北海道新聞 10/24 08:50
胆振管内白老町のアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」から約1キロ、JR白老駅南側の中心街にある大町商店街の店舗や事務所など32カ所の軒先に、アイヌ民族の伝統文様をあしらった青色の看板が連なる。
ウポポイ開業前の6月下旬に設置したもので、白老商業振興会の久保田修一理事長は「開業は100年に1度あるかないかの好機。なんとかものにしたい」と開業効果を期待する。
■素通りの商店街
ただ、現実は厳しい。ウポポイの来場者の多くは、自家用車で来る個人客かバスで移動する修学旅行などの団体客で、ほとんどは商店街を素通りする。商店街のPRチラシを取り扱えないかと、ウポポイを運営するアイヌ民族文化財団(札幌)に打診したが、国立施設なので商業性の高い配布物を扱うのは難しいと断られた。
町が昨年5月のアイヌ施策推進法施行に伴い創設された国のアイヌ政策推進交付金を活用し、ウポポイと駅周辺、町内の飲食店を結ぶルートで運行を始めた周遊バスも苦戦する。ウポポイ来場者は開業3カ月で12万人を超えたが、バスの利用者は1404人、1日平均わずか18人だ。JRで訪れる観光客の少なさが背景にあり、地元では「無人バス」との声も上がる。
駅南の商店街側には公共駐車場がほとんどないため、町は駅北側に案内センターや車80台分の駐車場を整備し、線路をまたいで駅南北をつなぐ自由通路も今年3月に開通させた。センター近くでは町と白老観光協会がウポポイ開業後から今月中旬までの毎週末、地元農産物を販売したり、白老アイヌ協会員が伝統舞踊を披露したりする集客行事も開いてきた。
だが、駅南側への人の移動は「ほとんどない」(商店街関係者)。大町商店街は共通割引券の発行や飲食店マップの作成など誘客策に知恵を絞るが、いずれもまだ検討段階だ。白老町商工会の熊谷威二会長は「新型コロナウイルスの感染が収束してインバウンド(訪日外国人)が戻ればウポポイ効果も期待できるが、まだまだ時間がかかりそう」と厳しい現状を受け止める。
■独自文化伝承も
一方、国の交付金などを活用した町の事業がウポポイ効果に期待した観光振興策に集中しているとして、白老アイヌ協会内では白老独自のアイヌ文化の伝承支援が後回しにされているとの不満もくすぶる。
同協会の会員で、ウポポイで歌い手として働く高橋志保子さん(71)は「ウポポイで活動できるのは素晴らしいが、生まれ育った白老で先祖が残してきてくれた踊りや歌も大切にしたい」と複雑な心境だ。
白老町のアイヌ民族はポロト湖畔のコタン(集落)を文化伝承の拠点とし、地元に設立した財団で旧アイヌ民族博物館(ウポポイ整備に伴い2018年3月末で閉館)も運営してきた。
その場がそっくり、アイヌ文化復興の全国的な拠点となるウポポイに生まれ変わり、白老独自のアイヌ文化を地域でどう引き継いでいくかが、地元では新たな課題として浮上。白老アイヌ協会の山丸和幸理事長は「各地のアイヌ文化を集約したウポポイの踊りを守ることと、地元の踊りを残すことは別のこと」と述べ、高齢化した協会活動の活性化には若手の伝承者育成が不可欠だと指摘する。
歌や踊りを練習するなど町内各地の文化伝承の拠点となっている地域の生活館についても老朽化が進む中、アイヌ政策推進交付金を使って建て替えを進める周辺市町村に対し、白老町の計画は遅れ気味だ。
協会前会長の新井田幹夫さん(69)は「交付金は自治体しか活用できず、地域のアイヌ民族の意見が反映された使い道になっていない。町は地元のアイヌ文化伝承につながる運用をしてほしい」と訴えている。=おわり=
(この連載は田鍋里奈、斉藤千絵、金子文太郎、斎藤佑樹が担当しました)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/474154
胆振管内白老町のアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」から約1キロ、JR白老駅南側の中心街にある大町商店街の店舗や事務所など32カ所の軒先に、アイヌ民族の伝統文様をあしらった青色の看板が連なる。
ウポポイ開業前の6月下旬に設置したもので、白老商業振興会の久保田修一理事長は「開業は100年に1度あるかないかの好機。なんとかものにしたい」と開業効果を期待する。
■素通りの商店街
ただ、現実は厳しい。ウポポイの来場者の多くは、自家用車で来る個人客かバスで移動する修学旅行などの団体客で、ほとんどは商店街を素通りする。商店街のPRチラシを取り扱えないかと、ウポポイを運営するアイヌ民族文化財団(札幌)に打診したが、国立施設なので商業性の高い配布物を扱うのは難しいと断られた。
町が昨年5月のアイヌ施策推進法施行に伴い創設された国のアイヌ政策推進交付金を活用し、ウポポイと駅周辺、町内の飲食店を結ぶルートで運行を始めた周遊バスも苦戦する。ウポポイ来場者は開業3カ月で12万人を超えたが、バスの利用者は1404人、1日平均わずか18人だ。JRで訪れる観光客の少なさが背景にあり、地元では「無人バス」との声も上がる。
駅南の商店街側には公共駐車場がほとんどないため、町は駅北側に案内センターや車80台分の駐車場を整備し、線路をまたいで駅南北をつなぐ自由通路も今年3月に開通させた。センター近くでは町と白老観光協会がウポポイ開業後から今月中旬までの毎週末、地元農産物を販売したり、白老アイヌ協会員が伝統舞踊を披露したりする集客行事も開いてきた。
だが、駅南側への人の移動は「ほとんどない」(商店街関係者)。大町商店街は共通割引券の発行や飲食店マップの作成など誘客策に知恵を絞るが、いずれもまだ検討段階だ。白老町商工会の熊谷威二会長は「新型コロナウイルスの感染が収束してインバウンド(訪日外国人)が戻ればウポポイ効果も期待できるが、まだまだ時間がかかりそう」と厳しい現状を受け止める。
■独自文化伝承も
一方、国の交付金などを活用した町の事業がウポポイ効果に期待した観光振興策に集中しているとして、白老アイヌ協会内では白老独自のアイヌ文化の伝承支援が後回しにされているとの不満もくすぶる。
同協会の会員で、ウポポイで歌い手として働く高橋志保子さん(71)は「ウポポイで活動できるのは素晴らしいが、生まれ育った白老で先祖が残してきてくれた踊りや歌も大切にしたい」と複雑な心境だ。
白老町のアイヌ民族はポロト湖畔のコタン(集落)を文化伝承の拠点とし、地元に設立した財団で旧アイヌ民族博物館(ウポポイ整備に伴い2018年3月末で閉館)も運営してきた。
その場がそっくり、アイヌ文化復興の全国的な拠点となるウポポイに生まれ変わり、白老独自のアイヌ文化を地域でどう引き継いでいくかが、地元では新たな課題として浮上。白老アイヌ協会の山丸和幸理事長は「各地のアイヌ文化を集約したウポポイの踊りを守ることと、地元の踊りを残すことは別のこと」と述べ、高齢化した協会活動の活性化には若手の伝承者育成が不可欠だと指摘する。
歌や踊りを練習するなど町内各地の文化伝承の拠点となっている地域の生活館についても老朽化が進む中、アイヌ政策推進交付金を使って建て替えを進める周辺市町村に対し、白老町の計画は遅れ気味だ。
協会前会長の新井田幹夫さん(69)は「交付金は自治体しか活用できず、地域のアイヌ民族の意見が反映された使い道になっていない。町は地元のアイヌ文化伝承につながる運用をしてほしい」と訴えている。=おわり=
(この連載は田鍋里奈、斉藤千絵、金子文太郎、斎藤佑樹が担当しました)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/474154