語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】現代詩における道行き ~「失題詩編」~

2015年04月19日 | 詩歌
 心中しようと 二人で来れば
  ジャジャンカ ワイワイ
 山はにっこり相好くずし
 硫黄のけむりをまた吹き上げる
  ジャジャンカ ワイワイ

 鳥も啼かない 焼石山を
 心中しようと辿っていけば
 弱い日ざしが 雲からおちる
  ジャジャンカ ワイワイ
 雲からおちる

 心中しようと 二人で来れば
 山はにっこり相好くずし
  ジャジャンカ ワイワイ
 硫黄のけむりをまた吹き上げる

 鳥も啼かない 焼石山を
  ジャジャンカ ワイワイ
 心中しようと二人で来れば
 弱い日ざしが背すじに重く
 心中しないじゃ 山が許さぬ
 山が許さぬ
  ジャジャンカ ワイワイ

  ジャジャンカ ジャジャンカ
  ジャジャンカ ワイワイ

 *

 入澤康夫の初期の傑作。「失題詩編」は『倖せそれとも不倖せ』(ユリイカ、1955)に所収 。
 近松門左衛門の道行は、読む者、見聞きする者を二人に感情移入させる。
 かたや、この詩は、読者つまり観客としての大衆を、「相好くずす山」といっしょになって囃す立場に置かせる。我関せず我焉と突き放して非情、そのくせ猥雑な「ジャジャンカ ワイワイ」の囃し手である。

 入澤康夫は、島根県松江市出身のフランス文学者、ネルヴァルの研究家。「擬物語詩」をつむぎだす詩人。詩集『季節についての試論 』(H氏賞 )、詩集『わが出雲 わが鎮魂』(読売文学賞)、詩集『死者たちの群がる風景』(高見順賞)、詩集『水辺逆旅歌』(藤村記念歴程賞 )、詩集『漂ふ舟 わが地獄くだり』(現代詩花椿賞 )、詩集『入澤康夫〈詩〉集成 』(毎日芸術賞 )、詩集『遐い宴楽 』(萩原朔太郎賞 )、詩集『アルボラーダ』(詩歌文学館賞 )、ほか著書多数。
 天澤退二郎らとともに原稿を綿密に校訂し、画期的な『校本 宮澤賢治全集』を刊行。さらに、その後の新発見資料や研究成果を踏まえ、全面的な本文決定、校訂作業をやり直し、『新校本 宮澤賢治全集』を刊行した(2009年3月完結)。1998年紫綬褒章受章、2008年芸術院会員。

□入澤康夫「失題詩編」(『入澤康夫<詩>集成』、思潮社、1979、所収) 
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【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~

2015年04月19日 | 社会
 (1)3月24日、ジャーマンウイングス(独のLCC)のエアバスA320が墜落し、乗客乗員150人(うち日本人2人)全員が死亡した。同機のアンドレアス・ルビッツ副操縦士(27歳)が故意に墜落させた可能性が高い。
 <ビルト紙が報じたボイスレコーダーの記録によると、機長が24日朝の離陸20分後に「離陸前にトイレに行く時間がなかった」と話し、副操縦士が「いつでも代わります」と答えた。24日午前10時27分、機体が最高高度に達し、機長が副操縦士に着陸の準備を命じた。その2分後、副操縦士から「代わりますよ」と促され、機長は操縦室を離れたという。
 直後の24日午前10時30分、急降下が始まった。1分後、管制塔からの問い合わせにも副操縦士は答えなかった。
 閉め出されたと気づいた機長が「頼むからドアを開けてくれ!」と叫んだ。同時にドアを蹴ったり、体当たりしたりした様子がうかがえる。背後には乗客の悲鳴らしき声も聞こえるという。
 同10時35分、何かでドアを激しくたたく金属音が響いた。機内に設置されている非常用のおのを使ったとみられる。この時点で高度7千メートル。約90秒後、警告音が機内に鳴った。「このクソドアを開けろ!」。機長は再び副操縦士に怒鳴った。
 それでも、副操縦士は無言のままだった。同10時40分、「機体の右翼が山肌にぶつかった」(関係者)とみられる衝撃音が響いた。再び乗客の叫び声が聞こえ、最後の記録となった。>【注1】

 (2)ルビッツ副操縦士が鬱病の治療を受けていて、自殺願望が強かった、という報道があるが、今ひとつ説得力がない。自殺とは基本的に一人で行うものだ。149人の無辜の人々を巻き込む自殺なぞ、考えにくい。
 本件は、大量殺人事件と捉えるべきだ。何らかの破壊衝動がないと、このような事件は起きない。
 4月2日のドイツ検察局の発表によるば、ルビッツ副操縦士は自殺方法や操縦室のドアの安全対策についてインターネットで検索して調べていた。

 (3)本件については、責任追及よりも真相究明を優先させるべきだ。
 LCCは、新自由主義的な競争の中で生まれた。操縦士の賃金も、極力低く抑えようとする。そうなると、多少問題のある人材であっても勤務につけざるを得なくなる。【注2】
 性格的に少し変わっているだけなのか、精神疾患があるのか、どちらであるかの判定は素人にはできない。有能な精神科医や臨床心理士が操縦士と定期的に面談していれば、事前に異常を察知することができる。しかし、それにはかなりのコストがかかる。合理化、効率化を徹底的に要求するLCCの場合、かかる経費を捻出することができないだろう。

 (4)たとえ費用がかさもうと、操縦士のメンタルケアをきちんと行い、精神疾患にかかっても、一挙に生活困難に陥ることのない仕組みをつくっておく必要がある。
 ドイツの航空業界の労働組合は強力なはずだ。労組は、ジャーマンウイングスおよび親会社(ルフトハンザ)に対して、今回の事件が発生した構造的要因の解明を求め、労働条件を改善させるべきだ。その結果として、LCCの安全性が高まる。 

 【注】記事「「このクソドアを開けろ」 機内に警告音、おの振る機長」(朝日新聞デジタル 2015年3月30日)
 【注2】独デュッセルドルフ検察によれば、くだんの副操縦士にはいかなるテロリスト傾向もなかったが、失恋に傷つき、労働条件に対して不満を覚え、精神不安定や視力低下に悩み、墜落現場近辺を訪れたことあり、「いつかシステムを大きく変えることをする。ぼくの名は知られることになり、記憶されることになる」などと述べていたことが明らかになった。【廣瀬純「自由と創造のためのレッスン」(「週刊金曜日」2015年4月17日号)】

□佐藤優「「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~佐藤優の人間観察 第109回~」(「週刊現代」2015年4月25日号)
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 【参考】
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
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