「負け犬の遠吠え」で世に出たエッセィスト、酒井順子さんの震災後の独身者を取材したルポルタージュ。
まず問題の立て方が面白いと思った。東北の大震災以来、絆ということがよく言われ、家族愛がクローズアップされることも多かったけど、じゃ、独身者は地震の時とそれ以後、どうしていたかと考えるのが酒井さんらしい。
医療機関のような職場では、家族のいない身軽な独身者は、職場に出てこない家庭持ちの人の分まで働くことが多かった。家族持ちは家族第一の人と仕事優先の人に分かれるらしい。未曾有の災害の時は、その人となりがよく顕れる。出てこない人を責めることは出来ないけど、出てきた人同士は連帯感を持って仕事をしたとある。なるほど、そういうこともあっただろうと思う。
家族はいないけれど、親は大切、故郷へ帰って家業を継ぐ決心をする人。東北と全然関係ない独身者もたくさんボランティアに参加して、自分たちの考えで柔軟に動いているのが頼もしかった。
ここにあるのは既成の価値観、権威にとらわれず、己の欲するところに従って動いた人たちである。非日常はその人の本質をあぶりだす。何かと否定的にとらえられがちな独身者だけど、自由に動ける利点がボランティアなどでよく発揮されたと思う。まだまだ日本人も捨てたものではないと思った。自分の頭で考え、体で行動する。ここに新しい日本人を見る気がする。
他の本と違って真面目な語り口に好感を持った。また、地道に話を聞いて相手のことも理解しようと努めている。読んで何だか気持ちがすっきりした。人に親切にするのはとても気持ちがいいのだと教えられた。
引きこもっていても何も始まらない。人は人のつながりの中でこそ生きられる。困った時こそ知恵を出し合って助け合う。災害は起きない越したことはないけれど、人と人がダイレクトに向かい合う、ユートピアが一瞬出来たのだと思った。
鎧を捨てて真心こめて人に向かい合う。人との付き合いはこれに尽きると、地震とは関係ない話になりましたが、そう思った。