語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】原発再稼働も上からの目線で「粛々と」 ~菅官房長官~

2015年04月23日 | 震災・原発事故
 (1)福井地裁は、4月14日、関西電力高浜原発3号機および4号機の運転を差し止める仮処分を決定した。これによって、仮に関電が同地裁に異議申し立てを行っても差し止めの効力が維持されるから、当分の間、高浜原発の再稼働ができなくなった。
 結論が出るまでにかなりの時間を要する、と目されている。関電が計画する11月再稼働は難しくなった。
 昨年の大飯原発の再稼働差し止め訴訟では、住民側が勝訴したものの仮処分ではなかったので、関電の控訴によって判決の効力がなくなった(再稼働は可能)。これに比べると、4月14日の仮処分決定ははるかに大きな意義を持つ。

 (2)(1)仮処分決定の内容をひと言で言えば、
    原子力規制委員会が定めた新たな規制基準が「緩やか」すぎて、
    この基準に「適合しても」「原発の安全性は確保され」ず、
    「新規制基準は合理性を欠く」ので
    その基準に「適合するか否かについて判断するまでもなく」差し止めを認めるべきだ。
 というものだ。この考え方に立てば、
    現行の規制基準で審査している限り、それに適合しても何の意味もない。
    よって、この夏の再稼働を目指している九州電力の川内原発はもちろん、すべての原発は再稼働できない。

 (3)必要なのは、まず、規制基準を根本から作り直すことだ。むろん、今よりもはるかに厳しい基準にしなければならない。
 そうなれば、それに適合するためには大きな補強工事などが必要になり、かなりの時間と多額の資金が必要になる。その結果、再稼働できない原発が続出するだろう。

 (4)(1)の決定に対して、関電は直ちに「承服できない」というコメントを出した。テレ朝「報ステ」で、古賀茂明の発言に異を唱えた古館伊知郎・キャスターが思わず口にした言葉と同じ言葉だ。
 不都合な真実を突きつけられると、使いたくなる言葉であるらしい。
 規制基準が不十分なものであることは、専門家の間では常識となっていた。
 マスコミがそれを報じないので、一時は
    「世界最高の安全基準」
という言葉が一人歩きしたが、その後、政府自身も
    「世界最高『水準』の」
と言い換えた。さらに、規制委も再稼働が近づくにつれ、
    「『安全』基準ではなく『規制』基準に過ぎない」
ということを強調し始めた。つまり、
    日本では原発の安全について誰も責任を負わない体制
なのだ。

 (5)驚くべし、菅義偉・官房長官はこの期に及んでも、なお、こう言う。福井地裁が「合理性を欠く」とした新基準につい て、
    「世界で『最も厳しい』と言われる新基準」
であると。そして、再稼働を「粛々と進めていきたい」と。「粛々と」という言葉は、沖縄の辺野古基地建設の際に使って、
    「上からの目線」
と翁長雄志・知事に批判されて封印した「話題の」言葉だ。この言葉をあえて使ったのは、
    どんな反対があっても完全無視で、原発再稼働を強行に推進していく。
 という宣言だ。
 統一選前半戦の勝利で、さらなる暴走を始める安倍政権。司法さえ踏みつぶして猪突しつつある。

□古賀茂明「原発再稼働も「粛々と」? ~官々愕々第152回~」(「週刊現代」2015年5月2日号)
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 【参考】
【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~
【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~
【古賀茂明】役立たずの「情報監視審査会」 ~国民は知らぬがホトケ~
【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~
【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~
【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~
【古賀茂明】これが「美しい国」なのか ~安倍政権がめざすカジノ大国~
【古賀茂明】原発廃炉と新増設とはセット ~「重要なベースロード電源」論~
【古賀茂明】改革逆行国会 ~安倍政権の官僚優遇~
【古賀茂明】安部総理の「大嘘」の大罪 ~汚染水~
【古賀茂明】「政治とカネ」を監視するシステム ~マイナンバーの使い方~
【古賀茂明】南アとアパルトヘイト ~曽野綾子と産経新聞~
【古賀茂明】報道自粛に抗する声明
【古賀茂明】「戦争実現国会」への動き
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【外務省】北方領土に無気力 ~北海道のない日本地図~

2015年04月23日 | 社会
 (1)外務省は北方領土問題を解決する気がない。その証拠は、外務省板倉公館で見つかる。板倉公館は、外国の要人の接待に使われる迎賓館で、安部総理の祖父、岸信介・元総理の邸宅なども手がけた著名な建築家、吉田五十八が設計した。
 大広間には、日本地図を描いた絵画が飾られている。平山郁夫の大作「日本列島誕生図」だ。
 その日本列島には、北方領土はおろか、北海道さえ無い。
 日本列島誕生を記した古事記の「国生み」が題材だから、本州、四国、九州しか描かれていないのだ。

 (2)今年3月には日仏の外務・防衛大臣が、2013年11月には日露の外務・防衛大臣が、板倉公館で会談し、平山郁夫「日本列島誕生図」を背景に記念撮影を行った。
 ロシアからのみならず、諸外国からも、
    「日本は北方領土の領有権を主張しているが、公の交渉の場に掲げる絵にすらその領土が描かれていない」
と失笑されかねない。

 (3)事を荒立てたくない政府・自民党は、水面下で外務省に対して、「日本列島誕生図」を取り替えるよう要請を続けている。
 外務省はしかし、「平山画伯に特注した作品だから外せない」とにべもない。

 (4)外務官僚は元々プライドが高い。「オレたちのやることに、政治家は口出しさせない」という意識が強い。
 政府関係者は、ぼやく。
 「外務省は何が『国益』か、理解できないのか。これでは交渉前からすでに勝負ありだ」

□コラム「霞が関25時」(「週刊現代」2015年5月2日号)
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【詩歌】戦士のうた ~礁湖にて~

2015年04月23日 | 詩歌

おれの首が斬られて祭壇に捧げられるときおれの愛したカヌーや槍や盾やタパや鯨の骨のとびきり切れるナイフやそれからもちろん女たちの首飾りや揺すれる腰やたくさんの子供たちもおれを救いにくることはできない。おれはずっとむかしから精霊とだけ話が合った。あいつはタマヌの木のほらあなにしゃがんでちいさな透きとおる壜をかかえていつでもおれを見つめている。あいつの胸から下はとても貧弱でしゃがんでいるのが精いっぱいなのに頭部の大きさはおどろくばかりだ。一世紀にいちどしかまばたきしないあいつの眼からはシダが密生しあいつの分厚い唇の奧には暗い礁湖がぴたぴた波うっているのがきこえる。あいつが口をきかないのにおれと話が合うというのはおれがあいつの悲しみを知っているからだ。あいつは人間の記憶が生んだ怪物。人間の怖れや死臭や血の記憶や追放の嘆きや溺死人のつかむ青空の切れっぱしでいっぱいなのであいつは透きとおる壜にたたえた悲しみの油でそれらを溶かし子守唄で眠らせつづけているのだ。おれはあいつの醜怪な顔の奧に海神モアナの激情よりも深い思想、死をもやわらげる思想を感じる。おれが首を斬られて死んでもあいつはタマヌの木のほらあなでまばたきもせず小さなあいつの壜にまたひとり新しい死者を加えるだけだ。おれはあいつに抱かれてこれからの何万年なにを考えるだろう。礁湖のカモメが大洋の鮫を軽蔑するのは弱者のささやかな慰めにすぎぬ。今日は夕陽がほんとに美しい。

□大岡信「礁湖にて --戦士のうたえる--」(『わが詩と真実』(思潮社、1962)所収)
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