ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

ALSの進行を白血病の薬で食い止める

2021-10-11 10:25:04 | 健康・医療
筋委縮性側索硬化症(ALS)については色々情報が出ていますが、残念ながら未だに治療法はないようです。

京都大学の研究チームは、白血病の治療薬である「ボスチニブ」を使った治験の結果、一部の患者で進行を止められた可能性があると発表しました。

今回の治験は安全性を確かめるのが主な目的で、少人数のため効果があったかどうか統計的な判定はできず、今後規模の大きい治験を計画しているようです。

ALSは筋力が低下し、進行すると呼吸すらできなくなります。国内の患者は約9000人とされ、進行を遅らせる対症療法の薬はありますが、根本的な治療薬は見つかっていません。研究チームは、患者の皮膚からiPS細胞を作って病気の細胞を再現しました。

既に別の病気で使われている薬などから効果のあるものを調べ、白血病治療薬のボスチニブが有望だと絞り込みました。

余談ですが私はこのiPS細胞を創薬研究に応用するのが、最も良い方法だと感じています。iPS細胞は発見から10年以上が経過していますが、再生医療への応用はなかなか進まず、基礎的な臨床試験でも何千万円もかかるという問題が出ています。

その点患者の細胞から病気の細胞に誘導し、この細胞に効果のある薬を探すというアッセイ法は、いわばインビトロとインビボの中間のような良い方法と思われます。今後こういった方向に進むことがiPS細胞の進展には良いことだと思っています。

今回の治験はALSを発症してから早期で、一定のペースで進行していくことを確認できた患者を対象としました。1日100〜300ミリグラムのボスチニブを12週間飲んだ9人のうち、5人は病気の進行が止まりました。

人数は少ないのですが、これは画期的なことのようです。薬を飲む前の血液を調べたところ、進行が止まった5人は止まらなかった4人と比べて、神経細胞が壊れたときに出るタンパク質の量が少ないことが分かりました。

これは薬が効きそうかどうかの指標になり得ると考えられます。ボスチニブは白血病には最大1日600ミリグラムまで使うことができます。今回1日400ミリグラムを飲んだ患者では肝機能障害がみられたため、服用を中断しています。

白血病治療でも見られる副作用で、研究チームは今後の大規模な治験では、期待できる効果とのバランスを慎重に検討し、服用量や患者の対象基準などを計画するとしています。

今回の薬の探索では既存薬を調べていますが、この病気の細胞が大量にあればALSに特化した新薬のスクリーニングも可能ですので、難病であるALSの新たな治療薬開発への道が開けたような気がします。

ノーベル化学賞を有機分子触媒が受賞

2021-10-10 10:15:04 | 化学
このところノーベル賞の話題が多くなっており、医学生理学賞と物理学賞について書きましたがここは化学賞の話です。

物理学賞は日本人が受賞しましたので、マスコミも大きく取り上げ色々な情報が入ってきました。化学賞はドイツのマックス・プランク研究所のリスト氏とアメリカのプリンストン大学のマクミラン氏の2名が受賞しました。

この業績である「有機触媒」の研究は一般的にはまるで面白みもありませんので、ほとんど報道されていませんが、私にとっては大変なじみのある人たちです。

もちろん名前しか知りませんが、私の研究生活の最後のころに有機物質を用いた不斉触媒という画期的な研究が報告されました。これを説明するにはかなり難しい立体異性体のことを書く必要があります。

炭素には4本の結合手が立体的にありますので、これに異なった物質が結合すると、平面的には同じになりますが立体的には重ね合わすことができない2種類が存在します。これを立体異性体とよび、例として右手と左手のような関係となります。

この2種は同じものがついていますので、物性としては完全に同じなのですが、旋光度というものを測定すると、光の曲がり方が逆となります。そこで立体異性体の片方だけを光学活性体と呼んでいます。

天然の物質はほとんどが光学活性体で、例えばアミノ酸はL型が大部分でD型は存在しません。通常の化学反応は、立体を区別することができませんので、立体異性体が1:1となったラセミ体またはDL体と呼ぶものしか合成できません。

しかし医薬品の場合は結合するのがタンパク質ですので、DとLを区別し通常どちらか一方しか活性はありません。そこで化学反応でもDかLだけを合成するための触媒(不斉触媒)の開発が活発になりました。

その先駆けとして2000年にマクミランが二級アミンを用いた触媒により不斉ディールス・アルダー反応を行えることを発表しました。これはマクミラン触媒と呼ばれ、その後この触媒をベースに多くの不斉触媒が開発されています。

またほぼ同じ時期にリストがアミノ酸であるプロリンを用いて、不斉アルドール反応が進行することを報告しました。これはリストのプロリンとしていろいろ応用されています。

それまで金属触媒が用いられていましたが、有機化合物でも触媒作用があり、しかも光学活性体を作ることができるというのは、当時は衝撃的な発明と言えます。この2000年に入ってから、この2人の発見をもとに多くの不斉有機触媒が開発されてきました。

このように近年必要性が高まってきた不整合成の先駆けと言える2人が、ノーベル賞を受賞されたことは当然のような気がしますが、うれしいことと喜んでいます。

香害は第2の受動喫煙といえるのか

2021-10-09 10:26:05 | その他
香害については以前このブログでも取り上げ、何らかの対処をしないといけない問題と考えています。

私は別に香害の被害に遭っているわけではなく、単に香りがあるものがあまり好きではないので、家の洗剤や柔軟剤は無香料を使っているという程度です。

最近日本消費者連盟が、「香害のないくらし、柔軟剤にさようなら」というブックレットを発行しました。説明によると香害とは、柔軟剤や消臭除菌スプレー、制汗剤、芳香剤、合成洗剤などの強い香りを伴う製品による健康被害のことを指しています。

症状は頭痛、めまい、目やのどの痛み、せき、吐き気などさまざまで、香害がひどくなると化学物質過敏症を発症することも知られています。香り付きの製品を使っていた人が、ある時から体の不調を訴え、香害の被害者になることはよくあるようです。

自分の出している匂いを感じにくい点など、喫煙者と似ており「香害は第2の受動喫煙」ともいわれています。香りの害をめぐっては、やっと官庁なども対策に乗り出したようです。

今年になり消費者庁、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、環境省の5省庁連盟による啓発ポスターが作成されました。やっと香害問題にも取り組む姿勢が見えてきたようですが、まだCMなどは良い香りが長続きを謳っているものが多く、啓発が必要なのかもしれません。

これとは別に私は化学物質過敏症についていろいろ調べています。薬に携わっていると、最小有効濃度という概念が必ず必要になってきます。

例えれば、大きな体育館のどこかにグローブを置き、よく跳ねるボールを適当に投げるようなものです。このボールが偶然グローブに入ることは、一定時間ではまず無理でしょう。しかし1000個ぐらいを同時に投げると、入ることがあるかもしれません。

これを2000、3000と増やしていくと、5000個ぐらいで必ず入るようになれば、これが最小有効濃度となるわけです。ですから1回2錠の薬を、1錠飲んでもまず効果が出ないと考えるべきで、良いものだから少しでも効くはずは間違いということになります。

それが化学物質過敏症の人は、この例でいえば2,3個のボールでグローブに入ってしまうわけです。この理由についてはまだ不明なようで、これといった説明はできていません。

ヒトの嗅覚レセプターは、どんなに精密な分析機器よりも敏感で、分子単位でも検出できるつまり匂いを感じるとされています。化学物質過敏症の人はこの嗅覚レセプターからの情報が、他の受容体の情報と間違って脳に伝わってしまうのかもしれません。

このあたりは香害の患者さんと同じようなメカニズムと言える気もします。横道にそれてしまいましたが、香害問題がやっと認知されるようになってきましたが、根本的解決はまだ遠いようです。

日本人がノーベル物理学賞を受賞

2021-10-08 10:25:53 | 時事
ノーベル物理学賞が発表になりましたが、何と日本人が気象学という物理学では珍しい分野で受賞が決まりました。

このところ受賞者の真鍋淑郎氏の話題で盛り上がっていますが、どうも業績を詳しく報じている記事があまりありませんでした。

「温暖化研究の父」と呼ばれ、地球温暖化研究の先駆者とされていますが、基本的なものは1969年ですのでまだ地球温暖化が問題となっていなかったころです。

現在では大気や海洋のデータをコンピュータに入力し、大規模なシミュレーションを行うことで、高精度な予測が可能になっています。真鍋氏がその基礎となる気候モデルを開発するまでは不可能でした。

開発の第一歩は、1967年に発表した「1次元大気モデル」で、大気を地上から上空まで1本の柱と考え、大気の対流や地表からの放射熱などの影響によって、高度ごとの気温がどうなるかを予測するプログラムでした。

これを使って大気の気温分布のシミュレーションを行うと、地上から数十キロまでの対流圏では高度が上がるにつれ徐々に気温が下がる一方、それを超えた成層圏では逆に高度が増すごとに気温が上がるという、実際に地球を取り囲む状態を再現できました。

このときふと思いついて大気中の二酸化炭素濃度の設定を2倍にすると、地上の気温が2.3℃上がるという結果が出ました。これを発表したところ反響が非常に大きく、温暖化研究を本格化させることになりました。

1969年にはシミュレーションの要素に海洋の影響も加えた「大気・海洋結合モデル」を発表し、大気の気温上昇は地表から放射される熱だけではなく、地球の表面の7割を占める海洋が放射する熱の影響が大きいことを示しました。

この仕組みを基本にさまざまな条件や設定の見直しを続け、1989年に大気中の二酸化炭素濃度が上昇すると、全地球的な気温上昇を引き起こすことを気候モデルで示した論文を発表しました。

これがIPPCに取り上げられ、世界中で温暖化研究が活発化し、各国で二酸化炭素排出量の削減への取り組みが始まりました。これが地球温暖化に関する真鍋氏の業績ですが、これ以外にも気候モデルでの成果は多いようです。

私はこのブログでも何回か書いているように、地球が温暖化することによって大気中の二酸化炭素が増加しているという立場をとっています。

それとは別に現在どこでもやっている気候シミュレーションの基礎を築いたという点では、ノーベル物理学賞に値する立派な業績と言えると思っています。

このすべてがアメリカで行われたのはやや残念ですが、日本人が受賞したことは喜んでいます。

糖尿病から来る怖い合併症のはなし

2021-10-07 10:32:04 | 健康・医療
糖尿病は全国で1000万人の患者がいるといわれており、2019年の厚生労働省の調査では320万人の患者が報告されています。

糖尿病は診断されても特に自覚症状があるわけではなく、普通の生活が送れますが、怖いのは合併症です。主として慢性高血糖に由来する合併症として、細小血管合併症と呼ばれています。糖尿病性神経障害、網膜症、腎症がが3大合併症に該当しています。

私の従妹は網膜症から失明し、腎症から透析になった友人もいました。これを防ぐためにも持続した血糖コントロールが重要と言われています。

最も早く出現する合併症が糖尿病性神経障害で、発症5〜10年程度で約30%の人に認められ、発症30年以上では約60%の人が該当すると報告されています。主に両足のしびれや痛みなどの感覚障害で、靴下を2枚はいているような感覚などとたとえられています。

進行すると知覚が低下し、足の皮膚が一部欠損している足潰瘍や皮膚や皮下組織などが死滅して暗褐色や黒色に変化する足壊疽の原因となり、さらに悪化すると足の切断などに繋がります。

合併症としての頻度は高いものの特異的な症状が分かりづらく、診断には比較的煩雑な神経障害の検査が必要となります。次が糖尿病性網膜症ですが、眼球内の網膜および硝子体内に脆い新生血管が生じて網膜剥離や硝子体出血を起こし、視力障碍に陥ります。

視覚障害の主原因疾患としてのこの網膜症は減少傾向にありますが、緑内障、網膜色素変性に次いで第3位となっています。網膜症は自覚症状が少なく、突然目の前が暗くなるなどの出血症状から眼科を受診することになるようです。

最後が糖尿病性腎症ですが、これは3大合併症の中で最も遅く出現すると考えられていました。この臨床経過は、尿にアルブミンが出現→尿にタンパク質が出現→腎臓の機能低下→腎不全に移行→人工透析というケースが多くなります。

従来評価は尿にタンパク質が検出されるかを指標としてきました。現在の診療ではタンパク質が陰性でも、腎症の早期ではタンパク質の一種であるアルブミンが微量に検出されることが分かってきました。

この微量のアルブミンが検出された早期の段階から、肥満の是正などの集約的治療を実施すれば、将来的な腎臓の保護につながることが報告されています。近年はSGLT2阻害薬が腎臓保護に有効であるとの報告が多くあり、薬剤による治療も可能になってきました。

糖尿病と診断された場合は、何も症状が無くても血糖値のコントロールなどの、適切な治療に心がけることが重要なようです。