語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~

2015年04月02日 | 社会
 (1)安倍官邸は、もともと何かと政権に対して批判的な「報道ステーション」に不満を抱いていた。
 古賀茂明氏に対して最初に怒りを爆発させたのは、
   1月23日の「報道ステーション」
についてだ。ちょうど「イスラム国」に拘束された後藤健二さんの安否が懸念されていた頃だ。コメンテーターとして出演していた古賀氏が、安倍政権の外交政策を批判して「アイ・アム・ノット・安倍」と発言した。
 官邸サイドから、番組放送中に、報道局幹部へ連絡が入った。テレビ朝日は大騒ぎになった。
 上層部が担当プロデューサーを強く叱責した、とされる。そのプロデューサーは結局、番組から外された。

 (2)テレ朝を怖がらせたのは、古賀氏の「アイ・アム・ノット・安倍」発言の後の2月、菅義偉官房長官が「オフレコ懇談」で発した一言だった。その詳細をネットメディア「リテラ」が伝えている。【注】
---(引用開始)---
 Q 会見で出た、ISILの件でまったく事実と違うことを延々としゃべっていたコメンテーターというのはTBSなんでしょうか。
 A いやいや、いや、違う。
 Q テレビ朝日ですか?
 A どことは言わないけど
 Q 古賀茂明さんですか?
 A いや、誰とは言わないけどね。(※肯定の反応) ひどかったよね、本人はあたかもその地に行ったかのようなことを言って、事実と全然違うことを延々としゃべってる。放送法から見て大丈夫なのかと思った。放送法がある以上、事実に反する放送をしちゃいけない。本当に頭にきた。俺なら放送法に違反してるって言ってやるところだけど。
---(引用終了)---

 (3)テレ朝の上層部は、菅長官が「放送法」という単語を使ったことに青くなったはずだ。圧力と受け取った人もいるだろう。【民放関係者】
 古賀氏は3月5日、ツイッターに「4月以降は、篠塚報道局長が出すなと言ったので出られなくなりました」と書き込んでいる。3月5日以前に、番組スタッフから降板を告げられていたのだ。

 (4)古賀氏から、27日のテレ朝「報道ステーション」で「菅官房長官をはじめ官邸の皆さんからバッシングを受けた」と名指しで批判された菅長官は、3月30日の定例記者会見で、
 「まったくの事実無根。放送法があるので、テレビ局がどのような対応を取るかしばらく見守りたい」
と圧力を全面否定。
 しかし、これは菅長官の二枚舌を自ら証明することとなった。(2)のとおり、圧力の証拠がちゃんと残っていたからである。

 (5)とはいえ、菅長官が再び“放送法”を口にしたことで、テレビ朝日はますます青くなったらしい。「報道ステーション」で安倍政権に批判的なコメントをしていたコメンテーターの恵村順一郎・朝日新聞論説委員も、降板させられた。
 政権に対して批判的な「報道ステーション」は、担当プロデューサーが番組から外され、安倍政権に批判的な2人のコメンテーターも降板した。
 かくて「テレビ朝日は官邸に全面降伏した」・・・・と、そう見る視聴者は、そう見ている。

 (6)大手メディアは、安倍政権に対して弱腰に過ぎる。昨年、総選挙前に「中立な報道をしろ」と圧力ペーパーを突き付けられた時も、反論ひとつしなかった。最悪なのは、大手メディア全体に「自主規制」が広がっていることだ。政権から圧力を受ける前から、政権批判を控えている。民主主義を支えるのはジャーナリズムだ。メディアが政権を批判しなくなったら終わりだ」【山口朝雄・政治評論家】

 【注】「【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~」の【注3】参照。

□記事「古賀氏「報ステ」降板の全貌 テレ朝が震えた菅長官の“ひと言”」(日刊ゲンダイ 2015年4月2日)

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 【参考】
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~


【安保】法制化で戦死者発生が不可避に ~「後方支援」の軍事的意味~

2015年04月02日 | 社会
 (1)3月20日、自民党および公明党は「安全保障法制整備の具体的な方向性について」と題する合意文書を発表した。
 これに基づき、政府は4月に、
   (a)自衛隊法
   (b)周辺事態法
   (c)PKO協力法
   (d)武力攻撃事態法
   (e)船舶検査活動法
の改正案と、他国軍の後方支援に関する「恒久法」の法案を作成し、5月中旬に国会へ提出する方針だ。

 (2)合意文書には多くの問題点がある。
 滑稽なのは、公明党が求めた3原則の一つ、「自衛隊員の安全確保のため必要な措置を定める」を前提としていることだ。
 政府は、(1)-(c)改正で、自衛隊が①「治安維持」に当たることとし、他国の部隊などが攻撃された際、救援に向かう②「駆けつけ警護」も想定している。
 これを行えば、自衛隊員に死傷者が出るのは99%確実だ。
   ①「治安維持」のためには、反徒やテロリスト等の移動を防ぐための検問所が設置される。これが自爆テロや襲撃の目標となった例は多い。武器を押収したり、テロリストを捕らえるための家宅捜査や、装甲車輌による街路の哨戒、重要施設の警備を行うことになり、その結果、反撃を受け、狙撃や道路脇の爆弾で兵士がしばしば犠牲になる。イラク戦争では、米軍の死者は4,491人だった。そのうち、2003年3月19日の攻撃開始から5月1日の「勝利宣言」までの死者は139人、それ以外の、大多数の死者は「治安維持」過程で発生した。
   ②「駆けつけ警護」は、他国の部隊などが襲撃を受けて防戦中に自衛隊が飛び込む形になるから、当然戦闘になる。待ち伏せも受けやすい。

 (3)「恒久法」では、他国軍への「後方支援」のための自衛隊海外派遣を随時行えるようにし、補給物質を外国軍の宿営地に輸送することが想定されている。
 ゲリラ、テロ集団にとっては、前線の戦闘部隊と戦っては不利だから、後方へ潜入し、輸送車列を襲ったり、道路に地雷を埋めたり、物質の集積所を攻撃し、補給を絶とうとするのが定石だ。
 正規軍同士の戦闘でも、空軍の対地攻撃では前線に散開してタコツボに入っている部隊への攻撃は効果が乏しいから、道路上の車列や補給拠点を叩くことが主眼となる。地上部隊が包囲を図るのも補給の遮断が目的だ。補給は戦闘と「一体化のおそれがある」どころか、作戦の支柱なのだ。
 今日では、米軍の1個機甲師団は戦闘時には2,000トン/日の燃料と2,000トン/日の弾薬を消費するから、補給はいっそう重大な課題となっている。

 (4)2月27日、安倍首相は衆議院代表質問における後方支援に係る答弁で、「現に戦闘行為を行っている現場となる場合には、直ちに活動を休止、中断する。武器を使って反撃しながら支援を継続するようなことはない」と述べた。
 しかし、輸送部隊の車列がゲリラなどの攻撃を受けた際、停止したり、Uターンしようとすれば却って狙われやすい。
 突然、輸送部隊が撤退し、食糧、水、弾薬、燃料等の補給が止まってしまっては、前線部隊は壊乱する。友軍から見て、「裏切り」に近い行為だ。
 当初から「攻撃を受ければ撤退します」と多国籍軍等の司令部に申告しておけば汚名は受けない。しかし、それでは居なくても構わない配置にしか付けられず、馬鹿にされるだけだ。

 (5)現実には、輸送部隊は攻撃されれば応戦して突破し、補給の任務を果たすしかない場合もあろう。
 政府が表明した方針に反した行動を取って若干の死者が出ても、合理的な行動なら処罰しにくい。メディアが敵中突破の隊長を英雄扱いすれば、次々と独断専行する指揮官が出かねない。
 
 (6)2003年12月から2006年7月まで陸上自衛隊は550人をイラク派遣した。地元部族との友好確保に努め、もっぱら砦に籠もって復興工事の地元への発注をした。だから、迫撃砲、ロケット砲弾22発を打ち込まれただけで、死傷者ゼロですんだ。
 だが、今回の「安保法制」では、それとは全く異なる「積極的」行動を想定している。
 アフガニスタンにおける「国際治安支援部隊」に1,550人を派遣したオーストリア軍は、死者41人を出した。その程度の比率で、自衛隊にも損害が生じる公算は大と見ざるを得ない。

□田岡俊次(ジャーナリスト)「戦死者が不可避の安保法制 理解されていない「後方支援」の軍事的意味」(「週刊金曜日」2015年3月27日号)
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