漢方医学で面白いのは、現在の病名や症状に関係なく、こんな状態があれば使ってよいという方剤があることです。
方剤というのは、単品の漢方薬ではなく、いくつかの漢方薬を絶妙な割合で混ぜて出来上がった処方のことを言います。
例えば、葛根湯(かっこんとう)は「肩首が凝っていて、汗があまり出ていない状態」があれば、カゼの初期にも、三叉神経痛の時にも、眠れないときなどにも使ってよいのです。
他にも、のどの違和感がある場合、例えば綿とか、肉片や梅の種のようなものがのどに張り付いているような感じがして、飲み下すことも吐き出すこともできない状態があります。
これは、東洋医学では梅核気(ばいかくき)とか咽中炙肉感(いんちゅうしゃにくかん)と呼ばれ、西洋的にはヒステリー球(咽喉頭異常感症)ともいわれます。
このような状態があれば、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の出番です。
というわけで、今回の大柴胡湯(だいさいことう)は「食欲が旺盛である」ことが使用する条件となります。
これは以前、加味逍遥散についてお話した柴胡剤のグループに入るので、各種の神経症、うつ症状に著効いたします。ストレスに耐えながら、一生懸命に笑顔を保ち、無理を重ねてきたが、突然緊張の糸が切れてしまったように精神的に落っこちてしまったような時にも使えます。
あるいは、落っこちるまでは行かなくて、ストレスが極まって、爆発的に怒りまくってしまう状態にも大変効き目があります。
専門的には脾虚肝実熱証で胃の実熱という状態です。頭を使ってよく考えることや細かい作業が多くて虚してしまったために起きた熱が、東洋的な意味合いでの肝胆の経絡に入ってしまいます。するとイライラが起きます。それでも我慢をしていると、その熱が胃に入り、食欲を亢進させてしまいます。こういう体質の人は、普段は鷹揚で優しいのですが、たまに怒りだすと大爆発してしまいます。体力は割りとあって、便秘をすると苦しみ、少し暗い下痢気味のほうが、いらない熱が出るので気分が良いタイプです。
このような経緯で、食欲のある方の諸症状にきくのが大柴胡湯であると説明されています。
敢えて適応症を列挙しますと;
喘息、胆石症、胃腸カタル、大腸カタル、肺炎、肋膜炎、黄疸、高血圧症、脳出血、神経衰弱、蕁麻疹、眼病、ストレス、不眠、便秘、等が挙げられます。この中の症状でなくとも、とにかく食欲が旺盛ならば試してみる価値のある方剤です。
ちなみに、私はこの方剤をよく飲んでいます。イライラしたり、胃の調子がいまいちであったり、便通が悪かったり、何故か皮膚が痒かったりすると服用しています。
大柴胡湯は日本ではビスラットゴールドとも呼ばれ、食欲旺盛な方のダイエット漢方として有名です。
もちろんこれは代謝を促して、素晴らしいダイエット効果があるのですが、もちろん摂食の仕方に注意することと、適度な運動は欠かせません。「これをのみゃあ痩せるんだ」などという甘い話はありません。
この辺は私の自己人体実験の記事をご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/keisclinic/c/1f5a8aa3a288e739c7b3dc00007ccf24