観光経済新聞 2024年11月18日
オーセンティックな旅の形を模索する中で、行きつくのが地域独自の文化との触れ合いとなる。その際、参考にすべき概念として、すでに発展しつつあるインディジネス・ツーリズム(Indigenous Tourism)での展開事項だと考えている。同義語として原住民ツーリズムやアボリジナル・ツーリズム、エスニック・ツーリズムといった言葉も挙げられるだろう。
先住民族は最初の住民、部族民、アボリジニー、オートクトンとも呼ばれている。現在世界には少なくとも5千の先住民族が存在し、住民は4億7600万人を数え、5大陸の90カ国以上に住んでいるとされる。世界各国の統治が進む中で、これらの民族文化がどんどん同一化され、観光開発とのはざまでさまざまな課題が発生しているのも事実だ。
私も各地に赴く中で、先住民の文化に触れられるのは非常に貴重な機会だと感じる一方で、それが観光化、商業化されすぎて、表面的なものになっていることに大きな違和感を覚えることも多い。背景として文化の理解や共存の在り方、外部との関わり方の設計不足があると考えている。UNツーリズムで2019年に発せられた「先住民族観光の持続可能な開発に関する勧告」では下記が重要だと述べている。
(1)すべての関係者が先住民族の文化的価値観や慣習などを尊重すること(2)観光事業や商品、サービスなどの計画から管理まで、透明性のある話し合いを実現すること(3)先住民族のスキル開発とエンパワーメントの促進を支援すること(4)公平な先住民の事業と持続可能なビジネス慣行を支援すること(経済的利益を高めるだけでなく、コミュニティの発展、個人の生活向上に貢献するなど)(5)先住民の自然・文化財や知的財産の保護に参加すること。
また、旅行者向け勧告として▽参加前に、訪問先の先住民の歴史や文化、行動規範を理解しておくこと▽参加中に現地の水や動物、植物を大切に扱うこと▽あらかじめガイドに「やってよいこと」と「やってはいけないこと」を確認し、それに従うこと▽先住民族コミュニティによって管理されている地域では、旅行者に許容された場所にのみアクセスすること(場所や儀式による、精神的に神聖な場所があるため、旅行者の受け入れが不可の場所もある)―などが挙げられている。
これらは、日本の地域文化への観光も同じだと考えている。日本各地域に根付く独自文化に触れる際、文化の安定的継承を大事な目的とし、勧告で述べられているような内容を地域のコミュニティと共にしっかりと定めていくことが必要だろう。
日本のローカルに根付く文化には多様性があり、そこにある精神性は先住民文化とリンクするポイントが非常に多いものである。きちんとした精神性を保ち、偏った商業主義に陥らないようにするため、勧告で述べられていることをしっかりと学び、叡智(えいち)を模索しながら交流・伝承の在り方をアップデートしていくことを期待したい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)