北海道新聞 12/19 05:00
木材加工を生業とし、民族音楽演奏を楽しみ、「やってみたい」と思い立てば、ひと冬かけてアイヌ民族が交易に使った外洋舟イタオマチプ(板綴(つづり)舟)造りに挑戦する男たちがいる。
アイヌ民族楽器トンコリ製作者の二宮規一さん(55)と、次男でまき割り職人の斗新(とにい)さん(21)、二宮さんの友人で家具作家の都築謙司さん(59)の3人。いずれも空知管内長沼町在住だ。それぞれトンコリ、ムックリ、デジュリドゥ(オーストラリア先住民の管楽器)を奏で、一緒にコンサートにも出演している。
3人は昨年から今年にかけ、アイヌ文化学術研究会(オホーツク管内美幌町)が、アイヌ文化の記録保存を目的に企画した全長12メートルのイタオマチプ造りプロジェクトで大役を担った。樹齢約200年のアカエゾマツを伐採し、アイヌ伝統工芸家成田得平さん(78)の指揮のもと、長沼町の倉庫で冬の寒さも忘れて作業に没頭。見事に完成させた。製作過程の動画は同研究会のホームページで見ることができる。BGMに3人の楽曲が流れ演出効果も抜群だ。
長さ10メートル、重さ約9トンの丸太を相手にしたが、詳細な設計図は無かった。都築さんは「最終イメージは得平さんの頭の中にしかない」と驚き、作業には頻繁な打ち合わせと仲間の輪が不可欠だったと振り返る。
先人が手斧(ておの)で削った箇所はチェーンソーで削り進んだが、現代人の体はそれでも疲労困憊(ひろうこんぱい)した。二宮さんは「昔の人の体力は超人的」とうなった。くぎを使わず造り、板をつなぐのに200メートルの縄を必要とした。斗新さんは「昔の人たちが舟を完成させたときの喜びが分かる」としみじみ語った。体験者にしか分からない感覚だろう。
ただ3人には心残りがある。9月、小樽市での進水式で、舟が波打ち際でフワリと浮いた直後、船尾が地面につっかえて右舷側に傾き、浸水して進めなくなったことだ。二宮さんは「今でも舟をこぎ続けている自分を夢に見る」と言う。
舟は札幌の保管場所へ運ばれ、プロジェクトは一段落した。それでも3人は辛抱強くプロジェクトの続編が動きだすことに期待している。「まだ海面を進む舟は撮影できていないから」
(注)記事と写真説明の「イタオマチプ」の「プ」は小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/624819
木材加工を生業とし、民族音楽演奏を楽しみ、「やってみたい」と思い立てば、ひと冬かけてアイヌ民族が交易に使った外洋舟イタオマチプ(板綴(つづり)舟)造りに挑戦する男たちがいる。
アイヌ民族楽器トンコリ製作者の二宮規一さん(55)と、次男でまき割り職人の斗新(とにい)さん(21)、二宮さんの友人で家具作家の都築謙司さん(59)の3人。いずれも空知管内長沼町在住だ。それぞれトンコリ、ムックリ、デジュリドゥ(オーストラリア先住民の管楽器)を奏で、一緒にコンサートにも出演している。
3人は昨年から今年にかけ、アイヌ文化学術研究会(オホーツク管内美幌町)が、アイヌ文化の記録保存を目的に企画した全長12メートルのイタオマチプ造りプロジェクトで大役を担った。樹齢約200年のアカエゾマツを伐採し、アイヌ伝統工芸家成田得平さん(78)の指揮のもと、長沼町の倉庫で冬の寒さも忘れて作業に没頭。見事に完成させた。製作過程の動画は同研究会のホームページで見ることができる。BGMに3人の楽曲が流れ演出効果も抜群だ。
長さ10メートル、重さ約9トンの丸太を相手にしたが、詳細な設計図は無かった。都築さんは「最終イメージは得平さんの頭の中にしかない」と驚き、作業には頻繁な打ち合わせと仲間の輪が不可欠だったと振り返る。
先人が手斧(ておの)で削った箇所はチェーンソーで削り進んだが、現代人の体はそれでも疲労困憊(ひろうこんぱい)した。二宮さんは「昔の人の体力は超人的」とうなった。くぎを使わず造り、板をつなぐのに200メートルの縄を必要とした。斗新さんは「昔の人たちが舟を完成させたときの喜びが分かる」としみじみ語った。体験者にしか分からない感覚だろう。
ただ3人には心残りがある。9月、小樽市での進水式で、舟が波打ち際でフワリと浮いた直後、船尾が地面につっかえて右舷側に傾き、浸水して進めなくなったことだ。二宮さんは「今でも舟をこぎ続けている自分を夢に見る」と言う。
舟は札幌の保管場所へ運ばれ、プロジェクトは一段落した。それでも3人は辛抱強くプロジェクトの続編が動きだすことに期待している。「まだ海面を進む舟は撮影できていないから」
(注)記事と写真説明の「イタオマチプ」の「プ」は小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/624819