語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】今後、狙いと反対のことが起きる ~異次元緩和(2)~

2015年04月20日 | ●野口悠紀雄
(承前)
 (6)今後はどうなるか? 円安がもっと進めば、企業利益がさらに増加し、株価は上がり続けるか?
 マーケットは、すでに米国の金利上昇を織り込んでしまっているかもしれない。だから、予想を超える変化がなければ、さらに円安になることはない。
 しかし、そうしたことが何時までも続くとは、考えにくい。現在の為替レートは、実質レートで見れば異常な円安になってしまっているからだ。現在のレートは、1995年ごろの半分以下だ。
 日本人の生活が1995年より半分くらいの水準に落ち込んでいるか? 落ち込んでいるとしても、そこまで落ち込んではいない。事実、
   ・2014年の実質GDP・・・・1995年よりも15.8%だけ増加
   ・鉱工業生産指数・・・・1995年100、最近時点で98程度
 以上からすると、円は過小に評価されている。
 (2)-(a)(資産価格)は、自己増殖的なメカニズムがある。しかし、無制限にそれが働くわけではない。実物経済との乖離がある程度以上拡大すると、破綻する。

 (7)円安が進行することによって、輸入物価が上昇する。消費者物価も上がった。
 しかし、これはインフレ率の継続的な上昇ではない。消費者物価が上がり続けるには、円安が進行し続ける必要があるからだ。
 実際には、原油価格が下落する以前の時点で、すでに消費者物価指数の伸び率が低下した。2014年になって為替レートが1ドル=100円程度の水準でほぼ一定になったからだ。

 (8)物価上昇率が高まっても、それが経済成長を促進しなかった。「物価が上昇すると人々は買い急ぐので、需要が増えて経済が活性化する」というメカニズムは働かなかった。
 実際には、
    物価上昇 → 実質所得減少 → 実質消費減少 → 経済成長押し下げ
というメカニズムが働いた。

 (9)設備投資は増えていない。実物経済の先行きに対する期待が改善すれば、設備投資は増えるはずだ。
 しかし、実際にはほとんど増えていない。むしろ減少気味だ。

 (10)今後起こるのは、異次元緩和が意図したのとは、まったく逆の事態だ。
    原油価格下落 → 消費者物価下落 → 実質所得増加 → 経済成長率増加
 物価上昇率期待が上昇して経済が活性化するのではない。
 原油価格下落によって、経済成長率が高まる。それは金融緩和によるのではなく、原油価格下落という実体面での変化による。
 今後、異次元緩和が狙ったこととは正反対のことが起ころうとしている。

□野口悠紀雄「期待で資産価格のみ変化させた異次元緩和 ~「超」整理日記No.754~」(「週刊ダイヤモンド」2015年4月18日号)

 【参考】
【経済】期待を煽り資産価格のみを変化させた ~異次元緩和~

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【経済】期待を煽り資産価格のみを変化させた ~異次元緩和~

2015年04月20日 | ●野口悠紀雄
 (1)2年前(2013年4月)、日本銀行が導入した異次元緩和措置は、
    「人々の期待を変化させることによって実体経済を好転させる」
という狙いがあった。その目的は達成されたか?
   (a)為替レートと株価に係る期待を変化させて、円安と株高を実現した。
   (b)消費者物価に係る期待を変化させることはできなかった。
   (c)実体経済においては、原油価格の値下がりが生じるまでの期間では、消費者物価の上昇によって、
     ①実質所得が減少し、
     ②実質消費が減少した。

 (2)「期待」の問題を考えるに当たり、(a)ストック(資産)価格と(b)フロー価格を区別することが重要だ。
 為替レートや株価は(a)だ。
 変化したのは、(a)に対する期待であり、(a)の価格だ。
 なお、金利(国債利回り)も、国債という(a)だ。これも異次元緩和によって低下(国債価格上昇)した。消費者物価は(a)と違って、消費という(b)(フロー量の価格)だ。
 よって、(1)を言い換えれば、
    「(a)についての期待は変化したが、(b)についての期待は変化しなかった」 

 (3)(2)の(a)と(b)の区別が重要である理由は、次のとおり。
 (2)-(a)は、将来の収益の割引現在値として与えられる。
   <例>株価・・・・将来時点で得られる①配当と②株式売却益を現在の価格に「割引」という操作を経て直したもの。
 この<例>において、将来の①と将来の株価がどうなるかについての「期待」(予測)が極めて重要な役割を果たしている。将来の②は将来の株価で決まるから、「将来の株価が現在の株価を決める」という自己増殖的なメカニズムも働くことになるのだ。
 国債についても、同様のことが言える。現在の国債の金利(国債利回り)は非常に低い水準になっているが、これは国債の価格が異常に高くなっていることを意味する。なぜ金融機関が高値で購入するか、と言えば、日銀がもっと高い価格で買ってくれる、という期待があるからだ。
 以上のように、(2)-(a)については、「期待」が本質的に重要な役割を果たす。何らかの要因で「期待」が変化すれば、実体面での変化がなくとも、価格は変動する。

 (4)異次元緩和は、(3)のような(2)-(a)の特殊性に鑑み、(2)-(a)に係る期待を変化させようとした。そのための手段として、マネタリーベースの大幅な増加を行った。
 その具体策・・・・国債を市場から高値で購入 → 利回り低下 → 内外金利差拡大 → 円安進行
 円安はしかし、日銀の金融緩和だけで生じたわけではない。
   ①2013年にはすでにユーロとの関係で円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。
   ②2014年には米国の緩和によって円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。

 (5)(3)の注意点・・・・異次元緩和は、マネーストック(=預金+日銀券=市中に流通するカネの残高)に関する数字を目標として掲げていない。
 これは、正統的な金融政策の観点からすると奇妙なことだ。マネーストックが増加しないと、実体経済に影響を与えることができないはずだからだ。
 マネーストックが目標値に入ってないのは、異次元緩和がそれを増加する意図を持っていなかったからだ(推定)。つまり、実体経済を動かすことは最初なら念頭になく、
    「期待」だけを動かそうとした。

 (6)事実、マネーストックはほとんど増えなかった。
 「カネがじゃぶじゃぶに供給されている」は大きな誤解で、実体経済に波及するルートは働いていなかった。
 マネーストックが増えていないのは、異次元緩和が実体経済と無関係であることを示す。「期待」だけが実態と乖離して変化したのだ。

□野口悠紀雄「期待で資産価格のみ変化させた異次元緩和 ~「超」整理日記No.754~」(「週刊ダイヤモンド」2015年4月18日号)
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