柿ぬしや梢はちかきあらし山
京都、柿、で思い浮かぶ名所といえば……法隆寺ではありません。
法隆寺は、奈良のお寺。
京都で柿といえば、嵯峨野にある落柿舎が有名でしょう。
美味しい柿が取れることで有名、というわけではありません。
落柿舎は、江戸時代の俳人、向井去来の庵です。
藁葺きの屋根を頂いた古びた庵が、田んぼを前にして、ぽつねんと建っています。
その背景には、山や深い森、晴れていれば青い空が広がり、田園風景を作り出しています。
それは他にたとえようもなく、まさに田園風景で、雅の町たる京都とは、また趣を異にしています。
日本の原風景、といったものに近いようにも思います。
農村などに行けば、こうした風景を見られるところはまだ多いでしょう。
ですが、これが京都にあるというところが面白い、と思うのですが、いかがでしょうか。
嵐山のにぎやかな土産物屋街から、そう離れてもいない場所です。
それどころか、京都の市街地からも気軽に足を伸ばせる距離。
辺りは紅葉の名所と呼ばれる寺院なども多く、これからの季節、訪れるのにちょうどよい場所でしょう。
さて、冒頭の句は、その向井去来の句です。
向井去来は松尾芭蕉のお弟子さんで、その中でも優秀だといわれている人です。
この向井去来の庵にも訪れ、弟子と起居をともにしたといいます。
もっとも、建物はその当時のものがそのまま残っているわけではありませんけれども。
雰囲気だけは十分伝わる建物です。
その去来の墓が、落柿舎のすぐ北にあります。
墓地の片隅に、ちょこんとおかれているのですが、これがまた、まさしく、ちょこんと、という感じです。
高浜虚子の句に、この去来の墓を詠んだものがあります。
凡そ天下に去来程の小さき墓に詣りけり
甚だしく字余りで、俳句といって良いのか、よくわからないのですが。
しかし、実際に行ってみると、この句を実感することでしょう。
烏帽子型の、本当に掌に乗りそうな位の小さな石がおいてあるだけです。
これも墓だというのだから、また面白いですね。
是非その目で確かめてみてはいかがでしょう。
”あいらんど”