北海道新聞 10/09 05:00
高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、後志管内寿都町の片岡春雄町長と神恵内村の高橋昌幸村長がきのう、それぞれ第1段階となる文献調査に応じる方針を表明した。
両町村では文献調査に向け、地域の合意は十分得られていない。処分場設置につながる文献調査の実施や核ごみの危険性に関し、住民の不安や疑問は残ったままだ。
両首長は議会の賛成などを根拠にしている。だが、反対する住民の声を丁寧に聞く姿勢に欠けており、このままでは地域の分断が一層深まるだろう。
応募の検討が表面化してから、寿都町では約2カ月、神恵内村では約1カ月で、首長が表明するに至った。反対の声を顧みない性急な応募方針の表明は、禍根を残す。撤回するのが筋だ。
■議論の広がり見えぬ
片岡町長は記者会見で「私の判断として文献調査の応募を決意した」と述べた。
高橋村長は、村議会が調査受け入れを求める地元商工会の請願を採択したことを受けて、「議会の結果を尊重する」と述べ、文献調査に応じる考えを明らかにした。
両町村は住民説明会を開いてきたが、応募ありきの姿勢も見られ賛否の議論がかみ合わなかった。
町長は「一石を投じ、議論の輪を国内に広げたい。文献調査への応募は全国で最低でも10(自治体)はあがってほしい」と述べた。
しかし、町長の狙い通り、各地で文献調査応募に向けた論議が起きるかは分からない。
実際、高知県東洋町が2007年に文献調査に応募後、住民の反対で撤回した。それ以降、応募する自治体は出てこなかった。
東京電力福島第1原発の事故以降、原子力施設について、国民の不信感は根強い。
北海道で文献調査に応じる2町村が現れたことで、両自治体を対象に処分地選定が進めば、道外で最終処分場設置への関心が薄れることも考えられる。
町長は以前から水面下で応募を検討してきたと示唆している。どのような経緯があったか、説明する責任があるだろう。
■処分場設置の一里塚
実務主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は、文献調査について、最終処分場の選定のために行うと資料に明記している。
文献調査は処分場設置への一里塚との考えだ。町長のいう「(調査と設置を)分けて考える」ことは困難になると予想される。
NUMOによると、文献調査は第2段階のボーリングを行う概要調査と事実上一体で、「明らかに適切でない場所を除外し概要調査地区を検討する」と説明する。
また文献調査と並行して地域住民らとの「対話」も行う。これは推進派による「説得」であろう。
核のごみは安全な状態になるには約10万年かかる。その間、地震多発国である日本に安定した地層があるのか明確でない。設置後に危険を察知しても手遅れとなる。
梶山弘志経済産業相は、概要調査に進む際、地元首長と知事の反対があれば先の調査には進まないと述べている。法律でも知事意見を尊重すべきだと定めている。
だが地域の意向が優先される確実な保証があるわけではない。
宗谷管内幌延町では、核のごみの地層処分技術の研究が期間を延長して続いている。処分場設置までずるずると形を変えて続く可能性も考えられる。
両首長は、調査がいったん始まれば後戻りすることは難しいと分かっているようには見えない。
文献調査に応じると20億円、概要調査は70億円が国から地元自治体に交付される。
交付金に依存した財政運営を始めると、処分場に関する調査から抜け出せなくなるのは目に見えている。原発設置でも使われた、地域をからめ捕る巧妙な手法だ。
鈴木直道知事が言う通り「札束で頬をたたく」やり方だ。知事は菅義偉首相らと接触を重ねている。地方の弱みにつけ込む国のやり方を改めるよう促すべきだ。
■原子力政策見直しを
すでにある核のごみをどうするかという議論は常にある。国民皆で考えるべきだとの意見もある。それにはまず、国が最終処分の安全性を確立する必要がある。処分地や調査地の選定はそれからだ。
その段階がないから、地域住民が不安を抱く。周辺自治体や1次産業団体から風評被害の懸念が出るのももっともだ。
アイヌ民族の団体からも、処分場選定手続きを進める場合、先住民族アイヌの同意を求めるべきだと声明が出ている。
そもそも原発を稼働し続ける限り、核のごみは発生する。この問題の解決には国のエネルギー政策を根本から見直し、脱原発への取り組みを加速させる必要がある。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/468802
高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、後志管内寿都町の片岡春雄町長と神恵内村の高橋昌幸村長がきのう、それぞれ第1段階となる文献調査に応じる方針を表明した。
両町村では文献調査に向け、地域の合意は十分得られていない。処分場設置につながる文献調査の実施や核ごみの危険性に関し、住民の不安や疑問は残ったままだ。
両首長は議会の賛成などを根拠にしている。だが、反対する住民の声を丁寧に聞く姿勢に欠けており、このままでは地域の分断が一層深まるだろう。
応募の検討が表面化してから、寿都町では約2カ月、神恵内村では約1カ月で、首長が表明するに至った。反対の声を顧みない性急な応募方針の表明は、禍根を残す。撤回するのが筋だ。
■議論の広がり見えぬ
片岡町長は記者会見で「私の判断として文献調査の応募を決意した」と述べた。
高橋村長は、村議会が調査受け入れを求める地元商工会の請願を採択したことを受けて、「議会の結果を尊重する」と述べ、文献調査に応じる考えを明らかにした。
両町村は住民説明会を開いてきたが、応募ありきの姿勢も見られ賛否の議論がかみ合わなかった。
町長は「一石を投じ、議論の輪を国内に広げたい。文献調査への応募は全国で最低でも10(自治体)はあがってほしい」と述べた。
しかし、町長の狙い通り、各地で文献調査応募に向けた論議が起きるかは分からない。
実際、高知県東洋町が2007年に文献調査に応募後、住民の反対で撤回した。それ以降、応募する自治体は出てこなかった。
東京電力福島第1原発の事故以降、原子力施設について、国民の不信感は根強い。
北海道で文献調査に応じる2町村が現れたことで、両自治体を対象に処分地選定が進めば、道外で最終処分場設置への関心が薄れることも考えられる。
町長は以前から水面下で応募を検討してきたと示唆している。どのような経緯があったか、説明する責任があるだろう。
■処分場設置の一里塚
実務主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は、文献調査について、最終処分場の選定のために行うと資料に明記している。
文献調査は処分場設置への一里塚との考えだ。町長のいう「(調査と設置を)分けて考える」ことは困難になると予想される。
NUMOによると、文献調査は第2段階のボーリングを行う概要調査と事実上一体で、「明らかに適切でない場所を除外し概要調査地区を検討する」と説明する。
また文献調査と並行して地域住民らとの「対話」も行う。これは推進派による「説得」であろう。
核のごみは安全な状態になるには約10万年かかる。その間、地震多発国である日本に安定した地層があるのか明確でない。設置後に危険を察知しても手遅れとなる。
梶山弘志経済産業相は、概要調査に進む際、地元首長と知事の反対があれば先の調査には進まないと述べている。法律でも知事意見を尊重すべきだと定めている。
だが地域の意向が優先される確実な保証があるわけではない。
宗谷管内幌延町では、核のごみの地層処分技術の研究が期間を延長して続いている。処分場設置までずるずると形を変えて続く可能性も考えられる。
両首長は、調査がいったん始まれば後戻りすることは難しいと分かっているようには見えない。
文献調査に応じると20億円、概要調査は70億円が国から地元自治体に交付される。
交付金に依存した財政運営を始めると、処分場に関する調査から抜け出せなくなるのは目に見えている。原発設置でも使われた、地域をからめ捕る巧妙な手法だ。
鈴木直道知事が言う通り「札束で頬をたたく」やり方だ。知事は菅義偉首相らと接触を重ねている。地方の弱みにつけ込む国のやり方を改めるよう促すべきだ。
■原子力政策見直しを
すでにある核のごみをどうするかという議論は常にある。国民皆で考えるべきだとの意見もある。それにはまず、国が最終処分の安全性を確立する必要がある。処分地や調査地の選定はそれからだ。
その段階がないから、地域住民が不安を抱く。周辺自治体や1次産業団体から風評被害の懸念が出るのももっともだ。
アイヌ民族の団体からも、処分場選定手続きを進める場合、先住民族アイヌの同意を求めるべきだと声明が出ている。
そもそも原発を稼働し続ける限り、核のごみは発生する。この問題の解決には国のエネルギー政策を根本から見直し、脱原発への取り組みを加速させる必要がある。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/468802