本物を知る

本日は大殿様のお供で本業の方のお客様のお宅へ行ってきました。

用件は、額装の依頼。
前回、修理をしたそのお宅のアンティークの鏡の出来栄えがたいそうご満足いただけたようで、
再度お仕事をいただいたのでした。

ご連絡を受け、お品を受け取りに行くことに。
大殿様は３度伺ったことのあるその邸宅、あまりの格調の高さに、
前回同行した、普段は物静かな１０８城の若様も大絶賛しておりまして、
噂だけ聞くその方のお宅は、長い間ワタクシの憧れの地でした。

「今日〇〇様のお宅に行くよ、ほぉさん連れてってあげようか？」
「ええぇっ！！行きます行きます！いいんですか？！」

ずっと、いいないいな、行きたい行きたい、と騒いでいたので
大殿様、頑張って二胡屋を手伝う婆やに褒美をとらせてしんぜよう、
ということでしょうか。
しかし、憧れの地が現実に行けるとなると、今度は不安が押し寄せます。

「でっ、でも、そそうがあったら、どうしましょう。。。」
「だ―い丈夫だって、そんなに長居はしないから」

お宅が素敵なのもさることながら、ワタクシが騒ぎ憧れるのは、そのご夫婦の暮らしぶり。
本当に趣味のレベルが格段に高く、本物だけに囲まれた生活をしていらっしゃると感じたからです。

嗚呼ぁ、願えば叶うのね。。。
そんなわけで、殿の車に乗ってその方のお宅へ。




「えっ？！ここは東京？！」

そのお宅、都会の真ん中にありながら、もはや別世界です。
ある意味不利な立地とも言える土地の形を、
ご夫婦の趣向の高さで見事に活かした前庭から正門までのアプローチ。。。

完璧なまでの美しさ。

ほぅっ。。。

ため息しか出ません。
想像していた以上にレベルの高い美意識の世界。。。

その日は母屋で畳替えをしていらしたので、手前の茶室の、更に手前の玄関東屋で打合せ。
（この玄関東屋、我が家と同じくらいの広さ。。。）
そんなお宅の主が取りだしたのは、骨董品の額縁でした。

「気に入っているのですけれど裏板もガラスも無くてね、
直していただいたらこの絵を入れたいんですよ」

そう言って、ご主人がさらっと見せて下さった絵を見て、
我々は絶句。。。

む、な、棟方志功。。。

「本物ですよね」
「ハイ、本物です」

ご主人、どうってこと無さそうにニッコリ。

「ここの壁、聚楽みたいな色のマットで縁取りをしていただきたいので、
絵もお持ちいただいて、合わせて下さい」

（お持ちいただいて、って、あのキタナイ工房に棟方志功はヤバ過ぎますって！！）
そう、殿に目だけで訴えると、殿もうんうん、と頷きます。

「ほぉさん、包む紙かなんかを車から取って来て」
「西野さん、うちの紙なんかじゃ駄目ですよ！！こちらで何かに包んでいただきましょう」

オロオロするワタクシにご主人は微笑みながら、
じゃぁちょっと見てきましょう、と奥へ。

「これが良さそうですかね」

と、筒にした紙を広げると、またまた絶句。。。

ロバート・キャパ。。。

戦場写真ばかりのイメージのキャパが撮った、バレリーナの写真、
に、包まれた棟方志功。。。

このミスマッチの粋なこと！　恐れ入りました。。。
（でも、キャパも包みたい。。。）

生活の全て、一つ一つを大切にしているけれど、決して大仰で無く、
丁寧で上質な暮らしぶり。
本物を知っているからこそ、本物を特別視し過ぎない自然体。
ゆえに、お人柄も気さくな方々。
壊れたら直し続けてでも、永く、大切に、大事に扱う。。。究極のエコかも知れません。

殿は、修理職人が出来ないと断る美術工芸品をも修理する腕を持つので、
銀座の老舗画廊からも依頼が来ます。
こちらのお宅への最初のご紹介も、その画廊経由でした。
ご主人もすっかり信頼して下さったようで、
次はこんなのも有るし、あんなのも頼みたいし、と、話は尽きず、
今後も修理依頼が続々と続きそう。




「どんな風に生きているとあんな素敵なご夫婦になるんでしょうか、ねぇ？」
帰りの道すがら殿に問いかけると、
「あのご夫婦は別格」　
との答え。

本業で、自邸やスタジオの設計、デザイン、制作を手掛けたり、仕事で関わったり、
と何気に多くの著名人やセレブリティを知ってる殿ですが、
これまで出会ってきた、かなりの富裕層であっても、
このお二人の境地にはなかなか到達出来ていないらしい。

はぁ。。。
そんなお宅の空気を吸えただけでもシアワセなのだわね。。。

骨董品の修理、
美術品の修理、
工芸品の修理、
骨董家具の修理、

今後もこの素敵な世界へ来られる機会が増えそうなのは楽しみですが、
二胡の修理、も、殿にはしっかりやっていただかなくちゃ！！