地方では、中央とは逆の動きが出ている。
それは、集団的自衛権を論じる地方紙の社説に見てとれる。
主要地方紙43紙のうち40紙が「反対」の社説を掲載したのだ。
7月8日付け東京新聞「こちら特報部」が丁寧にまとめている。
<例1>新潟日報(新潟県)・・・・佐藤明・編集局長による7月1日付け論説「地方は黙してはならない」
首相や与党に、地方に説明しようとする動きがまったく見えない。「『外交や防衛に地方は口を出さなくていい』ということなのだろうか」。
地方議会は集団的自衛権を容認することに「反対」や「慎重な議論」を求める意見書をあちこちで可決している。
高村正彦・自民党副総裁は「地方議会も日本人であれば慎重に勉強してほしい」と語った。
これに対する佐藤局長の反論。「慎重に勉強しようにも、時間も与えず決めようとしているのは誰か」
<例2>河北新報(東北のブロック紙)・・・・鈴木素雄・編集局長の記事「民権無視の横紙破り」
千葉卓三郎・元仙台藩士が起草した明治の憲法試案「五日市憲法」は、今の憲法に通じる先見性があった。
また、憲法改正には特別会議の召集や両院の3分の2の議決を必要とする規定がある。「首相は解釈という『主観』を潜り込ませることによって、選手兼審判の座を射止めようとしている。千葉が想定だにしていなかった禁じ手というほかはない」
<例3>琉球新報(沖縄県)・・・・見出し「日本が悪魔の島に 国民を危険にさらす暴挙」
ベトナム戦争で爆撃機が出撃した沖縄は「悪魔の島」と呼ばれた。当時は憲法の歯止めで参戦に至らなかったが、憲法解釈の変更により、今後は日本中が「悪魔の島」になる恐れがある。
「米軍基地が集中する沖縄は標的の一番手だろう。米軍基地が集中することの危険性は、これで飛躍的に高まった」。
<例4>山口新聞・・・・「自衛隊活動の地理的制限もなく、『アリの一穴』で武力行使の範囲が拡大する」
中央では読売・産経・日経が「賛成」、朝日・毎日・東京が「反対」。賛否は均衡しているかに見えるが、地方紙での賛成は石川県の北国新聞、富山新聞、福島民友(読売系列)の3紙だけ。政権批判の火の手は地方から上がっている。
新聞ジャーナリズムが電波と融合したメディア産業に進化した今、ビジネスは不動産から娯楽・スポーツ、一部にはカジノまで手を広げようとしている。ビジネスと割り切れば、権力と手を組むと有利だ。
東京五輪(2020年)はメディアにとっても大勝負だ。放映権、広告宣伝、タイアップ事業などビジネスチャンスが山のようにある。安部政権は強者にやさしい経済運営で、潤うのは中央だろう。疲弊し、人口が減る地方には、アベノミクスの恩恵さえない。
今や世界的テーマの格差は、日本で中央と地方の断絶さえ起こしかねないほど深刻化している。
7月13日、滋賀県知事選挙で、自民・公明がかついだ小鑓隆史・候補が敗れ、劣勢が伝えられていた三日月大造・前民主党衆議院議員が勝利した。卒原発を掲げた嘉田由紀子・知事からの後継指名を受け臨んだ選挙だったが、情勢が動いたのは7月1日の閣議決定だった。集団的自衛権容認への解釈改憲である。小鑓候補を推す公明党支持層の動きが鈍り、浮動票が三日月候補に流れた。
社説と同様に、地方の民意にさざなみが立っている。中央ではメディアを押さえ、耳障りのいい情報ばかりが耳に入る首相。お国入りしても、7月19日に下関で熊坂産経新聞社長の采配で長州「正論」懇話会において講演したときのように、仲間内の集会で上機嫌でいられる人間に、草の根から湧き上がる民の声は届くまい。
□神保太郎「メディア批評 第81回」(「世界」2014年9月号)の「(2)分断される中央紙、頑張る地方紙」
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【参考】
「【新聞】分断される中央紙 ~「与党メディア」の勃興~」
それは、集団的自衛権を論じる地方紙の社説に見てとれる。
主要地方紙43紙のうち40紙が「反対」の社説を掲載したのだ。
7月8日付け東京新聞「こちら特報部」が丁寧にまとめている。
<例1>新潟日報(新潟県)・・・・佐藤明・編集局長による7月1日付け論説「地方は黙してはならない」
首相や与党に、地方に説明しようとする動きがまったく見えない。「『外交や防衛に地方は口を出さなくていい』ということなのだろうか」。
地方議会は集団的自衛権を容認することに「反対」や「慎重な議論」を求める意見書をあちこちで可決している。
高村正彦・自民党副総裁は「地方議会も日本人であれば慎重に勉強してほしい」と語った。
これに対する佐藤局長の反論。「慎重に勉強しようにも、時間も与えず決めようとしているのは誰か」
<例2>河北新報(東北のブロック紙)・・・・鈴木素雄・編集局長の記事「民権無視の横紙破り」
千葉卓三郎・元仙台藩士が起草した明治の憲法試案「五日市憲法」は、今の憲法に通じる先見性があった。
また、憲法改正には特別会議の召集や両院の3分の2の議決を必要とする規定がある。「首相は解釈という『主観』を潜り込ませることによって、選手兼審判の座を射止めようとしている。千葉が想定だにしていなかった禁じ手というほかはない」
<例3>琉球新報(沖縄県)・・・・見出し「日本が悪魔の島に 国民を危険にさらす暴挙」
ベトナム戦争で爆撃機が出撃した沖縄は「悪魔の島」と呼ばれた。当時は憲法の歯止めで参戦に至らなかったが、憲法解釈の変更により、今後は日本中が「悪魔の島」になる恐れがある。
「米軍基地が集中する沖縄は標的の一番手だろう。米軍基地が集中することの危険性は、これで飛躍的に高まった」。
<例4>山口新聞・・・・「自衛隊活動の地理的制限もなく、『アリの一穴』で武力行使の範囲が拡大する」
中央では読売・産経・日経が「賛成」、朝日・毎日・東京が「反対」。賛否は均衡しているかに見えるが、地方紙での賛成は石川県の北国新聞、富山新聞、福島民友(読売系列)の3紙だけ。政権批判の火の手は地方から上がっている。
新聞ジャーナリズムが電波と融合したメディア産業に進化した今、ビジネスは不動産から娯楽・スポーツ、一部にはカジノまで手を広げようとしている。ビジネスと割り切れば、権力と手を組むと有利だ。
東京五輪(2020年)はメディアにとっても大勝負だ。放映権、広告宣伝、タイアップ事業などビジネスチャンスが山のようにある。安部政権は強者にやさしい経済運営で、潤うのは中央だろう。疲弊し、人口が減る地方には、アベノミクスの恩恵さえない。
今や世界的テーマの格差は、日本で中央と地方の断絶さえ起こしかねないほど深刻化している。
7月13日、滋賀県知事選挙で、自民・公明がかついだ小鑓隆史・候補が敗れ、劣勢が伝えられていた三日月大造・前民主党衆議院議員が勝利した。卒原発を掲げた嘉田由紀子・知事からの後継指名を受け臨んだ選挙だったが、情勢が動いたのは7月1日の閣議決定だった。集団的自衛権容認への解釈改憲である。小鑓候補を推す公明党支持層の動きが鈍り、浮動票が三日月候補に流れた。
社説と同様に、地方の民意にさざなみが立っている。中央ではメディアを押さえ、耳障りのいい情報ばかりが耳に入る首相。お国入りしても、7月19日に下関で熊坂産経新聞社長の采配で長州「正論」懇話会において講演したときのように、仲間内の集会で上機嫌でいられる人間に、草の根から湧き上がる民の声は届くまい。
□神保太郎「メディア批評 第81回」(「世界」2014年9月号)の「(2)分断される中央紙、頑張る地方紙」
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【参考】
「【新聞】分断される中央紙 ~「与党メディア」の勃興~」