原子力部門分離を含む東電経営体の抜本的改革のためには特別法の立法が必要だ、というわけだ。骨子は次のとおり。
(a)政府に独立機関として経営監視委員会を置く。役員の選任、補償、経営改革を監視する。
(b)福島第一原発の処理など必要な資金を金融機関から借入る際には政府保証をつける。
(c)燃料費など商取引債券は全額保護する。
(d)ただし、震災前の既存の金融債権(社債を含む)は返済や償還を繰り延べるモラトリアムを講じる。
補償額が確定しない段階で政府が容易に公的資金で救済すると、結局は税金投入という国民負担が大きくなる。当面は、東電の今の形を維持し、必要な資金調達には政府保証をつける案が有力なのだ。ただし、政府救済が確定する前の金融債権などは保護の対象にしない。
補償額のおおよその確定や原発処理の所要額が判明した段階で、破綻処理・再生段階に移行する。この段階で、東電解体をドラスティックに進める。
(a)負債のおおよその確定を受けて財務処理案を策定し、100%減資と金融機関への債券放棄を実施。
(b)ただし、社債減額比率は金融機関の債券放棄率より緩和することも可能とする(社債市場への影響が大であるため)。
(3)東電「解体」計画のポイント
(a)発送電分離案の取り入れ
これが再生の最大のポイントだ。まず、東電を持ち株会社とし、(ア)発電子会社と(イ)送電子会社に分離して傘下に置く。ついで、(ア)の保有する火力や水力の発電所は、順次、新規参入希望者などに売却する(売却金で国民負担を少しでも減らす)。最終的には、東電は(イ)として規模を大幅に縮小する。
(b)東電・東電労組による政治家への献金禁止
甘利明衆議院銀ら自民党商工族や、藤原参議院議員のような電力総連出身者ら、政界の東電応援団の圧力で「甘い処理」になることを防ぐ。
(c)メディアとの関係の清算
東電は、これまで多額の広告費を使ってメディアへの影響力を維持してきた。原発の「安全神話」は、メディア対策のたまものだ【注】。
(d)その他
経営責任の明確化のため、全役員の報酬と退職金を全額被災者へ寄付することや、顧問、相談役、天下りの全廃も視野に入れる。
・・・・政府内で浮上する東電「解体」計画が、順当に成案になるかどうかはわからない、と記事は締めくくる。しかし、世界中の教科書に載ることが確実な、人類史上未曾有の大惨事を引き起こした企業「東京電力を容易に救済しては、絶対にいけないのだ」。
以上、大鹿靖明(編集部)「東電の極秘『解体』計画」(「AERA」2011年4月18日号)に拠る。
【注】野党はどうか。3月12日、自民党本部は東電からヒアリング。東電のプレゼンに「マスメディアと提携した情報提供」という項目があり、堂々とテレビCM、新聞広告、雑誌、各検索エンジンへのバナー広告などとうたっている。「これから東電の損害賠償を議論しようという時に、これまでのようにコマーシャルでマスコミを黙らせようというのはとんでもない、節電を訴える必要があるならば政府広報なり、AC(電力も入っているが)でやればいいことで、マスコミに資金提供するのはやめること」と自民党側は主張したが、「まともな回答がないまま本会議の時間になった」(「河野太郎ブログごまめの歯ぎしり」)。
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「処理」(という言葉を使ったのは経済産業省の幹部)は、資源エネルギー庁電力・ガス事業部が担当する。
(1)前例研究
(a)日本航空(JAL)方式
金融機関には大幅な債権放棄を強いたが、LAL債券のうち燃料費などの商取引債券を保護した(事業継続が名目)点が特徴だ。「債権者平等の原則」を破る異例の措置がJALでは講じられた。
※規模が大きすぎて支援機構では東電を抱えられない。
(b)チッソ方式
東電を新旧2つの会社に分離し、補償や廃炉処理は旧会社が担い、電力供給は新会社が継続する案だ。
経産省中堅によれば、東電の旧会社に補償を負わせる点で、財務省主計局にも支持する声がある。原子力損害賠償法第3条第1項に免責規定がある。電力総連出身の藤原正司(民主党)は、自身のブログで「地震と津波が今次災害の最大の原因だ」と書いている。この調子で国にすべてを押しつけられてはたまらない。だから、財務省は新旧分離案支持なのだ。
補償のため政府と東電で基金を作る案も浮かぶが、「スジが悪い」。
※東電の新会社がビンビンになってしまう。国民感情が許さない。
(c)りそな方式
一時実質国有化されたりそなホールディングスをモデルとする。
玄葉光一郎・国家戦略担当相は、3月29日の会見で東電の国有化に言及した。「最終的には国が責任を持つことが必要だ」
※国有化を容易にやれば、国に助けてほしい東電の思うツボだ。
(d)その他
「日本債券信用銀行方式」や「北海道拓殖銀行方式」も浮かんだが、いずれも「雑談程度の代物」だ。
(2)東電「解体」計画の浮上
4月に入って政府の一部に浮上したのが、東電「解体」計画だ。特別法(「東電抜本処理法」)を制定し、政府の力で東電解体と国民負担最小化をめざす。補償を認定する第三者委員会の設置、補償財源捻出スキーム、原子力部門分離を含む東電経営体の抜本的改革のためには特別法の立法が必要だ、というわけだ。骨子は次のとおり。
(a)政府に独立機関として経営監視委員会を置く。役員の選任、補償、経営改革を監視する。
(b)福島第一原発の処理など必要な資金を金融機関から借入る際には政府保証をつける。
(c)燃料費など商取引債券は全額保護する。
(d)ただし、震災前の既存の金融債権(社債を含む)は返済や償還を繰り延べるモラトリアムを講じる。
補償額が確定しない段階で政府が容易に公的資金で救済すると、結局は税金投入という国民負担が大きくなる。当面は、東電の今の形を維持し、必要な資金調達には政府保証をつける案が有力なのだ。ただし、政府救済が確定する前の金融債権などは保護の対象にしない。
補償額のおおよその確定や原発処理の所要額が判明した段階で、破綻処理・再生段階に移行する。この段階で、東電解体をドラスティックに進める。
(a)負債のおおよその確定を受けて財務処理案を策定し、100%減資と金融機関への債券放棄を実施。
(b)ただし、社債減額比率は金融機関の債券放棄率より緩和することも可能とする(社債市場への影響が大であるため)。
(3)東電「解体」計画のポイント
(a)発送電分離案の取り入れ
これが再生の最大のポイントだ。まず、東電を持ち株会社とし、(ア)発電子会社と(イ)送電子会社に分離して傘下に置く。ついで、(ア)の保有する火力や水力の発電所は、順次、新規参入希望者などに売却する(売却金で国民負担を少しでも減らす)。最終的には、東電は(イ)として規模を大幅に縮小する。
(b)東電・東電労組による政治家への献金禁止
甘利明衆議院銀ら自民党商工族や、藤原参議院議員のような電力総連出身者ら、政界の東電応援団の圧力で「甘い処理」になることを防ぐ。
(c)メディアとの関係の清算
東電は、これまで多額の広告費を使ってメディアへの影響力を維持してきた。原発の「安全神話」は、メディア対策のたまものだ【注】。
(d)その他
経営責任の明確化のため、全役員の報酬と退職金を全額被災者へ寄付することや、顧問、相談役、天下りの全廃も視野に入れる。
・・・・政府内で浮上する東電「解体」計画が、順当に成案になるかどうかはわからない、と記事は締めくくる。しかし、世界中の教科書に載ることが確実な、人類史上未曾有の大惨事を引き起こした企業「東京電力を容易に救済しては、絶対にいけないのだ」。
以上、大鹿靖明(編集部)「東電の極秘『解体』計画」(「AERA」2011年4月18日号)に拠る。
【注】野党はどうか。3月12日、自民党本部は東電からヒアリング。東電のプレゼンに「マスメディアと提携した情報提供」という項目があり、堂々とテレビCM、新聞広告、雑誌、各検索エンジンへのバナー広告などとうたっている。「これから東電の損害賠償を議論しようという時に、これまでのようにコマーシャルでマスコミを黙らせようというのはとんでもない、節電を訴える必要があるならば政府広報なり、AC(電力も入っているが)でやればいいことで、マスコミに資金提供するのはやめること」と自民党側は主張したが、「まともな回答がないまま本会議の時間になった」(「河野太郎ブログごまめの歯ぎしり」)。
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