ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

有機合成実験の詳細 その4

2020-07-24 10:28:55 | 化学
前回までに有機合成実験として、A+B→C+(D)という反応をする準備として、反応容器と使用する溶媒、原料のモル比、反応温度などについて書き、無事原料のAがなくなるつまり反応終了までを書いてきました。

次はこの反応液の中から目的物であるCを取り出す工程となります。元も量の多い溶媒については、エバポレーターという機器を使うと簡単に減圧濃縮できますが、反応液から直接溶媒を除いてしまうと、CとDの濃度が高まり反応してAとBに戻ってしまう可能性が出ますので、必ず後処理を行います。

通常目的物のCは有機溶媒には溶けて水には溶けないもので、Dは水溶性または水で分解するようなものが多いため、反応液に水を加え分液ロートで有機層を取り出します。

この有機層の溶媒を飛ばすとごく稀ですがCが結晶化することがあります。これが最も簡単な精製で、この結晶を洗ったり再結晶することでCを得ることができます。ただ多くは固体であっても結晶化することは無く、精製操作を必要とします。

少量の場合は分取用HPLCを使うこともできますが、大部分はカラムクロマトグラフィーを使用します。これはカラムの中にシリカゲルや他の吸着剤を充填し、反応混合物を乗せ溶媒で流し出すというものです。

この時分離担体として何を選ぶか、溶出溶媒に何を使用するかなどは研究者の経験に基づいて決めますので、どのくらい実験をしたかの経験が重要となるわけです。通常フラクションコレクターという機器を使い、一定量ずつ自動で試験管に分注してくれます。

この操作に1日か2日かかりますが、目的物が入っているフラクションを集め濃縮するとやっとCを単離することができるわけです。しかし実験はこれで終わったわけではなく、この得られたCが目的物であることを確認する、いわゆる分析の仕事があるのです。

現在は非常に多種の機器分析器があり詳細は省略しますが、NMR(核磁気共鳴)、IR(赤外分光光度計)、MS(質量分析器)などを使用します。

通常研究所には分析研究室のようなものがあり、依頼すると測定してくれるのですが、有機化学者は自分で測定から解析までするのが一般的です。この分析機器をマスターし、出てきたデータを解析するというのが最も習得に時間がかかるものです。

この機器分析から得られたデータとCから予想されるデータが一致して初めて目的物を合成したといえるわけです。

有機合成実験について4回にわたって書いてきましたが、自分でも予想外に長くなってしまいました。やはりそれだけ色々やることが多く、そのマニュアルはありませんので、研究者の経験からの判断が最も重要になるという面白い分野と言えます。

そのため一人前の有機化学者になるには数年以上かかるといわれていますが、逆に歳をとっても良い実験ができるという技術者というよりは職人に近い分野と考えています。

抗体消滅問題と「T細胞」免疫

2020-07-23 10:31:45 | 時事
日本では新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増加しており、第2波の到来が指摘されています。

国内旅行を支援し、観光需要を喚起するために政府が乗り出した「Go Toキャンペーン」も、感染を全国に拡散させかねないと懸念の声が噴出しています。

世界保健機構(WHO)などは、抗体を持つ人に移動の自由を与える「免疫パスポート」を紹介しています。その背景には感染に抵抗力がない内に、人々の移動の自由を認めるのは困難ではないかという考え方があります。

ここ最近新型コロナウイルスの免疫にまつわる研究が続々と発表されています。7月11日に新型コロナに抵抗するための「抗体」が短期間のうちに消失する可能性があると報告されました。

ウイルスへの抵抗力につながると考えられている抗体が、思いのほか持続しないという研究結果であり衝撃を与えました。コロナウイルス科のウイルスが原因のひとつになる一般的な風邪とも共通するのではと指摘しています。

こうした「抗体」のもろさが明るみに出るなか、現在注目されているのが「T細胞」という別の形の免疫です。7月15日に発表された論文では、抗体消失の研究結果とは対照的に、長期にわたって維持されるT細胞にまつわる発見です。

研究報告をしたシンガポール科学技術研究庁のグループは、2003年に香港で流行したSARSも含め、コロナウイルスにおける免疫の実態を継続的に検証してきました。この研究グループは、2016年にSARS流行の11年後の時点で回復者の免疫を調べた研究結果を出しました。

そこでは抗体が早期に消えるのに「メモリーT細胞」が長持ちし、10年以上たっているのにSARSに反応できることを明らかにしています。

この7月に彼らが新たな研究で示したのは、新型コロナやSARSに感染したことのない人にも、新型コロナに反応可能なメモリーT細胞を持つことが多いという意外な結果でした。日本でも類縁ウイルスに感染した経験があると、別なウイルスにも抵抗力をもつ「交差免疫」が話題に上がっています。

風邪の原因になるコロナと新型コロナとの関係が指摘されています。この研究では新型コロナやSARSに感染して回復した人や、いずれの感染症にもかかっていない人を対象としています。

詳細は割愛しますが、ここでは未感染の人でも多くの人が新型コロナの持つタンパク質に反応することが分かりました。これはやはり交差免疫の一種で、風邪の原因となるウイルスだけではなく、動物が持つコロナウイルスが関与しているという結論を出しています。

私のような一般人にとっては、抗体であれT細胞であれ、新型コロナに罹らないもしくは感染しても軽く済む免疫があるということが重要であり、こういった研究がもっと進むことを期待しています。

思春期に多い「腰椎分離症」

2020-07-22 10:37:35 | 健康・医療
ここでは中年から高齢者に多い病気を取り上げていますが、たまには若者の病気ここでは「腰椎分離症」を紹介します。

背骨の骨と骨との連結を担っている関節突起を「くびき」を意味するギリシャ語で呼ばれています。くびきとは、一対の牛馬の首につけて荷物を引く道具ですが、比ゆ的に二つのものをつなぐものを指します。

腰は支持性と可動性の相反する機能を要求されていますが、分離症ではこのくびき部分の亀裂によって、それらの機能が不十分となり、かつ腰痛(亀裂部が軟骨で満たされることによる)を引き起こします。分離症に加え、分離した腰椎が前後にずれる状態が「腰椎分離すべり症」となっています。

腰椎分離症は、下方の腰椎、とりわけ第5腰椎の関節突起間部に起きることが多いようです。この場合スポーツによる激しい痛みを自覚しますが、通常は腰からお尻、さらには太ももの後ろに重苦しい、漠然とした痛みを感じる程度です。

分離症のみでは、他の腰の異常でみられるような脚のしびれを伴うことはまれです。アラスカ先住民に高頻度でこの分離症がみられることから、遺伝的ないしは先天的な原因が存在するのでは、と考えられていた時期もありました。

しかし現代では、骨格が未熟な成長期に過度なスポーツを行ったことで発生する疲労骨折と判断されています。関節突起間部はレントゲンで、ちょうど「テリア犬の首」のように見えますが、分離症ではこのテリアの首にひびが入ったような状態となります。

進行するとその首が分断されたような像となります。診断にあたってはこの亀裂を確認することが必要なため、レントゲンだけでなくMRIが広く用いられています。

成人でも4〜7%の頻度で分離症が見られ、スポーツマンではその4〜5倍と多くなり、特に重量挙げ、ボート、柔道、器械体操などの選手での頻度が高くなります。この場合思春期に発生した分離が、軽い症状を繰り返していることが多いようです。

たとえ思春期に分離を指摘されていても、その後は症状が出ないケースもあり、それほど心配しなくても良いようです。思春期での分離症診断の原則は、早期発見、早期治療につきます。

分離が発生した初期は亀裂はわずかですが、無理を続けているとそれが広がり、場合によっては偽関節(骨がくっつかなくなった状態)を作ってしまいます。早期に発見しコルセットなどを使用して安静を保っていれば、亀裂が再びくっつくことが期待できます。

若い内は十分な運動が必要ですが、成長期には過度のスポーツを行わないことが重要なようです。何事もほどほどにということかもしれません。

隕石衝突でアミノ酸生成

2020-07-21 10:26:56 | 化学
生命の誕生に欠かせない材料である有機物のアミノ酸は、太古の地球に隕石が衝突した際に生成された可能性があることを、東北大学などの研究チームが模擬実験で実証しました。

アミノ酸は隕石や彗星に含まれ宇宙から飛来したなどの説もありますが、地球で生じるメカニズムのひとつを明らかにしました。

この有機物が生命発生以前にどのようにできたのかは、古くからの謎であり、色々と実験されてきましたが、依然謎のまま残っています。本来有機化合物(有機物)の定義は、生命が生産する物質とされていますが、生物の体はすべて有機物でできています。

つまり生命が発生した時には、その体の材料となる有機物が存在しなければいけないのです。

太古の地球に存在していた炭酸ガス、水素、酸素、窒素(アンモニアもあったかもしれません)などから、有機物を作るためには高温、高圧が必要になりますが、生成した有機物は高温では分解してしまうという根本的なジレンマがあり、現在でも方法は分かっていません。

さて東北大学の研究チームは、大気の主成分である窒素や二酸化炭素と水、多くの隕石に含まれる鉄やニッケルなどを金属容器に密閉しました。これに秒速1キロの猛スピードで金属プレートを衝突させることで、約40億年前の地球の海に隕石が衝突し、そのエネルギーで進行する化学反応を再現しました。

その結果、容器内には極めて単純な構造のアミノ酸であるグリシンとアラニンが微量生成しました。衝突エネルギーで発生した水素が、窒素や二酸化炭素などと反応を繰り返すことによって生成したと考えられます。

当時の地球には、現在の約1000倍の頻度で隕石が衝突していたとされ、多様なアミノ酸が生じていた可能性もあります。研究チームは、地球上でもアミノ酸ができることが分かり、生命誕生につながる材料を供給する仕組みの一端が見えてきたと話しています。

こういった無機化合物から有機物を作るエネルギーとして、隕石の衝突というのは興味深い知見ですが、生命が誕生するためにはもっと複雑な有機物を必要とします。

また生成した有機物はある程度の濃度で存在する必要もあり、海に衝突した隕石だけで、そういった高濃度有機物ができるというのも考えにくいような気がします。

確かに無機物の集合体からアミノ酸が生成したというのは、大きな発見といえますが、生命誕生ということに近づくためには、もっと複雑な要因が偶然組み合わさるという必要があり、なかなか生命誕生の謎までには届きそうにない気がします。

睡眠不足はワクチンの効果も下げる

2020-07-20 10:29:16 | 健康・医療
このブログでは睡眠についてよく取り上げていますが、私の健康の基本は睡眠と食事にあると考えています。

日本人は睡眠時間が短いことで知られていますが、最近の調査ではついに韓国を抜いて睡眠時間が最も短い国となったようです。

睡眠不足は免疫力を下げるだけでなく、肥満の原因にもなりさらにワクチンの効果も薄まるという研究が発表されました。人は眠りにつくとその日の睡眠中最も深い眠りに入り、その後浅いに眠りと深い眠りを4,5サイクルくり返して朝を迎えます。

この最初の深い眠りのタイミングで成長ホルモンが分泌され、眠りが浅くなる後半に分泌されるのがコルチゾールです。眠りの前半部分で増大しているのがメラトニンで、これは強力な抗酸化作用があるので、分泌が抑制されると身体の酸化が進み、ガンや老化を早めるリスクが高まります。

睡眠不足で偏桃体が過活動になると不安が増して人は眠れなくなります。寝つきが悪くなるだけでなく、夜中に目が覚めてしまう中途覚醒、必要以上に早く目が覚めてしまう早朝覚醒といった睡眠障害にも陥りやすいとされています。

ですから睡眠不足でよく眠れるではなく、「眠りの量が減る=眠りの質が落ちる」ということになるようです。睡眠と免疫の関係を見た研究は、非常に多く行われています。

被験者にライノウイルスという風邪のウイルスを含んだ点鼻薬を投与するというやや乱暴な実験があります。7時間以上睡眠をとっている人は罹患率が17.2%に対して、5時間未満の睡眠時間の人は45.2%と2.6倍の罹患率になりました。

またワクチンを投与してどのくらい抗体ができたかという研究もあります。詳細は省略しますが、睡眠時間8時間のグループと4時間のグループでは、前者の方が明らかに多くの抗体を作り出せることが分かりました。

白血球やリンパ球は夜間作られ、睡眠不足の場合はこれらの免疫細胞の機能が低下して、抗体が作り難くなったと考えられるようです。

風邪をひいた時、あるいは風邪をひきそうな予感がするとき、ほとんどの人は普段より長時間眠ることを選びます。どんな薬より睡眠が有効であることが自然と体に染みついているのかもしれません。

このように睡眠と免疫が密接に関係することは分かっていても、日本人は短時間睡眠で、今話題の睡眠負債が溜まっているのかもしれません。私も若いころは午前1時に寝て、7時に起きるという生活をしていました(平日はですが)。

どうもこういった生活リズムが日本人には定着しているような気がします。それでも今回の新型コロナでは、世界に比較して死亡者数が非常に少なく、一部には免疫力が強いからなどという説もあるようです。

それでも何とかして十分な睡眠時間を確保することが、働く日本人の大きな課題なのかもしれません。