*このシリーズは山行報告ではなく、私のこれまで登った奈良の山をエリアごとに、民話や伝説も加えて随筆風にご紹介しています。季節を変えたものや、かなり古いもの写真も含んでいます。コース状況は刻々変化しますので、山行の際は最新の情報を入手されますようお願いします。*
(121) 大所山(おおどころやま)<1346m>「美しい自然林と渓谷」
別称・百合ヶ岳。大峰奥駈道の五番関と今宿跡の間から東へ派生する支尾根の末端にある。吉野川支流の下多古川と高原川と挟まれるが、下多古側は植林だが高原側は深い自然林が残っている。山頂付近もブナの自然林の中で、冬の落葉期には大峰山系の展望が得られる。初夏のころはヤマザクラ、ミツバツツジなどが新緑に彩りを添え、南側の下多古谷は弁天岩から琵琶滝、中ノ滝と素晴らしい渓谷美を見せる。
一般的な登山路は川上村下多古より下多古林道に入り、徒歩1時間で登山口。車の場合は登山口まで進入できる。2004年2月、日本山岳会関西支部8名で登った。登山口から村有林を過ぎ、涸れた谷を何度か渡り返して、二段になった小滝の前に出る。
ジグザグの登りで明るい疎林から伐採跡に出ると視界が開け、正面に白鬚岳の美しい三角錐、その左に池木屋岳、右には日出ヶ岳が望め、更に右に勝負塚山が近い。
小さなピークを越えて雪の稜線を行くと、美しいブナ林の中にぽっかり開けたような頂上に着いた。南には大普賢岳から山上ヶ岳、弥山、稲村ヶ岳へと続く稜線が指呼の間に、また反対側には四寸岩山の穏やかな山容が望まれる。
下山は殆どの人が登路を引き返すようだが、私たちは南西に延びる稜線を下った。
2009年5月、山友の女性二人と私たち夫婦で同じコースを辿った。頂上から尾根を下るとシャクナゲ林になり、それが疎らになるところが一番の難所で、大岩の横に危なっかしい木の梯子がつけられている。次の難所、長い岩場の下りにはマダラロープが張ってあった。植林帯に入ると膝が悲鳴を上げるような急坂の連続で、木の幹を頼りに下る。
登山口から琵琶滝に続く水平道に出たときは正直ほっとした。あまり登られていない不遇の山だが、大峰の前衛にふさわしい深山の趣があった。