友人の作家・石井睦美さんが、大人向けのご本を出版されました。
『皿と紙ひこうき』〔講談社・日本児童文学者協会賞受賞作〕を拝読したころから、作家・石井睦美の文学の真骨頂である繊細に内面世界を描くといったスタンスが微妙にかわりつつある。そんな予感のようなものを感じていました。
今回の作品も、これまでの文体のセンス、登場人物の繊細な内面を描写する物語世界の、石井睦美らしい静謐さを残しつつ、ドラマティックな展開が用意されていたことに驚き、魅せられました。
その驚きの極めつけが、話題になった四方田犬彦さんとの共著『再会と別離』(新潮社)でした。
石井睦美は、四方田犬彦との往復書簡で、自らのすべてを赤裸々に語りはじめたのです。
その作家としての覚悟の決め方が、この作品にも投影されているような気がします。
少女の語りで綴られるこの本には、さまざまな魅力的な大人たちが登場します。
その中に、石井睦美がはじめて「嫌な人」と思える人物造詣を描出しています。けれどそこには、人間の光と闇までもがきちんと書き込んであります。
人と人との繋がりというのは、ただ血のつながりだけではなく、その人の生きる姿勢において、さまざまな繋がりが生まれ、支えられ、そして人生を切り拓いていくことができるのだということを、この作品で力強く語っています。
日経新聞の2月27日の夕刊の「目利きが選ぶ今週の3冊」の中で、評論家の北上次郎氏は、ベスト1の小説として、この『愛するひとにさよならを言う』を取り上げています。〔一部を抜粋します〕
女性を描く小説には、唯川恵『肩ごしの恋人』、角田光代『対岸の彼女』と傑作が少なくないが、それらの名作にまた新たな作品が加わった。・・愛しくて、切なくて、忘れがたい小説だ。うつくしい小説だ。
皆さま、ぜひお読みになってください。