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酵素や微生物の有機合成への応用 昔ばなし

2022-11-29 10:33:26 | その他
昔ある人に私が30年も有機化学の研究をしていたことを話したとき、それで何が分かったかを聞かれました。

なかなか難しい質問でしたが、「生命の不思議さと面白さ」が分かったと答えました。生命は本当に面白いもので、複雑な有機化学反応を駆使して生命を維持しています。

私が大学で講義をするとき、最初の学生への質問が「なぜ腕は曲がるのか」でした。割と多い回答が筋肉が収縮するからでしたが、これは正しいのですが実は答えになっていません。

私の質問はどうやって筋肉が収縮するのかなのですが、3年生ではこれに答えられる学生はいませんでした。筋肉はタンパク質でできており、タンパク質はアミノ酸が多数つながっています。

そのアミノ酸の中にはセリンやスレオニンといった水酸基(OH)を持ったものが含まれており、それがリン酸化されるとそのタンパク質は凝集する、つまり筋肉は収縮するのです。また同時に外側の筋肉では逆の脱リン酸化がおこり、筋肉が延びその結果スムーズに腕が曲がることになります。

腕を曲げるという信号が(無意識でも)適切な場所に届くと、リアーゼと呼ばれる酵素とリガーゼと呼ばれる酵素が協奏的に働き、瞬時にリン酸化と脱リン酸化が起こることによって行動できることになります。

たとえ何もしていなくとも、呼吸することで酸素を取り込み(これは無機化学です)、これをエネルギー源として例えば前述のリン酸化の供与体としても使われるATP(アデノシン三リン酸)を作ったりして、行動の準備をしています。

このATP再生系も数段階の酵素反応になっています。こういった生体内の酵素反応の例を挙げるときりがないのですが、常に体内では無数といえる酵素反応が生じているわけです。

この酵素反応の特徴としては、まず当然ですが水系(水が溶媒となります)で反応が進行し、非常に薄い濃度で速やかに反応が進行します。さらに大部分の酵素は、必要なときに合成され反応が終われば分解されてしまうのです。

これは酵素だけではなく、生体物質例えば情報伝達物質やホルモンなども、必要に応じて合成され目的が達成されればすぐに分解されてしまいます。つまり生体内は多くの化合物が、合成され分解されるという酵素反応が常に行われているわけです。

前置きが長くなってしまいましたが、この優れた酵素反応を人間が行う有機化学反応に応用できないかということを考えたわけです。

その利用で最も注目したことが、立体選択的反応ですがこれも説明すると長くなりますので次回に続きます。


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