20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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新刊2冊ご紹介

2013年03月05日 | Weblog

         

『くものちゅいえこ』(森川成美作・佐竹美保絵・PHP研究所)

 森川成美さんの単書でのデビュー作です。

「ちゅいえこ」というのは、くもの女の子の名前です。この不思議な名前のくもの女の子を、佐竹さんの絵が、とても見事に表現されています。

 凝り性の彼女は、古道具屋に置かれた古い扇風機に丁寧にうつくしく網をはります。

 ところがある日、訪ねてきたお客さんに、その扇風機が売られてしまうことに。

 命からがら逃げ出したちゅいえこが、次に逃げ込んだ場所は・・・。

 翻訳童話のような,洗練された語り口で、古道具屋というシチュエーションで、総明で勇気のある、そして几帳面な「ちゅいえこ」というくもの女の子の様子を生き生きと描きだしています。

 そこに、扇風機と古時計との関係性を、ハラハラドキドキさせながら楽しませてくれています。

 とても上質な、幼年童話に仕上がっています。

          

『林業少年』(堀米薫作・スカイエマ絵・新日本出版社)

 読みながら,後藤竜二の『故郷』(偕成社)を思い出していました。堀米さんにとって、この家族は必ずしもご自身のご家族がモデルではないかもしれません。

 しかし人物形象のディテール,描写、そのひとつひとつに、モデルではないかと思うくらいのリアリティを感じました。

 我が子のように慈しみ、家族から「金食い虫」と揶揄されながら、それでも長い年月をかけて育てあげた、山の樹齢数百年の木の一本の値段がそんな安いとは!

「相対」と言われる向き合い交渉しあう瞬間の緊張感。

 家族みんなで見守る中で木を切り落とす瞬間。

 そして馬がその木をひいて山からおりていく瞬間。

 それらの描写は、圧巻です。

 堀米さんの、働くことへの誇りと畏怖。そして家族への信頼感が、まぶしいくらい生き生きと描かれています。

 皆さま、この2冊、どうぞお読みになってください。

コメント (4)
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