経営コンサルタントへの道

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【経営コンサルタントのお勧め図書】 2025年の日本の論点 日経大予測

2025-01-28 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 2025年の日本の論点 日経大予測 

 
 経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
【 注 】
 今月は、図版ファイルにリンク付きURLにて掲載しています。
本
■    今月のおすすめ

   『日経大予測2025「これからの日本の論点」

日本経済新聞社編 日経BP 日本経済新聞出版本部
 

     発売日 ‏ : ‎ 2024/10/26     単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 360ページ
     ISBN-10 ‏ : ‎ 4296121189  ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4296121182
     寸法 ‏ : ‎ 21 x 14.8 x 2.3 cm

本

■  2025年の「日本の論点」に注目してみよう(はじめに)

 紹介本は毎年日本経済新聞社から新年に向けて出版される恒例の本です。

 2025年版で留意して置きたい事は、2024年10月25日に発刊されており、11月5日に投開票された米大統領選挙におけるトランプ氏圧勝の事象が織り込まれていないことです。

 2025年1月20日にスタートする、トランプ政権の政策、つまりウクライナ戦争対応、中東戦争対応、気候変動対応、対中対応などを注視する必要があります。

 2025年版「日本の論点」は、「日本は現状維持すら危ういのか」「押さえておきたいビジネスの勘所」「世界を巻き込む米欧中露の対立」の3Chapter、22論点に亘って日本経済新聞の専門記者22人が2025年の予測を示しています。

 それでは22論点の中から、注目論点を、Chapterに沿って、次項で紹介します。

本

■  2025年の注目論点

 

【日本のGDP、世界第5位に、覚醒なくして成長なし-論点6-】

 「ジャパン・アズ・ナンバーⅩ」という表記を最近見かけます。このⅩの推移を見てみましょう。Ⅹに「ワン」が入った時代は、1968年、当時の西ドイツをGDPで上回り、米に次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出た頃です。

 1979年にエズラ・ヴォーゲルの著者『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(Japan as Number One: Lessons for America)が出版されました。そこでは、日本が1955年~1973年にかけ平均10%を超える経済成長を遂げた時代の経済的・社会的な成功を収めた要因を分析し、アメリカをはじめとする他国が学べる教訓を提示しています。

 その成功要因としてヴォーゲルが挙げているのは、教育制度(日本の教育水準の高さ、競争的な受験制度など)、官民協力(通商産業省と企業の連携)、企業文化(人間中心などの日本的経営による労働者の高いモチベーション)、社会的安定(良好な治安や強いコミュニティ意識)です。

 しかし、今の日本は、「ゆとり教育」、「日本企業より外国企業を利する経産省の脱炭素政策」、「『働き方改革』による働かない改革」、「日本人の仕事への熱意保有者の比率は5%と145カ国中最下位」、「日本の犯罪件数は、過去最低の2021年57万件が、22年60万件、23年70万件と20年振りに増加し治安が悪化」など、教育・産業政策・企業文化・社会的安定の全ての分野で、エズラ・ヴォ―ゲルの示した成功要因(上記)に逆行しているように思えます。この結果、一人当たりGDP世界ランキング(IMF)では、ピークは2位(2000年)でしたが、直近(2023年)では韓国にも抜かれ34位です。予測では、2024年には台湾にも抜かれます(日経2024.12.18電子版)。

 そのヴォーゲルは、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の出版から27年後の2006年11月11日の「週刊ダイヤモンド」で、失われた17年からの日本再興の要件として、個々人の仕事への熱意と、それをリードする、社会への真の責任意識を持ち、党派や利害関係を超越した、リーダーの出現を掲げます。(2024.2.21 DAIAMOND onlineの記事より)

 「論点6」は、この「Ⅹ」が、2010年には中国に抜かれ3位に、2023年にはドイツに抜かれ4位になり、更にこの先、2050年にはインドとインドネシアに抜かれ6位に、2075年にはパキスタン・エジプト・ブラジル・英国などに抜かれ12位になるとのゴールドマン・サックスの予想を引用し、『今こそ「政・官・民の覚醒」により「Ⅹ」を小さくする時』と主張します。

 2025年こそ、社会への真の責任意識を持ち、党派や利害関係を超越した、政・官・企業のリーダーが出現し、日本の社会・経済を覚醒させ、失われた30年から脱出する年となることを期待したいですね。

 

【会社脳が企業の競争力を左右、生成AIが企業経営を一変させる-論点11-】

 「論点11」は、次のような指摘をします。「2025年は生成AIを『試す』という段階を過ぎ、本格的に経営に『生かす』ための知恵を問われる年になる」と。

 この生成AIの象徴的な存在が、生成AIの一種である、LLM(Large Language Models-大規模言語モデル-)のオープンAI社のChatGPTです。2022年11月にプロトタイプを公開し、2か月で利用者が1億人に達しました。

 2024年5月のChatGPTのユーザーは23億人です。ChatGPTは膨大な学習データ・情報から最適なアウトプットを生成できる点が特徴であり、また、企業の独自のデータや知見をAPI(application programming interface)で連携して活用することで、経験の浅い従業員でも、一定以上のアウトプットを作成できるようになります。この様な特徴を生かし、「業務自動化による人手不足の解消・コスト削減」「業務サポートによる品質・スピードの向上」「社内知見の共有・業務の標準化」「マーケティングの最適化・費用対効果向上」「顧客体験のパーソナライズ・自動化」「新規商品・サービスの創出」などの分野で活用することが可能です(AI総研H・Pより)。

 また、AppleとChatGPTの連携も注目されています。2024年6月Apple社はSiriとChatGPTを連動させた生成AI「アップル・インテリジェンス」を発表し、2024年10月からiPhone等のOSに組み込みます(日本語版は2025年以降)。

 ChatGPTなど(他にはGoogle Gemini、Perplexity、Microsoft Copilotなど)の生成AIに対する評価の一例をあげましょう。星野リゾートの星野代表は次のように評価します。「生成AIは、観光産業を変革する、嘗ての3つの変革(①周遊型から滞在型②インバウンド③スマートフォンでの顧客獲得などのIT化)に次ぐ4つ目の大きなチェンジとなるばかりでなく、生成AIとのブレーンストーミングにより、従業員の創造性を刺激する良きパートナーであり、人力による業務をAI化することで経営戦略にかかわる業務に従業員のエネルギーを振り向けることを可能にする」と。

 電子情報技術産業協会によれば、日本における生成AI市場の需要見通しを、2023年1,180億円、2025年6,879億円、2030年1兆7774億円(7年で15倍)と予測しています。

 また、「論点11」は、2025年以降、この生成AIの企業版LLM「会社脳」が広がる可能性を指摘します。具体例としてパナソニックホールディングの例を挙げます。パナソニックはグループ内の製品情報、技術情報などの社内データによるパナソニック専用のLLMを構築し、研究開発や設計・製造、営業などの多くの部門で社員が活用できる仕組みを目指します。つまり、世の中に存在するデータ全体を見ると、ChatGPT等のインターネット上のオープンデータによるLLMは20%に過ぎず、残りの80%は企業などの組織内にあります。2025年は、この残りの80%の生成AI化により、企業経営を一変させる時代と指摘します。「企業版LLM」に注目していきましょう。

 

【プーチンの逆襲、侵略戦争から外交戦へ-論点22-】

 「世界を巻き込む戦争の足音-論点2-」の中で次のように指摘します。「中露朝の枢軸を背景に、ウクライナ戦争を舞台に、欧州は準戦時状態に入り、中東では全面戦争の危機がくすぶり、アジア太平洋では朝鮮半島、東・南シナ海での緊張が高まり、世界を巻き込む戦争の足音に対峙している」と。

 また、「論点22」の「プーチンの逆襲、侵略戦争から外交戦へ」では、プーチンが目指す、「多極世界」外交政策による、「米一極世界」を突き崩す、新たな世界秩序の形成に焦点を当てています。

 論点22の記者は、プーチンの新たな世界秩序形成への外交戦略を「三層構造」戦略と定義しています。一層目は、ユーラシアを横断するような反米枢軸国(注1)、二層目は、ユーラシア大陸全体に新しい秩序を広げようと目する、上海協力機構-SCO-(注2)、三層目は、中南米の国々を巻き込んだ、よりグローバルな枠組みの拡大BRICS(注3)です。

 一方、ロシアの足元では、集団安全保障機構-CSTO-(注4)からは、アルメニアが離反し、ソ連崩壊後に結成した独立国家共同体-CIS-(注5)からは、2009年ジョージアが、2018年にはウクライナが脱退し、茲許、モルドバが離反の意向であり、カザフスタンはロシアとの距離を置きはじめており、逆風が吹いています。

 最近では、2024年12月8日、ロシアがバックアップしていた、54年続いた、シリアのアサド政権が崩壊しました。加えて、2024年12月27日には、CSTOのメンバーである、キルギス・ウズベキスタンの総延長523キロの巨大鉄道プロジェクトが、永年、ロシアが主導権を主張し「頓挫」していましたが、ロシアがウクライナ侵攻の影響で投資余力がなく、しぶしぶ中国主導を承認し、中国主導の下、着工しました(2025.1.9.JETRO記事)。この様に、ロシアはウクライナ侵攻の代償として、旧来の「勢力圏」を喪失しつつあります。(注6)

 記者は、『プーチンは、この逆風に負けず、これらの「三層構造」の結束を強め、反米を目指す、「多極世界」への世界戦略を諦めることはない』と指摘します。

 さて、このような流れの中での注目は、2025年1月20日にスタートするトランプ政権後の世界情勢の動向に注目です。

 ここで、論点2や論点22とは異なる、最近のネット上の情報を見てみましょう。ネット情報によれば、トランプ政権スタート後、「24時間以内」が「6か月以内」に後退したものの、合意内容は兎も角、ロシアとウクライナは停戦すると予測します。

 さらに、トランプは、ウクライナ停戦後には、お得意のディールで、ロシアに対する制裁を緩めることで、ロシアのイランに対する影響力を利用し、一方、イスラエルにはアメリカが影響を及ぼし、中東紛争を終結させると予測します。

 また、中東紛争の終結を予測してか、2024年12月、インドとUAEが会談し、2023年9月のG20ニューデリーサミットで、インド、米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、フランス、ドイツ、イタリア、欧州連合(EU)が参加を表明し、覚書に署名した「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」プロジェクトが、一時中東紛争から関係国の協議が遅れていましたが、ここにきて、具体的推進で合意したのです(注7)。

 『ロシアの「足元」で吹く「逆風」』に加え「IMECプロジェクト」など、今後の地政学的変化は見逃せません。

 いずれにしても2025年の注目論点です。

(注1)     反米枢軸国:中露、イラン、ベラルーシ、北朝鮮の5ヶ国

(注2)     上海協力機構-SCO-:中露、インド、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、パキスタン、イラン、ベラルーシの10ヶ国

(注3)     拡大BRICS:中露、ブラジル、インド、南アフリカ、エジプト、イラン、エチオピア、アラブ首長国連邦、エチオピア、インドネシアの11か国から成る国際会議。更に、ベラルーシ、キューバ、ボリビア、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、タイ、ウガンダ、トルコ、アルジェリア、ベトナム、ナイジェリアなどが加盟希望。

(注4)     集団安全保障機構-CSTO-:ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6か国。2024年6月にアルメニアが脱退表明。

(注5)     独立国家共同体-CIS-:ロシア、ベラルーシ、モルドバ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、トルクメニスタンの10か国。CISは貿易・投資協定の側面があり、アルメニアはCSTO脱退表明後も留まる意向。

(注6)     本欄の『ロシアの「足元」で吹く「逆風」』に登場した国々を、Google Map上〔図1〕に表示しました。〔図1〕は下記URLを参照ください。

 

http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20250128-1russia.jpg

↑ 拡大

 

(注7)     IMEC(インド・中東・欧州経済回廊)のルート図は〔図2〕を参照。(詳細情報は2025.1.14日経電子版)〔図2〕は下記URLを参照ください。

     IMEC:India-Middle East-Europe Economic Corridorの略

 

http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20250128-2IMEC.jpg

↑ 拡大

本

■  2025年は変化の年(むすび)

 2025年は、生成AI、AI時代のエネルギー問題、中露vs欧米の関係などに於いて大きな変化が見込まれます。注目していきましょう。

本

【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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【経営コンサルタントのお勧め図書】 数理でFactを追求 日本はどこに向かおうとしているか

2024-12-24 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 数理でFactを追求 日本はどこに向かおうとしているか   

 経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経 営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
【 注 】
 今月は、図版ファイルのページ数が多いためにリンク付きURLにて掲載しています。
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■    今月のおすすめ

   『「日本はどこに向かおうとしているか
     ~ 数字を正しく見ないと騙される!

      政府も財務省もマスコミもウソを言う! ~」

(高橋洋一著 徳間書店)
  

 

ISBN-13978-4198658489

本

■ 数理でFactを追求(はじめに)
 紹介本の著者のYou Tube「高橋洋一チャネル」の直近の登録者数は、120万人です。真面目な政治・経済の個人チャネルで登録者数100万人超えは稀有の存在です。その様な人気の源泉はどこにあるのでしょう。私見ですが、数理経済学者である著者の所見は、自身のその時その時のポジションに関係なく、数理に基づく真実・真理(Fact)を追究し続けていることです。
 その一例を、紹介本からご紹介しましょう。『今から30年ほど前(大蔵省理財局資金第一課資金企画室長のとき)に、・・・国の財政状況を正確に言うために、国のバランスシートを作らざるを得なくなった。その当時、それが出来るのは私に限られていたので、バランスシートを作ったら、それまで大蔵省が主張していた「借金が大きいから財政危機」という話はウソで、(負債以上の)資産があるので危機でないことがわかった。17年前に退官するまでは、対外的に黙っていたが、小泉政権と第一次安倍政権では、バランスシート分析で財政危機ではないと言い、それに基づく(積極財政)政策を実現してきた(紹介本P22,23)』の通り、著者は、当時の大蔵省の意向に反してでも、Factを追求し、そのFactを国・社会の発展のために、タイミングを狙いながら、生かして来たのです。
 それでは、次項で紹介本の注目記事をご紹介しましょう。

■ 「失われた30年」から脱却し、力強い明日を目指すには

 

【この30年、間違い続ける財務省と日銀】

 筆者の私は、「失われた30年」から脱却し、力強い明日の日本を築くため知見は何かを模索してきました。そこで出会ったのが紹介本です。紹介本の著者が「この30年、間違い続ける財務省と日銀」で指摘する間違いのアンチテーゼが、「失われた30年」から脱却する知見になると思い、著者の指摘する「財務省と日銀の間違い」に焦点を当ててみました。

 その前に「失われた30年」の定義をしておきましょう。「失われた30年」はバブル崩壊後の経済の長期停滞を指します。1989年12月29日(大納会)に、日経平均株価は38,915円87銭を付け、1990年1月から下がり続けます。この時がバブル崩壊と言われています。(2024年2月22日に1989年の大納会の史上最高値を更新(3万9098円68銭)。7月11日には4万2224円02銭をつけました。)

 著者は、バブル期(1987~1990年)の経済環境について次のように述べています。「実は、マクロ経済状況はよかった。インフレ率(コアcpi)は▼0.3~3.3、失業率は2~3%と申し分のないパーフォーマンスだ。株価と土地だけが異常な値上がりだったのである」と。著者はこの後に(1998年ごろ)ブリンストン大学に研究員として派遣されていた時、師であるペン・バーナンキ(ノーベル経済学者)に、係るケースへの対応策を聞いたところ、その答えは、「株などの資産価格だけ上昇しているとき必要なのは、資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価や失業率に影響のある金融政策の出番ではない」でした。

 著者は、このバーナンキの答えを頭に置きながら「失われた30年」の原因を次のように指摘しています。『バブルは、証券会社の「財テク商品(営業特金)」と「金融機関の不動産融資」を規制すれば終わりだったにも拘らず、その後の緊縮財政と金融引き締めを行ったのがまずかった。さらにまずいのは、アベノミクスで、その呪縛が一部解かれたが、いまだに緊縮財政が顕在している』と。

 「失われた30年」の原因である「まずさ・間違い」について、〈1〉「金融引き締めの問題点」、〈2〉「緊縮財政の問題点」について、その①「不適切なPB」、その②「過大な社会的割引率4%」の順に、詳しく見てみましょう。

 〈1〉まず、金融引き締めの問題点について触れてみましょう。

 著者の考えは、「マクロ経済のパーフォーマンスの良いときは引き締めをしてはならず、パーフォーマンスの悪いときは金融緩和をすべきことに加え、ビハインド・ザ・カーブ(政策を確実に行うためには、各種のデータが出そろうまで見極めて正しい選択を行う)で実施すべきで、アヘッド・オブ・ザ・カーブ(先手を打つ)による見切り発車は、間違った選択になる」です。

 バブル直後のパーフォーマンスの良い時にも拘わらず、バブル潰しのために、当時の三重野総裁は引き締めを行った。また、2008年のリーマンショックの時、先進国の中で唯一金融緩和をしなかった日銀(白川総裁時代)の罪は重い。デフレのA級戦犯は日銀、と著者は言います。

 一方、2013年、第二次安倍内閣下で着任した黒田総裁は、マネタリーベースを2年で2倍にする量的金融緩和政策を実施し(黒田政策について、当時のFRB議長のバーナンキは「不十分で中途半端である」と評した。バーナンキはデフレ脱却のため、米のマネタリーベースを約5倍にする大規模な緩和を実施した)、失業率の改善や実質賃金のプラス化などを図れたものの、デフレからの脱却はできないまま2023年4月植田総裁に引継ぎました。植田総裁は2024年3月「金利のある世界」を目指し、+0.1%(▼0.1~0⇒0~0.1)の利上げに踏み切りました。しかし、この時期、名目賃金が+1.9%に対し実質賃金は▼1.4%、GDPギャップが15兆円程度ある等を考えると、植田施策はアヘッド・オブ・ザ・カーブであり、著者は、見切り発車の落第と評価します。

 日本銀行は、「無謬性」(自分は正しい)の姿勢と、経済パーフォーマンスよりも(自分達の天下り先である)金融機関の経営重視姿勢からくる金融政策を改め、データに基づく金融政策に変えるべしというのが、著者の結論です。

 〈2〉つぎに、緊縮財政の問題点について触れてみましょう。

 著者は、過去30年の経済停滞要因を、デフレと、政府の過少投資としています。デフレの要因は金融政策ですが、過少投資の原因は、緊縮財政の結果としての、①不適切なPB(プライマリーバランス)と②過大な社会的割引率4%に問題があったとします。

 不適切なPBの背景は、財務省の大ウソである「日本の財政危機に基づく、緊縮財政です。

 著者は、日本の財政状況は、2018年から始まったIMFのPSBS(Public Sector Balance Sheet)による、統合政府のネット資産により、正しく判断できるとします。

 つまり、連結(中央政府+地方政府+政府関係機関+中央銀行)ベースのネット資産(グロス資産-グロス負債)で判断すべきなのです。PSBSのネット資産算出の注目点は次の二つです。中央銀行のバランスシートの負債のうち、銀行券と当座預金(マネタリーベース、日銀は2024年3月末682兆円)対応分は、経済的な意味での負債性はないので差引かれます。また、中央銀行が保有する中央政府が発行した国債残高(日銀は2024年3月末590兆円)は、連結で、相殺されます。この結果日本の統合政府のネット資産はほぼゼロになります。外国為替資金特別会計の含み益(45兆円)を勘案すればプラスです。ネット資産ゼロの日本は、G7における財政状態の健全さでは、カナダに次ぐ2番目です。

 従って、著者は、中央政府の財政収支のPBではなく、統合政府の連結ネット資産のPBが正しいとします。建設国債で公共投資(道路など)をする場合、統合政府PBを基準とすればネット資産ゼロですので実施OK、中央政府の財政収支のPB基準では実施NOとなります。

 次に過大な社会的割引率4%ですが、ゼロ金利時代に、割引率4%では、プロジェクトが成り立つわけがありません。著者は、適切な社会的割引率であったならば、G7各国と同レベルの成長を遂げたとの試算(JPタラレバ)をしています。「JPタラレバ」は(注1)の〔図1〕のP1の〈グラフ2〉をご覧ください。

 著者は、『失われた30年」から脱却し、力強い明日の日本を築くには、「中央政府の財政収支PB」及び「社会的割引率4%)」の政策を変えなるべし』と言います。

(注1)   過少投資の一例として「各国公的資本形成の推移」及び「過少投資の原因は過大な社会的割引率」について、下記URL〔図1〕を参照下さい。

 図1URL: http://glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241224-1.pdf

 

(注2)   “大ウソの『日本の財政危機』を検証する” “統計的には、統合政府PB(ネット資産)が正しい”について、下記URLの〔図2〕を参照下さい。

 図2URL: http://glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241224-2.pdf

【日経平均最高値更新はバブルか?】

 2024年2月22日、1989年の史上最高値を更新し、7月11日には4万2224円02銭をつけました。この高値はバブルでしょうか。著者は、理論株価(日経平均銘柄の経常収益)を大きく上回るのがバブルとします。バブル期の日経平均株価は、理論株価の2倍まで買われました。2010年前後の民主党政権時代には、過小評価のピークで、日経平均株価は理論株価の60%に止まりました。2012年、第二次安倍政権がスタートし、アベノミクス効果により過小評価が徐々に解消され、2020年には過小評価が解消されました。2024年7月11日の日経平均株価は理論株価と一致するレベルであり、バブルではないと、著者は言います。

(注3)「1960年~2022年の理論株価と日経平均株価の推移」は、下記URLの 〔図3〕を参照下さい。)

 図3URL: http://glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241224-3.pdf

【その他の注目記事】

 字数の関係から注目記事のご紹介は以上としますが、『改めて言う、円安は日本経済に「悪影響」ではない』『日本は金融ハブの座を(香港から)奪う好機』などの記事も、新たなデータが加えられており、注目です。

本

■ 力強い明日を目指す、財政・金融政策とはこれ!(むすび)

 上記で「失われた30年」の原因の一部を見て来ました「失われた30年」を脱却するのは簡単ではなさそうです。力強い明日の実現に向けて、政界、官僚、マスコミ等が、ファクトに基づく正しい認識をし、力強い明日に向けて尽力することを期待したいですね。

本

【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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【経営コンサルタントのお勧め図書】 明るい未来を語る国家戦略 日本を守る 強く豊かに

2024-11-26 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 明るい未来を語る国家戦略 日本を守る 強く豊かに  

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
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本
■    今月のおすすめ

   『「日本を守る 強く豊かに」―次世代の日本を築くための政策を訴えるー』

(高市 早苗著 ワック文庫)


 

出版社 ‏ : ‎ ワック   新書 ‏ : ‎ 232ページ
発売日 ‏ : ‎ 2024/9/21
ISBN-10 ‏ : ‎ 4898319076
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4898319079

 

本

■    総裁選で高い評価を得た、著者の明るい未来の国家戦略をみる(はじめに)
 今月のおすすめ本は、次の首相を決める自由民主党の総裁選において、決選投票で敗れたものの、第1回投票ではトップに立った、著者・高市早苗の国家戦略についての著書です。
 今回の総裁選の候補者9人の中で、日本の未来を俯瞰的に語っていたのは、著者、高市早苗です。著者が画く日本の未来を、紹介本から見てみましょう。紹介本と併せて、紹介本の集約版である、2024年9月9日に著者が総裁選の出馬表明に当たり発表した、政策集も見てみましょう。
(著者の出馬表明に当たり発表した政策集は以下URLを参照下さい。)
  https://sosaisen.sanae.gr.jp/policycontent/#policy
 ところで、私達コンサルタントは、経営戦略策定に於いて、PEST(Politics、Economy、Society、Technology)分析を行います。著者の示す政策は、今後の日本企業の経営に、良い意味で、大きな影響をもたらすことは間違いありません。その様な意味において、PEST分析の視点から、著者の政策を見てみたいと思います。
 著者の政策・国家戦略を、より正しく理解するために、著者の国家戦略を、マネジメントの基本である、「理念、ビジョン、戦略、戦術」に纏めてみました。以下URLの〔図1〕を参照下さい。
  URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241126-1takaichi.pdf

 纏めてみて、著者の国家戦略は素晴らしいことが解ります。理念、ビジョン、戦略、戦術が「エコシステム」的に繋がっており、政策の実現性は極めて高いと期待できます。総裁選に立候補した他の8名の候補者の方々で理念、ビジョン、戦略、戦術を体系的に示せたのは著者だけでした。
 著者のこの素晴らしい国家戦略は6つPOLICY(分野戦略;実行計画)として表現されています。『①大胆な「危機管理投資」と「成長投資」で「安全・安心」の確保と「強い経済」を実現』『②「全世代の安心感」を、日本の活力に』『③「防衛力」と「外交力」の強化で、日本を守る』『④「令和の省庁再編」に挑戦する』『⑤今を生きる日本人と次世代への責任を果たす』『⑥信頼される自民党、強い自民党へ』の6つです。(詳細は〔図1〕を参照ください。)
 6つのPOLICYの中の<POLICY1>『大胆な「危機管理投資」と「成長投資」で「安全・安心」の確保と「強い経済」を実現』政策から、「危機管理投資」と「成長投資」について次項で見てみましょう。
本
■    明るい日本の未来を築く、「危機管理投資」と「成長投資」
 著者の考えは、「危機管理投資」と「成長投資」に国家が積極的に投資を行い、経済安全保障を確保しながら、同時に、経済を活性化させ、強い日本を創り上げる好循環を創出しようとの発想です。その好循環における、スタートライン的な位置づけである、「危機管理投資(PLAN1~PLAN5)」と「成長投資(PLAN6)」に焦点を当ててみましょう。
 詳細は、〔図1〕のP4~P6の『「POLICY1」を達成するための「戦術・行動計画;PLAN1~PLAN6」』を参照下さい。
 

【食糧安全保障の確立(PLAN1)】
 著者は、日本の食料自給率は、カロリーベースで38%であり、世界の食料需要増加とサプライチェーン・リスクを考えると、農林水産業・食品産業を成長産業に発展させ、安定的に安全な食料を確保出来る様にする必要があると主張します。
 対応政策として、中山間地域も含め全ての田畑をフル活用できる環境作りのために、耕作放棄地解消対策、新規就農者支援、鳥獣被害対策などを講じ、持続的な食料供給の仕組みの導入を提言します。
 また、天候に左右されず、自然災害に強く、閉鎖した工場や学校・空き店舗・宇宙でも農作物の生産が可能な、従来型の5倍の生産性を誇るモジュール型の「完全閉鎖型植物工場」や、気候変動に影響されずに水産物を供給する「陸上養殖」の普及に向けて、高額な初期投資に対して、国による支援の強化を提言します。
 

【エネルギー・資源安全保障の強化(PLAN2)】
 著者は、日本のエネルギー自給率は、12.6%で、データセンター等の増加による電力消費量の急増は、大きな懸念事項であり、米・カナダ等でさえ対応策を打っていると指摘します。日本においても、特別高圧の電力を「安定的に」「安価に」供給できる対策を講じなければ、日本の立地競争力は弱くなり、円高で海外に転出した企業の国内回帰も困難になると指摘します。
 この、エネルギー安全保障への対応として、2020年代後半に向けては、軽水炉に比べ、小型化による安全性と経済性の向上が期待されるSMR(小型モジュール炉)や、高温ガス炉など「次世代革新炉」に関する取組を支援し、2030年代に向けては、「核融合炉(ウランとプルトニウムが不要で、高レベル放射性廃棄物が出ない高効率発電設備)」の実装を、着実に推進すべしと提言します。
 また、様々な産業に欠かせない重要鉱物については、国際情勢や地政学リスクに左右されない「国産資源開発」についても積極的な投資が必要であると指摘します。
 この、資源安全保障については、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で取り組んできた南鳥島海域のレアアース泥の、探査・採鉱・ 揚泥・製錬まで一連で行うシステム技術の開発を急ぎ、また、日本のEEZ及び公海における海底熱水性硫化物鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガンノジュールについて、採鉱・揚鉱、選鉱・製錬、等の取組を推進すべしと提言します。(南鳥島とEEZについては下記URLの〔図2〕「海洋における危機管理投資と宇宙における成長投資」を参照ください。)
 URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241126-2takaichi.pdf

 

【「現在と未来の生命」を守る『令和の国土強靭化計画』(PLAN3)】
 首都直下地震で855兆円、南海トラフ地震で1541兆円。土木学会が試算した被害額です。著者は、このような甚大な被害額を念頭に、「事前防災」と「事後防災」強化の必要性を強調します。また、気候変動による自然災害も激甚化しており、「現在と未来の生命」を守ることが何よりも大切とします。
 これらを踏まえ、現行の『防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策』は令和7年度までなので、防災科学の知見も活用し、気候リスク管理も含めた有効な後継計画の策定を提言します。
 また、集合住宅の老朽化対策に着手するとともに、全国に900万戸以上ある空き家対応は、防災・防犯上の課題とし、都市再生機構(UR)を中心に、街作りと併せて「買取り」「改築」「管理・売却の代行」を一体的に行える制度の構築を提言します。
 

【サイバーセキュリティ対策の強化(PLAN4)】
 著者は、国民の生命、金融資産、個人情報などを守り抜くために、サイバー防衛力を世界最高水準に引き上げていくことを掲げます。同時に、高度なセキュリティとアフターケアを備えた製品・サービスの開発を促進し、国内や友好国に展開することによって、経済力の強化も期待できるとします。
 具体的には、「能動的サイバー防御(ACD;Active Cyber Defense)」を可能にするための法制度整備を急ぐとともに、「復旧(レジリエンス)方針」の策定を提言します。高度なサイバー攻撃に対応するAIを用いた技術、衛星量子暗号通信、耐量子暗号技術などの研究開発を加速するとともに、早急な人材育成を提言します。加えて、昨今の情報戦では、偽情報やサイバープロパガンダによる認知領域への攻撃が重大な脅威となっており、国民を守るための法制度整備とともに、偽情報を検知・分析・評価する技術の開発の促進を提言します。
 

【健康医療安全保障の構築(PLAN5)】
 著者は、経済安全保障担当大臣として、原材料の殆どを海外に依存していた抗菌性物質製剤を「特定重要物資」に指定し、国産化に向けた取組を始めました。また、科学技術政策担当大臣として、AMED(日本医療研究開発機構)による「創薬力の強化」「治療方法の研究」「医療機器開発」などに取り組んできました。ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題であり、原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制の構築を提言します。
 

【成長投資の強化(PLAN6)】
 著者は、日本に強みがある多くの技術の社会実装とともに、勝ち筋となる産業分野につき国際競争力強化と、人材育成に資する国の戦略的支援の構築を提言します。
 具体的には、全固体蓄電池、産業用機械・ロボット、積層造形技術、マテリアル、電磁波、電子顕微鏡、核磁気共鳴装置、超電導、宇宙(スペースデブリ除去・軌道上サービス・測位衛星・SAR衛星・ロケット等)、コンテンツ関連を含むクリエイティブ産業などの分野につき、更なる国際競争力強化と人材育成に資する国の戦略的支援の強化を提言します。
 加えて、新たな技術領域(6G=Beyond 5G、生成AI、データプライバシー、自動運転、フォーメーションフライト衛星通信など)において、安心・安全・信頼性を確立しながら活用を進めるために、必要な法制度と環境の整備を提言します。
 更には、「量子技術イノベーション」を進め、量子計測、量子シミュレーションなどの技術領域への国の支援を提言します。(SAR衛星については下記URLの〔図2〕「海洋における危機管理投資と宇宙における成長投資」を参照ください。)
URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241126-2takaichi.pdf

本
■    総裁選1回目投票でトップの著者の国家戦略に期待。(むすび)
 著者の国家戦略には多くの党員の共鳴があり、総裁選の第1回目の投票では、181票(党員票109、議員票72)と2位の石破氏の154票(党員票108、議員票46)を大きく引き離し、トップになりました。しかし、国家戦略の優劣より、私利私欲や権力争い色の強い決選投票では、残念ながら逆転され、著者は、総理にはなれませんでした。
 しかし、これだけの支持を得た著者の卓越した国家戦略は、今後の国家運営に影響を与え続けるものと思っています。著者の国家戦略を理解し、将来実現されることを期待し、希望をもって、国家運営を注視していきましょう。

本

【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
本
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【経営コンサルタントのお勧め図書】 「真実」は何か 『SDGsエコバブルの終焉-「脱炭素」幻想は崩壊-』

2024-10-22 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 「真実」は何か 『SDGsエコバブルの終焉-「脱炭素」幻想は崩壊-』  

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
【 注 】
 今月は、図版ファイルのページ数が多いためにリンク付きURLにて掲載しています。
本
■    今月のおすすめ

   『SDGsエコバブルの終焉-「脱炭素」幻想は崩壊-』

(杉山 大志編 川口マーン恵美+田中博+渡辺正ほか 宝島社)

出版社 ‏ : ‎ 宝島社 発売日 ‏ : ‎ 2024/6/14
言語 ‏ : ‎ 日本語 単行本 ‏ : ‎ 304ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4299055497
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4299055491
 

本

■  SDGsエコバブルは終焉する(はじめに)

 “SDGsエコバブル”の言葉を、誤解のないように筆者流に、読み解いてみます。

 SDGsの17の目標は“エコ(環境重視)”と“サスティナブル(社会の持続可能性重視)”の二つの領域にグループ分けされます。

 紹介本は、この“エコ”の政策である脱炭素政策が世界規模で破綻し、終わりを告げることを様々な事実を以って詳らかにしているのです。

 このことについて、紹介本の編者である杉山大志(IPCC報告書執筆責任者、経産省産業構造審議会の委員などを歴任し、現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹を務める科学者)は、“はじめに”で、次の様に述べています。抜粋です。一部は編者のH・Pより引用。

 『1992年のリオに於ける「地球サミット」で気候変動問題が国際的に格上げされましたが、これは当初から(科学的根拠のない)幻想に過ぎなかった。つまり、1991年のソ連崩壊により、西側にいた共産主義者・社会主義者はソ連というロールモデルを失い、環境運動に転向した。この運動は、反資本主義運動にルーツがあり、科学的根拠は全くないのです。』

 『いまや、ウクライナと中東で戦争が勃発し、日本周辺では台湾有事のリスクも高まっている。この様な状況に及んで、自国経済の身銭を切って、高くつく脱炭素のために全ての国が協力することなどありえない。軍事力を増強する、ロシア、イラン、中国が、敵であるG7の説教に応じて、豊富に有する石炭、石油、ガスの使用を止めることなどありえない。ごく近い将来、脱炭素・気候変動はもはや国際的な「問題」ですらなくなるであろう。』

 『それで日本はどうするのか。ドイツなど欧州の一部と共に自滅的な脱炭素政策を続けるのか、中国を利するだけの愚かな脱炭素政策を止めるのか。それを決めるのは政治であり、政治は世論の反映である。ここにきて、再エネをめぐる一連の事件を受け脱炭素への疑問の声が高まってきた。読者諸賢の意見がやがて大きな力になり、SDGsエコバブルを終焉させるだろう。』

 ここまで、紹介本の編者の所見を紹介して来ましたが、次項では、編者の所見を裏付けする、12名の科学者、経済学者、アナリスト、ジャーナリストによる、「IPCCの温暖化説の崩壊」、「環境原理主義への反乱」、「なぜ学者もメディアも脱炭素の嘘をつくのか」等についての執筆の中から、注目記事を紹介します。

本

■  「脱炭素」の「真実は何か」

 

【化学は嘘をつかない。でも科学者は嘘をつく。IPCCの温暖化仮説は「完全崩壊」へ

 -田中博(大気科学者・筑波大学名誉教授)-】

 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の提言を基に、2015年のCOP21(Conference of the Parties:締約国会議)の「パリ協定」で採択され、今や世界の定番となり、ドイツの緑の党や米民主党などの環境原理主義者が唱え、また、米バイデン大統領に追従した日本の菅政権が目指したポリシーは次の通りです。「地球の気候は危機に瀕しており、脱炭素化は最重要課題である。産業革命後の気温上昇は産業革命前の1.5℃以下に抑えねばならず、その為には温室効果ガス排出量を2030年に半減、2050年にはゼロにしなければならない。」

 この1.5℃の意味するところについて、執筆者の田中教授は次のように解説します。「気候システムにはティッピングポイント(閾値;反応を起こさせるのに必要な、最小の強度や刺激などの物理量)と呼ばれる温度上昇の臨界点があり、地球温暖化がその1.5℃という臨界点を超えると温暖化が暴走しはじめ、人間の力ではコントロールできない灼熱地獄が訪れる」という仮説です。

 執筆者の田中教授は、この様な気候危機説による脅しは次の2つの点から「完全崩壊」であると論説します。

 1つ目は、IPCC説の「産業革命後の気温上昇が、1.5℃という臨界点を超えると、温暖化が暴走し始める」というIPCCの仮説モデルの崩壊です。

 IPCCの仮説モデルは、IPCCの設立された1988年の前後の、温暖化が指数関数的に増大していた1970~2000年に測定された温暖化トレンドに、CO2の増加による放射強制力(正の放射強制力<CO₂>は温暖化を起こす)をモデルに組み込み、「1.5℃という臨界点を超えると、温暖化が暴走し始める」という結論を導いたのです。(負の放射強制力<植物、水蒸気など>は、気温を下げます。)

 EUの気象情報機関“コペルニクス気候変動サービス(C3S)”によれば、2024年6月の世界の平均気温は16.66℃で6月の気温としては観測史上過去最高でした。6月までの12か月間の年間ベースの平均気温は、産業革命前の同年間の気温に比べ1.64℃高く、5月に続いて2カ月連続、年間気温でパリ協定の「1.5℃」目標を超えたことになります。(環境金融機構2024.7.4記事より。)

 このC3Sの観測によれば、「IPCCの温暖化暴走モデル」の臨界点の1.5℃を超えましたが、IPCCモデル通り、灼熱地獄が到来するのでしょうか?それとも田中説の通り、気候変動の基本は自然変動(CO2の排出による影響も数%はあるが)であるとの前提で、数十年規模振動指数(1860-2000年:赤祖父線)に基づき、昇温が+1度/100年のモデルに近い気温の推移となるのでしょうか。

 筆者は、創り上げたIPCCモデルには無理があり、過去の気候変動をベースとした執筆者の田中説が正しい方向と思います。

 IPCCモデルと田中説の図示は下記URLの【図1】を参照ください。

  http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241022ecobubble/sakai20241022ecobubble1-ver2.pdf

 

 二つ目は、太陽放射強度(地球の気候変化に影響する太陽活動変化)についての違いです。

 田中説は、太陽放射強度により、長期的に気候が大きく変動し、それによる気温の自然変動(0.7℃/100年のトレンド線)を主張します

 IPCCモデルでは、太陽放射強度については、太陽の黒点数の11年周期のみの太陽定数(長期的には殆ど横ばい)を使い、二酸化炭素(CO2)に焦点を合わせたモデルを使い「温暖化が暴走する要因は、太陽活動ではなく、CO2の排出による」との結論を導き、温暖化防止策として脱炭素一辺倒を主張します。

 田中説のポイントは、脱炭素を実現しても気候変動への影響は僅かであり、気候変動の要因の殆どは、太陽放射強度などの自然要因とするのです。

 太陽放射強度についてのIPCCモデルと田中説の図示は下記URLの【図2】を参照ください。データから判断すると、田中説が科学的に正しいのではないでしょうか。

  http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241022ecobubble/sakai20241022ecobubble2-ver2.pdf

 上記から、田中教授は、『「完全崩壊」したIPCC仮説に基づく、意味のない脱炭素への多額の税金・投資の投入や(GX投資への2022年から10年間の官民投資150兆円、うち政府支援20兆円)、意味のないFIT(再エネの固定価格買取制度)による電気代の高騰(電気代の値上がり<2010~2022年>は+59%で、うちFIT分は+10%。)を止め、他の有意義なことに、国民のお金を活用すべき』と主張します。

(注)IPCCとは。

 IPCCとは「Intergovernmental Panel on Climate Change」の略で、「気候変動に関する政府間パネル」と呼ばれます。 1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織で、2024年3月時点における参加国と地域は195となっています。

【ついに農民の反乱が激化!岐路に立たされた欧州の気候変動

  -川口マーン恵美(ドイツ在住・作家)-】

 2022年、オランダで始まった農民デモは、ベルギー、ドイツ、ポーランドなどへ野火のように広がっていきます。農民デモの要因の共通項は、EUの押付けてくる理不尽な規則への不満ですが、抗議の重心は様々です。ここでオランダの農民デモの要因を見てみます。

 オランダの農民の抱えている問題は、温室効果ガスの一つである「窒素」です。オランダ政府は、EUの〝Fit For 55”(2019年メルケルが送り込んだ欧州委員会委員長のフォン・デア・ライエンが就任早々に打ち出した2030年までに「CO2の排出を55%削減する」を目標とする「欧州グリーンディール政策」)を背景に、2019年に、「2030年までに窒素の排出を50%削減」という過激な目標を打ち出しました。オランダで窒素が高い理由は、豚と牛が毎日排出するゲップです。

 この基準を守るには、違う場所に引っ越すか、廃業するしかない訳ですが、オランダ政府は農家を守る意思は見られず、4~50,000件ある農家の内、12,000件が廃業し、17,000件は規模が1/3から1/2になるとの試算を出し、農家を怒らせます。

 畜産をしていては守れないような厳しい基準に追い詰められた農民たちによる大規模デモが始まり、オランダ以外の国からも応援する農民がトラクターを繰り出し集まったのです。

 昔から存在する家畜由来の「窒素」の削減が、気候変動に影響を与えるのでしょうか?

 この様に、気候政策について、このオランダのケースの他、夢ばかり追うドイツ経済相や、権力志向の強い欧州委員長など、国民のイライラが急速に広がっており、今後の動向が注目されます。

本

■  「真実」を踏まえた経営を!(むすび)

 世の中、特に政治の世界では、利権やピアプレッシャー(同調圧力)など様々な力が働いており、必ずしも「真実」にもとづいて動いていません。その一つが脱炭素政策です。最近の温暖化は、CO2の排出が原因でしょうか。産業革命前の気温に比べ+1.5℃を既に超えており、温暖化が指数関数的に激化するのでしょうか。

 紹介本を読んで頂き、「真実」は何かを、突き詰めてみませんか。その上で「真実」を踏まえた経営をしませんか。

本

【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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【経営コンサルタントのお勧め図書】 管理会計とドラッカー 財務3表一体理解法​​​​​​​ 2409

2024-09-24 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 管理会計とドラッカー 財務3表一体理解法   2409    

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
【 注 】
 今月は、図版ファイルのページ数が多いためにリンク付きURLにて掲載しています。
本
■    今月のおすすめ

   『財務3表一体理解法「管理会計」

   ―財務3表とドラッカーの視点から「管理会計」を読み解く―

(国貞 克則著 朝日新書)

本

■         国貞流「管理会計」を視る(はじめに)

 管理会計と財務会計の違いは、準拠する会計基準の有無、会計期間の定めの有無、利用者の社内外の違い、金額以外の集計単位の有無などがあります。つまり管理会計には縛りがないのです。拠って、管理会計に対する向き合い方が大切になってきます。そこで、理系思考・実践的ドラッカー論者・経営コンサルタント経験などの強みを有する著者の管理会計に対する向き合い方を視てみましょう。

 一つ目は、「デカルト以来の分析思考で臨むべし」と著者は言います。著者の言うデカルトの分析思考とは、①問題を出来るだけ細かく分解し、②分解した事象をMECE(もれなくダブりなく)に把握し、③それらの事象を分析して得られた普遍的原理から論理的・演繹的推論により一定の結論を導く方法論です(ex:三段論法)。因みに演繹法の提唱者は、「我思う、故に我あり」の名言で有名なデカルト(1596年-1650年)です。帰納法の提唱者は「知識は力なり」の名言で有名なフランシス・ベーコン(1561年-1626年)です。

 著者は一つ目の例として顧問先A社の例を挙げます。A社は、親会社の製品を製品の販売会社に卸すBtoBビジネスの会社です。A社では全社の売上と利益を、製品別、顧客企業別、営業拠点別に整理し、それらの数字を営業担当者に紐付けています。A社ではこれらの製品毎、顧客企業毎、営業拠点毎、営業担当者毎のデータの比較分析と時系列分析を行っていました。この分析から色々なことが見えてきます。例えば、ある時点で、一人の営業担当者の売り上げと利益が急に増え、それから間もなくその営業担当者の属する営業拠点の売上と利益が大きく伸びたのです。これは一人の営業担当者が新しい販売手法を開発し、その手法を営業拠点全体で適用した結果であることが判りました。A社ではこの新たな販売手法を全営業拠点に適用し、売上と利益の拡大を図ることが出来ました。

 この様に企業の会計数字を分解し分析することで、変化や違いが判り、その変化や違いから原因を突き止め、経営に生かすことが出来るのです。勿論、どの様な分解・分析をするかは企業により、目的により様々であり、管理会計の工夫の為所(しどころ)です。

 二つ目は、管理会計の目指すべきところは、「未来に向かって手を打つこと」であると著者は言います。更には、ドラッカー流Management Accounting(管理会計)の考えから、管理会計はコントロールだけではなく、「事業において、人、物、金などの経営資源をうまく生かして、組織の目的、目標を達成していくことである」と加えます。

 目的、目標に沿った方針や事業構想(含むイノベーション)を以って、事業を行う前に会計的シミュレーションをし、実行後に差異分析をし、それを踏まえ改善、改革、イノベーションを積み重ねて行くことが、管理会計の目指すところなのです。

 以上、国貞流「管理会計」のポイントである「二つの向き合い方」を見てきましたが、「向き合い方⇒考え方⇒分解・分析の仕方」によって、“見えていなかったものが見えてくる”具体例を次項でご紹介します。

本

■         見えていなかったものが見えてくる「ABC会計」

【ABC会計はドラッカーの提唱!?】

 著者は紹介本の中で、ABC会計(Activity Based Costing:活動基準原価計算)については、ドラッカーが著書「創造する経営者」(1964年)の中で、次の様に提唱していると紹介しています。「今日、総コストの極めて多くの部分が直接費ではない。特定の製品のコストを知るには、コストのうち膨大な部分が比例配分によって決定されるような数字は役に立たない。明確な焦点のない事業のコスト(ドラッカーは間接費を指している)は作業量による配分が最も現実に近い唯一の計算となる」と。

 なお、実践的ABC会計の始まりは、ドラッカーの提唱から20年後、バランスト・スコアカード(BSC)の提唱者のロバート・S・キャプランが、ハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文の、“Yesterday’s Accounting Undermines Production;昨日の会計は生産性を低下させる”( 1984年。邦訳未訳)です。

 このドラッカーの提唱を踏まえ、著者は、間接費の配賦について次の様にコメントしています。「今から100年前の産業、例えばT型フォードのような1車種が大量生産される時代には、間接費の配布はシンプルなもので良かったでしょう。しかし、現代は多品種少量生産が当たり前になり、製造工程での組み替えも頻繁になり、加えて、生産活動以外の活動がどんどん増えています。これらの膨大な間接費を、各製品の製造時間といった一つの配賦基準で配賦するのではなく、各活動に応じて集計して、各製品に適切に配賦していくのがABC会計なのです。正確な原価を把握するにはABC会計です」と。

 ABC会計の導入は、欧米では標準となっていますが、日本では、導入・運用に手間とコストが掛かることから導入が進んでおらず、10%程度と推測されます。最近は、ERPの導入が進み、販売管理や生産管理、在庫管理、会計などの基幹システムと連携したABC会計による原価管理が採用されるケースが増えています。

【伝統的会計で隠れていた赤字が、ABC会計で詳らかになる】

 これからのIOTの時代に目指すべきABC会計について、伝統的会計との比較をしながら、見てみましょう。伝統的会計で隠されていた赤字が、ABC会計で詳らかになります。

 ABC会計は、製造間接費を製品別に配賦する基準を、従来の直接作業時間基準などの代わりに、製造をサポートする活動毎の活動基準(活動時間、活動回数など)により配賦する会計手法です。

 ABC会計には、財務会計・原価計算基準に沿った「財務会計的ABC会計」と、間接費の範囲を一般管理販売費や研究開発費まで広げた製品原価の分析や、製品別に加え顧客別の原価の分析などの「管理会計的ABC会計」がありますが、本稿では「財務会計的ABC会計」で赤字が詳らかになる事例を見てみましょう。

 ABC会計のイメージと財務会計的ABC会計により赤字が詳らかになる事例、及び、ABC会計を経営の改善・改革に活かすABM(Activity Based Management:活動基準管理)とABB(Activity Based Budgeting:活動基準予算管理)についての簡単な説明を下記URLの【ABC会計図解】に示しました。参照下さい。

URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20240924-kanrikaikei.pdf

本

■         「管理会計」により、企業の目的、目標を実現しよう(むすび)

 管理会計は数値を通して定性的に経営を“診る”ことですので、“考え方”次第で経営への見方が変わってくるのです。管理会計は財務会計のように基準や法律に従うのではなく、経営の“考え方”に従うことになるのです。(中略)管理会計は、全社一丸となるための仕組みであり経営思想なのです。(『あたたかい管理のための「管理会計の教科書」』今井信行著 秀和システム より引用)

 企業の目的、目標を踏まえて、全体最適に、管理会計を運用し、企業経営をスパイラル・アップしていきましょう。

本

【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
本
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 経営コンサルタントを目指す人の多くが見るというサイトです。経営コンサルタント歴半世紀の経験から、経営コンサルタントのプロにも役に立つ情報を提供しています。
 

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【経営コンサルタントのお勧め図書】 国貞流「会計学」から学ぶ 2408

2024-08-27 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 国貞流「会計学」から学ぶ   2408 

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
【 注 】
 今月は、図版ファイルのページ数が多いためにリンク付きURLにて掲載しています。
本
■    今月のおすすめ

 1.    『「新版財務3表一体理解法」

     ―簿記を勉強しなくても会計がわかる―』

 2.    『「新版財務3表図解分析法」

     ―財務3表の視覚化、図解化で経営分析が分かり易くなる―』

 3.    『「新版財務3表一体理解法<発展編>

     ―新会計・国際会計基準もう怖くない―』

                     (国貞 克則著 朝日新書)

 

(参考:タイトルと画像は異なります)

 

本

■  努力・実践から生まれた理系思考の『国貞流「会計学」』とは(はじめに)

 著者の『国貞流「会計学」』である「おすすめ本1.2.3.」を、今回採りあげましたのは、本欄2024.7.23で採りあげました、著者の「現場のドラッカー」を読み、著者の、実践という客観的事実を通しての、「物事の本質を見抜く力」に関心を持ち、かかる能力を持つ著者が「財務3表」や「会計」を、著者のコンサルタントの実践を通して、どの様に捉えているかに興味を持ったからです。

 「おすすめ本1.2.3.」を読んでみて、期待通り、今まで気が付かなかった新たな発見や気付きが多くありました。一般的な会計の著書にはない、著者らしい解説です。それは、筆者の推測ですが、著者が40歳代でコンサルタントを起業し、初めて出会った会計を、努力して身に付け、実践で活用した経験を基に、解析し絞り出した解説です。自身の苦労・努力があったが故に、分かり易い解説が出来るのです。

 ところで、著者の能力のもう一つの源は何かと、筆者流に考えてみました。それは理系思考です(著者の理系的経歴については本欄2024.7.23を参照下さい)。理系思考の例としては因数分解があります。つまり、複雑な数式を分り易い数式に変え、そこから結論を導きます。言い換えると、理系思考は、複雑な物事を分り易く整理し、そこから道筋を立て論理的に解析し結論を導く思考力です。

 「おすすめ本1.2.3.」では、かかる理系思考を用いながら数々の結論を導き出し、分り易い図解化やパターン化などで表現しています。そこには、会計の専門書にはない、著者ならではの解析・解説が多くあります。字数の関係もあり全てをご紹介できませんが、筆者が注目した解析・解説を、著書毎に一つずつ、次項で、ご紹介させて頂きます。

本

■ 『国貞流「会計学」』による新たな気付きに注目

【「新版財務3表一体理解法と図解分析法」から“一目で解る財務3表図解分析”】

 著者は、全ての事業に共通する活動は、“お金を集める”⇒“投資する”⇒“利益を上げる”の3つであるとし、その循環を数字で表しているのが、BS(右がお金を集める、左が投資をする)、CS(お金を集める=財務CF、投資をする=投資CF、利益を上げる=営業CF)、PL(利益を上げる)であるとします。

 更には“利益を上げる”を検証する最も重要な指標として、ROEを挙げます。このROEは経産省が進めてきた「企業価値経営(伊藤レポート:2014年)」で提言する「株主資本コストを上回るROEを実現する経営を」において重要視されている指標です。このROEをデュポン・モデルにより、①財務レバレッジ、②総資本回転率、③当期純利益率、に因数分解します。

 この①②③の循環を、BSとPLを並列表示した図解上に、表示します。

 この図解を基に、4つのステップでの図解分析を勧めます。1.BSの右側を見て有利子負債と利益剰余金をチェックする⇒2.BSの図全体から固定資産(投資)の変化、有利子負債等の総資本の変化及び財務の安全性を瞬時に読み解く⇒3.BSとPLを結んだ線から総資本回転率を把握する⇒4.PLの図から利益率を把握する、の4つのステップを経て、気になる処は細かい財務諸表に入り、分析します。並行してキャッシュフローの推移におけるキャッシュの変化から、「CSの8つのパターン」によって、企業の営業活動、投資戦略、財務戦略を読み解きます。著者はこのプロセスについて、「こうすることでアレルギーもなく、興味を持って、財務分析が出来ます」と言います。

 特に他社との比較分析の際に有用です。この手法は社内の、オープンブック・マネジメント(Open Book Management)における、財務状況発表の際に活用できます。〔 図1〕を参照下さい。

  URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20240827-kanrikaikei1.pdf

【「新版財務3表図解分析法」から

“海外企業の共通キーワードは「のれん」と「自己株式の取得」”】

 おすすめ本2.図解分析法では、アサヒvsキリン、ソニーvsIBM、GAFA等を図解分析法で経営分析をしています。著者はこの分析の締め括りに、海外の多くの企業を分析して、多くの海外企業に共通することは「のれん(Goodwill)」と「自己株式の取得」であると記しています。

 「のれん(Goodwill)」の意味することは、現代においてM&Aが企業の成長戦略の重要な選択肢になっている事です。「自己株式の取得」が意味することは、多くの海外企業が株主の方を向いて経営をしているという事実です。

 「自己株式の取得」はROEを上げ、株価上昇に繋がります。米国株の時価総額の高さの一因です。「自己株式の取得」において、日本の先を走っている米国の典型例である、IBMを「図解分析法」で見てみます。〔図2〕を参照下さい。

  URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20240827-kanrikaikei2.pdf

【「新版財務3表一体理解法<発展編>」から“やってますか連結プロセス”】

 おすすめ本3.<発展編>では、2000年以降に出てきた5つの新しい会計基準(退職給付会計、時価会計、税効果会計、減損会計、自己株式の取得)、国際会計基準と連結会計、組織再編会計、純資産の部の徹底理解について分かり易く書かれています。

 この中の連結会計の「5つの連結のプロセス」に注目しました。非上場会社では金融商品取引法対象会社(1億円以上の有価証券を50名以上の人に募集又は売り出しをしている会社)以外は、連結会計は不要です。

 しかし、筆者の考えですが、上場企業にとっては勿論、非上場企業にとっても「5つの連結のプロセス」により、グループ企業間の不正・粉飾会計の防止に繋げることが出来ます。「5つの連結のプロセス」を実施し、グループ企業間の(相殺不能)連結差額を究明していれば(上場企業は勿論、非上場企業においても)、グループ会社の不正・粉飾を見つけることが出来たケースが多くあります。また、非上場企業にとっても、連結会計の実施は、企業グループ全体の企業価値を把握すると共に、企業グループの実像を把握し、グループ企業間の不正・粉飾を排除するチャンスです。加えて、将来の上場の備えにもなります。

「5つの連結のプロセス」については〔図3〕を参照下さい。

  URL: http://www.glomaconj.com/joho/keiei/sakai20240827-kanrikaikei3.pdf

本

■  『国貞流「会計学」』を活用しよう(むすび)

 『国貞流「会計学」』は、会計を「分り易く伝える」ことに焦点を置き、財務3表について解説しています。「おすすめ本1.2.3.」を、財務3表・会計を散歩するつもりで、楽しみながら、読んでみませんか。何か得るものを発見できます。「あ!そうか、これいいね」と思ったら、それを活用しませんか。

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【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
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【経営コンサルタントのお勧め図書】 ドッラカー経営学の実践編 現場のドラッカー 究極のドラッカー  2407

2024-07-23 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 ドッラカー経営学の実践編 現場のドラッカー 究極のドラッカー  2407 

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。
 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。
 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。
本
■    今月のおすすめ
 今月も、先月に続き、ドラッカーです。酒井先生の力作をここにお届けでいることを誇りに思っています。

   『「現場のドラッカー」
     ―実践例からドラッカー経営学の本質を学ぶ―』
   『「究極のドラッカー」
     ―ドラッカー思想の原点と特徴を知ろう―』
(国貞 克則著 角川新書)

 

本

■■ 苦しみ・努力・実践から生まれた国貞流「ドラッカー経営学」(はじめに)
 紹介本の魅力は、著者が自身の経験から、「企業はどうすれば生きていけるか」という問いに答える「ドラッカー経営学の威力」を見つけ、著書に現わしたことです。著者は、自身のコンサルティングを通して、「ドラッカー経営学」が実際の現場で適用され、著しい結果が出て行く状況を見て、「ドラッカー経営学の威力」を実感できたのです。まさに、K・K・D(仮説、検証、データ)により確認できたのです。その発見は実に、著者がドラッカー経営大学院MBA取得後20年ほど後のことでした。著者の経験・実践の故に探求できた、「ドラッカー経営学」の真髄は貴重です。それではまず、著者の本著を発刊するに至る経歴・経験を見てみましょう。
 1983年、東北大学の機械工学科を卒業し、神戸製鋼所に入社します。1995年ころ、円高で競争力の無くなった海外プラント事業部門の企画担当に就任しますが、円高で競争力が無くなってしまった状況を打開する道筋を示すことが出来ず、打開のヒントを得ようと、1996年、米クレアモント大学ドラッカー経営大学院に、会社から派遣され、留学しMBAの資格を取得します。資格取得後の2001年、会社を辞め、コンサルティング会社、Bona Vita Corporation(ラテン語で「良い・立派な」、「人生・旅路」の意味。「人々の幸せな人生のために貢献したい」想いを表す)を設立します。
 しかし、1年半ほど収入ゼロの苦渋の時期に直面し、この間、著名コンサルタントのアドバイスにより、経営学の著書を、百冊以上、読み込みます。当時読んだ経営学の著書で、手元に残っているのは殆どがドラッカーの著書とのことです。
 その後、コンサルタントとして活動する中で、「ドラッカー経営学」のコンサルタントを探していたI氏が社長をするA社に招かれ、「ドラッカー経営学」をA社の経営の中心に置く会社方針に基づき、コンサルティングします。I氏の経営手腕と著者による「ドラッカー経営学」の浸透により、赤字続きだったA社はV字回復をします。
 また、ドラッカーと親交を持ち、ドラッカーの分身と言われ、ドラッカーの著書を多く翻訳している故上田惇生氏から暖かな支援を受け、著者のドラッカー経営学の深化に繋がっています。
 著者はこれらの経験を通して、「ドラッカー経営学」の真髄を体感するに至ったのです。ドラッカーの言葉である『「知識」は本の中にはない。本の中にあるものは情報である。「知識」とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である』(「創造する経営者」)の通り、「ドラッカー経営学」の真髄は、実践を通して初めて解るのです。
 著者が実践を通して体感した『国貞流「ドラッカー経営学」』は、「ドラッカー経営学」を理解する上で貴重な知見です。
 次項で、『現場で実証された「ドラッカー経営学の真髄」』を5つのキーワードで見てみましょう。
本
■ 現場で実証された「ドラッカー経営学の真髄」を5つのキーワードで解く
 著者は言います。『「ドラッカー経営学」は、ハウツーを教えるものではなく、組織社会を生きる人間としての「生き方」と「心構え」について、書かれているものである』と。著者のこの言葉は、『ドラッカーの特徴は、膨大な知識と情報を基にした分析力と論理思考力をベースに、「知覚(Perception、悟る、看破する)」を通して、物事の「本質」を体系的に極めていること』と言い換えることが出来ます。そして、このPerceptionは魂のレベルに於いてなのです。
 ドラッカーの著書に、『「マネジメント」― 課題・責任・実践―』(1973年)があります。著書の副題にある、課題・責任・実践の中の課題とは、「課題」(Human Happiness<人間の幸せ>&Legitimacy<正統性>)に加え、「課題」を達成する為のマネジメントの「役割(Tasks)」を意味します。この「課題」と「役割」に、副題の残りの、「責任(Responsibilities)」、「実践(Practices)」を加えた4項目に、ドラッカーの著書「イノベーションと起業家精神」(1985年)で体系化された「Innovation」を加えた5項目が、ドラッカー・マネジメント論のキーワードと言えます。
 紹介本では、A社のV字回復した理由を9つ挙げています(詳細は紹介本1.をお読みください)。この「ドラッカー経営学」の実践による9つの成果の要因を分析・集約すると、上記ドラッカー・マネジメント論のキーワードと一致するのです。まさに実践を通して検証された真髄ではないでしょうか。

 この5つのキーワードから「ドラッカー経営学の真髄」を以下で見てみましょう。

【「Human Happiness(人間の幸せ)」and「Legitimacy(正統性)」】
 ドラッカーは現在の社会を、ソ連崩壊後の「ポスト資本主義社会」と捉えます。その特徴は、企業を始めとした様々な組織が社会を構成し(「組織社会」)、社会の変化に対応して多元化した組織が出現し(「多元化社会」)、主たる資源が資本から知識になる社会(「知識社会」)であるとします。
 この様な社会を良くするのも悪くもするのも、組織のマネジメントであるとし、あるべき組織の体系的マネジメント論である「ドラッカー経営学」を提唱しているのです。
 「ドラッカー経営学」の根底には二つの原点があります。それは「正統性」と「人間の幸せ」です。
 「正統性」は二つあります。それは社会的正統性とマネジメントの正統性です。「人間の幸せ」はマネジメントの正統性の結果です。
 まず、社会的正統性です。それは、「組織は高次の規範・責任・ビジョンを根拠とする社会的認知により正当化されねばならない」です。言い換えれば、組織の存在意義が、社会から敬意を以って認知されることです。
 次は、マネジメントの正統性つまり組織の存在目的です。それは、「人の強みを生かし生産的なものにする」です。言い換えると、一人一人の持ち味を生かして社会に貢献し、それにより一人一人が自己実現を果たし、一人一人が存在意義を感じ、一人一人の「人間を幸せ」にすることであるとします。これにより、社会全体の「人間の幸せ」を実現し、更には、「人間の幸せ」を基礎に組織が社会に貢献をし、社会を発展させることです。

【「Tasks(役割)」】
 次に説明する、Tasks(役割)・Responsibilities(責任)・Practices(実践)について、次のような文脈で表現できます。「誰もが、課題を達成するための役割(Tasks)を持っている中で、その役割を、責任(Responsibilities)をもって果たし、具体的な実践(Practices )を以って、成果を挙げて社会に貢献しなければならない」です。(「マネジメント」の副題である、課題(役割)・責任・実践の基本思想)
 課題を達成するマネジメントの役割は3つあります。①自らの組織に特有の目的と使命を果たす。②仕事を生産的なものにし、働く人たちに成果を上げさせる。③自らが社会に与えるインパクトを処理すると共に、社会に貢献する、の3つです。これら3つを「時間軸」で考え、実践していくのが組織の役割であるとドラッカーは言います。

【「Responsibilities(責任)、Integrity(真摯さ)」】
 役割を果たすための責任とは何か、ドラッカーの次の言葉が参考になります。「マネジャーに権利などない、あるのは責任だけだ。一人一人がやる気を出すのも責任を与えられた時だ」です。つまり、ある成果を達成するための仕事を「任される」のが責任です。マネジャーは勿論、組織のメンバーの一人一人に与えられます。責任を果たすこと、つまり、仕事を任され⇒自律により仕事を進め⇒成果に繋がり、自己実現をし、達成感を得て、承認され、“人間の幸せ”が実現するのです。責任がなければ成果は上がらず、自己実現の機会もなく、人間の幸せもないのです。
 一方、ドラッカー経営学でよく使われる、Integrity(真摯さ)についても触れておきましょう。真摯さは、Integrityの日本語訳である誠実さを超えた、周りから人間的・人格的に、真の信頼を得ることの出来る人間の資質です。一貫性があり、矛盾がなく、うわさや感情に惑わされず、ひたすら責任の遂行に向かって進む、魂レベルの資質です。経営層・マネジメント層の、誠実さや真剣さを証明する最終的な方法は、真摯さです。「真摯な人とは責任を持つ人のことである」(「教養とマネジメント」より)。

【「Practices(実践、成果、目標)」】
 具体的な実践(Practices )を以って成果を挙げて社会に貢献するにはどのようにしたら良いのでしょう。
 ドラッカーは、『成果を上げるにはまず「行うことを決めること」』だと言いました。つまり、「成果を上げるには、正しい考えを実践(行う)する意思決定をしなさい」と言っているのです。その正しい考えの実践を正しく行うためには、まず、目標を明確にしなければならないとして、「目標を設定すべき8つの分野」を提言しています。
 その目標は、 『命令ではなく「約束と責任」(Commitment)』、『“人は責任を担いたい、貢献したい、達成したいと望んでいる”を想定した「目標と自己管理によるマネジメント」』、『“組織の目標”と“個人の目標”の「一致」』を目指すべきとします。
 また、マイルストーン(中間目標・重要な節目)毎に、期日、担当者・責任者を目標に織り込み、自身の仕事振りと成果を自己管理により認識・フィードバック出来る目標設定を目指すべきとします。

 「目標を設定すべき8つの分野」による「目標の偉力」を見てみましょう。
(【図1】参照)


【「Innovation(More Better(改良)からNew Difference(新機軸)」】
 変化の時代に組織が生き延びていくには、イノベーションは欠かせません。ドッラカーはイノベーションについて2つの戦略を提起します。(「イノベーションと企業家精神」19章より)
 一つは、イノベーションを生み出す戦略です。具体的戦略としては、「イノベーションの7つの領域・機会」です。また、(ひらめきではなく)体系的にイノベーションを成功させるための要件についての提言もあります。「起業家精神の2つの原理」、「5つのなすべきこと」、「重要なカギ」です。(【図2】参照)


 二つ目は、イノベーションの基本戦略です。つまり、『イノベーションそのものが、昔からある商品・サービスにおいても、効用や、価値や、経済的な特性を変えるのである。物理的には如何なる変化を起こさなくてよい。しかし経済的には全く新しい価値を創造する。その為には、「効用創造戦略」、「価格戦略」、「顧客の社会的・経済的現実に合わせる戦略」、「顧客にとって価値あるものを提供する戦略」の4つの戦略を単体又は複合的に実践する必要がある。この4つの戦略には、一つの共通項がある。それは顧客の創造である。顧客こそ事業の目的であり、あらゆる経済活動の目的なのである』です。
 この2つの戦略がシナジーして、More Better(改良)からNew Difference(新機軸)に至る、より一層のイノベーションの成果を上げることが出来るのです。
 更に、ドラッカーは「この顧客創造戦略は、イノベーションに於いてだけではなく、“マーケティング”の“初歩”でもある」と言います。この“初歩”という言葉の意味は、組織が成果を以って社会に貢献するには、単なる「販売」に停まらずに、顧客創造戦略による「マーケティング」が必須であると言っているのです。
本
  「ドラッカー経営学」を経営の現場で実践・適用する(むすび)
 「ドラッカー経営学」を、経営の現場でどの様に活用できるのでしょう。
 それは、「ドラッカー経営学」を“To be”として捉え、自社の経営の現状(“As is”)とのギャップを認識し、改善・改革すべき課題を発見し、実践に移していくことではないでしょうか。
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【経営コンサルタントのお勧め図書】 ドラッカー、渋沢栄一を評価『「渋沢栄一とドラッカー」未来創造の方法』  2406

2024-06-25 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 ドラッカー、渋沢栄一を評価『「渋沢栄一とドラッカー」未来創造の方法』  2406   

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
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本
■    今月のおすすめ
   『「渋沢栄一とドラッカー」未来創造の方法』
         (国貞 克則 KADOKAWA)


出版社 ‏ : ‎ KADOKAWA (2020/11/20) 発売日 ‏ : ‎ 2020/11/20
単行本 ‏ : ‎ 224ページ      寸法 ‏ : ‎ 13 x 1.6 x 18.9 cm
ISBN-10 ‏ : ‎ 4041109116   ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4041109113

本
「新紙幣の人物」渋沢栄一を称えた「知の巨人」ドラッカー(はじめに)
【新紙幣の渋沢栄一(1840-1931)とは】
 新紙幣は今年の7月3日に発行されます。新1万円札の肖像画は「近代日本経済の父」「日本資本主義の父」渋沢栄一です。1万円札の肖像画の採用は、聖徳太子(1958年)、福沢諭吉(1984年)に次いで3人目となります。
 渋沢栄一は、「論語と算盤」「士魂商才」「細心にして大胆なれ」等の言葉、「道徳経済合一」の思想でも知られています。また、明治維新の直前、第15代将軍となった徳川慶喜の実弟徳川昭武に随行し、パリ万国博覧会を見学の後1年半に亘り、イギリス、スイス、イタリアなど欧州諸国を訪問し、銀行、株式会社の仕組みや貨幣制度、株式・債券・為替の仕組みを学んでいます。倒幕を機に帰国し、帰国後は、大蔵官僚として造幣、戸籍などの政策立案で活躍。退官後は、産業界に於いて500以上の企業の設立に係り、また約600の教育機関や社会公共事業、研究機関等の設立・支援に携わりました。具体的には、「第一国立銀行(第一銀行)」「東京株式取引所(現;東京証券取引所)」「日本鉄道会社(現:JR東日本)」「東京電灯会社(現:東京電力)」「商法講習所(現:一橋大学)」「博愛社(現:日本赤十字社)」などが挙げられます。
【渋沢栄一を称えたドラッカー(1909-2005)】
 「マネジメントの父」「現代社会最高の哲人」「知の巨人」として、現在も世界中から注目されているドラッカーは、渋沢栄一と日本を次の様に称えています。それは、『渋沢は、新しい日本は、古い日本の基盤の上に築かなければならないことを、よく認識していました』、『・・イギリスに住んでいましたが、(西洋の日本化、教育制度、日本の伝統美術、など)すっかり「明治」に魅了されてしまったのです』の言葉です。(「NHKスペシャル 明治1 変革を導いた人間力」〈NHK出版〉より)
 一方、ドラッカー自身の著書でも、『渋沢栄一は、論語にねざした理想の「専門的経営者」像を描いたが、この像にはやがて魂が宿った。渋沢による卓見の奥底には、「マネジャーを支えるのは、財力でもなく地位でもなく責任である」という考え方があり、現実の成り行きを見通すものだった』、『渋沢栄一は、企業と国家の目標、企業のニーズと「個人の倫理」との関係という本質的な問いを提起した。この渋沢栄一の思想と業績が、20世紀における日本の興隆に、大きく貢献した』『プロフェッショナルとしてのマネジメントの必要性を世界で最初に理解したのが渋沢だった』と渋沢栄一を称えています。(「マネジメント、務め、実践、責任」〈ドラッカー著 有賀 裕子訳 日経BP社〉より引用)

【渋沢栄一とドラッカーに共通する思想】
 著者は、渋沢栄一の思想「論語と算盤」とドラッカーの思想「integrity of character」には、深い共通点があると指摘します。ドラッカーも渋沢も、新しい時代のリーダー(経営者)のあるべき像を提起していたのです。共通するキーワードは、以下で詳述しますが、「正しさ(道徳・高い視点・責任)」です。
 渋沢栄一は、著書「論語と算盤」の中で、『「道義を伴った利益を追求しなさい」それと同時に、「公益を大事にせよ(経営者だけが利益を得るのではなく、社会全体が利益を得る“理念”“倫理”にかなう志の高い経営を行わなければ、幸福は持続しない)」』、『論語〈道徳〉と算盤〈経営〉を一致させること(道徳経済合一)』など、“道徳をベースとしたビジネス”、及び、“企業人に必要なのは、一企業の利益を超えた、高く広い視点“、の二つの考え方を提起したのです。これこそ渋沢栄一の偉業の本質なのです。
 ドラッカーが最も大切にした「integrity of character」は「人の資質としてのintegrity」と置き換えることが出来ます。辞書では、「正直,誠実,高潔,廉直」ですが、その他、「真摯さ」(「マネジメント- 基本と原則」2001年版・上田 惇生訳・ダイヤモンド社)、「仁」(「ドラッカーと論語」2014年販・安冨 歩著・東洋経済新報社)等の翻訳・解釈もあります。私(筆者)は、『リーダーシップとは正しい事を行うこと即ち責任である。このリーダーシップの極みがintegrity of characterである』(「ドラッカーが伝えたかったこと“未来企業(1992年)第15章を読み解く”」―シックスセカンズジャパン―より引用)との解釈がドラッカーの意に沿うと考えます。

【二人の共通した思想に基づく「未来創造」の考え方】
 この共通する思想を視点として、著者は、ドラッカーと渋沢の『「未来創造」の方法論』について解説しています。その解説を、本質と具体的方法論に分けて述べています。次項では、本質について記させて頂きます。二人が実行した具体的方法論については紹介本をお読みください。
本
■ 渋沢栄一とドラッカーに共通する『「未来創造」の方法論の本質』
 著者は次のように述べています。『過去の経験が生かせない大きな変化の時代には、何をどう考え行動すればよいか分からなくなる。この様な時に立ち返るところは変化しない本質である。本質を理解するために学ぶべき人は、ドラッカーとドラッカーが高く評価する渋沢栄一である』。
 加えて著者は言います。『日本人は「本質を見極める」という能力に秀でており、過去もそうであったように、新しい時代の課題に応え、新しい日本を創ってくれると確信している』。
 著者は、この様な考えに基づき、ドラッカーと渋沢の二人に共通する『「未来創造」の本質』を、以下の3項目に要約して、示します。
【「高く広い視点で時代が要請するものを見極めていた」】
 渋沢は、常に天下国家という意識がありました。明治という時代が求める、ありとあらゆる、事業を設立していきました。この事業の設立の順番も理に適っているのです。まず、経済の血流と言われる銀行を設立しました。銀行の次に、明治になり紙幣による納税や、義務教育で学校の教科書が必要になる等、大量の紙が必要になることを踏まえ、製紙会社を設立したのです。
 ドラッカーは、社会が、19世紀に主流の個人事業から、20世紀には人類の大半が組織で働くようになり、組織のマネジメントが機能しなければ人類は幸せになれないという時代の要請に応え、マネジメントの研究に向かいました。ドラッカーの思想の根底にあるのは「人間の幸せ」「仕事を通して人間はどうすれば幸せになれるか」を考え続けた人でした。

【「本質を見極めていた」】
 渋沢は、事業において極めて重要なのが「専門的経営者」であることを見極めていました。著書「青淵百話」で、「事業の成否は、経営者に適切な人物がいるかどうか」と述べています。事業を起こす際に、事業を始める遥か前から、経営者に相応しい優秀な人材を探していました。この様に本質を極めたことで、500社もの企業を設立できたのです。
 ドラッカーは、現在の大変化の本質を、産業中心の社会つまり資本主義社会が終わりを告げ、知識社会の到来と捉えます。この知識社会において、事業を切り開いていくために見極める本質を提起しています。それは、『事業の本質としての「顧客」と「知識」』、『顧客を知り尽くすための「分析」と「知覚」』、『知識の生産性を高めるための「統合」』、『古いものの上に新しいものを載せて「一体化する独創性」』、『改革の原理としての正当保守主義(持っている「強みを生かす」)』の5つです。詳細は紹介本をお読み頂ければと思いますが、一つだけ、ドラッカーの本質の深さの例として、上述の「知識」について、説明させて頂きます。ドラッカーは「知識」の本質をこの様に解説しています。『「知識」は本の中にはない。本の中にあるものは情報である。「知識」とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である』(「創造する経営者」より)です。

【「誰もやっていない新しい道を歩むことを決意した」】
 渋沢は、論語などの思想の影響もあり、高い志を持っていました。心の奥底には官尊民卑への憤りを持っていました。大隈重信の「新しい日本のために一肌脱いでくれ」の言葉もあり、大蔵省の役人になるも、大久保利通との意見の相違から上司の井上薫と共に官を辞するに当たり、民間の実業界に出ることを決意します。「民間に出たら役人にあごで使われるだけ」と慰留を受けるも、決意は変えず、論語の道徳観をベースに、民間における品位と才能のある人材の育成の道を歩んだのです。この高い志・決意が、人材の育成を含め、日本の近代資本主義社会の盤石の礎を築いたのです。
 ドラッカーは、まだマネジメント学のない時代に、GMからの依頼もあり、GMを調査して書いた「企業とは何か」(1946年)を出版します。しかしGMの経営陣から否定され、当時勤務していたベニントン大学の学長からも認められなかったのです。ドラッカーは「成果を上げる責任あるマネジメントこそ全体主義に代わるものである」と述べている通り、ユダヤ系オーストリア人であったことから、ヒトラーの出現を機に、勤務していたドイツを離れ、オーストリアを経てイギリスへ、更にはアメリカへと移ります。家族と別れ、母国を離れ、ユダヤ人同胞の悲劇を知り、ドラッカーの心の奥底には、人間への絶望、独裁者への怒りなど、他人からは推測できない辛い感情を持ちながら、一方で何としても、組織で働く人々を幸せにしようとの強い思いで、マネジメントの研究に突き進んでいったのです。そして「マネジメントの父」と言われるまでになったのです。
本
 渋沢栄一が紙幣の肖像になることの意義(むすび)
 産業人が紙幣の肖像になるのは、渋沢栄一が初めてです。この機会に渋沢栄一の偉業とその本質、及び、渋沢栄一を称賛したドラッカーとの二人に共通する『「未来創造」の方法論の本質』を学び、私たちの経営に生かしていこうではありませんか。
本
【酒井 闊プロフィール】
 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
本

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【経営コンサルタントのお勧め図書】 「理念」+「仕組み」で成長 『「とにかく仕組み化」-仕組をつくり、上を目指す-』 2405

2024-05-28 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 「理念」+「仕組み」で成長 「とにかく仕組み化」-仕組をつくり、上を目指す-』  2405   

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

本

■    今月のおすすめ

   『「とにかく仕組み化」-仕組をつくり、上を目指す-』
         (安藤広大著 発行:ダイヤモンド社)


発売日: 2023年5月31日 ページ数: 320ページ 言語: 日本語
ISBN-10: 4478117748 ISBN-13: 978-4478117743 ¥4,980

本

■「仕組み」について思考を深めてから、お薦め本を紹介します(はじめに)

 本欄「経営コンサルタントのお勧め図書」では、2024年3月から5月にかけて、経営理念を新たに構築、或いは、再構築する企業に参考となる図書をご紹介しています。
 3月は理論的な『「経営理念2.0」会社の“理想と戦略”をつなぐ7つのステップ』をご紹介しました。4月は、実践的な『「経営」稲森和夫、原点を語る』をご紹介しました。5月は、経営理念を実現する『「とにかく仕組み化」仕組をつくり、上を目指す』です。
 「仕組み」についてよく引用される名言があります。それは「ビジョナリー・カンパニー~時代を超える生存の原則」に登場する『時を告げるのではなく、時計をつくる』です。
 この名言の意味するところは、永続企業の要件は、カリスマ的な経営者が、一時的に謳歌・繁栄する、『時を告げる』経営ではなく、素晴らしい製品やサービスを次々と生み出せる、永続的に時を刻む時計のような、「仕組み」を重視する経営であるとします。つまり、永続的に繁栄を刻む『「時計(仕組み)」をつくる』ことが重要なのです。さらに言えば、アウトプットである「商品・サービス」よりは、「商品・サービス」をアウトプットするプロセスである「仕組み」に目を向けることで、組織による再現性が高まり、繁栄が永続するのです。
 「仕組み」が時計になる要件を考えてみましょう。
 まず、「仕組み」を組立てる「仕組み化」のプロセスのスタートである、ビジョンと現状とのギャップの認識です。ここでは、“経営理念(M<p>・V・V;「ビジョナリー・カンパニー」レベル)”と“現状の見える化”がキーとなってきます。このギャップを埋めるのが「仕組み」です。この「仕組み」が備えるべき要件は、改善・改革と前進・成長を促す要素に加え、「仕組み」を支えるインフラとしてのプロセス・マネジメント(“振り返り”とプロセス・アプローチによる“価値創造”)です。更に加えるならば、具体性・手順性・一貫性(Specific・Methodical・Consistent)、全体最適、インサイド・アウト(共有性・納得性)が求められます。
 次は、「仕組み化」の領域です。領域は多様です。人事、働き方、お金、組織、売上・営業、CS、品質等々に加え、これらの上位領域としての理念体系です。ここで大切な要件は、仕組み・領域間相互の一貫性、整合性、全体最適です。

 以上で「仕組み」についての思考を終え、おすすめ本「とにかく仕組み化」の紹介に移りましょう。
 紹介本の著者は、日本社会に対する強烈な「違和感」から、この「違和感」を改善し、正しい方向に導く「仕組み」を提言する、コンサル会社、株式会社識学を2015年に起業します。社名の“識学”は、2013年に著者が違和感を解決する思考法の「意識構造学(識学)」に出会ったことに由来しています。
 意識構造学は、人が物事を認識し、行動に至るまでの思考の働きを、5つの領域(「位置」「結果」「変化」「恐怖」「目標」;次項で解説)で捉え、暗黙知の多い“人・組織”の領域に於いて「仕組み化」により形式知化し、思考の癖に紐づく誤解や錯覚の発生要因を特定し、この発生を防ぎ、意志の高い組織を作るマネジメント手法・学問です。〝識学コンサル“の導入企業は4000社以上で、導入企業の80%は1年以内に売り上げが向上しています。
 著者は「違和感」について次の様に言います。『日本社会の状況は、耳あたりの良い「一人一人に優しい」を履き違え、長期的には優しくする側も優しくされる側も「マイナスとなること」が殆どで、組織がどんどん弱体化している』です。
 私(筆者)は、何故このような履き違いが起こっているかを、私流に考えてみました。それは「エンゲージメント」「従業員満足度」「モチベーション」「ロイヤリティー」の解釈を履き違えている結果と理解します。組織のプラスになるのは、『従業員相互の対等の関係に基づき、主体的・意欲的に取り組んでいる状態の「エンゲージメント」』です。他の3つは、個人的・受動的な思いに留まる限り、組織にプラスの作用はないのです。つまり、他の3つも大切ですが、「エンゲージメント」に結びつかない限り意味がないのです。4つの概念の違いについては、[図1(下記URL)]を参照下さい。


 因みに、米ギャラップの2023年版リポートによると、2022年の『「社員エンゲージメント」国際比較』において、日本は145カ国中で最下位でした。仕事や会社への熱意、貢献意志などが高い「エンゲージしている社員」はわずか5%で、4年連続で過去最低となっています。著者の違和感が、この調査結果に如実に現れているのです。[図2(下記URL)]を参照下さい。

 この様な違和感的状況の解消を目指し、人・組織の領域において、世間一般常識を超えた「とにかく仕組化」により、「社員エンゲージメント」を高め、生産性の向上を提言しているのが紹介本です。
 次項で、「とにかく仕組化」の注目点を「意識構造学」の5つの領域に触れながら、見てみましょう。
 なお、紹介本をより深く体系的に見るために、『週刊ダイヤモンド2024.2.17、特集「識学大全」(「とにかく仕組み化」「数値化の鬼」「リーダーの仮面」の“識学”3部作を、書籍にない実例・図解で理解)』を参考にしています。
本
「とにかく仕組み化」と「意識構造学」の仕組みのポイント

【「とにかく仕組化」で目指すものと、実現のための前提条件】
[5つの領域の「位置」「結果」]
 目指すものとして、仕事で結果を出すこと、人をマネジメントすること、組織を大きくしていくこと、の3つの原則を挙げます。
 前提条件としては、フラット型組織ではないピラミッド組織のもと、リーダーとプレーヤーの立場(「位置」)を互いに正しく認識し、責任と権限を明確にした上で、リーダーは感情・本能を排除し(紹介本では「仮面をかぶり」と表現)、責任・理性・原則・ルール(マニュアルを含む)・事実・「結果」に基づき、プレーヤーの成長を目指し、マネジメントします。
 一方、プレーヤーも感情・本能を排除し、ルール(マニュアルを含む)・事実・「結果」に基づき、リーダーとコミュニュケートします。
 これにより、好き嫌いや友達感覚などの感情を抜きにして、「結果」を追求する組織となるのです。「ビジョナリー・カンパニー」と同様、不適切な人にはバスから降りてもらう仕組みとし、意志の高い人が残り続ける組織を目指します。

【「意識構造学」の求める「変化」とは】
[5つの領域の「変化」]
 求める変化は色々ありますが、前掲の週刊ダイヤモンド2024.2.17は次の様に解説します。『[「変化」以前の誤っている状態]①給料をもらう②サービス・商品の提供行動③対価・利益。⇒[「変化」後の正しい状態]①サービス・商品の提供行動②対価・利益③給料をもらう』に見る順序の「変化」が重要とします。この思考法が「意識構造学」のベースにあるのです。

【正しい「評価」で「恐怖」「成長」を促す、「数値化」と「数値化の効用」】
[5つの領域の「結果」「恐怖」「目標」]
 上記[変化後の正しい状態]を前提とすれば、①②の「結果」を評価し③を決めることになります。正しい評価をする為に、数値化され行動と直結するKPIを「目標」として設定し、KPIの達成状況を以って評価する仕組みです。新人や他部門からの転入者などについてはマネジメント側がKPIを設定します。「結果」だけで評価し、プロセスは評価しない事をルールとします。勿論、マネジャーはプレーヤーのKPI達成をサポートしますが、具体的な数値を以ってのみです。
 評価は1年に4回で、その評価はゼロ評価(達成+3、未達成0、あと一歩0、大きく達成+4)ではなく、マイナス評価(達成+3、未達成-2、あと一歩-1、大きく達成+4)です。-1と-2の評価の場合は降給・降格です。降給・降格しても再挑戦で昇給・昇格できる仕組みです。
 評価の「数値化」の効用は、「恐怖」と「成長」です。
 メンバー全員が同じ手法のKPIを使い、オープンにすることでお互いの「比較と平等」を可能にする仕組みです。「比較と平等」により他のメンバーとの相対的な位置が分かることで『危機感(いい意味の「恐怖」)』が生まれ、「成長」と「頑張り」を生みます。
 マイナス評価は、更に強い「危機感」「成長」「頑張り」を生むと同時に、降給・降格を伴うことで、年功序列賃金体系を無くし、「働かないおじさん」の解消に繋がります。
本
「仕組み化」で「時を刻み続ける時計」を創ろう(むすび)
 前項で見たように、「識学」の評価の「仕組み」は、生産性を向上させ、日本の、下がり続ける「世界競争力ランキング」、最低位の「社員エンゲージマント」を上昇させる転換点となり得ます。また、人手不足を補う効果も期待できます。更には、年功序列賃金慣行を成果主義の世界標準に切り替えていく契機にもなります。
 「仕組み化」により、驚くほどの、「経営理念((M<p>・V・V)」が目指す「変革」を果たせることが、本欄3月、4月、5月の紹介事例から理解できます。更なる、そして永続的に成長するために、新たな「仕組み化」或いは既にある「仕組み」の見直しに挑戦し、「時を刻み続ける『時計』」を創りませんか。
本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/index.html

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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 経営コンサルタントを目指す人の多くが見るというサイトです。経営コンサルタント歴半世紀の経験から、経営コンサルタントのプロにも役に立つ情報を提供しています。


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【経営コンサルタントのお勧め図書】 『「経営」稲森和夫、原点を語る』 2404

2024-04-23 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 『「経営」稲森和夫、原点を語る』 2404   

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

本

■    今月のおすすめ

   『「経営」稲森和夫、原点を語る』
     稲盛ライブラリー+ダイヤモンド社

     「稲森和夫経営講演選集」共同チーム編


本

  稲盛経営の原点は何?(はじめに)
 本欄「経営コンサルタントのお勧め図書」では、2024年3月から5月にかけて、経営理念を新たに構築、或いは、再構築する企業に参考となる図書をご紹介しています。3月は理論的な『「経営理念2.0」会社の“理想と戦略”をつなぐ7つのステップ』をご紹介しました。4月は、実践的な『「経営」稲森和夫、原点を語る』をご紹介します。
 今回の紹介本が示す稲盛「経営」論の価値は、稲盛氏が経営者として実戦・実践してきた経験から編み出した経営論であることです。つまり、実際の企業経営で、自身の考え方を創出、適用し、検証し、積上げ、結果を出していることです。ジム・コリンズ「ビジョナリー・カンパニー・シリーズ」の、‟永年存続企業18社”‟偉大な企業への飛躍企業11社”‟10倍以上の成果「10X型企業」7社”について‟比較対象企業との「一対比較法」“により歴史的・実証的・体系的・帰納的に導き出した、経営理論と高い親和性を有しています。
 ところで稲盛流「経営」は企業経営者としての経験に加え、稲盛氏が理系出身だからでしょうか、人生・経営についての方程式が背景にあり、それらの方程式が連立して、稲盛流「経営」論の中核をなす“フィロソフィ”“アメーバ経営”(=“MVV”+“仕組み”)が出来上がっています。その方程式を見てみましょう。

〔方程式1:大切なのは、「魂」のレベルでの判断〕
 稲盛氏は人間の判断のレベルを、本能、理性、魂の3段階と捉えています。
 本能は、人間が生まれた瞬間からある働きで、小脳の近くにある脳幹網様体が本能を司っています。本能は肉体を守るための機能で、食欲や敵に向かう闘争心などです。本能で判断しているケースは、“自分”、“自分の課”などは“エゴ(自我)”が働く領域です。
 理性は、推理推論し物事を決めていく機能です。人間が生まれてから4歳までに発現する機能で、前頭前野が司ります。理性は論理の組み立てによる判断は出来ますが、前例も何もない状況では判断・決断を導けないのです。これが理性の限界です。
 理性を超えた先にあるのがのレベルでの判断です。魂について、稲盛氏は、「心の階層をラッキョウの皮の様にめくっていくと最終的にたどり着くのが魂」、「魂とは、“自我”の対極にある、“真我”(ヨガ用語。読み方;しんが。悟りの意)の領域」、「人格を高め、人間性を豊かに美しくするには、魂を磨くこと」等と表現します。
 方程式1の結論は、「最終的に頼るべき判断は、本能でもなければ理性でもなく魂であり」行きつく処は「人間とはどのようにあるべきか」「真・善・美」です。

〔方程式2:人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力〕
 能力と熱意は0点から100点迄あり、足し算ではなく掛け算で人生に影響を与えるとします。能力は学歴を例に試算しますと、優秀なA大学出身のAさんの能力を90点とします。普通の大学B大学出身のBさんの能力を60点とします。社会人になってからの熱意はAさんのレベルは30点、Bさんは90点とすると、Aさん,Bさんの熱意×能力は、Aさん2,700点(90×30)、Bさん5,400点(60×90)となります。
 これに“考え方”の掛け算が累加されます。“考え方”はプラス100点からマイナス100点迄あります。反社会的考え方はマイナス、純粋な正義感で社会貢献をする考え方はプラスです。Aさんの考え方が30点、Bさんの考え方を90点とすると、二人の人生・仕事の結果は、Aさんは81,000点、Bさんは486,000点となります。要は魂の力で高めることの出来る“熱意”と“考え方”が大切なのです。
 “考え方”は人生観、哲学です。学校では教えてもらえません。稲盛氏は、27歳で会社を起してから、仕事をする中、魂で学んだ「人間としてこうあるべきだ」ということを、箇条書きにして書き記してきました。その成果物が経営12カ条です。それを企業版に展開したものが“フィロソフィ”と“アメーバ経営”です。組織の「考え方」であるフィロソフィが一人一人の人間力を高め、最善の企業文化を創り、ファンを増やし、売上に繋がっていくのです。“アメーバ経営”は、経営12カ条・第5条の“売上を最大限に、経費は最小限に、利益は後からついてくる”を体現し、事業のプロセスを重視した部門別・独立採算制の管理会計の仕組みです。以下に「経営12カ条」「京セラフィロソフィ」「JALフィロソフィ」「アメーバ経営」のURLを記させて頂きます。一つ一つの原理原則に、その背景を思い浮かべ、貴重な重みを覚えます。
(経営12カ条)
 https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/manager/twelve/
(京セラフィロソフィ)  
 https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/thinker/philosophy/
(JALフィロソフィ)
 https://www.jal.com/ja/philosophy-vision/conduct/
(稲盛会計学 7つの基本原則)(アメーバ経営)
 https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/manager/accounting/
 https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/manager/amoeba/

〔方程式3-①:方程式1-2の連立から導かれる、“稲盛流のMVV”〕
 稲森流「経営」論で、ミッションとは、魂レベルの考え、全従業員の共感を得られる大義名分とし、「全従業員の物心両面の幸福」「人類、社会の進歩発展に貢献」を掲げます(京セラ、JALのミッションは下記URL)。
(京セラM)
 https://www.kyocera.co.jp/company/summary/philosophy.html
(JALのM)
 https://www.job-jal.com/introduction/philosophy/

 ビジョンとは、「共通の夢、願望を持ち、そこに至る道筋を共有し企業発展の推進力」であり、「一つ一つの山・目標を超えていくゴール」であるとします。
 バリューは“フィロソフィ”です。“フィロソフィ”は「全部門、全従業員が共有でき、粉骨砕身尽くせる大義名分」であり、「組織の価値観」「考え方」を「表出化・形式知化」したものです。因みに“JALフィロソフィ”の素晴らしさは、再生前の評価の低いマニュアルに基づくサービスに対し、“JALフィロソフィ”に基づく人間力でその場その場で臨機応変に応じて、マニュアルを超えて、適切に提供されるサービスを生み出し、驚くほどの高評価を得ているのです。

〔方程式3-②:方程式1-2から導かれる、MVVを反映した“仕組み”である、
  “経営理念を共有し、
   仲間と経営人材を創り、
   業績を上げる「アメーバ経営」”〕

 フィロソフィに基づき行動し、業績をあげる仕組みが「アメーバ経営」です。その特徴は3つに集約されます。一つは、事業として完結でき、会社全体の目標を実現できる「ユニット」を部門とした、部門別独立採算制度の確立です。二つ目は、ユニットを通して経営者意識の人材育成の場とすることです。三つ目は、フィロソフィをベースとした全員参加経営を実現しパートナー(仲間)の絆を深めることです。
 フィロソフィと一対のアメーバ経営がJALの驚くべき再生・復活で実証されました。アメーバ経営についてのJALトップ植木社長(当時)の発言に注目です。「一人一人が数字を真剣に追いかけ始めたのです。費用は最小限に、収入を最大化することをDay By Dayで出来るようになりました。それよりももっと大きいのは、一人一人の社員が、経営者の感覚を持ったということです(次項インタビューより引用)」。

〔JAL再生で実証された稲森流「経営」のパワー〕
 以上で稲盛「経営」の解析をしてみました。ところで、海外メディアからも「奇跡」と報じられた、2024年1月2日の羽田空港での海保機との衝突事故においてJAL機の乗員乗客379人全員の脱出に成功したことは、JALフィロソフィにより、予想を超えた危機に直面しても、最適のサービスを提供した結果と思います。
 また、再生から2年余りで約3,350億円の利益の改善は「アメーバ経営」の力です。
 この様に、再生から大きく変革したJALにおける、稲盛流「経営」の偉力について、次項で見てみたいと思います。
本
■ JAL再生での稲盛経営の中核“フィロソフィ”と“アメーバ経営”の偉力

 JALは2010年1月に会社更生法の適用を申請。申請直後の2010年3月期の営業利益は▲1,337億円。2012年9月に再上場。再上場直前の2012年3月期の営業利益は2,049億円の黒字。約2年余りの再建期間で、3,349億円の採算改善を成し遂げました。2023年には「ワールド・エアライン・アワード」で、世界一のエコノミークラスを提供している航空会社として「ワールド・ベスト・エコノミークラス」を受賞しました。これは、再生前のJAL評価(稲盛発言より)「傲慢さ、横柄さ、プライドの高さ」から脱却し、JALフィロソフィの“一人一人がJAL”の精神で、経営理念の「お客さまに最高のサービスを提供します」を実現する企業へと生まれ変わった結果と言えます。
 稲盛氏は、2010年2月にJALの会長に就任し、2012年9月の再上場までの2年8ヶ月、JAL再生・復活を導きました。
 稲盛氏が『私は航空事業に関する知識も経験も全くなく、勝算もありません。JAL再建のために携えて行けるのは「フィロソフィ」と「アメーバ経営」だけ』と言っているように、稲盛「経営」の中核的「考え方」「仕組み」によりJAL再生を導いたのです。
 何故この様な奇跡と言えることを成し遂げられたのか、稲盛経営のパワーはどこにあったのか、このことを受入れ側のJALサイドから見てみます。以下で、稲盛会長当時、専務・路線統括本部長を務め、2012年2月には社長に就任した植木義晴氏のインタビューでの発言を見てみましょう。
〈“賢者の選択;特選インタビュー”「2014.6.22;翼の再生を納得する“フィロソフィ”の中身とは? 元操縦士の挑戦と行き先 日本航空株式会社代表取締役社長 植木義晴」〈https://kenja.jp/2346_20180214/〉より引用。〉

 ≪「フィロソフィ」について≫
 「経営破綻になるまでは、一生懸命であったが、それぞれのベクトルが合ってなかっ。“フィロソフィ”という共通の考え方を持ったことで、全員が1つの方向へ向かっていけるようになりました」
 「2010年6月から全役員と一部の主要な部長、50人ほどで、稲盛会長をリーダーとする勉強会をしました。1カ月の間に18回、大体午後6時から9時・10時までというのを、ほぼ毎日のように続けていました。今さら道徳的なこと何の足しになるのだと半信半疑でした。しかし、稲盛さんの圧倒的な存在力というか、過去の経営も含めてお話をして下さる中で、乾いた砂に雨が降ったときのように、皆の心の中に入ってきて、最後には、皆で“フィロソフィ”を大切にして行こうという気持ちが出来上がりました(フィロソフィは2011年1月に公開)。」
 「フィロソフィの中の『一人一人がJAL』ですが、これは、客室乗務員が機内でお客様と接しているとき、或いは、カウンターの女性がお客様とお話しているとき、まさしくJALを代表してくれているのです。お客様からすると、その一人の女性を通して、JALをお知りになる。その意味では全てあなたに任せましたよという気持ちで我々はいます。そのためには一人一人の人間力を高める教育が大切であり、それがJALフィロソフィ教育だと思っています」

 ≪「アメーバ経営」について≫
 「意識改革である“JALフィロソフィ”の業績への寄与については自信が持てず、利益が出る仕組みとしての“アメーバ経営”という部門別採算制度を取り入れました。“アメーバ経営”を採用してびっくりしたのは、皆が真剣になって数字を追いかけ始めたことです。今まで計画自体の存在すら気にしなかったような集団が、自分たちの目標とする数字に毎月毎月達成しているかどうかを、本当に真剣に追うようになりました。毎日の一つ一つの便の収支が出ますので、それをベースに、非常に速いスピードで対応しています。例えば、予約の入りが悪いとしたら、中型機から小型機に変えることによって費用は最小限ですみます。逆にここはいいぞと思うと、大型機に変えて、収入を最大化する。そういうことをDay By Dayでやっています。この仕組みは利益を出す仕組みですが、それよりももっと大きいのは、一人一人の社員が、経営者の感覚を持ったことです」
 上記で、植木氏のご発言を見てきました。JALの皆さんが、稲盛氏の熱意を糧に弛まぬ努力をし、「JALフィロソフィ」と「アメーバ経営」を生かし、奇跡的な再建・復活を果たされたことをご理解いただけたと思います。マニュアルによる、型通りのサービスではなく、「人間力」による、マニュアルを超えた、適宜・適切なサービスの力の大きさを確認できます。Day By Dayで収入の最大化と費用の最小化を全員参加で行い、驚異的利益の改善を果たした事が良く判ります。
本
■ 経営理念策定の際は稲盛流経営を守破離しよう(むすび)

 経営理念の実践例としての、稲盛「経営」とJALの奇跡的再建における、MVV、フィロソフィ、アメ-バ経営を見てきました。JALの実践例は、「ミドル・アップダウン・マネジメント」「アウトサイド・インとインサイド・アウトの共創」の成功例でもあります。
 稲盛流「経営」、フィロソフィ、アメーバ経営を学び、これらを守破離し、或いはクリティカル検証のツールとして活用し、自社の経営を生き生きと支える経営理念を構築しましょう。
本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/index.html

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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【経営コンサルタントのお勧め図書】 経営理念2.0を守破離して3.0を 会社の“理想と戦略”2403

2024-03-26 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 経営理念2.0を守破離して3.0を 会社の“理想と戦略”2403    

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

本

■    今日のおすすめ

『「経営理念2.0」会社の“理想と戦略”をつなぐ7つのステップ

                    (佐宗邦威著 発行:ダイヤモンド社)

本

「経営理念2.0」とは(はじめに)
 
 紹介本の著者は、『自社の存在意義、自分が働く意味を見失いかけている企業、特に「中年の危機」に差し掛かっている企業には、新しい経営理念の作り方・活かし方である「経営理念2.0」が有用』と言います。勿論、著者が言う「中年の危機」以外の企業、特に、新たにIPOを目指す企業など、新たに経営理念を構築しようと考えている全ての企業に参考になります。
 また、「経営理念1.0」から進化した「経営理念2.0」の特色について、次のように記します。それは、『「社長の誓い」ではなく「みんなの物語」』にする、『組織の構成員の中にある「暗黙裡の思想(暗黙知)」を掘り起こし「言語化(形式知)」を図る』ことにより策定する、『「みんなの物語」を創るために「社員それぞれが自分たちの理念についてつねに自問自答して語り合う」場を持つ仕組み』とする、等々です。
 さらに、「経営理念2.0」を構成する要素として7つのステップを挙げ、紹介本の目次としています。それは、「ビジョン」「バリュー」「ミッション」「ナラティブ」「ヒストリー」「カルチャー」「エコシステム」です。これらの7つのステップのシナジーな関係は、次のように理解できます。
 「ナラティブ」「ヒストリー」「カルチャー」を、「経営理念2.0」の特徴である、3つのソフト(見えないもの)と位置づけ、3つのソフトを活用し、「ビジョン」「バリュー」「ミッション」の3つハード(見えるもの)を創出し、更には、3つのハードを反映した戦略的仕組みの「エコシステム」を創り、「エコシステム」の戦術的な運用・実施・見直しにより、「存在意義」と「働く意味」を沸き上がらせ、企業の活性化・発展を実現するシステムと言うことが出来ます。
 「経営理念2.0」の特徴である、3つのソフトを簡単に解説します。
 「ヒストリー」は「我が社の今を作った原点はどこにあったのか?」との問いにより、愛着と歴史的資産を見つけ3つのハードの礎とします。
 「カルチャー」は「私たちの会社の“らしさ・組織文化”は何?」と問い、3つのハードが自分たちの組織文化とかけ離れないものとする機能を果たします。
 「ナラティブ」は、「命令」とは対極にある「自分を主語にして語れる」ことであると定義し、7つのステップ全体を、組織の一人一人が「納得」出来るものに、「自発的行動を生む」ことが出来るものに仕立て上げる、組み込み要素部品的機能を果たします。
 これらのシナジーな関係については〔図1(下記URL)〕を参照ください。



 以上「経営理念2.0」の枠組みを見てみましたが、次項で注目点に触れ、更なる理解を深めてみたいと思います。
本
「経営理念2.0」の理解を深め、更には自社流「3.0」にバージョンアップを
【「ビジョン」「バリュー」「ミッション」を正しく理解する】
 企業理念のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)は、ピーター・ドラッカーの著書「Managing in the Next Society」「A Functioning Society」(いずれも2003年出版)で提言され、注目されるようになりました。しかし、ドラッカーの提言はMVVについての簡単な提言で、詳細な説明はありません。その結果、経営管理分野において、様々な説明がなされています。
 MVVの定義についての「経営管理2.0」の説明は分り易く、適切と思います。紹介本におけるMVVの説明を〔図2(下記URL)〕に纏めてみました。英文表記と簡潔定義が参考になります。




【「経営理念2.0」と「ビジョナリー・カンパニー」を対比し、理解を深化させる】

 ここで、思考をする前頭葉を更に刺激し、MVVの理解を深めてみましょう。それはMVVについて、「経営理念2.0」とドラッカーの後継者(注)と言われているジム・コリンズの「ビジョナリー・カンパニー」(注)を対比して思考してみることで、MVVのシナジー・アップが出来ます。
 両者を比較することで、MVVの概念がより明確になります。両者の定義は微妙に異なります。両者から自社流を導き出すことが出来たら最高ですね。両者の対比表【図3(下記URL)】を参照しながら自社流を導き出してみませんか。

(注)「私の本棚2022.3.22」(下記URL)を参照下さい。

【MVVを戦略、戦術に落とし込む「エコシステム」の優れた実例
    ―サウスウエスト航空の「SMaCレシピ」―】

 「経営理念2.0」の「エコシステム」は、6つのステップを落とし込んだ実行計画を策定し、PDCAサイクルを回す「仕組み」です。紹介本では多くの事例が紹介されていますが、ここで、分かり易く・優れた事例として、「ビジョナリー・カンパニー」流「エコシステム」を紹介させて頂きます。
 それは、サウスウェスト航空の「SMaCレシピ(Specific;具体的である、Methodical;整然としている、and Consistent;一貫している)」です。
 「SMaCレシピ」の優れている点は、MVVから戦略上の概念をつくり、「SMaCレシピ」という戦術以上に永続性のある手順書を作成し、PDCAサイクルを回し、併せて、AAR(After-Action Review;事後の振り返り)を継続し、ビジョン(コリンズ式「BHAG」)を実現するという、「MVV⇒戦略への落とし込み⇒戦術化」のプロセスが分り易い点と、「ビジョン実現の確率」が高い点です。「SMaCレシピ」の詳細は【図4(下記URL)】を参照下さい。

【「経営理念2.0」を守破離して自社流「経営理念3.0」にバージョンアップを】

 経営管理の世界では、「まね」から「ひらめき」「触発」を導く「まねび」が良い結果を導き出すことが多く有ります。シュンペーターも「新しい知とは常に、『既存の知』と別の『既存の知』の『新しい組み合わせ』で生まれる」と言っていますね。
 以上見てきました「経営理念2.0」と「ビジョナリー・カンパニー」から、「ひらめき」「触発」を経て、自社流「経営理念3.0」にバージョンアップをしてみませんか。
本

■「リーダーシップ」を、経営理念「3.0」で実現(むすび)

 ピーター・ドラッカーは、『「マネジメント」は物事を正しく(効率的に)行うことであり、「リーダーシップ」は正しい事をすることである』と言い、加えて、『企業にとって挑戦すべきは、その社会的正当性、すなわちバリュー、ミッション、ビジョンである(A Functioning Societyより)』と言います。
 ドラッカーが言う「リーダーシップ」を実現するMethodは、経営理念「2.0」をバージョンアップした「3.0」ではないでしょうか。
 経営理念「3.0」を経営改革の起点にし、「正しい事」を行い「社会的正当性」を達成し、改革を成功に導きませんか。

本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

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【経営コンサルタントのお勧め図書】 世界と日本経済大予測2024-25 2402

2024-02-27 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】 世界と日本経済大予測2024-25 2402

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

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本

■    今日のおすすめ

『「世界と日本経済大予測2024-25」

    Economic risk to business and investment』

                    (渡邉哲也著 PHP研究所)

本

■    日本経済にインパクトを与える40の国内、国外のリスク(はじめに)

 紹介本は2024-25年に予測される世界・日本の経済40のリスクについて短く論評しています。著者の経済大予測シリーズは2020年からの5作目です。2020年予測本以来「高い的中率(的中率9割)」で話題になっています。
 紹介本の2024年本で著者は、『グローバリズムの終焉」に伴う世界情勢の変化』の中での『追い風が吹き「未来が明るい日本経済」』を解き明かします。
 それでは、40のリスクの注目点を、上記二つの視点からご紹介します。
本
■    二つの視点から注目のリスクを見てみよう

【「グローバリズムの終焉」に伴う世界情勢の変化】

<「詰んだ」中国の地位を奪うインド>
 紹介本は、「グローバリズムの終焉」に伴う世界情勢の状況から、2024-25年の経済的状況を予測します。
 中国の経済状況の実態は、統計など信憑性が低く正確に把握できませんが、“若者の失業率の公表取り止め”や“国家安全省の中国経済についての批判的な論評なども違法行為として処罰する方針の発表(2023.12.17 NHK NEWS)”等から『「詰んだ」中国』が推し量れます。
 紹介本は、「詰んだ」中国のサプライチェーンの行き先の国はインドであるとします。QUAD、英語という共通言語、米・半導体業界の枢要な地位を占めるインド人、軍事面での米・インドの関係強化など、米・インドの親和性に注目し「インドが世界の半導体工場となる」と予測します。
 一方、紹介本は、インドの特殊性に注目し、ビジネスを進めるよう警告します。
 特殊性として、『ヒンドゥー教に由来するカースト制度による「階級制度」』と『イスラム、ヒンズー、インド共産党など多様な勢力が支配する自治州で構成する連邦国家的「地域性」』を上げています。これらの特殊性ゆえに、中央政府の意向が届きにくく、決定から実行までの速度感が専制国家に比し劣後する点に留意すべきと指摘します。

<国産半導体の復活が始まる>
 紹介本は、東アジアの緊迫している状況をより難しくしているのが半導体製造をめぐる問題であるとします。
 世界の半導体製造のファウンドリー(半導体の受託製造に特化した専門企業)が生産するSoC(System on a Chip)は台湾のTSMCと韓国のサムスンの2社で世界の7割を占めているのです。
 この状況を踏まえ、中国に警戒心を強めるアメリカは、韓国が経済面で中国の支配下に入り、半導体の需給バランスが崩れ、高度な技術が中国の手に落ちることを恐れ、「チップ4」と呼ばれる日米韓台の「半導体供給網同盟」を合意する傍ら、IPEF参加 14 カ国(注1)による「サプライチェーン協定」を通じて、中国以外の地域での半導体サプライチェーンを強化しています。
 加えて、日・米・蘭の3ヶ国による「先端半導体技術の対中輸出規制合意」により対中半導体包囲網を一層強化しています。
 また、EUの、2023年10月に採択し12月に施行が予定される、中国・ロシアを念頭に置いた、『「経済的威圧」への対抗措置を可能にする反威圧手段規則』にも注視が必要です。
 紹介本は、欧・米・日・豪のこの様な状況を捉え、「再び“COCOM(注2)”をつくろうとしている」と言います。この様な動きから、「TSMCに代表される熊本」や「国内半導体主要メーカー8社の出資によるラピダスが新工場を建設している北海道千歳市」における「国産半導体の復活」と「地方経済の活性化」を予測します。
 一方、注意すべき点として、米中デカップリングの進行と同盟・合意による中国包囲網で、中国での半導体生産が出来なくなる可能性が高いことを挙げ、「中国に工場を置く企業に気を付けよ」と警告します。

(注1)IPEF参加14カ国;

●   米国、日本、豪州、ニュージーランド、韓国、ASEAN7カ国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ)、インド及びフィジーの14か国です。

(注2)COCOMとは;

●   1950年1月にスタートし、ソ連崩壊に伴い1994年に解散した、共産主義諸国(ソ連およびワルシャワ条約機構)へのハイテク物資の輸出規制。
●   参加国は、当時のNATO加盟国15カ国(ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、西ドイツ、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、トルコ、イギリス、アメリカ合衆国)及びオーストラリア、日本の17か国。
●    Co-ordinating Committee Control for Export to Communist Areaの略記


【追い風が吹き「未来が明るい日本経済」】

<光半導体技術で日本が世界のトップになる>
 日本の半導体を、再び世界一の座に返り咲くことを可能にする技術があります。それは、NTTが主導しマイクロソフト・インテル・ノキア・NEC・トヨタなど118の企業・団体が参加する「IOWNグローバルフォーラム」が研究開発し、2024年に仕様確定、2030年に実用化を目指している、光半導体技術です。
 IOWN(注3)の光半導体技術は、データ伝送容量を125倍に、電力効率を100倍に、ネットワーク遅延を200分の一に、を実現します。データ容量激増への対応、スマート時代への対応、省電力・脱炭素に向けた驚異の技術です。
 さらに追い風があります。通信規格を決める国際機関である国際電気通信連合の事務総局長に2015年からは中国が就任し、ファーウェイの5Gの規格採用に大きな影響を与えていましたが、2022年9月、事務総局長に米国、電気通信標準化局長に日本(尾上氏)が就任し、通信規格認定の主導権を中国から取り戻したのです。これで速やかな通信規格の5・5G(2025年実用化予定)、6Gが実現します。
 また、光半導体技術の技術的脅威を証左する事実として、TSMCが日本に進出した動機の一つに、光半導体技術への参入があったと紹介しています。
 IOWNの光半導体に期待したいですね。
 

(注3)IOWN(アイオン)はInnovative Optical and Wireless Networkの略記

<日本企業の国内回帰がさらに進む>
 紹介本は、追い風の一つとして原発の再稼働が上げています。電力各社の原発比率(2022年度)は、九州電力23%、関西電力20.3%に対し、東京電力は6.3%、東北電力は5.6%、中国電力は9.6%、北海道電力0%です。原発比率の低い東京電力の柏崎刈羽原発、北海道電力の泊原発の再稼働の実現性が高まっています。
 この原発再開に加え、世界的エネルギー価格の高騰の中で、日本は資源調達が中長期的な契約のため短期的価格高騰の影響を受けづらく、電力コストの相対的有利性があるとします。
 この様な背景と円安の中で日本企業の国内回帰が起こると予測します。その実例として、パナソニックの、中国やマレーシアの業務用空調機器の生産を群馬県大泉町に、中国のエアコンの生産を滋賀県草津に、2024年3月までに、移転する事例を挙げています。2023年も多くの企業の日本国内回帰がありましたが、2024-25年についても国内回帰が進むと予測します。
 その他の追い風として、「シニアの活用がますます進み、日本を元気にする」、「長期滞在をするアメリカ・カナダの観光客が増え、中国などの東アジア観光客頼みから脱却し、実滞在人数でコロナ前の水準に回復する」、「“中国離れ”でGDPの成長率も良化する」等を挙げています。
本
■    予測されるリスクをチャンスに(むすび)

 紹介本では、40のリスク予測それぞれの結びとして「リスクをチャンスに切り替えるキーワード」が書かれています。キーワードを参考に、ビジネス・チャンスを掴みましょう。
 本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。  企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

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【経営コンサルタントのお勧め図書】2024年は歴史の大転換点 ~ 日経大予測2024「これからの日本の論点」 2401

2024-01-23 00:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】2024年は歴史の大転換点 ~ 日経大予測2024「これからの日本の論点」 2401



経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。


 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。


 


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本


■    今日のおすすめ


『日経大予測2024「これからの日本の論点」』


                    (編著:日本経済新聞社 発行:日本経済新聞出版)



本


■ 2024年のP・E・S・Tを見てみよう(はじめに)


 紹介本「2024これからの日本の論点」は、「2024年を予測する3つのキーワード」「日本は豊かになれるか」「世界企業の新常識とは」「対立深まる世界のゆくえ」の4分野23論点を展開します。
 2024年は、まさに先が見えない「歴史の大転換」の時代と言えます。その中で注目した視点を次項で見てみたいと思います。


本


■ 2024年の注目情報はこれ



【2024年の3つのキーワード】
 紹介本が示す2024年を予測するキーワードは、「生成AI」「グローバルサウス」「世界で相次ぐ重要選挙」の3つです。「世界で相次ぐ重要選挙」に注目してみましょう。
 注目選挙を早い方から見てみましょう。1月13日投開票の台湾総統選は、現在リードしている与党民進党の頼候補が勝利した場合の米中の動きに注目です。


【 注 】
 当原稿執筆の際には、まだ台湾総統選の結果はわかっていませんでした。
 結果は、頼候補の勝利となりました。


 3月17日には5選を目指すプーチンのロシア大統領選があります。ウクライナ戦争におけるロシア軍の死者数(15万人)、高いインフレ率(卵・青果物+23%前年比)、若者・技術者の流出(80万人)、高い政策金利(15%)とルーブル安(1ドル100ルーブル:2023年11月は2022年4月と同レベルの安値)などの不安材料を見ると、5選は確実でも、政権の先行きは?でしょうか。6月の欧州議会選挙については、最近のオランダにおける極右政党の勝利などから考えると、結果次第で、対ウクライナ・ロシア政策に変化が起こる可能性があります。


 2024年最大の重要選挙は11月の米大統領選挙です。トランプの勝利になるか、世代交代が起こるか事態は流動的です。いずれにしても世界の政治経済に大きな変化をもたらす11月5日の米大統領本選挙の動向に注目です。



【「脱炭素」の行方は「脱中国」か?】
 「脱炭素」の行方について、紹介本の『論点9「綱渡りの電力供給、脱炭素と安定供給を両立するエネルギーは」』と『論点19「経済安全保障論が半導体からグリーンに広がる」』から見てみましょう。
 科学的根拠に欠けプロパガンダ的な「脱炭素」を否定できない風潮が、世界の政治・経済で蔓延しています。〔本ブログ2021年10年27日『「脱炭素」は噓だらけ』(杉山 大志著 産経新聞出版)を参照ください。〕


  https://blog.goo.ne.jp/keieishi17/e/42b29b40391d305ed7478a4019362a45



 この流れの象徴的な動きを米・欧・日の政策から見てみましょう。
 米国では、2022年8月に成立したインフレ抑制法(IRA法)により2031年までの10年間で3,600憶ドル(52兆円)を投じ、CCS(CO₂の地中貯留技術)や水素製造などの脱炭素技術を税控除や補助金を通じ実用化を図ります。この政策の重要なポイントは脱炭素技術の生産拠点を米国内に確保しようとする経済安全保障です。最近、その具体事例が出てきました。『米政府、脱炭素より脱中国 EV税優遇で中国材料排除(2023.12.2日経電子版)』です。中国産の部材・鉱物(2024年からは電池部材、25年からはニッケル、リチウムなど重要鉱物)を使ったEVは、1台当たり約110万円の税優遇を受けられなくなるのです。米国内生産の部材・鉱物でも、中国関連資本が25%以上を握る企業やグループによる製品は対象となる見通しです。
 次はEUです。欧州委員会では2023年2月グリーンディール産業計画を発表しました。この計画では、2027年までの間に、ネットゼロ技術の域内での生産能力の拡大および脱炭素戦略的技術の支援を目的に5,470憶ユーロ(86兆円)の支出を計画しています。
 ここで注目したいことは、グリーンディール政策の一環として導入された国境炭素調整措置(CBAM:Carbon Border Adjustment Measure)です。
 CBAMとは気候変動対策をとる国が(EU)、対策の不十分な国(中国など)からの輸入品に対し、水際で炭素課金を行う仕組みです。加えて、EUから対策の不十分な国(中国など)への輸出に対し、水際で炭素コスト分の還付を行います。



 詳細は「〔図解〕国境炭素調整措置とは」を下記URLからご覧ください。[ここから]
     http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20240123CBAM-ver1.pdf


 このCBAMは、2023年10月から移行期間に入り、2026年1月1日から本格実施となります。移行期間ではCBAM対象製品の排出量報告のみが義務付けられ、課金は行われません。CBAM対象製品は、セメント・電気・肥料・鉄と鋼鉄・アルミニウム・化学物質(水素)の6品目です。ここで注意しておきたいことは、EUは移行期間終了の1年前(2024年12月31日)までに、追加製品を決めるとしていることです。日本からEUへの輸出金額が大きい自動車や自動車部品、建設・鉱山用機械、プラスチックなどがCBAMの対象製品になることが見込まれます。
 その動きが既に始まっています。『EV保護主義、欧州で拡大「中国依存低減図るフランスやイタリア」、アジア製を一部補助対象外に(2023.12.10日経電子版)』です。
 フランスでは、EV購入に5000~7000ユーロ(約80万~110万円)の補助金を支給する制度を改定し、車種ごとに炭素排出量を反映した「環境スコア」を算定し、補助金対象車を決めます(2023.12.15に発表予定)。「環境スコア」は部材の生産や組み立て、輸送による炭素排出量により、地域や国ごとに算定されます。原子力発電や再生可能エネルギーによる発電比率が高く、生産拠点と販売地の距離が近い欧州生産が有利となり、アジアで生産するEVの大半はスコアが規定を下回るとみられています。
 フランス政府は、上記発表日に、「中国製EV」の3車種を補助金対象外にしました。中国の国有自動車大手、上海汽車集団の「MG4」、アメリカのテスラが中国の上海工場で生産している「モデル3」、フランスのルノーが中国・湖北省の合弁会社で生産している「ダチア・スブリング」です(2024.1.4東洋経済オンライン)。
 最後に日本です。2023年2月閣議決定の“GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針”です。2032年までの10年間に、カーボンニュートラルと産業競争力の強化、経済成長の同時実現を推進することを目標に、20兆円の政府支出と150兆円の民間投資の実現を目指します。
 最近のニュース『日本含む有志国が「原発3倍拡大」宣言、COP28で(2023.12.2日経電子版)』『排出対策ない石炭火力発電所「新設せず」岸田首相表明、COP28で(2023.12.1日経電子版)』を見ると、日本は、フランスや米国主導の石炭火力発電禁止の有志連合への参加を見送り、日本が優位にある脱炭素型石炭火力発電を世界に広げようとする姿勢が見られます。また日本は、「原発3倍拡大」宣言有志国(21か国)に参加しました。日本政府は、不安定でコストの高い再生エネルギーの限界を認識し、バックアップ電源として不可欠な火力発電と原子力発電について、現実的な認識をし始めています。
 米・欧・日の脱炭素の動向を見てきましたが、経済安全保障や脱炭素の大義名分の下で、米欧日それぞれの産業・通商・技術政策に於いて、自国の産業の保護と育成を目指して、しのぎを削る戦いに突入したと言ってよいでしょう。中国もこの競争に参加してくるでしょう。これは、グローバリズム(ポスト冷戦時代)が終わり、新冷戦時代に突入と言ってもよいでしょう。
 さらに言えば、CO₂排出量の世界シェア30%越と断トツで、2022年比でも+4.8%と、米欧の減少とはうらはらに、増加が見込まれる中国に対する「“脱炭素”の行方は“脱中国”」の時代ともいえます。


本


■ 2024年の企業経営のキーワードは“大転換”(むすび)


 2024年は、2019年~2023年の世界的コロナ禍、ウクライナ戦争、脱炭素プロパガンダ等を反映した「歴史の大転換」の年になるのではないでしょうか。


本


【酒井 闊プロフィール】


 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。


  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/


  http://sakai-gm.jp/index.html


【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。


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【経営コンサルタントのお勧め図書】アニマルスピリッツを持とう CFO思考 2312

2023-12-26 13:33:53 | 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】アニマルスピリッツを持とう CFO思考 2312

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

本

■    今日のおすすめ

『日本企業最大の欠落とその処方箋「SFO思考」』

                    (徳成旨亮著 ダイヤモンド社)

本

■ 「CFO思考」は非上場企業の経理・財務部門にも有益です(はじめに)

 紹介本の書名「CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)思考」から何をイメージされますか。『「CFO」は上場会社の役職。非上場の我が社には関係ない。』でしょうか。
 そこで今日は、そのような一般的な考えを横に置いておいて、『非上場企業にも役立つ「CFO思考」』について考えてみたいと思います。
 私事になりますが、メガバンクの支店長⇒上場企業のCFO⇒メガバンク関係会社社長(非上場会社CEO)のキャリアをベースに紹介本を読み、「CFO思考」は非上場会社に於いても有益と痛感しました。つまり、CFOの知見が有ったが故に、非上場企業の社長としての、ガバナンス・企業価値向上などの責任を全う出来たと思います。
 著者は、上場企業における体験を通じ、CEOのビジネスパートナー(諫言も含め)としてのCFOの役割の重要性を説いていますが、非上場企業に於いてもCEOをサポートするCFOの役割は重要です。CFOが『経理・税務・財務に止まる「“金庫番思考”のCFO」』を脱却し、『CEOをサポートする「“企業成長をもたらすCFO思考”のCFO」』になることで企業の成長が促進されるのです。
 著者は、「上場企業に求められるCFO」について記していますが、著者の主張を非上場企業向けに読み直し、『非上場企業版「CFO思考」』について考えてみたいと思います。
 それでは、次項で『非上場企業に有益な『非上場企業版「CFO思考」』について触れてみたいと思います。

本

■ 非上場企業に有益な『非上場企業版「CFO思考」』とは

【アニマルスピリッツを持とう】
 著者は、海外投資家から繰り返し投げかけられたフレーズを紹介しています。『日本人・日本企業・日本経済には「アニマルスピリッツ」はないのか?』です。
 この「アニマルスピリッツ」は、ジョン・メイナード・ケインズが、「雇用、利子および貨幣の一般理論」の中で言及した言葉で、その意味は「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」です(著者要約)。
 海外投資家の上記フレーズの言わんとすることは、次のことです。『日本の世界競争力(IMD2023〈注〉)のランキングが1980年の1位から2023年の35位まで下落し続けてる要因は、日本人・日本企業・日本経済に「アニマルスピリッツ」が無くなったからだ』。
〈注〉「IMD世界競争力ランキング2023」(下記URLを参照ください)

 

 

 著者は、日本企業最大の「欠落」は、『アニマルスピリッツ』の欠如であり、その症状の「処方箋」は『責任領域にアニマルスピリッツを持って走り回り、企業価値向上と企業成長の成果を上げる「CFO思考」』であると主張します。
 『アニマルスピリッツ』は、『人生・仕事の結果=考え方(「‟まねび”;真似を通じた学び」でもOK)×熱意×能力(実行力)~稲盛和夫~』の“熱意”を魂のレベルで持つこと、と言い換えることが出来ます。
 『アニマルスピリッツ的「CFO思考」』は、上場、非上場に関係なく重要な考えです。この様な熱意に基づく経営革新無くしては、日本経済・企業の再興はあり得ません。

【「CFOの10の責任領域」を、非上場企業版に置き直してみよう】
 著者が示す「CFOの10の責任領域」を『非上場企業版「CFO思考」』に書き直してみました(次表)。非上場企業の「CFO」は、企業成長をもたらす戦略・戦術実施の「火付け役」、戦略・戦術を実行する為の社内組織・アウトソーシング組織の「結節点」としての役割を果たすことが期待されます。

非上場企業版「CFO思考

鮮明画像(pdf)

http://glomaconj.com/joho/blog/sakai20231226-ver2cfo.pdf

(注)「説明を要する英語略記」の脚注
CSV:Creating Shared Value(共創価値;詳細は下記URL記事を参照下さい。)
https://ameblo.jp/keieishi17/entry-12147257165.html?frm=theme
ROIC逆ツリーによるKPI(詳細は下記URL pdfの3Pを参照下さい。)
http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakaisensei20210928omron.pdf
CSA:Control Self-Assessment(社員自らが監査手続きに加わり、内部監査を行い、評価・課題発見・解決する監査方法。)

 

【その他の「CFO思考」について】
 以上の他、紹介本には貴社の「CFO思考」を刺激する素材が多くあります。是非、ご一読下さい。

本

■ 『非上場企業版「CFO思考」』で成長を(むすび)
 アニマルスピリッツに促された企業価値向上と企業成長を目指す「CSO思考」は非上場企業にとっても有益です。
 非上場企業におけるCFOの役割は、経理部門のDirectorが務めてもいいですし、Chairman・Presidentが兼務しても良いです。大事なことは『非上場企業版「CFO思考」』を実践することです。
 社員・社会を幸せにしたいという「アニマルスピリッツ」を持って、10の責任領域を、“自社流”の『非上場企業版「CFO思考」』で満たし、実践してみませんか。

本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

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【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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■■【経営コンサルタントのお勧め図書】『「7つの習慣」会社、家庭、個人、人生のすべて・・・成功には原則があった! 19122

2023-12-11 12:03:00 | 経営コンサルタントの本棚

■■【経営コンサルタントのお勧め図書】『「7つの習慣」会社、家庭、個人、人生のすべて・・・成功には原則があった! 19122

 「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

■  今日のおすすめ

 『「7つの習慣」会社、家庭、個人、人生のすべて・・・成功には原則があった!』

  スティーブン・R・コヴィー著

  ジェームス・スキナー 川西茂 訳 

  キング・ベアー出版

 

■    名著「7つの習慣」との出会い(はじめに)

 

 明けましておめでとうございます。新しい年の準備はできましたか。私は、2019年を迎えるに当たり、毎年使っている片面1週間計画のリファイル(refill;バインダー式差し替え手帳)に加え、何か面白い年間手帳は無いかと思い探していると、「7つの習慣入門手帳2019」に出会いました。その手帳のPR文言に、『全世界1,500万人が選んだ「人生を変える手帳」』『全世界3,000万部のベストセラー「7つの習慣」を実践できる手帳』と記されていました。

 

 実は、「7つの習慣」の上記(今日のおすすめ)初版本(1996年)が新品のまま私の本棚に積読で置いてあるのです。“7つの習慣”なんて、松下幸之助の‟感謝があれば10ヶ条”を実践しているので、読まなくてもいいなと思い、積読にしてしまったのです。

 

 しかし、全世界で3,000万部も読まれている、日本でも200万部読まれているそんな名著を積読にしておいたのは、コンサルタントとして恥ずかしいと思い、読むことにしました。もう皆さんは読んでおられるので、ご紹介するのは如何かと思いましたが、もしかしたら私と同じように読んでない方がおられるかもしれないと思い、紹介本として採り上げることにしました。尚2013年に『完訳 「7つの習慣」 人格主義の回復』(フランクリン・コビー・ジャパン翻訳、キング・ベアー出版)が出版されています。内容的にはほとんど変わりませんが、より著者の意図に忠実に翻訳をしようとの意図で、若干の修正が加えられています。

 

 話は少し飛びますが、改訂版の翻訳者のフランクリン・コビー・ジャパンの社名は、アメリカの建国の父と言われているベンジャミン・フランクリン関連の出版を手掛ける「フランクリン・クエスト社」とコヴィー博士が率いる「コヴィーリーダーシップセンター」が1997年に合併し、「フランクリン・コビー社」となったことに由来します。

 

 それでは本論に戻り、企業経営に、組織運営に、チームマネジメント等人生のあらゆる場面に有益な原則「7つの習慣」を次項でご紹介します。

■ 知って得する「7つの習慣」

 

【「7つの習慣」を読み終えて深く印象に残ったこと】

 

 紹介本を読み終えて先ず感じたのは、マネジメントに係るノウハウやツールと言った知識・経験はそれなりに積み上げて来たという自負はありましたが、しかしそれらの土台となる「自己の確立(紹介本では“自立”)」という点に目が向いていなかったことです。「自己の確立」とは普遍的・永続的な価値を持つ原則(正義、公正、誠実、正直、人間の尊厳、忍耐、犠牲、勇気、思いやり、隣人愛等)に基づいた「ミッションステートメント(目的)」を持ち、その上で「反応的(主体的の対極にあるもの。アウトサイド・インに影響を受けて行動すること。)」ではなく「主体的(インサイド・アウトに良い影響を周囲に及ぼしていく事)」に行動できるパラダイムが身に付いていることです。

 

 更には、「リーダーシップとマネジメント」の意味を間違えていたことです。著者はピーター・ドラッカーの「マネジメントは物事を正しく行うことであり、リーダーシップは正しい事をすることである」を引用し、『「リーダーシップ」は何を達成したいのかという問いに答えようとするもの(目標を探求すること)であり、「マネジメント」はどうすれば目標を能率よく達成できるかという手段に集中することである』と説き、「リーダーシップ」の重要性を強調します。昨年の11月に発覚した日産のゴーン会長の不正事件も、『リーダーシップ(永続的な価値を持つ原則による「自己の確立」)』のパラダイムがどこかで崩れ、「マネジメント」もそれに伴い迷走して行ったのでしょう。「7つの習慣」の大切さを、改めて痛感する事件でした。

 

 この他にも紹介本を読み終え、ショックを受けた事は多くあります。しかしこの強烈なショックにより、私自身の考えを改め、或いは、新しくパラダイムを作り替えることを始める事が出来たのも、この強烈なショックのおかげと思い、紹介本「7つの習慣」との出会いを感謝しています。この様に、新たな経験を変革・実践に移していく事こそ『「第7の習慣」“刃を研ぐ(再新再生;定期的に、賢明に、バランスよく磨き、そして、向上させること)”』に該当することなのだと気付いているところです。

 

【自己を確立する3つの習慣「主体性を発揮する」「目的をもって始める」「重要事項を優先する】

 

 『第一の習慣「主体性を発揮する」』『第二の習慣「目的を持って始める」』については、上述の私の“ショック”経験談から理解していただけると思います。勿論、色々な新たな発見が他にもあると思います。詳細は紹介本を手に取ってみてください。『第三の習慣「重要事項を優先する」』にも新たな発見が多くあります。私が実践を始めた事をお話ししましょう。紹介本には、「何をするにも健康が基本である」という前提で、一日30分の運動を、「重要優先事項」に入れることを勧めています。今日は時間がないから等の理由で意外と後回しにすることが多いのではないでしょうか。『1年8,765時間の内183時間を運動に投入することで、残りの8,577時間の健康が守られるのだから「重要優先事項」入れるのが合理的だ』と説くのです。これを読んだ時から、私は、1日30分のノルディック・ウォーキング実践をしています。

 

【人間関係の信頼とシナジーを高める3つの習慣「WinWinを考える」「理解してから理解する」「相乗効果を発揮する」】

 

 ここからは「相互依存関係」の習慣に入って行きます。『第4の習慣「WinWinを考える」』『第5の習慣「理解してから理解する」』『第6の習慣「相乗効果を発揮する」』の後半3つの習慣については、第4、第5の習慣を実践することで、シナジー効果が生まれてくる事は、皆様の頭にすんなりと落ちていく事でしょう。只、ここで紹介本は、生ずるシナジーの効果性は、「自己の確立」の良否によって大きく異なってくることを指摘しています。これは紹介本の重要な部分です。

 

【第7の習慣は、既述の6つの習慣に磨きをかける「刃を研ぐ」】

 

 この部分は、上述の私の“ショック”経験談から推測していただけることですので省略します。詳細は紹介本を手に取ってみてください。

■   新たな創造的な展開を可能にする「7つの習慣」(むすび)

 

 紹介本を読んで痛感したのは、経営者・経営に係る私たちの多くが学んでいることの多くは、“ツール”と言われる類なのかと思ってしまうぐらい、リーダーシップとマネジメントに於いて、人の心の内面の重要性を教えられました。

 

 紹介本「7つの習慣」を是非読んでください。そこには新しい発見があり、それを実践に移すことで、今まで上手くいかなかったことに、新しい道が開けてきます。又、今まで実現できなかった創造的なビジネスが生まれてきます。

 

 紹介本「7つの習慣」との「良い出会い」を見出す事が出来るでしょう。

 

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

 

【 注 】

 著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

 

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