神奈川新聞 2024年12月24日(火) 12:10
今年のニュースを神奈川新聞記者が回顧する「刻む2024」。第13回は「国連の女性差別撤廃委員会による日本審査」。
国連の女性差別撤廃委員会による勧告を受け、政府に法改正などを求めるNGO関係者=11月1日、東京都内
熱気は、パソコンの画面越しにも伝わってきた。
10月17日、スイス・ジュネーブ。国連の女性差別撤廃委員会による8年ぶりの日本審査が行われ、オンラインでも同時中継された。
審査は、世界中から選出された委員23人で構成される委員会と各国の政府代表団が「建設的対話」を行い、その国のジェンダー平等の課題を探る場だ。
日本政府の代表団は内閣府の岡田恵子・男女共同参画局長を代表に、各省の約40人が参加。市民団体や非政府組織(NGO)の関係者約100人も現地に駆け付け、別室で傍聴した。
現地時間の午前10時に始まった審査は、アナ・ペラエス・ナルバエス委員長の司会の下、質疑応答を重ねていく。テーマは多岐にわたり、審査は計5時間に及んだ。
マイノリティーを守る枠組み
印象的だったのは、多様な女性が直面する、あらゆる差別や困難を取り上げたという点だ。
女性の中には、女性で、かつアイヌ民族や在日コリアン、障害者、性的少数者、移民など、複数のマイノリティー(少数派)に属する人が存在する。そうした人への差別は複雑に絡み合い、被害がより深刻さを増すことから「複合的差別」「交差的差別」と呼ばれる。
委員からは、複合的差別や交差的差別への対策、特別措置に関する質問が相次いだ。
ある委員は「被差別部落出身者の女性たちが被っている複合的差別への対策をどのように取り、減らす努力をしているか」と質問。別の委員は「性的マイノリティーの子どもに対するいじめの対策はどうなっているか」と問いかけた。
だが、政府は明確に答弁することができなかった。部落差別解消推進法の条文を読み上げ、一般的ないじめ対策の説明に終始するのみで、どちらも具体的な対策に言及しなかった。
「マイノリティー女性の権利を守る枠組みが不可欠」と強調した高井准教授=11月1日、東京都内
現地で傍聴した群馬大学の高井ゆと里准教授は「性的マイノリティーの子どもたちは高い頻度でいじめを経験し、中高での不登校率は非常に高い。問題の重要性も、複合的差別の実態も、政府は全く理解していなかった」と批判。その上で、こう強調した。
「女性差別を本当の意味でなくすためには、マジョリティー(多数派)に属する女性への差別をなくすだけでは足りない。複合的差別を経験しているマイノリティー女性の権利を守る枠組みが不可欠だ」
差別は直接的に限らず、間接的、あるいは複合的・交差的な形を取る。だが、日本ではこうした認識が薄く、法律や政策に反映されていないのが実情だ。
障害のある女性が受ける複合的差別について訴える「DPI女性障害者ネットワーク」代表の藤原さん
障害のある女性らでつくる「DPI女性障害者ネットワーク(女性ネット)」は長年、障害のある女性への複合的・交差的差別の禁止を障害者差別解消法に明記するよう求めているが、21年の法改正では盛り込まれなかった。
藤原久美子代表は「実態把握のために必要な性別クロスデータすら、政府は持っていない。雇用や教育、健康、暴力など全ての領域でジェンダー統計を整備し、実態を可視化するところから始めなければならない」と訴える。
動かぬ政治、頼りは「外圧」
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