上海福喜食品が期限切れ鶏肉を日本の大手ファストフードやコンビニなどに出荷してた事件が、食の安全問題を再燃させている【注】。
親会社の「OSIグループ」は、日本を含む世界17か国に60か所の食品加工工場を持ち、40か国以上に食肉を供給している米系大手食品卸売企業だ。同社はグローバル企業で、昨年だけで60億ドル(6,000億円)の売上げを誇る。2010年から中国家禽産業に進出し、2014年には1億羽の家禽取引が予定されていた。
シェルダン・ラビン会長兼CEOは、上海福喜食品幹部の逮捕を受けて、HP上に謝罪文を掲載し、中国国内へ直ちに調査員を派遣する、と発表した。
日本は、鶏肉調整品を44万トン(2013年)輸入している。うち、半分の22万トンは中国産が占めている。
マスコミ報道の大半は中国のずさんな食品衛生管理や中国人の無責任さなどに焦点をあてているが、この問題は一国・一企業に矮小化できない。
日本マクドナルド社をはじめ、多くの外食チェーンがOSIとの取引を停止する中、日本マクドナルド本社による「OSIとの取引継続」表明がこの事件の本質を浮き彫りにした。
グローバル化が価格競争を激化させればさせるほど、食料は工業製品に近くなっていく。大量生産かつ低コストという2大条件は、今や中国だけでない。グローバル企業が工場を置く国(原材料と人件費が安い)ならどこでも最優先条件だ。
<例>成長促進のための成長ホルモン。バッテリーケージ(A4サイズの空間)に鶏を4羽詰める大量育成法。抗生物質(感染防止のため)の大量投与。
この例は米国でもさして珍しくない。
鶏肉に限らず、豚や牛も同様だ。
福島第一原発事故以降、日本国内のスーパーでは豪州産、カナダ産、米国産の肉需要が増えている。
ところが、米国のスミスフィールド社(世界最大の豚肉生産・処理企業)は、2013年に中国企業が買収済みだ。
このグローバル流通システム(網の目のように世界を覆う)の中、口にするものの出所を正確に辿るのは、今後ますます難しくなるだろう。
かたや、日本の食品安全に関する法規は、輸入元の国内事情をz選定に整備されているとは言いがたい。食品検疫検査率は輸入件数の1割程度にすぎず、9割は検査なしに輸入されている。
食における輸入依存率が年々進んでいるにもかかわらず、食品衛生監視員(食品検疫検査を実施する)の数は相変わらず全国でも400人に満たない。
今回の事件を教訓に、国は今度こそ人員を増やし、検査率を上げ、食品衛生法を見直すべきだ。
日本における食費支出は、2040年までに、その7割を外食と輸入食品が占めるようになる。【米国穀物協会が2014年4月に発表した報告書】
少子化が進み、生鮮食品より加工食品が中心になれば、日本の食生活はますます中国や米国に依存していくだろう。日本政府は、国民の安全をしかと守ることができるか。
EUと米国間におけるTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)交渉でも、食の安全基準が問題になっている。米国製の塩素消毒した鶏肉が、EUの厳しい基準に引っかかるからだ。
ロシアも最近、米国からの遺伝子組み換え食材輸入全面禁止に踏み切った。
「遺伝子組み換え食品を選ぶのは米国人の自由だ。だが、我が国には自国民のために有機農業作物を生産する農地が十分にある」【プーチン大統領】
ロシア政府のこうした姿勢の背後には、食の安全について意識の高い欧州消費者の存在がある。
企業至上主義の米国が緩い基準を押しつけてくるTPP交渉で、日本政府を後押しするために、国民側は確固たる価値観を差し出すべきだ。
安価神話を追い求める消費者の欲望が、歪んだ市場(その象徴が中国期限切れ鶏肉事件)を支え続けている。この事実に国民はいつ気づくのか。
【注】「【中国】チキンの恐怖 ~日本マクドナルドの中国産鶏肉の危険性~」
□堤未果「中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」(「週刊現代」2014年8月16・23日特大合併号)
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親会社の「OSIグループ」は、日本を含む世界17か国に60か所の食品加工工場を持ち、40か国以上に食肉を供給している米系大手食品卸売企業だ。同社はグローバル企業で、昨年だけで60億ドル(6,000億円)の売上げを誇る。2010年から中国家禽産業に進出し、2014年には1億羽の家禽取引が予定されていた。
シェルダン・ラビン会長兼CEOは、上海福喜食品幹部の逮捕を受けて、HP上に謝罪文を掲載し、中国国内へ直ちに調査員を派遣する、と発表した。
日本は、鶏肉調整品を44万トン(2013年)輸入している。うち、半分の22万トンは中国産が占めている。
マスコミ報道の大半は中国のずさんな食品衛生管理や中国人の無責任さなどに焦点をあてているが、この問題は一国・一企業に矮小化できない。
日本マクドナルド社をはじめ、多くの外食チェーンがOSIとの取引を停止する中、日本マクドナルド本社による「OSIとの取引継続」表明がこの事件の本質を浮き彫りにした。
グローバル化が価格競争を激化させればさせるほど、食料は工業製品に近くなっていく。大量生産かつ低コストという2大条件は、今や中国だけでない。グローバル企業が工場を置く国(原材料と人件費が安い)ならどこでも最優先条件だ。
<例>成長促進のための成長ホルモン。バッテリーケージ(A4サイズの空間)に鶏を4羽詰める大量育成法。抗生物質(感染防止のため)の大量投与。
この例は米国でもさして珍しくない。
鶏肉に限らず、豚や牛も同様だ。
福島第一原発事故以降、日本国内のスーパーでは豪州産、カナダ産、米国産の肉需要が増えている。
ところが、米国のスミスフィールド社(世界最大の豚肉生産・処理企業)は、2013年に中国企業が買収済みだ。
このグローバル流通システム(網の目のように世界を覆う)の中、口にするものの出所を正確に辿るのは、今後ますます難しくなるだろう。
かたや、日本の食品安全に関する法規は、輸入元の国内事情をz選定に整備されているとは言いがたい。食品検疫検査率は輸入件数の1割程度にすぎず、9割は検査なしに輸入されている。
食における輸入依存率が年々進んでいるにもかかわらず、食品衛生監視員(食品検疫検査を実施する)の数は相変わらず全国でも400人に満たない。
今回の事件を教訓に、国は今度こそ人員を増やし、検査率を上げ、食品衛生法を見直すべきだ。
日本における食費支出は、2040年までに、その7割を外食と輸入食品が占めるようになる。【米国穀物協会が2014年4月に発表した報告書】
少子化が進み、生鮮食品より加工食品が中心になれば、日本の食生活はますます中国や米国に依存していくだろう。日本政府は、国民の安全をしかと守ることができるか。
EUと米国間におけるTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)交渉でも、食の安全基準が問題になっている。米国製の塩素消毒した鶏肉が、EUの厳しい基準に引っかかるからだ。
ロシアも最近、米国からの遺伝子組み換え食材輸入全面禁止に踏み切った。
「遺伝子組み換え食品を選ぶのは米国人の自由だ。だが、我が国には自国民のために有機農業作物を生産する農地が十分にある」【プーチン大統領】
ロシア政府のこうした姿勢の背後には、食の安全について意識の高い欧州消費者の存在がある。
企業至上主義の米国が緩い基準を押しつけてくるTPP交渉で、日本政府を後押しするために、国民側は確固たる価値観を差し出すべきだ。
安価神話を追い求める消費者の欲望が、歪んだ市場(その象徴が中国期限切れ鶏肉事件)を支え続けている。この事実に国民はいつ気づくのか。
【注】「【中国】チキンの恐怖 ~日本マクドナルドの中国産鶏肉の危険性~」
□堤未果「中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」(「週刊現代」2014年8月16・23日特大合併号)
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