今回の集団的自衛権容認をめぐる報道を通して、NHKが権力に隷従していく過程が見えてくる。
5月15日、安保制懇の報告書が発注元(安部首相)に提出された。その日、安部は図解パネルを2枚用意して、「分かりやすさ」を売りにプレゼンテーションを行い、迫った。
(1)父母祖父母子どもたちを救出する米艦が攻撃されたとき、日本は何もしなくていいのか。
(2)海外で活動するNGOが武装集団に襲われたとき、「駆けつけ警護」をしなくていいのか、etc.。
(1)は、満蒙開拓団が命からがらに日本に引き揚げてきた過去を連想させるが、今時の朝鮮半島でこんな図は考えにくい。自国民の救出はそれぞれの国が行うことになっている。
(2)は、軍事色が付けばかえって危険が増す、とNGO関係者が反発している。
会見直後、安部番の政治部記者が登場し、政府広報官のような口ぶりで、「荒唐無稽」で「有り難迷惑」な首相会見の内容を無批判に「再放送」し、今後の政治日程だけを述べた。
その日の「ニュースウォッチ9」(NHK)には首相補佐官が登場し、新味のない話をして帰った。
一方、「報道ステーション」(テレビ朝日)には、柳澤協二・元官房副長官補がビデオ出演し、首相説明は「人情話」にすぎないと切り捨てた。次に、岡崎久彦・安保制懇メンバー(安部のご意見番と言われる)にマイクを向けると、「総理大臣に立派な人を選んでおくことが歯止め」だと、まことに傾聴に値するジョークを口にした。
与党協議の後、ついに閣議決定の日を迎えた。7月1日、官邸前には1万人余が集まって抗議した。
しかし、「ニュースウォッチ9」は、
(a)その映像を流したのは冒頭わずか20秒間だけ。
(b)そのコメントは、「騒然とする総理大臣官邸前」とだけ。・・・・抗議デモをあたかもまるで虫のすだく声を扱うように扱った。
(c)その上で大越健介・キャスターは、「記者 大越が見た 自衛隊 派遣のこれまで」と銘打って、「私も政策決定の最前線をずいぶん長く取材をしてきた」と胸を張りながら、湾岸戦争(1991年)は金だけ出して血を流さない日本が、国際貢献を模索する一大転機となった、と位置づけ、それを起点に、今回の閣議決定に至る道筋を段階的に説明した。
①「“貢献”から“協力”へ」
②「“戦時”への協力」
③「“協力”から“抑止”へ」・・・・という予定調和の年表をたどり、米中の反応などを紹介したあと、
④最後に「抑止理論」をもとに、「いま、閣議決定によって、集団的自衛権の行使に道筋がつきました」と締めくくった。
(d)要するに、この政治部記者(大越キャスター)は、安部の十八番である「安全保障環境の変化」という言葉を鸚鵡返しのように繰り返すのみで、
「何がなぜ変わったか、その理由が説明されない」
ことに何の疑問も差し挟まなかった。・・・・これはもう、テレビの視聴者を巻き込んだ無理心中だ。かくのごとく言葉がまず死んで、ついで戦争が起こるのだ。
□神保太郎「メディア批評 第81回」(「世界」2014年9月号)の「(1)NHKが危ない!」
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【NHK】が危ない! ~組織に漂う負の雰囲気~」
5月15日、安保制懇の報告書が発注元(安部首相)に提出された。その日、安部は図解パネルを2枚用意して、「分かりやすさ」を売りにプレゼンテーションを行い、迫った。
(1)父母祖父母子どもたちを救出する米艦が攻撃されたとき、日本は何もしなくていいのか。
(2)海外で活動するNGOが武装集団に襲われたとき、「駆けつけ警護」をしなくていいのか、etc.。
(1)は、満蒙開拓団が命からがらに日本に引き揚げてきた過去を連想させるが、今時の朝鮮半島でこんな図は考えにくい。自国民の救出はそれぞれの国が行うことになっている。
(2)は、軍事色が付けばかえって危険が増す、とNGO関係者が反発している。
会見直後、安部番の政治部記者が登場し、政府広報官のような口ぶりで、「荒唐無稽」で「有り難迷惑」な首相会見の内容を無批判に「再放送」し、今後の政治日程だけを述べた。
その日の「ニュースウォッチ9」(NHK)には首相補佐官が登場し、新味のない話をして帰った。
一方、「報道ステーション」(テレビ朝日)には、柳澤協二・元官房副長官補がビデオ出演し、首相説明は「人情話」にすぎないと切り捨てた。次に、岡崎久彦・安保制懇メンバー(安部のご意見番と言われる)にマイクを向けると、「総理大臣に立派な人を選んでおくことが歯止め」だと、まことに傾聴に値するジョークを口にした。
与党協議の後、ついに閣議決定の日を迎えた。7月1日、官邸前には1万人余が集まって抗議した。
しかし、「ニュースウォッチ9」は、
(a)その映像を流したのは冒頭わずか20秒間だけ。
(b)そのコメントは、「騒然とする総理大臣官邸前」とだけ。・・・・抗議デモをあたかもまるで虫のすだく声を扱うように扱った。
(c)その上で大越健介・キャスターは、「記者 大越が見た 自衛隊 派遣のこれまで」と銘打って、「私も政策決定の最前線をずいぶん長く取材をしてきた」と胸を張りながら、湾岸戦争(1991年)は金だけ出して血を流さない日本が、国際貢献を模索する一大転機となった、と位置づけ、それを起点に、今回の閣議決定に至る道筋を段階的に説明した。
①「“貢献”から“協力”へ」
②「“戦時”への協力」
③「“協力”から“抑止”へ」・・・・という予定調和の年表をたどり、米中の反応などを紹介したあと、
④最後に「抑止理論」をもとに、「いま、閣議決定によって、集団的自衛権の行使に道筋がつきました」と締めくくった。
(d)要するに、この政治部記者(大越キャスター)は、安部の十八番である「安全保障環境の変化」という言葉を鸚鵡返しのように繰り返すのみで、
「何がなぜ変わったか、その理由が説明されない」
ことに何の疑問も差し挟まなかった。・・・・これはもう、テレビの視聴者を巻き込んだ無理心中だ。かくのごとく言葉がまず死んで、ついで戦争が起こるのだ。
□神保太郎「メディア批評 第81回」(「世界」2014年9月号)の「(1)NHKが危ない!」
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【参考】
「【NHK】が危ない! ~組織に漂う負の雰囲気~」