8月17日、沖縄防衛局は、米海兵隊普天間飛行場の辺野古への移設に向けた海底ボーリング調査に使用するスパット台船を設置した。辺野古沖で掘削調査のための足場を設置するのは、2004年(市民らの反対運動で最終的に作業が中止された)以来だ。
日本人の理解する民主主義に付き合っていたら、沖縄は差別構造(米軍基地の加重負担)からいつまでも抜け出すことができない。
琉球処分によって日本に強制的に併合される(1879年)以前、沖縄人は国家(琉球王国)を持っていた。この国家は、琉米修好条約(1854年)、琉仏修好条約(1859年)によって、当時の帝国主義列強から国際法の主体として認められていた。
現在、潜在化している沖縄の主権をどう回復するかが沖縄人にとっての重要な課題となる。
沖縄人には沖縄流の抵抗の仕方がある。
沖縄県警の警察官、沖縄防衛局の職員、日本政府に雇われて抗議運動の排除に協力している漁船員も多くが沖縄人だ。日本政府の沖縄への干渉と差別政策によって沖縄人同士がいがみ合わなくてはならない状況が生じている。
日本人は沖縄から手を引け。
ウクライナの東部、南部に住むロシア語常用者は、現在、ロシア人であるかウクライナ人であるかを選択することを余儀なくされている。
日本の中央政府が辺野古でやっていることは、日本語を常用し、沖縄にルーツを持つ人たちに、沖縄人であるか日本人であるかを選択せよ、と迫っていることだ。
こうした正論を聞くと、政治家や新聞記者は沈黙する。差別が構造化している場合、差別する側にとって、沈黙は現状維持のための最大の武器だ。
しかし、米国政府関係者の中には、沈黙という武器を用いずに、本音を率直に語る人が時々いる。アルフレッド・マグルビー・在沖縄米国総領事もその一人だ。
<アルフレッド・マグルビー在沖米総領事が12日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する署名を渡しに訪れた関係者に対し「沖縄で(基地の)反対運動する人たちはゼロか100かで、意味ある生産的な対話ができない」と発言していたことが分かった。さらに「県や名護市は国防に協力すべきだ」と述べ、辺野古移設を含む米軍再編を支援すべきだとの考えを示していた。署名を手渡したピースフィロソフィーセンター代表の乗松聡子氏が明らかにした。(中略)/在沖米総領事は取材に対し「オフレコの場での話し合いについてはコメントしない」としている。/乗松氏らは1月、辺野古移設計画に反対する世界的に著名な文化人・有識者らによる声明を発表。声明に賛同した1万5千人の署名を12日、マグルビー総領事に手渡した。マグルビー氏の発言は、12日に沖縄国際大で開催されたシンポジウムで乗松氏が報告した。/シンポジウムの後、乗松氏は本紙にマグルビー氏とのやり取りの一部始終を説明。マグルビー氏の「沖縄の人とは意義ある対話ができない」との発言に対し、乗松氏が「沖縄の人たちは全ての基地を明日撤去しろと言ってるわけではない。普天間基地の閉鎖をまず求めているだけで、ゼロか100かとは言えない。そのわずかな要求すら通っていないのが現状だ」と反論したという。乗松氏によると、マグルビー氏は「オスプレイは過度に悪者扱いされている」「沖縄の2紙は基地の悪い部分ばかり報道していい面は報道しない」などと指摘した。面会は午前9時45分から1時間ほど行われたという。>【「琉球新報」2014年8月13日】
<(8月12日に)マグルビー氏が沖縄の基地について「日本という国家が決めたことだから沖縄はその通りに従わなければならない」と発言していたことが13日、分かった。マグルビー氏と面談したジョセフ・ガーソン氏(アメリカフレンズ奉任委員会)が、発言を聞きながら書き取ったメモを基に証言した。
ガーソン氏によると、マグルビー氏は反対運動に参加する人々について「理性に欠ける(not rational)」と表現。県民の多くが新基地建設に反対する中、沖縄に在住する米国の代表として資質も問われそうだ。>【「琉球新報」2014年8月14日】
マグルビー発言は、沖縄県知事選挙(11月16日)に無視できない影響を与える。知事選挙に立候補すると黙されている翁長雄志・那覇市長が、辺野古の新基地建設に強く反対しているからだ。
マグルビーの主張に従えば、翁長市長は「理性に欠ける」ことになる。これは、翁長市長だけではなく、沖縄県民、さらには県外に住む在外沖縄人に対する侮辱だ。
マグルビー発言に対しては、翁長市長が適切な反撃をした。
<アルフレッド・マグルビー・在沖縄米国総領事が「沖縄で(基地の)反対運動する人たちはゼロか100かで、意味ある生産的な対話ができない」と発言したことについて翁長雄志那覇市長は14日、訪問先のブラジルで本紙の取材に「その言葉をそっくりそのままお返しする。総領事の方がそういった傾向がある」と述べ、批判した。翁長氏は、マグルビー氏が2012年の総領事就任時に普天間飛行場の危険性を否定した発言にも触れ「以前もこういった発言があった。危惧していた本音が出てきた」と強調した。>【「琉球新報」2014年8月15日】
日本の陸地面積の0.6%を占めるに過ぎない沖縄に、在日米軍基地の74%が所在する。
こういう構造的差別という視点が、マグルビーには欠如している。
圧倒的大多数の東京の政治エリート(国会議員、官僚)と全国紙記者も、マグルビーと同じ視座に立っている。
今後、沖縄人は主権確立を加速することで、差別の脱構築を志向することになろう。
□佐藤優「マグルビー在沖米総領事と辺野古沖のボーリング調査 ~佐藤優の飛耳長目 98~」(「週刊金曜日」2014年8月22日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
日本人の理解する民主主義に付き合っていたら、沖縄は差別構造(米軍基地の加重負担)からいつまでも抜け出すことができない。
琉球処分によって日本に強制的に併合される(1879年)以前、沖縄人は国家(琉球王国)を持っていた。この国家は、琉米修好条約(1854年)、琉仏修好条約(1859年)によって、当時の帝国主義列強から国際法の主体として認められていた。
現在、潜在化している沖縄の主権をどう回復するかが沖縄人にとっての重要な課題となる。
沖縄人には沖縄流の抵抗の仕方がある。
沖縄県警の警察官、沖縄防衛局の職員、日本政府に雇われて抗議運動の排除に協力している漁船員も多くが沖縄人だ。日本政府の沖縄への干渉と差別政策によって沖縄人同士がいがみ合わなくてはならない状況が生じている。
日本人は沖縄から手を引け。
ウクライナの東部、南部に住むロシア語常用者は、現在、ロシア人であるかウクライナ人であるかを選択することを余儀なくされている。
日本の中央政府が辺野古でやっていることは、日本語を常用し、沖縄にルーツを持つ人たちに、沖縄人であるか日本人であるかを選択せよ、と迫っていることだ。
こうした正論を聞くと、政治家や新聞記者は沈黙する。差別が構造化している場合、差別する側にとって、沈黙は現状維持のための最大の武器だ。
しかし、米国政府関係者の中には、沈黙という武器を用いずに、本音を率直に語る人が時々いる。アルフレッド・マグルビー・在沖縄米国総領事もその一人だ。
<アルフレッド・マグルビー在沖米総領事が12日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する署名を渡しに訪れた関係者に対し「沖縄で(基地の)反対運動する人たちはゼロか100かで、意味ある生産的な対話ができない」と発言していたことが分かった。さらに「県や名護市は国防に協力すべきだ」と述べ、辺野古移設を含む米軍再編を支援すべきだとの考えを示していた。署名を手渡したピースフィロソフィーセンター代表の乗松聡子氏が明らかにした。(中略)/在沖米総領事は取材に対し「オフレコの場での話し合いについてはコメントしない」としている。/乗松氏らは1月、辺野古移設計画に反対する世界的に著名な文化人・有識者らによる声明を発表。声明に賛同した1万5千人の署名を12日、マグルビー総領事に手渡した。マグルビー氏の発言は、12日に沖縄国際大で開催されたシンポジウムで乗松氏が報告した。/シンポジウムの後、乗松氏は本紙にマグルビー氏とのやり取りの一部始終を説明。マグルビー氏の「沖縄の人とは意義ある対話ができない」との発言に対し、乗松氏が「沖縄の人たちは全ての基地を明日撤去しろと言ってるわけではない。普天間基地の閉鎖をまず求めているだけで、ゼロか100かとは言えない。そのわずかな要求すら通っていないのが現状だ」と反論したという。乗松氏によると、マグルビー氏は「オスプレイは過度に悪者扱いされている」「沖縄の2紙は基地の悪い部分ばかり報道していい面は報道しない」などと指摘した。面会は午前9時45分から1時間ほど行われたという。>【「琉球新報」2014年8月13日】
<(8月12日に)マグルビー氏が沖縄の基地について「日本という国家が決めたことだから沖縄はその通りに従わなければならない」と発言していたことが13日、分かった。マグルビー氏と面談したジョセフ・ガーソン氏(アメリカフレンズ奉任委員会)が、発言を聞きながら書き取ったメモを基に証言した。
ガーソン氏によると、マグルビー氏は反対運動に参加する人々について「理性に欠ける(not rational)」と表現。県民の多くが新基地建設に反対する中、沖縄に在住する米国の代表として資質も問われそうだ。>【「琉球新報」2014年8月14日】
マグルビー発言は、沖縄県知事選挙(11月16日)に無視できない影響を与える。知事選挙に立候補すると黙されている翁長雄志・那覇市長が、辺野古の新基地建設に強く反対しているからだ。
マグルビーの主張に従えば、翁長市長は「理性に欠ける」ことになる。これは、翁長市長だけではなく、沖縄県民、さらには県外に住む在外沖縄人に対する侮辱だ。
マグルビー発言に対しては、翁長市長が適切な反撃をした。
<アルフレッド・マグルビー・在沖縄米国総領事が「沖縄で(基地の)反対運動する人たちはゼロか100かで、意味ある生産的な対話ができない」と発言したことについて翁長雄志那覇市長は14日、訪問先のブラジルで本紙の取材に「その言葉をそっくりそのままお返しする。総領事の方がそういった傾向がある」と述べ、批判した。翁長氏は、マグルビー氏が2012年の総領事就任時に普天間飛行場の危険性を否定した発言にも触れ「以前もこういった発言があった。危惧していた本音が出てきた」と強調した。>【「琉球新報」2014年8月15日】
日本の陸地面積の0.6%を占めるに過ぎない沖縄に、在日米軍基地の74%が所在する。
こういう構造的差別という視点が、マグルビーには欠如している。
圧倒的大多数の東京の政治エリート(国会議員、官僚)と全国紙記者も、マグルビーと同じ視座に立っている。
今後、沖縄人は主権確立を加速することで、差別の脱構築を志向することになろう。
□佐藤優「マグルビー在沖米総領事と辺野古沖のボーリング調査 ~佐藤優の飛耳長目 98~」(「週刊金曜日」2014年8月22日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」