スカイマークは、国の規制緩和による新規参入の第1号で、航空運賃の低価格路線の先駆けだった。そのスカイマークの経営が揺らいでいる。
スカイマークは7月29日、エアバス(欧州旅客機メーカー大手の)から、導入予定の大型航空機「A380」について、購入契約解除を通告された、と発表した。
2011年、エアバスと6機を1,900億円で購入する契約を結んだ。2014年10月から2019年12月にかけて順次受け取る予定だった。
ところが、円安で実質的な購入価格が上昇した。この外の理由もあいまって、2機の導入を先延ばしにし、残り4機を解約する案をエアバスに打診した。4月から協議を続けてきた。
エアバスは猛反発した。契約を変更するなら、
スカイマークは大手航空会社の傘下に入る。
購入しない場合には違約金を支払う。
といったことを求めている。
西久保慎一・スカイマーク社長は「現在も交渉中」としているが、
エアバス側は「終結(terminates)」と発表。カタログ価格で1機400億円を超える航空機だけに、「あらゆる権利を行使する」と強硬姿勢だ。
スカイマーク側にとって、大打撃だ。前払いしている260億円が返ってこなければ、2015年3月期は黒字見込みが赤字に転落。加えて、エアバスが請求している違約金700億円弱を支払わなければならない事態となれば、わずか450億円程度の自己資本が吹き飛ぶ。
交渉が縺れると第三国の司法当局に仲裁してもらうことになるが、日本の司法では想像できない厳しい判断が下る可能性もある。経営は根本から震駭する。
西久保社長は、自らの経営責任を認めている。「円安によるコスト高を読み切れなかった」【注】
そもそもスカイマーク失速の背景にはLCCの登場がある。
エアバスと契約した2011年ごろは、スカイマークの経営は好調だった。小型の航空機に絞り、国内のドル箱路線に集中投入することで、2012年3月期には152億円の営業利益を計上していた。
ところが、それ以降、スカイマークよりさらに安いLCCが日本にも参入し、競争が激化。2014年3月期には25億円の営業赤字に転落。
そこでスカイマークが打ち出したのが「安さより質」という戦略だった。小型機集中を捨て、大型機導入を進めようとしたのだ。超大型のA380導入もその一環だ。座席の数を減らして大型化し、国際線に参入して、新たな収益源を確保しようと目論んだ。
この拡大路線こそ失敗だった。
JALやANAでさえ搭乗率低下を理由にジャンボジェット(ボーイング747)を全て手放した。
スカイマークの野望は、身の丈に合わないだけでなく、業界の流れに逆行していた。
スカイマークに生き残る道はあるのか。
西久保社長は、大手航空会社の傘下に入るのを拒否している。西久保社長が退任しても、救済スキームを描くのは困難だ。
(a)スカイマークは全てリースに頼っていて、担保がない。cf.JALの法的整理前、所有する航空機を実質的に担保にとっていた日本政策投資銀行から融資を受けるなど凌いでいた。
(b)無借金経営ではあるが、事業の先行きが見通せない。
(c)JALのように地方路線が多く影響が大きいといった救済の「名分」がない。手を差し伸べる金融機関は多くない。
(d)羽田の発着枠を36持っているのは大きいが、JALやANAが20%以上出資すればグループ企業とみなされて発着枠を返上しなければならなくなり、無意味になる。
(e)外資のLCCなどであれば20%以上出資が可能だが、外資に対する規制により経営権を完全に掌握することはできず、これまた救済にはならない。
(f)羽田の発着枠に魅力を感じるLCCと、航空会社以外の異業種企業を連れてきてタッグを組ませ、救済する。残る最後の「秘策」だ。
ただし、(f)においてもっとも怖いのは顧客離れの進行だ。航空事業はチケット代という日銭が入っているから利用者さえいれば、すぐに資金がショートする可能性は低い。しかし、今回の騒動で不安に感じた利用者が払い戻しなどを初めてしまうと話は別だ。スカイマークはマイレージサービスを導入していないので、顧客離れが起こりやすい。
とはいえ、夏の繁忙期で国内線は満杯状態だから、スカイマークをキャンセルして他の便には乗れない。今すぐ顧客離れが雪崩を打つ可能性は低い。
大手航空会社は、航空機を購入するに当たって、増資などで資金を調達してから契約を結んでいる。
しかるにスカイマークは公的機関の保証付き融資の交渉を進めているさなか、先が見通せない段階で契約した。ギャンブルさながらの経営だ。
そのツケが今回の騒動で回ってきた。しばらくは薄氷を踏む状況が続く。
【注】記事「「スカイマーク、違約金が重荷に=西久保社長「危機ではない」」」(時事ドットコム、2014年8月3日(日) )
□清水量介(本誌)「エアバス契約破棄で浮上するスカイマークの経営危機」(「週刊ダイヤモンド」2014年8月9・16日合併号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【航空】“勝ち組”ピーチが大失速 ~日本版LCCの正念場~」
「【航空】パイロット不足危機の構造 ~ピーチの大量欠航~」
スカイマークは7月29日、エアバス(欧州旅客機メーカー大手の)から、導入予定の大型航空機「A380」について、購入契約解除を通告された、と発表した。
2011年、エアバスと6機を1,900億円で購入する契約を結んだ。2014年10月から2019年12月にかけて順次受け取る予定だった。
ところが、円安で実質的な購入価格が上昇した。この外の理由もあいまって、2機の導入を先延ばしにし、残り4機を解約する案をエアバスに打診した。4月から協議を続けてきた。
エアバスは猛反発した。契約を変更するなら、
スカイマークは大手航空会社の傘下に入る。
購入しない場合には違約金を支払う。
といったことを求めている。
西久保慎一・スカイマーク社長は「現在も交渉中」としているが、
エアバス側は「終結(terminates)」と発表。カタログ価格で1機400億円を超える航空機だけに、「あらゆる権利を行使する」と強硬姿勢だ。
スカイマーク側にとって、大打撃だ。前払いしている260億円が返ってこなければ、2015年3月期は黒字見込みが赤字に転落。加えて、エアバスが請求している違約金700億円弱を支払わなければならない事態となれば、わずか450億円程度の自己資本が吹き飛ぶ。
交渉が縺れると第三国の司法当局に仲裁してもらうことになるが、日本の司法では想像できない厳しい判断が下る可能性もある。経営は根本から震駭する。
西久保社長は、自らの経営責任を認めている。「円安によるコスト高を読み切れなかった」【注】
そもそもスカイマーク失速の背景にはLCCの登場がある。
エアバスと契約した2011年ごろは、スカイマークの経営は好調だった。小型の航空機に絞り、国内のドル箱路線に集中投入することで、2012年3月期には152億円の営業利益を計上していた。
ところが、それ以降、スカイマークよりさらに安いLCCが日本にも参入し、競争が激化。2014年3月期には25億円の営業赤字に転落。
そこでスカイマークが打ち出したのが「安さより質」という戦略だった。小型機集中を捨て、大型機導入を進めようとしたのだ。超大型のA380導入もその一環だ。座席の数を減らして大型化し、国際線に参入して、新たな収益源を確保しようと目論んだ。
この拡大路線こそ失敗だった。
JALやANAでさえ搭乗率低下を理由にジャンボジェット(ボーイング747)を全て手放した。
スカイマークの野望は、身の丈に合わないだけでなく、業界の流れに逆行していた。
スカイマークに生き残る道はあるのか。
西久保社長は、大手航空会社の傘下に入るのを拒否している。西久保社長が退任しても、救済スキームを描くのは困難だ。
(a)スカイマークは全てリースに頼っていて、担保がない。cf.JALの法的整理前、所有する航空機を実質的に担保にとっていた日本政策投資銀行から融資を受けるなど凌いでいた。
(b)無借金経営ではあるが、事業の先行きが見通せない。
(c)JALのように地方路線が多く影響が大きいといった救済の「名分」がない。手を差し伸べる金融機関は多くない。
(d)羽田の発着枠を36持っているのは大きいが、JALやANAが20%以上出資すればグループ企業とみなされて発着枠を返上しなければならなくなり、無意味になる。
(e)外資のLCCなどであれば20%以上出資が可能だが、外資に対する規制により経営権を完全に掌握することはできず、これまた救済にはならない。
(f)羽田の発着枠に魅力を感じるLCCと、航空会社以外の異業種企業を連れてきてタッグを組ませ、救済する。残る最後の「秘策」だ。
ただし、(f)においてもっとも怖いのは顧客離れの進行だ。航空事業はチケット代という日銭が入っているから利用者さえいれば、すぐに資金がショートする可能性は低い。しかし、今回の騒動で不安に感じた利用者が払い戻しなどを初めてしまうと話は別だ。スカイマークはマイレージサービスを導入していないので、顧客離れが起こりやすい。
とはいえ、夏の繁忙期で国内線は満杯状態だから、スカイマークをキャンセルして他の便には乗れない。今すぐ顧客離れが雪崩を打つ可能性は低い。
大手航空会社は、航空機を購入するに当たって、増資などで資金を調達してから契約を結んでいる。
しかるにスカイマークは公的機関の保証付き融資の交渉を進めているさなか、先が見通せない段階で契約した。ギャンブルさながらの経営だ。
そのツケが今回の騒動で回ってきた。しばらくは薄氷を踏む状況が続く。
【注】記事「「スカイマーク、違約金が重荷に=西久保社長「危機ではない」」」(時事ドットコム、2014年8月3日(日) )
□清水量介(本誌)「エアバス契約破棄で浮上するスカイマークの経営危機」(「週刊ダイヤモンド」2014年8月9・16日合併号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【航空】“勝ち組”ピーチが大失速 ~日本版LCCの正念場~」
「【航空】パイロット不足危機の構造 ~ピーチの大量欠航~」