語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】東電処理案の読み方

2011年04月29日 | 震災・原発事故
 最終的に東電がどのような形になるかはまだ不透明だが、実はひとつのことだけに注目すればよい。
 東電の負担だ。

 <例1>東電経営者の役員報酬や退職金を返上させた上で、会社をいくつかの事業所に分割する。被災者への補償は、値上げした電気料金収入で賄う。
 これは、一見、東電に厳しい処理スキームに見える。が、実際には東電社債の発行量が膨大であるため、社債市場への影響が大きいとして、社債権者が不利にならないような仕組みになっている。
 会社に責任をとらせる場合、株主や債権者も分担しなければならない。今回のような重大事故なら、100%減資によって株価がゼロになり、社債も一部がカットされるのが一般的だ。
 今回の事故の賠償は、東電だけでは賄いきれないから政府も負担することになる。だから、社債権者を保護するということは、その分だけ政府負担=国民負担が増えることを意味する。
 電気料金の値上げによる補償費用の捻出も、国民負担だから、このスキームは、二つの点で東電に甘い。

 <例2>政府と東電で賠償機構を造り、そこに数兆円規模の公的資金を入れて補償に対応する。東電は、機構から調達した資金で被災者に賠償を払い、その後、毎年の利益から機構に返済する。
 これも東電救済だ。東電は解体されず、株主や社債権者は保護される。
 機構に投入される公的資金は、むろん税金だ。東電が返済する資金は、電気料金として国民が払うものだ。

 <例1>も<例2>も、東電関係者か、東電と密接な関係にある経済産業省あたりかた出てきたものだろう。
 国民負担を最小限にするには、資産を売却したうえで、東電を関係会社も含めて解体するのだ。発電事業と送電事業を分けた後に、発電事業だけを継承する新会社をつくるべきだ。

 以上、ドクターZ「東電処理案の読み方 ~ドクターZは知っている~」(「週刊文春」2011年5月7・14日号)に拠る。
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【震災】札束で頬を叩いて原発を始めた自民党、原発を推進した民主党

2011年04月29日 | 震災・原発事故
 10年6月【注】、民主党政権になって初めて「エネルギー基本計画」の改訂が行われた。民主党は、反原発の社民党と連立政権を組んでいたこともあり、どういう内容になるか注目されていた。結果的には、そこで打ち出されたものは電力関係者さえ驚くほど、原子力重視の計画だった。たとえば、30年の電源供給の5割は原発でやる、という。自民党政権時代は3割から4割と言ってきた。その他、原発を14基新設、増設する、といった内容だった。【寺島】
 この内容はあまり知られていない。【佐高】

 なぜ民主党がそこまで原子力重視に舵を切ったかというと、「環境」というキーワードがあった。鳩山由起夫政権で、CO2排出量の90年比25%削減を掲げた手前、それを達成するには、火力発電に比べてCO2排出が少ないとされる原子力に対夜しかなかった。原発推進派は、二つの論拠によって原発を推進している。(1)民主党が言うような環境に優しい点。(2)コストの安さ。しかし、チェルノブイリのような事故が起きた瞬間、環境にやさしいだの、低コストだの、という議論は吹き飛んでしまう。したがって、この二つを原発推進のロジックにするには無理がある。【寺島】
 民主党が舵を切った背景には、支援団体の主要労組である電力総連や電機労連が原発を推進してきた、という事情もある。【佐高】

 それでもなお日本は、一定の割合で原発を利用していくべきだ。なぜなら、被爆国である日本が原子力の平和利用技術基盤を蓄積すること、それが世界に対して為すべき重要なことだからだ。そのために高度の原子力技術者を育てていくことが大切だ。【寺島】
 仮に日本だけが原発を撤廃しても、近隣国が原発を増やし続けるなら、原発の不安は消えない。つまり、これは自国だけの問題では済まない。【佐高】
 中国は、現在、原子力発電の電力を1,080万KWまで高めている。それを30年までに8,000KWまで増やそうとしている。さらに、韓国も台湾も原発を増設しようとしている。こうした中で、もし日本が原子力の平和利用技術に対するこだわりを捨ててしまったら、日本はエネルギーにおける国際的な立ち位置を失ってしまう。原子力安全利用への貢献どころか、発言力を失って、どこからも相手にされなくなる。いまIAEA(国際原子力機関)の事務局長は日本人の天野之弥だが、IAEAで一定の発言力をもち、世界の原子力コントロールにおいて日本が役割を果たしていこうというなら、専門性の高い原子力技術の蓄積は不可欠だ。つまり、日本だけが原発から撤退する、あるいは距離をとることで何かが保たれるかといったら、そうじゃない。この問題は複雑だ。【寺島】

 (中略)

 27年の金融恐慌で最初につぶれた東京渡辺銀行は、震災手形が引き金になっている。震災による手形乱発で経営危機にあった東京渡辺銀行のことを、時の片岡直温蔵相が、まだ同銀行は営業中にもかかわらず「破綻した」と失言した。それがきっかけになって、一気に金融恐慌に展開した。不安心理は社会を揺さぶるか。今回の震災で金融面のパニックが起きないか、心配している。【佐高】

 日本人は、瞬時に結束しなくてはならないと言って流されやすい傾向がある(「即時同一化」)。キーワードは「この際だから」。「この際」小異を捨てて大同につこう、というような話は、それらしく聞こえる。それを主張しているのが大連立を画策する職業政治家たちで、ファッショに向かう考え方なのに、メディアはその危険性を指摘しない。【寺島】
 大連立構想の言い出しっぺとして名前が浮上している中曽根康弘や渡邊恒雄からは、いかにもいかがわしさがにじみ出てくる。奇しくも、中曽根はかつて正力松太郎と一緒に原発を始めた人だ。今回の原発事故は、中曽根、正力のころから政治マターとして進めた原子力政策の破綻だ。科学技術の専門家の意見、とくに批判的な意見をもっときちんと汲みとっていたら、今回のようなことにはならなかった。【佐高】
 中曽根の評価はなかなか難しいが、少なくともあの時代に日本の進むべきエネルギー政策の柱として原子力に正面から向き合った政治家ではあった。【寺島】
 中曽根が『政治と人生』という自伝で書いているが、原発に慎重な学者が待ったをかけようとすると、やはり札束が動いた。それこそ、そういう学者のほっぺたを札束で叩いてやるんだ、と。ただし、これは一緒に原発を推進してきた稲葉修(元法相)の言葉だ、と弁解しているが、似たようなものだ。そういうふうに札束でほっぺたを叩くようなやり方で進めてきた結果が、今回の惨事だ。【佐高】

 自分は国土審議会に入っているが、そこで地震が起きる数週間前に、あるペーパーが配られた。東北圏の10年の人口は1,168万人だが、50年には727万人に減る、という予測値が出ていた。高齢化率は、25.9%から44.6%に上がる、という予測だ。この予測は、震災でもっとも早い時期に現実になってしまうだろう。今後、東北で人々が生活していくにはどうすればいいか。たとえば、東北でも日本海側の港は、アジアとの連携において今後重要な意味をもつだろう。そこで、太平洋側と日本海側とをどうやって効率的につながくか。これが東北の産業復興にとって一つのポイントになる。そういう構想力をどこまで持てるかが、いまの日本に問われている。【寺島】

 以上、佐高信(評論家)/寺島実朗(日本総合研究所理事長)「この国はどこで失敗したのか」(「週刊文春」2011年5月7・14日号)に拠る。

 【注】」「AERA」誌によれば、6月18日の閣議決定で公式のものとなった(【震災】東電コネクション(原子力関連事業)、菅首相の背後の「原発推進議員」)。ただし、社民党は5月30日に連立を解消している。
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