武器輸出三原則。
これが撤廃されて4か月たった。続々と具体的な案件が表に出てきた。
今年、世界各地で深刻な国際紛争が発生している。各地で激しい戦闘が繰り広げられている。国境を越えて、いともたやすく武器が拡散している。
「反政府武装勢力」グループが、高度な武器を使って急速に支配地域を広げる現象が見られるが、それを可能にしたのが、米英仏露、サウジアラビア、カタール、イラン、そして最近では中国などの武器輸出だ。表向きは自衛のため、人道のためと言うのだが、本音はシンプルに自国権益の維持拡大だ。そこでは、自国の敵の敵は味方、味方の敵は敵という短絡的・短期的な視点で武器が供与される。
<例>カタール(湾岸の親米国)。民主国家ではないが、米国メジャーの利権を守ってくれるから、米国にとっては味方だ。そこで、米国はカタールに武器を供与する。
スンニー派のカタールにとってシーア派は敵だ。シリアのアサド大統領はシーア派だ。カタールの敵だ。それと戦うスンニー派の反政府勢力は、アサドの敵だからカタールの味方だ。そこでカタールは、彼らスンニー派反政府勢力にこっそりと武器を供与した。
ところが、その武器がアルカイダの流れを汲むスンニー派武装勢力ISIS(最近「イスラム国」と改称)に流出した。この武器を使って、「イスラム国」が、今、イラクで猛威を振るっている。シーア派のマリキ政権を慌てさせている。
マリキ政権は、米国が作った政権だ。米国は武器も軍事訓練も供与してきた。
米国のカタールへの武器供与は、廻り廻って米国のクビを締めている。
かくのごとく、今や「正義とは何か」が曖昧になっている。
だから、どの国も、地域紛争に軍事介入することに極めて慎重だ。
安倍政権は、武器輸出解禁に当たって、国際紛争を助長しないように歯止めをかけた、と説明した。
しかし、実際には、時代遅れの「正義の味方」路線を採っている。米国は正義で、日本の味方。だから米国の味方は日本の味方だし、米国の敵は日本の敵だ、と考える。
極めて危ない考えだ。
7月17日、安倍政権は国家安全保障会議(NSC)で、地対空ミサイル「パトリオット(PAC2)」に使う部品(三菱重工業)の対米輸出案件を承認し、その部品が組み込まれたPAC2完成品のカタールへの輸出まで認めた。
カタールについては「親米国で紛争に使われるリスクは低い」としている。カタールは親米、つまり米国の味方。だからカタールは日本の味方。そういう短絡的な審査で認めたのだ。
しかし、カタールが何をやっているかを考えれば、認めてはいけない案件であることは明らかだ。
米国の軍需産業は強大な政治力を持っている。だから、多少のリスクはあっても、そんな議論は蹴散らかされて、米国政府は危ない橋を渡る。
それに付き合って、日本はのこのこと危ない橋を渡るのだ。
日本の武器産業は、表向きは「政府の方針に従うだけ」と言いながら、内心は欣喜雀躍している。
自民党の国防族も、むろん喜んでいる。
しかし、それ以上に喜んでいるのが、武器輸出を所管する経産省だ。そこに巨大な利権が生まれ、武器産業への天下りポストも大幅に増えるだろう。
彼らには、70年かけて築き上げてきた日本の「平和ブランド」など、何の関係もない。
経産省は、予算も規制の権限も小さく、長らくその存在意義が問われてきただけに、「安部さんは救世主」という声があがっている。
□古賀茂明「時代遅れの「正義の味方」 ~官々愕々第119回~」(「週刊現代」2014年8月16・23日特大合併号)
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【参考】
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」
これが撤廃されて4か月たった。続々と具体的な案件が表に出てきた。
今年、世界各地で深刻な国際紛争が発生している。各地で激しい戦闘が繰り広げられている。国境を越えて、いともたやすく武器が拡散している。
「反政府武装勢力」グループが、高度な武器を使って急速に支配地域を広げる現象が見られるが、それを可能にしたのが、米英仏露、サウジアラビア、カタール、イラン、そして最近では中国などの武器輸出だ。表向きは自衛のため、人道のためと言うのだが、本音はシンプルに自国権益の維持拡大だ。そこでは、自国の敵の敵は味方、味方の敵は敵という短絡的・短期的な視点で武器が供与される。
<例>カタール(湾岸の親米国)。民主国家ではないが、米国メジャーの利権を守ってくれるから、米国にとっては味方だ。そこで、米国はカタールに武器を供与する。
スンニー派のカタールにとってシーア派は敵だ。シリアのアサド大統領はシーア派だ。カタールの敵だ。それと戦うスンニー派の反政府勢力は、アサドの敵だからカタールの味方だ。そこでカタールは、彼らスンニー派反政府勢力にこっそりと武器を供与した。
ところが、その武器がアルカイダの流れを汲むスンニー派武装勢力ISIS(最近「イスラム国」と改称)に流出した。この武器を使って、「イスラム国」が、今、イラクで猛威を振るっている。シーア派のマリキ政権を慌てさせている。
マリキ政権は、米国が作った政権だ。米国は武器も軍事訓練も供与してきた。
米国のカタールへの武器供与は、廻り廻って米国のクビを締めている。
かくのごとく、今や「正義とは何か」が曖昧になっている。
だから、どの国も、地域紛争に軍事介入することに極めて慎重だ。
安倍政権は、武器輸出解禁に当たって、国際紛争を助長しないように歯止めをかけた、と説明した。
しかし、実際には、時代遅れの「正義の味方」路線を採っている。米国は正義で、日本の味方。だから米国の味方は日本の味方だし、米国の敵は日本の敵だ、と考える。
極めて危ない考えだ。
7月17日、安倍政権は国家安全保障会議(NSC)で、地対空ミサイル「パトリオット(PAC2)」に使う部品(三菱重工業)の対米輸出案件を承認し、その部品が組み込まれたPAC2完成品のカタールへの輸出まで認めた。
カタールについては「親米国で紛争に使われるリスクは低い」としている。カタールは親米、つまり米国の味方。だからカタールは日本の味方。そういう短絡的な審査で認めたのだ。
しかし、カタールが何をやっているかを考えれば、認めてはいけない案件であることは明らかだ。
米国の軍需産業は強大な政治力を持っている。だから、多少のリスクはあっても、そんな議論は蹴散らかされて、米国政府は危ない橋を渡る。
それに付き合って、日本はのこのこと危ない橋を渡るのだ。
日本の武器産業は、表向きは「政府の方針に従うだけ」と言いながら、内心は欣喜雀躍している。
自民党の国防族も、むろん喜んでいる。
しかし、それ以上に喜んでいるのが、武器輸出を所管する経産省だ。そこに巨大な利権が生まれ、武器産業への天下りポストも大幅に増えるだろう。
彼らには、70年かけて築き上げてきた日本の「平和ブランド」など、何の関係もない。
経産省は、予算も規制の権限も小さく、長らくその存在意義が問われてきただけに、「安部さんは救世主」という声があがっている。
□古賀茂明「時代遅れの「正義の味方」 ~官々愕々第119回~」(「週刊現代」2014年8月16・23日特大合併号)
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【参考】
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
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「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
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「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」