(1)環太平洋経済連携協定(TPP)は、
その原型:2005年のP4協定(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)交渉開始から10年、
2009年の米国による参加意思表明から6年近く、
ウルグアイ・ラウンドの7年(交渉長期化のシンボル)に近づきつつある。
最終合意はおろか、その前提となる「大筋合意」に関しても・・・・昨年10月末のシドニー閣僚会合では「基本的要素」の合意すら成立しなかった。そこで表面化したのは、これまでTPP交渉の障害として指摘されてきた
・知的財産権(IP)
・国営企業(SOE)
・保険医療制度
などの今日的問題ではなく、関税率引き下げ、原産地問題といった前世紀的世界に先祖返りしつつある状況だった。
(2)(1)にもかかわらず日米両国がTPPにこだわるのは、次の理由からだ。
・オバマ政権には、8年間の政権の成果として歴史に残す実績が他にない。
・安倍政権にも、これ以外成長戦略の具体策がない。
(3)最近では、米国の凋落が話題になる中、諸国の期待を6年間引っ張ってきた超大国のメンツ上、オバマ政権はどんな形でも「何らかの合意宣言」を作り上げる必要に迫られている。合意しない国を排除したり、合意した部分だけで協定案を作成するなどの噂が一部には流れている。
しかし、そんな不完全な協定では、(年内に12か国のTPP合意形成が行われても)その成果がいつ出るかはわからない。最近の貿易協定の傾向として、交渉開始から署名まで時間がかかり、署名からその実施まではさらに長時間を要する。<例>米韓FTAは2007年署名から実施まで実に57か月を要した。
TPPのように、貿易協定にとどまらず国内制度改革までテーマが拡散し、さらに知的財産権・サービス分野のように刻々と変化して再交渉を繰り返す分野の国際協定は、協定署名後も長期の紆余曲折が予想される。
(4)TPPに対しては、パブリック・シチズン(国際的なNGO)やジェーン・ケルシー教授(ニュージーランド)などが国際的に警鐘を鳴らし、主として反グローバリズムの立場から一貫して反対を主張し続けた。
彼らが採用したのは「ドラキュラ作戦」だ。
「多国籍企業のショッピングリスト」と酷評される「TPPという筋の悪い政策」は、完全秘密交渉だから生き延びてきたのであって、ひとたび日の当たるところに出せば、誰でもその欠陥に愕然として反対にまわるだろう。だから、問題点を指摘し、反対をつづけ、交渉を長引かせれば、いずれTPPの害悪も露見し、朝日に当たって滅びるドラキュラと同じように崩壊する・・・・という戦略だ。
現実は、その通りとなった。知財章や環境章などに係る度重なる交渉原案のウィキリースからのリークに、国際社会の識者をも呆れさせ、マレーシアなど発展途上国そして産業界からも、TPP自体に疑問の声があがるようになった。
かくして、「オリジナルTPP構想」(21世紀の野心的貿易協定、関税の完全撤廃と各国の貿易制度改革)は、昨年中旬、ついに死んだのだ。
□首藤信彦(前衆議院議員)「ゾンビ化するTPPの脅威」(「世界」2015年4月号)
↓クリック、プリーズ。↓
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【参考】
「【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~」
「【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~」
「【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~」
「【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~」
「【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知」
「【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~」
「【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~」
「【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~」
「【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~」
「【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加」
「【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~」
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
その原型:2005年のP4協定(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)交渉開始から10年、
2009年の米国による参加意思表明から6年近く、
ウルグアイ・ラウンドの7年(交渉長期化のシンボル)に近づきつつある。
最終合意はおろか、その前提となる「大筋合意」に関しても・・・・昨年10月末のシドニー閣僚会合では「基本的要素」の合意すら成立しなかった。そこで表面化したのは、これまでTPP交渉の障害として指摘されてきた
・知的財産権(IP)
・国営企業(SOE)
・保険医療制度
などの今日的問題ではなく、関税率引き下げ、原産地問題といった前世紀的世界に先祖返りしつつある状況だった。
(2)(1)にもかかわらず日米両国がTPPにこだわるのは、次の理由からだ。
・オバマ政権には、8年間の政権の成果として歴史に残す実績が他にない。
・安倍政権にも、これ以外成長戦略の具体策がない。
(3)最近では、米国の凋落が話題になる中、諸国の期待を6年間引っ張ってきた超大国のメンツ上、オバマ政権はどんな形でも「何らかの合意宣言」を作り上げる必要に迫られている。合意しない国を排除したり、合意した部分だけで協定案を作成するなどの噂が一部には流れている。
しかし、そんな不完全な協定では、(年内に12か国のTPP合意形成が行われても)その成果がいつ出るかはわからない。最近の貿易協定の傾向として、交渉開始から署名まで時間がかかり、署名からその実施まではさらに長時間を要する。<例>米韓FTAは2007年署名から実施まで実に57か月を要した。
TPPのように、貿易協定にとどまらず国内制度改革までテーマが拡散し、さらに知的財産権・サービス分野のように刻々と変化して再交渉を繰り返す分野の国際協定は、協定署名後も長期の紆余曲折が予想される。
(4)TPPに対しては、パブリック・シチズン(国際的なNGO)やジェーン・ケルシー教授(ニュージーランド)などが国際的に警鐘を鳴らし、主として反グローバリズムの立場から一貫して反対を主張し続けた。
彼らが採用したのは「ドラキュラ作戦」だ。
「多国籍企業のショッピングリスト」と酷評される「TPPという筋の悪い政策」は、完全秘密交渉だから生き延びてきたのであって、ひとたび日の当たるところに出せば、誰でもその欠陥に愕然として反対にまわるだろう。だから、問題点を指摘し、反対をつづけ、交渉を長引かせれば、いずれTPPの害悪も露見し、朝日に当たって滅びるドラキュラと同じように崩壊する・・・・という戦略だ。
現実は、その通りとなった。知財章や環境章などに係る度重なる交渉原案のウィキリースからのリークに、国際社会の識者をも呆れさせ、マレーシアなど発展途上国そして産業界からも、TPP自体に疑問の声があがるようになった。
かくして、「オリジナルTPP構想」(21世紀の野心的貿易協定、関税の完全撤廃と各国の貿易制度改革)は、昨年中旬、ついに死んだのだ。
□首藤信彦(前衆議院議員)「ゾンビ化するTPPの脅威」(「世界」2015年4月号)
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【参考】
「【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~」
「【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~」
「【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~」
「【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~」
「【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知」
「【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~」
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「【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加」
「【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~」
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