■■【経営コンサルタントのお勧め図書】200425 データとファクトで読み解く「ざんねんな中国」
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『データとファクトで読み解く「ざんねんな中国」』
(高橋洋一 石平 著〔対談〕 ビジネス社)
■ 中国に係るメタに基づく情報を得るチャンス(はじめに)
紹介本では、“スーパー経済学者”の高橋洋一と“無敵のチャイナ通”の石平が、これまで対談の機会が無かったことが不思議だった二人の対談を通じ、中国に係るテーマを「米中貿易戦争の裏側で起きていること」「中国の実力を検分する」「粉飾の大国」「異形の国の不動産バブルと国際ルール」「香港は中国の支店になった」「台湾は守れ!韓国は見放せ!」「中国の本質」「日本経済に浮上の目はあるか?」の8つの章60(‟まえがき”と‟あとがき”を含む)項目につき、分析・解き明かしています。
対談は、忖度や自分の思い入れではなく、数字や事実に基づき客観的に分析をしており、“メタ(表に必ずしも現れない事態の原因となっている真の事実)”な情報を得ることが出来ます。経営の参考にできる情報を得る良い機会ではないでしょうか。
それでは、8つの章・60の項目の中から、私の注目点を選び、次項でご紹介します。
■ 中国を読み解く「注目点」
【関税の掛け合いで困っているのは中国】
米中貿易戦争の関税掛け合いの結果、どの様に小売価格に反映されているのか、対談で明らかにしています。中国国内におけるアメリカからの輸入品の小売価格については把握出来ていないとしつつ、アメリカ国内における中国の輸入品の小売価格は上がっていないことを明らかにしています。
その背景を分析し、中国からの輸入品は“代替品”つまり輸入先を台湾などの他国に替えられる物であるとし、結果中国企業がアメリカへの輸出品の小売価格が上がらないよう輸出価格を下げて関税分を“被って”いると結論付けます。トランプ政権は、絶対にアメリカ国内の小売価格が上がらないことを確認しながら段階的・戦略的に制裁関税を掛けて行ったとします。
制裁関税の掛け合いは、中国の習近平政権の負けと結論付けます。中国はアメリカの貿易赤字を減らしアメリカの雇用創出をする政策(日本がとってきた対米戦略)は採らないし、一方アメリカも、中国資本・中国人を入れたら技術を盗まれると信用していないことから、アメリカ及びアメリカの影響力の強い経済圏に係る中国・中国人の進出は更に難しくなっていくと指摘します。
またTPPについては、社会主義のベトナムが体制の変革を決め、痛みを覚悟し加入したが、中国については、金融の自由化・国有企業の改革が共産党体制を堅持する限り出来ないことから、加入できないとします。
この様な状況を背景に、米中貿易戦争が長引くと、「アメリカ企業を含めて多くの外国企業が中国を離れる動きが出てくる」と指摘します。
【中国の対外政策の“韜光養晦”から“奮発有為”への大転換は正しかったか】
対談は、中国の対外政策は、鄧小平・江沢民・胡錦涛の時代の政策から習近平時代の政策へと大きな転換がなされたと指摘します。それは、“韜光養晦(とうこうようかい;能力を隠して力を蓄える)”政策から “奮発有為(ふんぱつゆうい;勇んで事をなす)”政策への大転換がなされたというのです。
また、対談は次のように“韜光養晦”政策と“奮発有為”政策の良否の比較をしています。『仮に今の中国の最高指導者の懐が深く、あと10年間我慢したら、アメリカも日本もどうにもならないかもしれない。しかし、習近平が指導者になり本性を剥き出しにして「先端技術でアメリカと競う」「一帯一路を打ち出して、アメリカを排除する」「軍事力を増大して南シナ海、東シナ海からアメリカを追い出す」と打ち出し完全にアメリカを怒らせてしまった。』『オバマは緩くて、いずれ中国は民主化するだろうとする甘い考えだった。天安門事件(1989年6月)以降30年間、アメリカも日本も“韜光養晦”政策に騙され続けて来た(が“奮発有為”政策で本性が見え目覚めた)。』と。
さらに対談は、“奮発有為”政策で打ち出された“中国製造2025”“一帯一路”“AIIB(アジアインフラ投資銀行)”は『世界との標準が違い過ぎてワークしていない』と指摘します。
結局“奮発有為”政策が、『米中貿易戦争を引き起こし、中国の傷を深くした』と指摘し、米中貿易戦争・米中経済デカップリングにおいて、中国が不利であることを明らかにしています。
【“政治的自由”と“経済的自由”はパラレル】
対談では中国に関し、厳しい指摘をしています。『社会主義国は大国になれない。それは根本原理に“自由”がないからである。自由がない国には経済発展がない。』『政治的自由と経済的自由はパラレルでなければならない。これはミルトン・フリードマンが語っているが、正論である。』と指摘し、共産党政権がコントロールする中国の限界を社会科学理論から説いています。
■ 対談から今まで知らなかった情報を得て、今後の経営の参考とすべし(むすび)
対談での中国に対する見方は、私が日本経済新聞(対談では“中国ベッタリの報道”と表現している)やTVなどのマスコミから得ている情報に比し、深く踏み込み且つ厳しい見方をしていると思います。いずれにしても、先行きどの様な状況になるのかは不透明・不確実といえましょう。
この様な不透明・不確実な事象は、リスクと認識するのが正しい考え方ではないでしょうか。対談から読み取れる厳しい情報を一つの情報として頭に入れ、経営判断の材料としていく必要があるのではないでしょうか。
【酒井 闊 先生 プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
http://sakai-gm.jp/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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