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世界最長ヒモムシから強力殺虫剤?

2018-04-06 10:42:26 | 化学
世界最長の生物とされる北大西洋のヒモムシの仲間から、ゴキブリなど節足動物にだけ作用する毒素が発見されました。

これはテトラドトキシンとちがって、哺乳類にはほとんど作用しない毒素で、新たな殺虫剤の開発の可能性が示唆されるようです。

この神経毒のテトラドトキシンはフグ毒で有名ですが、フグがこの毒を作り出しているわけではありません。ある種の細菌がテトラドトキシンを作り、それを生態系の下位の生物から順に食べて濃縮し、フグの体内に蓄積すると考えられています。

私が現役だったころ、この毒の立体構造の解明や全合成研究が盛んに行われていました。この頃からフグが作るのかフグの体内の細菌が作るのかが疑問になっていましたが、やっと決着したようです。

ただ食物連鎖の中で濃縮していくというのはやや疑問です。フグは養殖が盛んで、大部分が養殖フグですが、これでも体内に毒はあるようですので、体内の細菌が作っていると考えるべきのような気がします。

同じようにテトラドトキシンをため込む生物は、フグのほかある種の甲殻類、イモリの仲間、タコの仲間、ヒトデの仲間などが知られ、ヒモムシもテトラドトキシンを粘液に含ませたりするものがいるようです。

ヒモムシというのは実験動物のプラナリアを含むヒモ状の扁形動物門で、左右対称の体腔のない無体腔動物の総称です。ヒモムシの多くは肉食で、長いものでは数メートルにもなりますが、19世紀に英国の海外で採取されたものは、長さが何と55メートルにも達したようです。

このヒモムシは長いだけではなく、体の粘液に毒を持っていることが知られています。アカハナヒモムシやホソヒモムシはテトラドトキシンを持っていますが、ブーツレースワームはそれと異なる毒を持っていることが確認されています。

こういった生物毒を製薬や治療に使おうという試みは古くから行われ、この粘液の毒についてスウェーデンの研究グループがその構造を明らかにしました。

この毒は構造的に安定したシスチン構造のペプチドの新しいファミリーであることが分かりました。シスチンはアミノ酸の一種で、シスチン構造のペプチドの阻害成分はクモやサソリ、軟体動物の毒素となるようです。このあたりやや意味が分からないのですが、おそらくシスチンによって2量化したペプチドかもしれません。

このペプチド毒は、神経伝達の機能を破壊し、ゴキブリ、ショウジョウバエ、ダニに試みたところ、麻痺して死ぬことが分かりました。ところが哺乳類で試しましたが、ほとんど毒性を引き起こしませんでした。

このことから甲殻類や昆虫に特異的に作用する毒性という点で、新たな殺虫剤としての可能性を示唆しているようです。