週刊文春10/28(土) 6:12配信
来月17日で81歳になるマーティン・スコセッシが、あいかわらずお元気だ。今月全世界公開された最新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、製作費2億ドル(約300億円)、上映時間3時間半の野心作。
【画像】レオナルド・ディカプリオが先住民の女性と結婚する白人男性役を熱演…「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の写真を見る
2017年に出版された同名のノンフィクション本を映画化する今作は、100年前にオクラホマ州で起きた、白人による先住民オセージ族に対する凶悪な犯罪を描くもの。オセージ族の人々や文化を忠実に描くため、スコセッシは現地に足を運んでミーティングを持った。
脚本がラブストーリーに変化したワケ
「初めてのミーティングでは、オセージ族のチーフをはじめとする何人かの代表に会った。当然のことながら、彼らは注意深かったよ。私たちは、この話をできるだけ事実のままに語りますと彼らを説得した。
そんな中で、(本作の主人公として描かれる)アーネスト・バークハートの親戚であるマギー・バークハートは、私の作った『沈黙―サイレンス―』を観たこともあって、私を信頼してくれるようになったようだ。彼女は私たちに、アーネストはモリーを愛していたし、モリーはアーネストを愛していたと言った。これはラブストーリーなのだと。そこから脚本が変わっていったんだ」
第一次対戦後、叔父ウィリアム・ヘイル(ロバート・デ・ニーロ)のいるオクラホマ州に引っ越してきたアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は、タクシーの運転手として働くうちに、客のモリー・カイルと知り合う。居住地区に石油が出て突然大金持ちとなったオセージ族の女性と結婚したがる白人男性は珍しくなく、アーネストもモリーにプロポーズをする。だが、それら先住民の女性らは次々に謎の死を遂げ、やがてモリーの周辺にも恐怖が及んでいく。
美しい場所は邪悪にもなりうる
実際にオクラホマの風景を見ると、ここでそれらの事件が起きたことを、スコセッシは納得できた。
「私はニューヨークのロウアー・イーストサイド育ち。都会の人間なので、太陽がどこに沈むのかも意識しない。30年ほど前、ロサンゼルスを車で移動していて太陽が西に沈むのを見て、『ああ、だからサンセット通りと言うのか』と妙に納得したものだ。オクラホマには広々とした草原、まっすぐの道があり、野生の馬や牛が歩いている。その景色を見ながら、どこにカメラを置こうか、空をどれだけ、草原をどれだけ入れようかなどと考えたよ。
そうしているうちに、ここには法など要らないのだと気づいたんだ。いや、法律はあるんだが、きちんと機能しないと言うのが正しい。美しいこの場所は、非常に邪悪にもなりうる。私はそれをとらえたかった。のんびりしているところに癌、あるいはウィルスが生まれ、静かな大虐殺が起きていく様子を」
このプロジェクトが立ち上がった時、ディカプリオは、一連の事件を調べるFBI捜査官トム・ホワイトを演じる予定だった。しかし、外からではなく、内側からこの話を見つめると決め、ディカプリオには、オセージ族の女性モリーと結婚する白人男性アーネスト・バークハートを演じてもらった(トム・ホワイト役にはジェシー・プレモンスが抜擢された)。
アーネストはただのお金目当てなのか、それともモリーに対する真の愛があるのか。その微妙な関係を、ディカプリオとモリー役のリリー・グラッドストーンが見事に描く。
ふたりの役者同士の間にあった、自然でリアルな関係
「ふたりが初めて一緒に食事をするシーンは、私のお気に入り。モリーは彼に多くの質問をする。まるで尋問するみたいに。彼女が彼をコヨーテに例え、『コヨーテはお金が好きよね』と言うと、アーネストはあっさりと『そうだね、僕はお金が好きだ』と認める。
彼女は自分がどんなところに足を踏み入れようとしているか、わかっているんだ。だが、別のシーンでオセージ族の人々と話している時には、お金だけじゃないと思う、彼は良い人だ、というようなことも言う。
運転手のアーネストが客のモリーに何かを言い、モリーがわざと先住民の言語で答えて、彼が『今、ハンサムな悪魔って言ったのかな』と返すシーンがあるが、実は、あれは全部アドリブ。リリーの笑いは演技でなく本物。ふたりの役者同士の間には、自然でリアルな関係があったんだ」
ディカプリオと監督は30歳以上も年が離れているが…
デ・ニーロとディカプリオはスコセッシ映画の常連だが、この3人が揃うのは初めてのことだ。
「デ・ニーロとはティーンの頃からの関係だ。お互いの古い友人も知っている。70年代、私たちは、いろんなことを一緒に試した。俳優が力を持ちすぎて映画をハイジャックしてしまうことはよくあるが、彼は力を持ってもそれをしたことがない。私たちの間には強い信頼がある。
そんな彼が、ある時、『ボーイズ・ライフ』で共演した子役を軽く勧めてきた。それがレオだよ。彼が誰かを推薦することなんて滅多にないのに。それから何年かして、私は『ギャング・オブ・ニューヨーク』にレオを起用した。次に『アビエイター』でも組むと本当に私たちは意気投合し、『ディパーテッド』で真の絆ができた。30歳以上も年齢が離れているにもかかわらず、私たちの好みはとても似ているんだ」
ディカプリオとは、次にセオドア・ルーズベルトの伝記映画でも組むことになっている。そこに、デ・ニーロにとっても素晴らしい役はあるだろうか。この特別な3人組の復活がまたあることを、映画ファンは心待ちにしている。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』10月20日(金)より世界同時劇場公開。
本作は、実話をもとに、アーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)とモーリー・カイル(リリー・グラッドストーン)の間の思いもよらないロマンスを通して描かれる、
真実の愛と残酷な裏切りが交錯する西部劇でありサスペンス超大作。ロバート・デ・ニーロとジェシー・プレモンス共演、マーティン・スコセッシが監督を務め、原作はデイヴィッド・グランのベストセラー、マーティン・スコセッシはエリック・ロスとともに脚本を手がける。
◆監督:マーティン・スコセッシ
◆キャスト:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、ジェシー・プレモンス、リリー・グラッドストーン、タントゥー・カーディナル、カーラ・ジェイド・マイヤーズ、ジャネー・コリンズ、ジリアン・ディオン、ウィリアム・ベルー、ルイス・キャンセルミ、タタンカ・ミーンズ、マイケル・アボット・ジュニア、パット・ヒーリー、スコット・シェパート、ジェイソン・イズベル、スターギル・シンプソン
◆脚本:エリック・ロス、マーティン・スコセッシ
◆プロデューサー:マーティン・スコセッシ、ダン・フリードキン、ブラッドリー・トーマス、ダニエル・ルピ
◆エグゼクティブプロデューサー:レオナルド・ディカプリオ、リック・ヨーン、アダム・ソマー、マリアン・バウアー、リサ・フレチェット、ジョン・アトウッド、シェイ・カマー、ニールス・ジュール
猿渡 由紀/週刊文春
https://news.yahoo.co.jp/articles/7739aefc4280e14481963d355703c0c86a1a767f