たいへん遅れてしまいましたが、現在とても勢いのある作家の皆さんの新刊をご紹介いたします。
『思い出をレスキューせよ!』(堀米薫・くもん出版)
作者である、堀米薫さんの対象を見つめるまなざし、それを掴み取ろうとする感性には、いつもすごいなと思っています。
宮城県にお住まいである堀米さんだからこその視点からのご本を、次々とご出版されています。
今回の作品は、東日本大震災を語りつぐ物語として「記憶をつなぐ、被災地の紙本・書籍保存修復士」という方を取材し、ノンフィクションにまとめた1冊です。
大船渡に在住している、古くなったり痛んだりした本を修復し保存治療という仕事をなさっている金野さんのこれまでの人生と、震災後の彼女の仕事について丁寧に描かれています。
このご本を読んで、私は紙本・書籍保存修復士という仕事があるのをはじめて知りました。
受け継いだ記憶を未来にバトンタッチしていくこと。
胸に残る言葉です。
『石を抱くエイリアン』(濱野京子・偕成社)
1995年に生まれ、2011年3月に卒業式を迎えた15歳の子どもたちの一年が綴られています。
物語は、家にあるあらゆる辞書から主人公の「市子」は「希望」という文字と説明を切りとるという衝撃的なシーンからはじまります。
作品の舞台は茨城。
語り口調の軽さ、のびやかさが、この重たいテーマに、ほどよいバランスをとっています。例えば、主人公姉妹の名前が、姉、妹を分解してつけた名前という、ややふざけた感じからも、重いテーマを俯瞰して敢えて冷静に読者に伝わるよう、力を抜いて書いている作者の姿が浮かんできます。
1995年に生まれた子どもたちは、15歳になる3月11日にあの原発事故と震災を体験したのです。そこをすくい取ったこの作品は、きっと濱野京子さんの代表作の1冊になっていくだろうと思いました。
市子と、偉生の、不器用なまでの誠実さにも、胸をうたれました。
『5年2組横山雷太、児童会長に立候補します!』(いとうみく作・鈴木びんこ絵・そうえん社)
いとうみくさんも、生身の子どもたちが立ち上がってくるような作品を書かせたら天下一品の作家です。
彼女の作品は、いつも直球勝負です。中でも特にこの作品は、まさに直球中の直球。ど真ん中にストライクを投げ入れたような作品です。
直球ゆえに、元気な子どもたちの姿が立ち上がってきます。
クラスメイトと「なんでも屋」をやっている雷太は、ひょんなことから先輩に見込まれ、生徒会長に立候補することになります。生徒会長に立候補、なんていうとひと昔前の物語を想像しそうですが、そこをいとうみくの筆の力は、凡庸には落としません。
雷太たちの「たのしい」をキーワードにした選挙活動からはさまざまな子どもたちの今が見えてきます。とにかく文体に勢いがあります。
立候補した雷太は、どうなったかって?
それは読んでのお楽しみ・・・。
『恋する和パティシエール5』(工藤純子作・うっけ絵・ポプラ社)
工藤純子さんの人気シリーズ『恋する和パティシエール』の第五巻です。和菓子屋さんといわず、「和パティシエール」と呼ぶことが、いかにも小学女子の支持を受けそうなタイトルです。
工藤さんは、いつもそんな小学生の女の子たちによりそった物語作りをしています。
このシリーズの醍醐味は、今回はどんなオリジナルなお菓子を作るのかしらというところです。そこに商店街の人たちが絡んで来る・・・。
登場人物は、和菓子屋の娘「杏」とお茶屋の孫「倫也」、そして転校生で洋菓子屋の娘の「マリエ」
今回もこの3人組が、オリジナル溢れるお菓子作りにチェレンジします。
スーパーなどに押され、経営のたいへんな商店街へのエールも、このお菓子作りの根底には流れています。
お菓子作りの好きな子どもたちには、巻末にお菓子のレシピも載っています。
親子で楽しめるシリーズです。
『おばけのポーちゃん おばけどうぶつえん』(吉田純子作・つじむらあゆこ絵・あかね書房)
ナンセンスを得意とする吉田純子さんの、幼年向けの新しいシリーズです。
おばけのポーちゃんは、泣き虫で、こわがりです。
ポーちゃんはおばけ小学校に通っています。授業中、教科書に載っているおばけを見ただけで金縛りにあって、泣き出す始末。
そんなポーちゃんのこわがりを直させるために、ろくろっ首のクビコ先生に、「おばけどうぶつえん」にいって勉強すればこわがりがなくなると、教えてもらいます。
そこで出会った「化け猫」「カッパ」「やまたのおろち」とのお話です。
こわがりで、泣き虫のポーちゃんは、そこで天真爛漫さから、対決の糸口を作り出します。
オバケ大好きな子どもたちにとっては、わくわくするようなシリーズのはじまりです。
皆さま、この5冊、どうぞお読みになってください。