ごっとさんのブログ

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カイコで薬を作る「昆虫工場」

2018-01-13 10:48:22 | 
九州大学大学院農学研究院の研究グループは、カイコを使い医薬品の原料を作る「昆虫工場」の事業化に乗り出すと発表しました。

九州大学は約100年前からカイコの研究、保存を続けており、約480種の中からワクチンの原料となるタンパク質を大量に作るカイコを探し出しました。

このブログでもカイコを使ったタンパク質生産の話をかなり前に取り上げましたが、繭を作る遺伝子の中にタンパク質遺伝子を組み込むと、混在するタンパク質が非常に少ない状態で目的とするタンパク質が生産されることを紹介しました。

インフルエンザなど感染症予防に使うワクチンは、毒性を弱めるなどしたウイルスを増殖して作製します。ニワトリの受精卵や動物の細胞に感染させて増やすのが一般的です。

研究グループは、病気を引き起こす病原ウイルスの遺伝子の一部を、ベクター(遺伝子の運び屋)と呼ばれる物質を使ってカイコに注入しました。病原ウイルスと形は似ているものの感染力はなく、安全なタンパク質(ウイルス様粒子=VLP)をカイコの体内で生成させるものです。

VLPは取り出して精製するとワクチンの原料となります。研究グループは約7年かけ、VLPを効率的に作るカイコを探し出しました。カイコは飼育が比較的容易で大型施設なども不要なため、製造コストの低減などが期待できるようです。

九州大学が1921年(大正10年)から続けている学術用カイコのコレクションは世界最大で、生物資源を戦略的に取集して活用する国の「ナショナルバイオリソースプロジェクト」の拠点にもなっています。

これは日本が生命科学の分野で国際競争力を維持するため、世界最高水準の生物資源を戦略的に収集・保存し、研究機関などに提供する事業です。2002年度に始まり、現在約40の研究機関が連携して30種類以上の動物や植物、微生物などを収集・保存しています。

研究グループのリーダーは、「カイコの活用は、九州大学が積み上げてきた研究成果を社会に還元するのが目的です。安全性が高い次世代型ワクチンは、海外の製薬会社などが特許を持っていることが多く、将来的には安全な国産ワクチンの安定供給につなげたい」としています。

研究グループは国内の医薬品メーカーとペット用診断薬の原料を製造することで基本合意しており、許可が得られれば製造を開始する予定です。ノロウイルスやロタウイルス、子宮頸ガンワクチンに関する研究も進めており、ヒトの医薬品の原料も手掛ける方針のようです。

このようにカイコをうまく使うことが実用化されれば、高価なタンパク質医薬のコスト低減が期待できそうです。