語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>原子力安全委員会による隠蔽 ~放射性物質の拡散予測~

2011年04月19日 | 震災・原発事故
 防災基本計画では、原子力安全委員会が事故報告を受けた場合、「直ちに緊急技術助言組織(委員45人)を召集し」、専門家を現地派遣すること、と定められている。調査委員は、現地で情報の収集・分析を行うとともに、国、自治体、電力会社などの「応急対策に対し必要な助言を行う」。
 原子力安全委員会は委員5人(斑目春樹委員長)、緊急技術助言組織は原子力安全委員会委員と緊急事態応急対策調査委員40人で構成される。
 しかるに、緊急技術助言組織の複数の委員は、「召集の連絡を受けていない」。ある委員は、「召集予定はないと言われた」。別の委員は、「早い時期に召集の議論があったが、集まっていない」【注1】。
 そして、震災38日目の4月17日に、ようやく小山田修委員と野口宏緊急事態応急対策調査委員の2人を政府の現地対策本部(福島市)に派遣した。しかし、2人は県の災害対策本部には姿を見せなかった【注2】。知事にも会っていない【注3】。

 1ヵ月以上も何をしていたのか。
 放射性物質の拡散予測を隠蔽していた。
 事故後、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)で2,000枚以上の拡散試算図が作成されたが、そのうち原子力安全委員会が公表したのは、わずか2枚(3月23日及び4月11日)だけだった【注4】。

   *

 原子力安全委員会によれば、試算図を公表しない理由は「放射性物質の放出量データが乏しい。試算図は実際の拡散状況と異なり、誤解を招きかねない」からだ。
 他方、原子力安全委員会は、三宅島噴火(00年)や北朝鮮の核実験(06年)では、SPEEDIによる火山ガスや放射性物質の拡散予測を積極的に公表している。

【注1】記事「安全委が専門家の現地派遣行わず 防災計画、不履行」(2011年4月16日付け大阪日日新聞)
【注2】記事「原子力安全委員が初の福島入り 県知事は『なぜ、いまごろ』と不快感あらわ」(2011年4月17日23:37  msn産経ニュース)
【注3】記事「原子力安全委の委員、初めて福島入り 知事に面会せず 」 (2011年4月19日22:08 日本経済新聞電子版)
【注4】記事「拡散の試算図2千枚、公表は2枚 放射性物質で安全委」((2011年4月18日19:43 共同ニュース)
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【震災】原発>健康に悪影響を与える要因 ~放射性物質以外~

2011年04月19日 | 震災・原発事故
 福島第一原発事故が健康に与える影響は、放射性物質だけではない。
 人々の健康状態は、(a)衛生状態や(b)生活習慣に規定される。被災地の避難所では日常生活と異なって、多数が共同生活し、衛生用品が不足する(感染症流行の可能性)。また、高齢者が体を動かす機会が減る(「閉じこもり」)と、加齢による筋力低下と運動不足があいまって、足腰が弱くなり、転倒などを引き起こす(ロコモティブシンドローム/廃用症候群)。

 (a)や(b)も重要だが、健康状態を規定する要因として、最近着目されているのは(c)社会的要因だ。
 社会的結束が冠動脈性心疾患(心筋梗塞)に影響する。また、社会的に孤立している人ほど、死亡率が高い。他人への信頼感と所得格差、主観的な健康水準とのあいだに相関がある。つまり、長期にわたる避難のあいだに、それまで築いてきた人間関係が破壊されると、健康も大きな影響を受ける(予想)。

 チェルノブイリ・フォーラムの報告書によれば、皮肉なことに事故後に自ら村に戻った住民の方が、より放射能の影響を受けていない地域に移住した住民よりも、心理的な状態が良かった(ただし、身体的な状態については、総合的にみて健康を損ねる可能性は否定されていない)。
 この理由は報告書では言及されていないが、おそらくは知らない土地で過ごすストレスが健康に悪影響を与えたのではないか。
 また、ウクライナ在住のARS(急性放射線症)生存者94名と非ARS99名の健康状態は、20年を経過した現在では両者に差がなくなり、むしろ慢性的な心理的ストレス、栄養不良、不安定な社会的・経済的な状況といった要因の影響が大きいことを示す研究がある。事故によるストレスが健康に与えた影響は、放射線そのものが与えた影響よりも大きいのではないか、とする研究も存在する。

 放射線そのものよりも、ストレスや人間関係が健康に大きな影響を与える可能性について肝に銘じておいたほうがよい。もちろん、放射線の影響を否定するものではない。放射線以外の要因を軽視するべきではない、ということだ。
 単に放射線を浴びなければそれでよい、というだけでなく、被災者がどこに避難するにせよ、あるいは居住を継続するにせよ、ストレスや人間関係を考慮しなければ被災者の健康を守ることができない。

 以上、河野敏鑑「原発事故の悪影響は放射線だけか」(WEBRONZA 2011年4月18日)に拠る。

 対人関係の障害は精神疾患を引き起こす一因となる。たとえば、過疎の村から大都会に出稼ぎに出ると、希薄な人間関係の中で統合失調症の発生率が高まった(荻野恒一『過疎地帯の文化と狂気:奥能登の社会精神病理』、新泉社、1977)。
 阪神・淡路大震災でも、高齢者を優先して仮設住宅に入居させたところ、孤独死が発生した。
 こうした経験知に立って、このたびは地区ごとの移転や、グループ単位の仮設住居等への入居が試みられている。しかし、これはこれで別の難題を招いた。仙台市が仮設住宅や市営住宅などへの応募を10世帯以上の団体申し込みに限定したところ、締め切りまで残り3日の時点で応募はわずか3件、用意した住宅は1割も埋まらなかった(2011年4月17日5時12分 asahi.com)。
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【震災】今夏、全国各地で電力が不足する

2011年04月19日 | 震災・原発事故
 夏には電力需要が増える。
 東京電力は、需要に対して1,000万kW足りない。
 東北電力も、需要に対して150~230万kW足りない。
 被災しなかった地域はどうか。
 原発は、約1年ごとに定期検査で止まる。日本の原発は、いま全54基のうち25基しか営業運転していない。残りは震災による停止や定期検査中だ。合計約2,500万kWが「凍結」されている。
 電力制約は、東日本だけですまない。今夏、電力不足は全国津々浦々を覆う。

●関西電力
 美浜原発1号機、高浜原発1号機、大飯原原発1、3号機が停止したままの場合、供給予備率【注】はマイナスになる。

●北陸電力
 志賀原発1、2号機は、運転再開の見通しが立たない。夏の最大電力需要526kWに対して、供給力は535kW、供給予備率は2%だ。

●四国電力
 4月中に伊方原発3号機が点検に入るが、再開の可能性は低い。3号機はMOX燃料を使用している。福島第一原発3号機と同じ燃料だ。住民の理解を得るのは難しい。夏の最大需要550万kWに対して、供給予備率は1%になる。

●九州電力
 玄海原2、3号機と川内原発1号機が動かなくなれば、最大需要1,669万kWに対して、供給予備率は3%となる。

 【注】供給予備率は、需要に対する供給力の余裕を示す。通常は10%以上確保される。

 以上、片田江康男・小島健志(本誌)「日本総停電の引き金となる世界最悪『レベル7』の衝撃」(「週刊ダイヤモンド」2011年4月23日号)に拠る。
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