福島第一原発の汚染水対策が暗礁に乗り上げてしまった。
何が問題だったのか。
2011年の事故直後、馬淵澄夫・総理補佐官(当時菅内閣)が遮水壁の設計をするよう東電に指示したのだが、これを東電が先送りすることを海江田万里・経産相(当時菅内閣)は認めてしまった。1,000億円の巨額費用負担公表が、東電の破綻につながることを心配したからだ。
破綻処理は、経産官僚にとって、絶対に許されない選択肢だった。
何故か。
原発事故直後に、松永和夫・経産事務次官は、三井住友銀行(東電のメインバンク)に対して緊急融資を求め、見返りに東電は破綻させないことを確約した、とされる。東電と銀行を丸ごと守り、経産省は東電ばかりか銀行にも恩を売って、天下り先の拡大を狙った。
これ以降、東電を破綻させないことが、経産省の事務方に課せられた至上命題となった。
2013年春以降、汚染水問題が再びクローズアップされた。
この時も、松永次官が作りだした制約があったため、専門家でもない経産官僚が一番安上がりで済む方法を検討し、凍土壁方式に決めた。
決めるにあたり、安いこと以外にもう一つ必要条件があった。それは、「できるかどうかわからない」ということだ。
鉄とコンクリートの壁だと誰でもできる。しかし、巨大な凍土壁は研究開発的要素が大きくてリスクが高く、東電にやらせるのは酷だ。だから、国の研究開発事業としてやる、という理屈をつけた。それで税金投入が可能になった。
本末転倒の極みだ。
2013年9月には、オリンピック(2020年)招致のために、経産省が安部総理に、福島の状況はアンダーコントロール、汚染水は完全ブロックという大嘘宣言を世界に向けて発信させた。
そして、国際公約だから国が前面に出るべきだと言って、税金の大々的投入を実現した。
実は、これと同じころ、民間金融機関からの東電の借金借り換えが必要になって、国費をどんどん投入するから東電は安泰だ、と銀行に示すことが必要になった、という事情もあった。
税金投入決定で、当初の縛りだった
(1)金をかけられないという制約
(2)そのために研究開発に見せかけなければならないという制約
が二つともいっぺんになくなった。よって、この時点で凍土壁にこだわる必要もなくなった。
しかし、凍土壁の工事は、以前から鹿島建設に落札させる前提で作業を進めてきた。
他の方式にすると鹿島建設が困る。
そこで、秋の臨時国会が始まる前に、慌てて短期間の入札を行って、凍土壁方式で鹿島(と東電の共同事業)に落札させてしまった。
基本的に、この時の構造が今も続いている。
海側の工事でうまく地面全体が凍らず、諦めるしかない状況になったが、今さら止められないので氷やドライアイスを大量に投入する・・・・という漫画的泥縄になった。
それでもダメなので、凍らない部分にコンクリートなどを注入して壁を作る、と言い出した。
最初からコンクリートでやればよかったのだ。
泡と消えた費用は数百億円にもなる。
実は、日本で最も有力な専門家たちが、茂木敏充・経産相などに、新たな廃炉方式として「空冷式」の廃炉をずっと前に提言している。
経産省は、新たな廃炉方式を検討する、と言いながら、その事業への補助金はたったの5,000万円。これでは世界の有力企業は見向きもしない。真剣に考えるふりをするだけだ(アリバイ事業)。
官僚の利権温存本能と場当たり的無責任。
そのツケは、税金と電力料金で国民に回される。
福島の被災者たちの不安解消も遠い夢のままだ。そして、東電と官僚の無責任を司法が断罪する【注】。
【注】「「自殺と原発事故に因果関係」東電に賠償命令」
□古賀茂明「凍らない凍土壁 ~官々愕々第121回~」(「週刊現代」2014年9月6日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」
何が問題だったのか。
2011年の事故直後、馬淵澄夫・総理補佐官(当時菅内閣)が遮水壁の設計をするよう東電に指示したのだが、これを東電が先送りすることを海江田万里・経産相(当時菅内閣)は認めてしまった。1,000億円の巨額費用負担公表が、東電の破綻につながることを心配したからだ。
破綻処理は、経産官僚にとって、絶対に許されない選択肢だった。
何故か。
原発事故直後に、松永和夫・経産事務次官は、三井住友銀行(東電のメインバンク)に対して緊急融資を求め、見返りに東電は破綻させないことを確約した、とされる。東電と銀行を丸ごと守り、経産省は東電ばかりか銀行にも恩を売って、天下り先の拡大を狙った。
これ以降、東電を破綻させないことが、経産省の事務方に課せられた至上命題となった。
2013年春以降、汚染水問題が再びクローズアップされた。
この時も、松永次官が作りだした制約があったため、専門家でもない経産官僚が一番安上がりで済む方法を検討し、凍土壁方式に決めた。
決めるにあたり、安いこと以外にもう一つ必要条件があった。それは、「できるかどうかわからない」ということだ。
鉄とコンクリートの壁だと誰でもできる。しかし、巨大な凍土壁は研究開発的要素が大きくてリスクが高く、東電にやらせるのは酷だ。だから、国の研究開発事業としてやる、という理屈をつけた。それで税金投入が可能になった。
本末転倒の極みだ。
2013年9月には、オリンピック(2020年)招致のために、経産省が安部総理に、福島の状況はアンダーコントロール、汚染水は完全ブロックという大嘘宣言を世界に向けて発信させた。
そして、国際公約だから国が前面に出るべきだと言って、税金の大々的投入を実現した。
実は、これと同じころ、民間金融機関からの東電の借金借り換えが必要になって、国費をどんどん投入するから東電は安泰だ、と銀行に示すことが必要になった、という事情もあった。
税金投入決定で、当初の縛りだった
(1)金をかけられないという制約
(2)そのために研究開発に見せかけなければならないという制約
が二つともいっぺんになくなった。よって、この時点で凍土壁にこだわる必要もなくなった。
しかし、凍土壁の工事は、以前から鹿島建設に落札させる前提で作業を進めてきた。
他の方式にすると鹿島建設が困る。
そこで、秋の臨時国会が始まる前に、慌てて短期間の入札を行って、凍土壁方式で鹿島(と東電の共同事業)に落札させてしまった。
基本的に、この時の構造が今も続いている。
海側の工事でうまく地面全体が凍らず、諦めるしかない状況になったが、今さら止められないので氷やドライアイスを大量に投入する・・・・という漫画的泥縄になった。
それでもダメなので、凍らない部分にコンクリートなどを注入して壁を作る、と言い出した。
最初からコンクリートでやればよかったのだ。
泡と消えた費用は数百億円にもなる。
実は、日本で最も有力な専門家たちが、茂木敏充・経産相などに、新たな廃炉方式として「空冷式」の廃炉をずっと前に提言している。
経産省は、新たな廃炉方式を検討する、と言いながら、その事業への補助金はたったの5,000万円。これでは世界の有力企業は見向きもしない。真剣に考えるふりをするだけだ(アリバイ事業)。
官僚の利権温存本能と場当たり的無責任。
そのツケは、税金と電力料金で国民に回される。
福島の被災者たちの不安解消も遠い夢のままだ。そして、東電と官僚の無責任を司法が断罪する【注】。
【注】「「自殺と原発事故に因果関係」東電に賠償命令」
□古賀茂明「凍らない凍土壁 ~官々愕々第121回~」(「週刊現代」2014年9月6日号)
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【参考】
「【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~」
「【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~」
「【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~」
「【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~」
「【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~」
「【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~」
「古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ」
「【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」」
「【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~」
「【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任」
「【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造」
「【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~」
「【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~」
「【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~」
「【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~」
「【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~」
「【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~」
「【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~」
「【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働」
「【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~ 」
「【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~」
「【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~」
「【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~」
「【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと」
「【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~」
「【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~」
「【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~」