語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~

2015年04月16日 | 社会
 (1)官邸の圧力によって、テレビ朝日「報道ステーション」のM・統括プロデューサー、古賀茂明・コメンテーター、恵村順一郎・コメンテーターは同時期に更迭・降板させられたのか否か。
 3月27日の同番組で、古賀氏は、楽屋における古館伊知郎・キャスターとの会話を録音したことを明らかにした。
 <(報ステに出演した)3月6日、古館さんは僕の楽屋に来てこう謝罪しました。「自分は何もしなかった」「Mプロデューサーと、恵村順一郎さんが降板することについて、気付いても自分はわざと知らないふりをした」と打ち明け、「大変、申し訳ない」と頭を下げました。>

 (2)古館氏はしかし、番組中に、
   ・早河洋・テレビ朝日会長と佐藤孝・古館プロジェクト会長の意向で古賀氏が降板になった・・・・ことを否定し、
   ・メディアの政権監視機能が低下している・・・・という古賀氏の批判に対しても、「(報ステで)いい番組を作っている」と反論した。

 (3)実は、古館氏のいわゆる「いい番組を作って」いた中心人物こそ、Mプロディーサー(古賀氏が「更迭」と訴えた)なのであった。彼は、報ステの前身「ニュースステーション」時代からディレクターを務めたベテランで、古賀氏は次のように高く評価する。
 <政府を批判するとニュースをもらえなくなると横やりを入れる政治部や経済部の記者たちを一喝。抗議が来たら真正面から反論、幹部の圧力にも自分が矢面に立った。>
 権力監視・批判番組を作ってきた報ステの屋台骨のような存在だった、というのだ。

 (4)菅義偉・官房長官は、3月30日の記者会見で、古賀氏の発言を「まったくの事実無根」と反論した。さらに、放送法に言及しながら「テレビ局の対応を見守りたい」と付言した【注】。
 しかし、古館氏が、
    Mプロディーサーの更迭を(1)で示したように古館氏自身も問題視していたのに、、
    番組では更迭を否定する虚偽発言をしていた
・・・・のであるならば、古館氏の方こそ、放送法に違反する発言をしていたことになる。
 古館氏が楽屋における発言内容を認めた場合、官邸の圧力がテレ朝の人事に影響を与えた実態が明らかになる。

 【注】記事「「放送法」でTV局を牽制 そもそもの理念は?」(朝日新聞デジタル 2015年4月16日)は指摘する。
 <放送法は戦後間もない1950年、日本の非軍事化、民主化の一環として生まれた。改正を重ねたが基本は変わらず、第1条では目的として、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現を確保すること」を定め、「健全な民主主義に資する」とうたう。
 放送法に詳しい大石泰彦・青山学院大学教授(メディア法)は「放送法は戦時中の教訓に学び、権力から放送を独立させるためにできた。放送局を締めつけるものではない。権力側が振りかざすものではなく、むしろ介入を抑制すべき性質のものだ」と指摘する。
 第3条は「番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」とあり、権力側が「報道は事実をまげないですること」など第4条だけを取り上げてメディア側を牽制するのは、「自分たちに都合のよい解釈で、法律をはき違えている」と大石教授は批判する。(中略)
 日本民間放送労働組合連合会は自民党の報ステへの注文について「報道への介入だ」と抗議したが、テレ朝をはじめ放送局側が抗議する姿勢はみられない。
 放送に詳しいジャーナリストの坂本衛さんは「本来なら放送法を武器に、政治圧力をはねのけなければならない。いくらテレビ局が『政権による圧力の影響は受けていない』といっても、視聴者からの疑念はぬぐえない。はっきり声をあげるべきだ」と話す。>

□横田一「報ステ、古賀vs.古舘論戦の裏側 Mプロデューサーと恵村氏、古賀氏降板に新事実」(「週刊金曜日」2015年4月10日号)
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 【参考】
【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~
【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~
【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~

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【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~ 

2015年04月16日 | ●佐藤優
 (1)4月5日、那覇市内のホテルで、翁長雄志・沖縄県知事が菅義偉・官房長官と会見した。翌6日、「琉球新報」は一面トップで報じた。
 <米軍普天間飛行場移設問題に関し、菅氏は「辺野古移設を断念することは普天間の固定化にもつながる。(仲井真弘多前知事に)承認いただいた関係法令に基づき、辺野古埋め立てを粛々と進めている」と説明した。翁長氏は「『粛々』という言葉を何度も使う官房長官の姿が、米軍軍政下に『沖縄の自治は神話だ』と言った最高権力者キャラウェイ高等弁務官の姿と重なる。県民の怒りは増幅し、辺野古の新基地は絶対に建設することはできない」と強く批判した。
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の阻止を公約した翁長氏が知事に就任した2014年12月以降、官房長官が翁長氏と会談したのは初めて。
 会談冒頭、菅氏が先に発言し、政府が取り組んできた基地負担軽減策や今後予定している経済振興策などを説明し「沖縄の皆さんと連携しながら信頼感を取り戻させていただきたい」と辺野古移設に理解を求めた。
 それに対し、翁長氏は沖縄の民意に触れ「私と前知事の政策の違いは埋め立て承認以外になく、埋め立て承認の審判が知事選の大きな争点だった。10万票差で私が当選したことは辺野古基地反対の県民の圧倒的な考えが示された」と説明した。
 日米安保体制の重要性は認識しているとした上で「基地建設のために土地を強制接収され、県民は大変な苦しみを今日まで与えられてきた。そして普天間飛行場は世界一危険になったから『危険性除去のために沖縄が負担しろ』と言う。(反対すると)『日本の安全保障はどう考えているんだ』と言う。こんな話が出ること自体、日本の政治の堕落ではないか」と批判した。
 さらに「(辺野古新基地)建設途中で頓挫することで起こり得る事態は全て政府の責任だ。辺野古(移設)ができなければ、官房長官もラムズフェルド元国防長官も世界一危険だと言う普天間飛行場が固定化されるのか聞かせてもらいたい」と突き付けた。>【注1】

 (2)菅長官は「沖縄の皆さんと連携しながら信頼感を取り戻させていただきたい」という。
 しかし、翁長知事は、菅長官を中心とする中央政府の沖縄に対する姿勢が信頼関係の構築とはほど遠い実態を手厳しく批判する。それとともに、「辺野古の新基地は絶対に建設することはできない」と決意を再確認した。

 (3)安倍政権の沖縄政策は植民地主義そのものだ。そのことを翁長知事は批判しているのだ。
 ここで鍵になるのが、「キャラウェイ高等弁務官の姿と重なる」という表現だ。・・・・沖縄以外のメディア以外は、この表現が持つ重みに気づいていない。
 高等弁務官(High Commissioner)とは、一般に宗主国が植民地に置いた行政最高責任者を意味する。米国は、1957年6月5日付けの大統領行政命令によって沖縄に係る高等弁務官制を設けた。それまで沖縄の民生長官は極東軍総司令官が兼ねていた(極東軍は廃止になった)。高等弁務官は国防長官が国務長官に諮り、大統領の承認を得て現役軍人から選任された。
 高等弁務官の権限は強大だった。高等弁務官の恣意的判断により琉球政府の裁判権を制限できるなど、絶対権力を持っていた。
   ・琉球政府の行政主席の任命権(1968年の主席公選実現まで)
   ・琉球上訴裁判所裁判官の任命権
   ・琉球政府裁判所に提起される訴訟で「米国の安全、財産又は利害に影響を及ぼすと認める場合」の米国政府裁判所への移送命令権限
   ・刑の執行の延期・減刑・赦免の権限
   ・琉球政府の立法に対する修正権や拒否権、法令の公布権
   ・琉球政府のすべての公務員に係る罷免権
 特にポール・ワイアット・キャラウェイ・第3代琉球列島高等弁務官(1961年2月~1964年7月)は、琉球政府をまったく信頼せず、直轄統治を強化しようとした。そうしなければ沖縄の米軍基地を維持できないと考えたからだ。キャラウェイ高等弁務官の強圧的な姿勢に沖縄の民意は激しく反発し、親米的だった保守勢力も分裂し、復帰運動が加速した。

 (4)安倍政権が、沖縄の民意を無視して、辺野古での新基地建設を「粛々と」進めていくならば、沖縄人の基本的人権を保全するために、沖縄は自己決定権の回復を志向することになる。
 <翁長氏は今回の会談に、挑発的とも取れる発言で政権に「石を投げる」思惑を込めた。会談用の原稿には「このまま政府が埋め立てを強行するなら、県は今後いかなる行政手続きにも応じられない、と申し上げる」という一文すらあった。
 ただ、ここにはペンで大きく「×」。翁長氏が冒頭発言で行政手続きに触れることはなく、政治的な議論に持ち込む策をとった。背景には、移設阻止に向けた戦略の変化がある。これまでの行政手続きによる対抗策が「やや無理筋になっている」(県幹部)という認識があるからだ。>【注2】
 ・・・・この記事を書いた記者は、翁長知事が投げた石が、
    米国の高等弁務官と
    東京の中央政府と
の類比であることに気付いていない。差別が構造化している場合、差別者は自らが差別者であることを意識していないのが通例だ。
 キャラウェイ高等弁務官の事例を想起させることによって、翁長知事は東京の中央政府とマスメディアに、沖縄差別を脱構築しなくては日本の国家統合が揺らぐ、というシグナルを発している。

 【注1】記事「「キャラウェイと重なる」 知事、弁務官例え批判 菅官房長官と初会談」(琉球新報 2015年4月6日)
 【注2】記事「攻めた翁長氏「政治の堕落ではないか」 菅長官と応酬」(朝日新聞デジタル 2015年4月6日)

□佐藤優「自治は神話だと言ったキャラウェイに重なる ~佐藤優の飛耳長目 第106回~」(「週刊金曜日」2015年4月10日号)
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 【参考】
【沖縄】辺野古対抗と「わが軍」 ~安倍政権の思考停止~
【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~
【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~
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