復興の大まかな方向づけは、できるだけ早く明らかにする必要がある。民間企業が、損壊した生産設備を元の場所に再建するか、他に移転するかは、それによって大きな影響を受けるからだ。
その際、「付加価値当たりの電力使用量」を重要な基準とする必要がある。経済活動によって、これが大きく違うからだ。(a)製造業は電力多使用、(b)サービス業は省電力だ。同じ付加価値を生産するために、(a)は(b)の3.4倍の電力を必要とする。
東日本が深刻な電力制約に直面している半面、西日本は当面は制約がない。(a)が西に移り、(b)が東に移れば、電力制約をかなり回避できる。
試算の一例では、東の(a)の3割が西に移り、西の(b)の12.4%が東に移れば、両地域のGDPは不変にとどまる。しかし、電力消費量は(a)及び(b)の移動に伴う差し引きで、東で7.4%減り、西で6.9%増える。この程度の電力消費の増加なら、西野現在の発電能力の範囲内で受け入れ可能だろう。これ以上移せば、東の電力事情はもっと改善されるが、こんどは西が供給不足に陥ってしまうかもしれない。
このような産業配置は、電気料金に対する課税を東だけで行えば、自動的に実現できる。
問題は、省電力産業をどのようにして東に移すか、だ。西の(b)は大震災で直接的な被害を受けていないので、東に移る格別のインセンティブはない。それに、民間の(b)を移動させるのは、さほど容易ではない。
そこで、次のようにしてはどうか。国や公的主体が中心となって、大規模な研究センターや医療センターを東北地方につくり、これを復興の核とするのだ。これらに関連してさまざまなサービスが必要になるので、東北地方に雇用が創出されるだろう。
財源をどう調達するか。(1)マニフェスト関連施策をすべて見直せば、3.6兆円という巨額の財源が捻出できる。(2)電力課税・・・・東の電力使用量を今夏の供給制約をクリアできるほど課税すれば、東京電力管内だけで、ほぼ2兆円の税収が得られる。夏以外の時期にも課税し、かつ東北電力でも同様の課税を行えば、3兆円の税収が得られる。(1)と(2)を合わせれば、7兆円に近い財源の確保は実現可能だ。
電力課税の税収を新プロジェクトに投入することで、今までムダに使われていた電力を節約し、それによって生まれた資源を新しい目的に投入するわけだ。
過去にも、震災後に新天地に教育機関を立地した例がある。東京商科大学(現一橋大学)がそれだ。関東大震災で神田の校舎が壊滅したが、北多摩郡谷保村(現国立市)に移転した。神田の狭い敷地に再建したら、その後の発展はなかったろう。
スタンフォード大学も、当時の辺境地カルフォニアの、何もない原野に創設された。同大学は、シリコンバレーのIT産業を生んだ。
ただし、未開の土地に行政機能を移転する計画は、成功しないことが多い。イスラマバードやブラジリアなど、外国の例を見てもそうだ。移転が成功したのは、大学や研究所だ。
東北地方につくられるべき大規模な研究センターは、何をめざして研究するべきだろうか。
時代の要請があって、かつ、省電力でなければならない。となると、リスクマネジメント、通信・情報処理関係の研究が該当する。今後の日本ではボラティリティが高まるから、それにどう対処するかは、今後の日本にとって重要な課題なのだ。
これらは、ソフト志向的なものだ。そして、日本はこの分野が弱い。従来の日本の国立大学では育ちにくかった。
また、海外との連携を強めることも重要だ。今のままでは、国際共同研究で、日本は中国に負ける。
日本でこれまで行われてきたものとして、筑波研究学園都市建設がある(総事業費3兆円)。60年代の初めに、首都機能移転計画の一部として計画された。その中核の筑波大学は、理系志向のバイアスが強い。筑波の他の研究所も、高度成長型日本産業を支えるタイプの技術に関連している。
新しい研究センターは、日本経済のこうしたバイアスを是正する役割を担うべきだろう。
頑張れ日本、立ち上がれ日本・・・・意欲だけあっても方向づけが間違っていれば、成功しない。復興とは、すぐれて経済的な問題だからだ。希少な資源をどう配分するか、という問題なのだ。経済的に合理的な方向が採択されなければ、資源のムダづかいに終わる。
震災前と同じものを復旧し、それが結局は世界経済の潮流に追いつけずに衰退しては、犠牲者も浮かばれまい。
何十年か後に、大震災が日本のターニングポイントだった、と評価される復興を実現すること。それが、今の世代に課された課題だ。
【参考】野口悠紀雄「復興の基本方向は産業の東西配置 ~「超」整理日記No.559~」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月30日・5月7日号)
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その際、「付加価値当たりの電力使用量」を重要な基準とする必要がある。経済活動によって、これが大きく違うからだ。(a)製造業は電力多使用、(b)サービス業は省電力だ。同じ付加価値を生産するために、(a)は(b)の3.4倍の電力を必要とする。
東日本が深刻な電力制約に直面している半面、西日本は当面は制約がない。(a)が西に移り、(b)が東に移れば、電力制約をかなり回避できる。
試算の一例では、東の(a)の3割が西に移り、西の(b)の12.4%が東に移れば、両地域のGDPは不変にとどまる。しかし、電力消費量は(a)及び(b)の移動に伴う差し引きで、東で7.4%減り、西で6.9%増える。この程度の電力消費の増加なら、西野現在の発電能力の範囲内で受け入れ可能だろう。これ以上移せば、東の電力事情はもっと改善されるが、こんどは西が供給不足に陥ってしまうかもしれない。
このような産業配置は、電気料金に対する課税を東だけで行えば、自動的に実現できる。
問題は、省電力産業をどのようにして東に移すか、だ。西の(b)は大震災で直接的な被害を受けていないので、東に移る格別のインセンティブはない。それに、民間の(b)を移動させるのは、さほど容易ではない。
そこで、次のようにしてはどうか。国や公的主体が中心となって、大規模な研究センターや医療センターを東北地方につくり、これを復興の核とするのだ。これらに関連してさまざまなサービスが必要になるので、東北地方に雇用が創出されるだろう。
財源をどう調達するか。(1)マニフェスト関連施策をすべて見直せば、3.6兆円という巨額の財源が捻出できる。(2)電力課税・・・・東の電力使用量を今夏の供給制約をクリアできるほど課税すれば、東京電力管内だけで、ほぼ2兆円の税収が得られる。夏以外の時期にも課税し、かつ東北電力でも同様の課税を行えば、3兆円の税収が得られる。(1)と(2)を合わせれば、7兆円に近い財源の確保は実現可能だ。
電力課税の税収を新プロジェクトに投入することで、今までムダに使われていた電力を節約し、それによって生まれた資源を新しい目的に投入するわけだ。
過去にも、震災後に新天地に教育機関を立地した例がある。東京商科大学(現一橋大学)がそれだ。関東大震災で神田の校舎が壊滅したが、北多摩郡谷保村(現国立市)に移転した。神田の狭い敷地に再建したら、その後の発展はなかったろう。
スタンフォード大学も、当時の辺境地カルフォニアの、何もない原野に創設された。同大学は、シリコンバレーのIT産業を生んだ。
ただし、未開の土地に行政機能を移転する計画は、成功しないことが多い。イスラマバードやブラジリアなど、外国の例を見てもそうだ。移転が成功したのは、大学や研究所だ。
東北地方につくられるべき大規模な研究センターは、何をめざして研究するべきだろうか。
時代の要請があって、かつ、省電力でなければならない。となると、リスクマネジメント、通信・情報処理関係の研究が該当する。今後の日本ではボラティリティが高まるから、それにどう対処するかは、今後の日本にとって重要な課題なのだ。
これらは、ソフト志向的なものだ。そして、日本はこの分野が弱い。従来の日本の国立大学では育ちにくかった。
また、海外との連携を強めることも重要だ。今のままでは、国際共同研究で、日本は中国に負ける。
日本でこれまで行われてきたものとして、筑波研究学園都市建設がある(総事業費3兆円)。60年代の初めに、首都機能移転計画の一部として計画された。その中核の筑波大学は、理系志向のバイアスが強い。筑波の他の研究所も、高度成長型日本産業を支えるタイプの技術に関連している。
新しい研究センターは、日本経済のこうしたバイアスを是正する役割を担うべきだろう。
頑張れ日本、立ち上がれ日本・・・・意欲だけあっても方向づけが間違っていれば、成功しない。復興とは、すぐれて経済的な問題だからだ。希少な資源をどう配分するか、という問題なのだ。経済的に合理的な方向が採択されなければ、資源のムダづかいに終わる。
震災前と同じものを復旧し、それが結局は世界経済の潮流に追いつけずに衰退しては、犠牲者も浮かばれまい。
何十年か後に、大震災が日本のターニングポイントだった、と評価される復興を実現すること。それが、今の世代に課された課題だ。
【参考】野口悠紀雄「復興の基本方向は産業の東西配置 ~「超」整理日記No.559~」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月30日・5月7日号)
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